音楽メディア・フリーマガジン

フラスコテーション

人生という劇場で彼らが織りなす儚くも美しい物語はまだ始まったばかりだ。

兵庫県在住の現役高校3年生・佐藤摩実(Vo./G.)を中心に、2017年に結成されたフラスコテーション。デモ音源「三角形」が音楽配信サイト“Eggs”のデイリーランキングで1位に浮上するなど、一部で注目を集め始めている期待の新人バンドだ。透明感溢れる歌声に潜ませた狂気や苦悩が見え隠れする楽曲は、10代を中心に中毒者を増やし続けている。初の全国流通盤となる1st E.P.『儚心劇化』のリリースを機にライブ活動も本格化する彼らの名が、今後さらに広がっていくことは間違いないだろう。

 

「日常ではあんまり自分を表現できなくて、ライブじゃないと呼吸できない感じなんです。だから、ライブでは本性むき出しというか…」」

 
●学校も年齢もバラバラということですが、この3人の出会いとは?

佐藤:元々は違うバンドをやっていて、+9さんとは何回か対バンしたことがあったんです。

+9:神戸の三ノ宮に高校生バンドのための“放課後バンド塾”というイベントがあって、そこに出ている中で知り合いましたね。

吉識:自分もそういうイベントに出たり、観に行ったりしていて。(佐藤)摩実さんとは対バンをしたことがあって、+9さんとは直接話したことはないけど名前は知っていました。

●そこからどういう経緯で結成に至ったんでしょうか?

+9:僕と前メンバーのベースが同じ高校で、一緒にバンドをやっていたんです。それが解散して新たなバンドを組むとなった時に、そのベースが摩実を誘いたいと言ったんですよ。僕は内心では“無理やろうな”と思っていたので軽い気持ちで誘ったんですけど、OKをもらえたのでビックリして。そこからフラスコテーションの元になるバンドが始まりました。

●無理だろうと思っていたのはなぜ?

+9:摩実が前にやっていたバンドのライブを観た時に世界観がすごくあったので、他にも色々と誘われているんやろうなと思っていたんです。

佐藤:私もちょうど前のバンドが解散したところで。次のバンドが決まっていなかったので、いっそ弾き語りでやろうと思っていたくらいだったんですよ。そんな時に誘われたので、“ぜひ!”という感じでした。

●実はちょうど良いタイミングだったと。摩実さんが前にやっていたバンドに、世界観がすごくあったというのは?

+9:ライブを始めたら、“佐藤摩実”という空間が広がっていく感じというか。本当に独創的で、観ている人みんながワーッて盛り上がるのがすごいなと思っていて。

吉識:私も“すごいな”と思っていました。だから“この子とバンドを組んでみたいな”とはずっと思っていたんです。

●そんなに独創的だったんですね。当時はどんな曲をやっていたんでしょうか?

佐藤:元々はコピーバンドをやっていて、tricotや9mm Parabellum Bulletの曲をやっていましたね。

●あ、当時はコピーバンドだったんですね。

+9:コピーしているバンド自体も個性的なんだろうけど、摩実自身にもそれに負けないくらいの世界観があったんです。

佐藤:そういうバンドが好きなので、ライブでも暴れたり、拳を振り上げたりするのが好きなんです。自分でもそういうライブがしたいと思っていて。

●ちょっと見た目からは想像できないですが…。

+9:普段はちょっとフワフワした感じなんですけど、ライブではいきなり“オラッ!”みたいになるんです(笑)。

佐藤:日常ではあんまり自分を表現できなくて、ライブじゃないと呼吸できない感じなんです。だから、ライブでは本性むき出しというか…。

●内面は荒ぶっていると。

佐藤:ハハハ(笑)。そうですね。

●オリジナルを作り始めたのは、このバンドになってから?

佐藤:そうですね。メンバーに“オリジナルを作って欲しい”と言われて、やっと自分が表現できる曲ができたっていう感じです。曲を作り始めたのは去年の初めくらいなんですけど、そこからはずっと作っていますね。

●オリジナル曲を作るようになって、自分をより表現できるようになったと。

+9:しかも最初に作ってきた曲が、8分の6拍子だったという…。

佐藤:めっちゃ頭がおかしい曲を作りました(笑)。

吉識:自分が入った時にその曲をやると言われて、“えっ、これをやるん?”ってなりましたね(笑)。

●吉識さんは後から入っている?

