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Sharaku Kobayashi

切ないメロディが冴え渡る、比類なきチップチューンの快作

FLOPPYでは“小林写楽”、またメトロノームでは“シャラク”として活躍するSharaku Kobayashiが、2ndアルバム『Sharaku Kobayashi 弐』を完成させた。ビンテージゲーム機を音源として使い、ロービットでピコピコなサウンドを奏でる“チップチューン”というジャンルにおいて、歌を軸に置いたそのスタイルは独自のものだ。無機質でキッチュなサウンドの上に、歌謡曲的な和メロを乗せて切なく歌い上げるスタイルは他に類を見ない。限られた容量を最大限に活かして生み出された高度かつ普遍的なこの音楽は、まさに“メイド・イン・ジャパン”の真髄。海を越えた先へと広がる可能性を秘めている。

 

「僕の中で音楽にとって一番大事なのはメロディだと思っているから、“音数は少なくてもメロディが良ければ良いじゃん”みたいなところはあります」

●昨年6月にソロ名義での1stアルバム『Sharaku Kobayashi 壱』を出したわけですが、自分の中での手応えはどうだったんでしょうか?

Sharaku:とりあえず、“作り終わった!”とは思いました(笑)。でも“もっとやれることがあったのにな”とか、“ここはこうしたかったな”というものはすごくあって。それは、どの作品についても同じなんですけどね。

●前回やれなかったことに、今回の2作目では取り組んでいたりする?

Sharaku:今回は、インストをもっと増やしたいなとは思っていました。やっぱり歌が入っていると、“チップチューン”として聴いてくれない層がいるから。できるだけ、そっちのシーンに混ざっていきたいなという想いがあって。

●チップチューンのシーンに混ざりたいんですね。

Sharaku:やっぱり歌が入っているだけで異端視されるというか、あまり混ぜてもらえないんです。

●いっそ全曲、インストにしたいくらい?

Sharaku:たぶん、それが理想ですね。自分も歌わなくて済むし…(笑)。

●歌いたくないんだ…。

Sharaku:歌もそんなに得意じゃないので、できるだけ歌いたくないですね。かといってインストだけでライブをやると、手持ち無沙汰で…。基本的にゲーム機のスタートボタンを押した後は、特にすることがないんですよ。それ自体が再生プレイヤーみたいなものなので、たとえばエフェクターを通したりするとしても本当にちょっとした動きだけで済んでしまうから。

●ライブの見せ方も難しいんですね。

Sharaku:それをどう大袈裟にやっているように見せるかっていう。元々あんまり大きな動きが得意ではないので、何とかこれから上手くできたらなとは思います。

●大きな動きをするのも得意ではないと。

Sharaku:あと、ゴーグルをしていると、何となく動かなくても良いような気がしてくるんですよ(笑)。

●それはなぜ?

Sharaku:見えていないから。自分が見えていないと、周りからも見られていないような気がしてきて。だから、動かなくても大丈夫だと思っちゃうんです。でもそう思っているのは自分だけなんだろうなっていう(笑)。

●ただの錯覚ですからね(笑)。でもそれだけ無理せずに、自然体でライブがやれているというか。

Sharaku:ソロでは大声も出さないし、テンションも上げなくて良いから、気楽にやれています。でも自然体だと本来の自分が一番出るので、“ライブって面倒くさいな…”とか思ってしまうんですよね(笑)。

●ハハハ(笑)。

Sharaku:やっぱり家の中でいるほうが良いから…。あんまり人前に出るのが得意じゃないんです。

●特にソロだと、自分に全ての視線が集まるわけですからね。

Sharaku:そうなんですよ。いつもMCでも言っているんですけど、「誰か(メンバーに)入ってくれないかな…」っていう。

●それはもはやソロではない…(笑)。

Sharaku:僕よりも人目を引くような人がステージ上にいて、その人が何かやっている間に自分はササッと曲をやって帰りたいなって思います(笑)。

●楽曲の制作自体は楽しいんですか?

Sharaku:楽しいのは楽しいんですけど…、余裕のある時だけ楽しいです。

●前作から1年以上ありましたが、日頃から作り貯めていたわけではない?

Sharaku:僕は〆切が決まらないと、作業に入れないんですよ。たまに頑張ってみようかなと思って曲を作ったりもするんですけど、1〜2週間経ってから聴くと“それほどでもないな…”という感じになったりして。やっぱり最新のものが、自分の中で一番良いメロディであって欲しいという気持ちもあるからなのかな。

●今作は、いつ頃から作り始めたんですか?

Sharaku:作り始めたのは今年の6月頃で、元々の〆切は8月末だったんです。それで結局終わったのが、9月の中頃で。

●当初の〆切には間に合わなかったと。

Sharaku:日にちがはっきり確定しないと、ぼんやりしたものしか作れなくて。スイッチが入れば早いんですけど、“こういう曲”というイメージが定まるまでは、何もできないままずっとパソコンに向かってボーッとしていたりします。

●どういう瞬間にスイッチが入る?

Sharaku:それは…“もう落とす!”っていう時ですね。

●ハハハ(笑)。〆切寸前まで追い込まれないと、スイッチが入らないんだ。

Sharaku:今回は本当に最後の1週間くらいで全部やりました。

●今作に収録の8曲全てをそこで作った?

Sharaku:いや、M-3「よんじゅうこわい」とM-6「怨歌の花道」の2曲は既にあったので、残りの6曲を作りました。僕は1曲ずつしか作業ができないんですよ。その曲が完成するまで、次の曲ができなくて。だから先に歌ものの曲を仕上げて、その後でもう“残り1日!”というところでインスト3曲を一気にパッパッパッと作りました。

●「よんじゅうこわい」と「怨歌の花道」の2曲は、先にできていたと。

Sharaku:その2曲は、会場限定のCDとしてリリースしていたものだから。

●「よんじゅうこわい」は、自身のリアルな心境を歌っているのかなと思ったんですが。

Sharaku:まさにそうですね。この曲を作ったのが、ちょうど39歳の時で。その時は本当に40歳を目前にして“自分がまだ何者でもない”ということが嫌だなぁと思っていたんです。

●この曲で歌っているように、“結果を残せていない”という意識があったんでしょうか?

Sharaku:そうですね。

●Sharakuさんが思う“結果”とは?

Sharaku:誰かに提供した曲が何かの主題歌になったりとか、そういうことですね。要するに、僕は作家の先生になりたいんですよ。

●裏方になりたい人が、これまでずっと表舞台に立ち続けているという…。

Sharaku:そうなんですよ。そもそもバンドを最初に始めた時も、作家になるための就職活動だと考えていたんです。そこで有名になれば、そういう仕事も来るんじゃないかと思って。そのためにまずは自分が有名になろうという気持ちで始めたんですけど…。だから、もう25年くらい就職活動をずっとしている感じですね(笑)。

●だから40歳が近付いた時に、まだ結果が残せていないと思ったんですね。今は、そういう気持ちから脱している?

Sharaku:今は40歳になってしまったので、もう“しょうがない”っていう気持ちですね(笑)。

●ある意味、吹っ切れたと。M-4「独楽の様に」も、今の心境を歌っている内容でしょうか?

Sharaku:“一生懸命頑張って上を目指していても、結局はその場で倒れてしまうだけなんだな”っていうことを歌っています。ちょうど自分的にしんどい時期が重なったので、歌詞も暗い感じになってしまって…。

●意識的にそういう歌詞を書いたわけではない?

Sharaku:今回はそういうことを考える余裕が全然なくて。ただ思っていることを歌詞にした感じです。

●「よんじゅうこわい」は落語の演目「まんじゅうこわい」に掛けていると思うのですが、M-5「千早振る」とM-8「波天奈」という曲名も落語の演目ですよね。曲の内容的に何かつながっている部分もある?

Sharaku:「よんじゅうこわい」の歌詞は特につながっていないですけど、インストの2曲に関しては元ネタのストーリーとリンクする部分があったりはします。切ない噺のものは切ない曲調に、明るい噺のものは明るい曲調にしようとは思っているんです。でもできあがると、意外とそうでもなかったりして…。

●最終的にイメージどおりにはなっていない。

Sharaku:いつも明るい曲を作ろうとするんですけど、あんまり明るくならないというのがあって。たとえば「独楽の様に」は吉田拓郎さんっぽい曲を作ろうと思ったんですけど、あんまりそういう感じにはならなかったです。

●M-6「怨歌の花道」は演歌をイメージして作った?

Sharaku:これは、とにかく演歌っぽいものを作ろうと思って。とは言っても有名な曲くらいしか知らないので、自分の思う“演歌”をイメージして作りました。

●今作の中でも特に歌いあげる感じの曲ですよね。

Sharaku:色んな活動をしている中で一番、ヴィブラートとかで歌いあげてもOKなのがこのソロ活動なんです。この曲に関しても、とにかく気持ち良く歌い終われるように作ろうという感じでした。

●前回のインタビューでも“また部長が「マイ・ウェイ」歌ってるよ…”みたいなイメージで作ったという話があったように、自分が気持ち良く歌えることを意識している。

Sharaku:何とかして活動の中で、合法的に自分が気持ち良くなれないかということをいつも考えているんです。特に「怨歌の花道」は、そういう感じで作りましたね。

●“演歌”ではなく“怨歌”という表記にした理由とは?

Sharaku:歌詞の内容として、女の人が男の人を“怨みたいけど、怨めません…”みたいな感じなので、“怨歌”にしました。

●その内容自体も演歌っぽいですよね(笑)。

Sharaku:そうですね。演歌といえば、そんなイメージなので。

●M-2「左様なら」は、何について歌っている?

Sharaku:う〜ん…。何かもう煮詰まっている時に“バーン!”と爆発して、“さようなら〜”みたいな(笑)。

●ハハハ(笑)。かなり追い詰められている時期に書いた曲なんですね。

Sharaku:そうですね(笑)。僕の場合はタイトルを先に決めることが多くて、それに則した歌詞を書いていく感じなんです。字面を見て“この言葉を使いたいな”というものをメモっているんですけど、ちょうどその“さようなら〜”というイメージが浮かんだ時に「左様なら」というフレーズがあったので使いました。

●曲の作り方は前作から変えていない?

Sharaku:作り方は変えていないです。今回は本当に余裕がなかったので、何か1つのテーマに寄せるということもできなくて。

●技術的に新たな挑戦をしたりもしなかった?

Sharaku:特にないですね。それよりは、自分の今できることだけでやろうっていう感じです。色んな機材を使ったりするのもカッコ良いとは思うんですけど、自分にはそういうことはできないから。だから、手の届く範囲で全部やるというか。

●昔のゲーム機と同じように限られた容量内で、できる限りの工夫をこらす感じでしょうか?

Sharaku:それが自分の中での音楽的なテーマでもあって。FLOPPYという名前を付けたのも、フロッピーディスクの容量が少ないところからなんですよね。“容量はすごく少ないけど、良いものを作る”という意味を込めてFLOPPYと名付けたんです。ソロでやっていることは、そこから地続きな感じですね。僕の中で音楽にとって一番大事なのはメロディだと思っているから、“音数は少なくてもメロディが良ければ良いじゃん”みたいなところはあります。

●軸になるメロディは、良いものを作っている自信がある?

Sharaku:そうですね。ボーカルが歌いたがるようなメロディというか。

●だから自分自身も歌っていて、気持ち良くなれるわけですよね。メロディは昔の歌謡曲的な匂いを感じます。

Sharaku:やっぱり歌謡曲や流行歌みたいなものがやりたいなと。そういうもののほうが歌っていて気持ち良いなと思います。

●歌謡曲や流行歌に通じる、普遍性のあるメロディというか。

Sharaku:僕は本当に個性とかも0で良いから、ポピュラーなものをすごくやりたいんです。でもどうしても、そういうことができない活動が多くて。使う音源がアレだったり、見た目がアレだったりして、どうしても“王道”には立てないんですよね。

●ソロに関しては、そこに一番近いものをやれているんじゃないですか?

Sharaku:そうですね。他の活動に比べると、いかにも“歌もの”という感じがあるから。リリース後のライブでは今回のアルバムの曲もやるので、毎回「怨歌の花道」を気持ち良く歌って帰りたいなと思っています(笑)。

Interview:IMAI

 

 
 
 
 

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