+9:元々いたドラムが抜けた後に、吉識に入ってもらった感じですね。

吉識:最初はサポートやったんですけど、一緒にライブをやってみたら“これはすぐに正式メンバーとして入りたい!”と思って。ライブ中に“あっ、この子についていきたい!”と思ったんです。

佐藤:ライブの翌朝にLINEで“正規で入りたいです”っていうメッセージが来ていて、こちらも“お願いします”っていう感じでした。

●なるほど。現状、ベースはサポートなんですよね?

+9:そうですね。まだ正式メンバーは見つかっていないんです。摩実が中心になっているバンドなので、技術よりもまずは“今後一緒にやっていけるかどうか”というところを見ていて。

●摩実さんとの相性が大事?

佐藤:人間的な部分も大事にしていますね。今のメンバーはすごく良いバランスが取れていると思っています。

●バンド名も“フラスコテーション”なので、“三角フラスコ”になぞらえて3ピースにこだわっているのかなと思ったんですが。

+9:いや、バンド名はわりと突発的に考えたというか。

佐藤:元々のバンド名がダサすぎて、私が“嫌や”って言ったんです。そしたら+9さんが“フラスコテーションは?”と言ってきたので、“良いじゃん!”って即決しました。

●何か深い意味があるわけではない?

佐藤:本当に突然、思い付きました(笑)。お洒落なものということで考えていたら、フラスコがパッと思い浮かんで。そこに語呂的に合う言葉をくっつけただけですね。でも一応、“フラストレーション”にかけているところもあって。“僕らのライブを観て、日々の鬱憤を晴らしてくれたらな”という意味はあります。

●逆に演奏している側も、自分の中にある内面的なものを吐き出したりしているのでは?

佐藤:そうですね。特にM-3「愛と殺意」は、日々のイライラとかが込められている曲なんです。だからライブでこの曲をやる時は、お客さんにもそういうイライラした想いを吐き出してもらって、みんなで感情をぶつけ合えば良いんじゃないかなと思っています

●“愛だ恋だとほざく前に”っていうのが、すごい歌詞だなと…。

佐藤:一番、口が悪い曲やと思います(笑)。

+9:他にもゆっくりめの曲で“やかましい”とか歌っていたりするんですよ。

●M-2「三角形」でも“光を探してもがき苦しむ「バカだろ?」”と歌っていたり、きつい言葉を潜ませていますよね。

佐藤:私は、きれいすぎる歌詞があんまり好きじゃなくて。きれいな歌詞には、汚い言葉を1つは入れようと思っているんです。きれいすぎるものは“人間味がないな”と思っちゃうんですよね。

●“人間はきれいなだけじゃない”という考え方が根底にある?

佐藤:私はありますね。昔から“ひねくれ者”って、よく言われます(笑)。昔から人と接するのがあんまり好きじゃなかったんですよ。悪い部分も見えちゃうし、“人間ってきれいなだけじゃないな”とずっと思っていて。歌詞を書き始めた頃はきれいすぎることにモヤモヤしちゃっていて、そこに汚い言葉を入れてみたら自分の中でスッと腑に落ちたんです。その時に“これだな”って思いました。

●歌詞に関しては、特に摩実さん独自の世界観が出ているように感じます。

佐藤:歌詞は絶対に自分で書きたいと思っています。M-1「vivid」は+9さんが曲を作っているんですけど、歌詞は私が書いていて。

+9:「vivid」は、僕が好きなことだけをやったという曲ですね(笑)。でも歌詞は“僕が書くのはちょっと違うな”っていうことで、摩実に書いてもらって。どんな形であれ摩実が表現してくれるなら良いなと思っていたんですけど、まさかの“セリフやん!?”っていう。

●ポエトリーリーディングみたいな感じですよね。

佐藤:セリフしか思い付かなかった(笑)。

+9:“そういうのもあるんや!”って思いました。でも“サビだけはメロディに乗せて欲しい”と言っていたので、こんな形になって僕としてはすごく嬉しいです。

●曲も含めて独特な雰囲気があるので、1曲目に置くことで“フラスコテーションへのイントロダクション”的な意味合いもあるのかなと思いました。

佐藤:それはありますね。初めてお客さんに見てもらう時にセリフから始まる曲ってなかなかないと思うので、ライブでも最初にやりたいなっていうイメージがあります。

●この曲は、どういうことを歌っているんですか?

佐藤:これはライブハウスの歌なんです。最初に出てくる“黒い箱”っていうのが、ライブハウスのことなんですよ。ライブハウスで3年間やってきて、今回出すことになった『儚心劇化』は高校生活における最初で最後のCDでもあって。これまでお世話になったライブハウスの中で、“自分は音楽でどうしていきたいのか?”っていうところで迷っているイメージですね。

●“離れないでよ 離さないでよ”という歌詞は、ライブハウスに対する想い?

佐藤:そうです。“自分も離れたくないし、ライブハウスにも離さないで欲しい”っていう想いは強いですね。3年間お世話になった中でも、色々と葛藤してきたなっていう。

●“ライブじゃないと呼吸できない”という話もありましたが、ライブハウスにもそれだけ強い思い入れを持っている。

佐藤:もしライブハウスに出会えていなかったら表現できる場所がなくて、自分を表現するのに悩んだり、怒ったり、ずっとモヤモヤしていただろうなと思うので、そういう想いを全部この曲にガンッと入れた感じです。

●ラストのM-4「film」はどんな内容?

佐藤:「film」は、わりと自分のことを歌っています。自分の前からいなくなった人たちというか、解散したバンドや亡くなった人のことを思った時に、“自分の人生って何なんだろうな?”って考えたんです。“これが私の人生だ”っていうことはまだ18歳なので歌えないから、今の高校生の自分が思う“人生とは何だ?”みたいなことについて書いてみました。

●自分の人生について歌っているんですね。

佐藤:「film」っていうタイトルを付けたんですけど、“人生を1枚の写真に収めることはできないな”と思っていて。たとえば18歳の自分をフィルムに収めて、また20歳の自分をフィルムに収めて…という感じで写していって、それらが全部集まった時に“これが私の人生なんだ”って思えるというか。それが今、私の考える“自分の人生”なんです。自分が今思っていることが一番出ているのは、この曲かなって思いますね。

●ということは、“今の世界では夢はもう見れないんだ”と思っている?

佐藤:うん…ちょっと(笑)。

一同:ハハハ(笑)。

佐藤:この曲を作った当時はまだバンドを組んでいなくて、初ライブもする前だったんです。後から読み直した時に自分でも“すごいことを書いているな”って思いました(笑)。でも後悔もしたくないし、後ろも振り向きたくないなと思っているので、そういう“決意の歌”かなと思っています。

●一見ネガティブに思える言葉を使っていても、ちゃんと前は向いているというか。

佐藤:後ろは向きたくないんです。前に進んでいきたいですね。

●作品タイトルの『儚心劇化(ぼうしんげきか)』には、どんな想いを込めているんですか?

佐藤:「film」と同じように“人生って何だろうな?”と考えていた時に、自分の中で“人生は劇場のようだ”と思って。劇場って公演が終わった後に花束をもらったり、拍手をもらったりするじゃないですか。今の自分は人生というステージの上で一生懸命悩んでいるけれど、その終わりを迎えた時に“これで良かったんだな”と思いたいなっていう。“花束を渡される”というのは“人に評価される”ということで、自分もそうなりたいなという想いを込めました。

●人に評価されたいという想いがある?

佐藤:そうですね。最後には何かを受け取って欲しいし、自分の人生で表現した音楽を誰かに評価して欲しいというか…。“伝わって欲しい”っていう気持ちはあります。

+9:初めて摩実がオリジナル曲を作ってきた時に、毒舌みたいな強い言葉がある中にも何か引き寄せられるものがあったんです。それがすごいなと思って、“このままやっていきたいな”となったんですよね。

●ずっとこのバンドを続けていきたいという想いは一致しているのでは?

吉識:“ずっと一緒にやっていきたい”っていう想いは、最初からあって。バンドを解散して音楽ができていなかった時期に誘ってもらって、今一緒にできていることが本当に自分の生き甲斐にもなっているから。私の中では“摩実さんをもっと有名にして、みんなに届けたい”っていう想いが強いですね。自分が行けるところまで、この子と一緒に上を目指していきたいなと思っています。

Interview:IMAI
Assistant:平井駿也

 

 
 
 
 

フラスコテーションの作品をAmazonでチェック!!

 

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj