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上北健

己と徹底的に向き合った先に辿り着いた、 “美しい心で生きよう”というメッセージ。

“強くいるのと同じだけ、弱さにも意味があると思う。美しい心で生きなければ。”そんなフレーズが強い印象を残す楽曲「ビューティフル」を3/9に配信リリースしたシンガーソングライター、上北健(かみきたけん)。その繊細かつ意志のある情熱的なボーカルと文学的で強力なメッセージ性を宿す歌詞が、心にどこか傷を持つ若年層を中心に共感を集めている。2017年10月には韓国での2 DAYSワンマンライブを成功させるなど、その支持層は日本国内だけにとどまらない。触れた者の胸に突き刺さり、人生に影響すらも与えるほどの歌を、彼はいかにして生み出すに至ったのか。類まれなる創造性と表現力の根源にあるものに迫る連続企画第1弾として、まず「ビューティフル」制作秘話を訊いた。

 

「これがもし曲になるのなら上北健としての“命題”的なものになるんじゃないかという予感があって。そういうつもりで書いたのが『ビューティフル』でした」

●今回はシングル『ビューティフル』と合わせて、楽曲のコンセプトを描いた短編小説の電子版(Kindle版)を同時リリースされたわけですが、楽曲と小説のどちらが先にあったんでしょうか?

上北:「ビューティフル」は、曲のほうが先ですね。これまでもそういう形態でリリースしてきたんですが、たとえば前作のミニアルバム『LAYERED』(2017年4月)の場合だと曲ごとにどちらが先かに違いがあって。

●昔から曲を書いている時点で、頭の中に物語が浮かぶことはあったんですか?

上北:やり始めた頃は、そこまでなかったですね。最初は記憶の中にある風景の1ショットみたいなところから書いていく感じでした。そういう歌詞には収まらないものを意識し始めたのは、ここ1年半くらいのことなんですよ。

●2016年発売のミニアルバム『TIDE』からCDに加えてCONCEPT BOOKも発売されていますが、意識し始めたのはそのあたりから?

上北:『TIDE』に関しては全部、曲が先だったんですよ。そもそもCONCEPT BOOKを出すという考えも最初はなくて。やっぱり曲を作ると“どんな曲ですか?”と訊かれるわけで、それに対する説明文のようなものにしようと思って書き始めたら、自然と“物語”のような方向に行ってしまったんです。それを周りのスタッフに見せたら“これはもう説明文というよりも、1つのお話だよね。本にしてみてはどうだろう?”と言われたんですよね。そこが出発点でした。

●最初は曲の説明文を書くつもりだった。

上北:曲に対して、その周囲を取り囲むお話を書くというのが出発点だったんです。『TIDE』について書いている時、“曲に収まりきらなかった部分というのが自分の中でこれだけあるんだな”ということにも気付いて。だからその次に『LAYERED』を作るにあたっては“こういうふうに自分の中から溢れ出るものを形にできて、みんなにも見てもらえるのなら、次はもうあらかじめそういう形でやろう”と決めていました。

●自分は『LAYERED』に収録されている「心分け」で上北さんに興味を持ったという経緯もあるのですが、今回の「ビューティフル」と「心分け」には共通している部分があるように感じていて。自らの中にある嫌な部分や弱さと向き合うという姿勢が、どちらにも共通しているのかなと思ったんです。

上北:歌詞を書く時はたとえば“宇宙”や“恋愛”だったり、何かしらのテーマをまず決めると思うんですよ。僕の場合はその出発点となるテーマについて、“軸”になるものがあって。言うなれば、“上北の◯◯箇条”みたいなものがあるんです。今までもたくさん曲を作ってきましたけど、どれも大元にあるテーマは一緒というか。「心分け」も「ビューティフル」も根っこの部分は同じなので、共通するものがあるという印象を持たれたんだと思います。

●“上北の◯◯箇条”というのは、具体的には?

上北:今回の「ビューティフル」にも明確に出ているものとして、まず“弱さと強さ”の在り方というものがあって。2つめは“普通と特別”の在り方。3つめは“何かを目指すこととは?”ということで。“何かを目指すこととは、誰かになることなのか? それで良いのか?”というところで、その裏返しで“自分のありのまま”みたいな部分もあるのかもしれないです。4つめは“未来を想像することとは?”ということで、“先が見えない”ということにも近いですね。

●先が見えない?

上北:自分の中で、“先の見えなさ”ということを肯定できないかなという気持ちがあるんですよ。どの曲もだいたい、その4箇条くらいで構成されていると思います。特に「ビューティフル」には、その4箇条がほぼ全部入っているんじゃないかっていうくらいで。この曲に関しては、上北健の根本的な思想が最も色濃く出たなと思っています。

●確かに「ビューティフル」は1曲に色んなものが詰め込まれているというか…すごく濃い気がします。

上北:“この1曲に”という作り方でしたからね。今回は“ここに注ぎ込もう”という意識が強かったと思います。

●そういう作り方をした理由とは?

上北:昨年行った『LAYERED』のリリースツアーに“心の断面は美しいか”というサブタイトルを付けていたんですけど、「ビューティフル」の出発点もそこにあって。本来はそういった問いかけに対する答えというのはそのライブやツアーの中で完結するもので、今までは最終的に“このテーマに対して、僕はこういう考えです”ということを歌って終わってきたんです。そのツアーでも最後にオリジナルの歌詞を書いて歌ったんですけど、自分の中でスッと腑に落ちなくて何かモヤモヤが残ったんですよね。

●問いへの答えを出しきれなかった。

上北:“心の断面は美しいか”という問いかけ式のサブタイトルを付けておいて、その答えを出さないままでは終われないなと。そこを紐解いていこうというのが、今回のテーマだったんです。そのテーマについて色々と考える中で、これがもし曲になるのなら上北健としての“命題”的なものになるんじゃないかという予感があって。そういうつもりで書いたのが「ビューティフル」でした。

●答えを出すキッカケになる出来事が何かあったんでしょうか?

上北:ありましたね。1つめに、山手線の中で見かけた知覚障害者の方の様子というのがあって。その方が電車に乗ってきた時に、座席に座っていた人が譲ろうとしたんですよ。それを断って1駅〜2駅くらいですぐに降りられたんですけど、その方がすごく申し訳なさそうに振る舞っていらっしゃったんです。席を譲ってくれようとした人に対しては“譲らせてしまって申し訳ありません”みたいな様子で、電車を降りる時もちょっと時間がかかってしまったことに対してすごく申し訳なさそうにしている様子を見ていて、僕は“あれっ?”と思ったんですよね。

●そこに違和感を感じた?

上北:逆に“申し訳ない”と思えない人って、いっぱいいるじゃないですか。だから、そういったことに対して“申し訳ない”という気持ちを持てることが素晴らしいなと思って。“その心を作るものは何なのか?”という切り口で考えてみるところに、何らかのヒントがありそうだなと思ったんですよね。“心の断面は美しいか”という問いに対して元々は自分の目線で考えていたところから、そういう方の目線に立ってみたらまた違う何かが見えてくるんじゃないかと思ったんです。

●だから「ビューティフル」の歌詞や短編には、そういった人物が出てくるんですね。

上北:そうなんです。歌詞や短編にそういう人物が出てくるのは、そのキッカケがあったからですね。もう1つのキッカケは「メグル」(『LAYERED』収録)という曲のミュージックビデオを長野県の山中で撮影した時のことで。撮影にあたって僕は1人で現地を下見に行ったんですよ。深夜に中央道を走って、日の出直後くらいに到着した長野の山中で見た光景なんですけど、そこは原生林的な山で地面が苔に覆われていてグリーンだったんです。

●“湿った森にひそむ苔の群れが、朝露に濡れる様を忘れない”という歌詞は、そのことだったんですね。

上北:これはまさにその時の体験の一部ですね。なかなか壮観な景色で、そのシーンが自分の中で焼き付いていて。一般的に言われる“美しさ”に対するものとして、その景色が一番良いんじゃないかと思ったんです。

●逆に一般的な“美しさ”の象徴が、歌詞にある“ブーケに収まる可憐な花々”?

上北:みんなが手を伸ばして欲しがるものだから、わかりやすいたとえかなと思って。“往往にして世界を彩っているもの”というのは、たとえば容姿がきれいな人だったりするじゃないですか。そういう世間一般に蔓延っている“理想像”だけを追えば良いのかっていう問題提起について、歌っているところはありますね。

●みんなが1つの“理想像”を追いかける必要はないというか。

上北:もちろん色んな人がいるから、“ブーケに収まる可憐な花々”を見ていることが幸せだと思える人もいるんですよ。それを僕は否定しているわけではなくて。でも中にはそういうものを見ても心から(美しいとは)共感できなくて、そのことがつらいと感じる人もいるんです。僕が救いたいのは、そっち側の人たちで。その人たちに対して“必ずしもそうじゃなくて良いんだよ”と言っているようなニュアンスがあります。

●たとえば“これが美しさだ”と断言してしまうと、そう思えない人を必然的に排除してしまうことにもなりますよね。

上北:“そう思えない私って…”となってしまうのが、一番悲しいじゃないですか。

●世の中で生きていく上で、内心では納得していなくても“こう思わなくてはいけない”ということは多々あるわけで。上北さんの歌は、そういう時に“無理にそう思わなくて良いんだよ”と言ってくれるようなものが多いと思います。

上北:たぶん僕自身が一番、そう言って欲しかったんだと思いますね。だから今、言っているんだと思います。「ビューティフル」の着地点としても、“これが美しさです”とは言っていないんですよ。“強くいるのと同じだけ、弱さにも意味があると思う”というサビでも“と思う”という表現を使っていて。

●1つの答えを押し付けているわけではない。

上北:“心の断面は美しいか”という問いへの答えとして、結局のところ僕が思ったことがあって。そういうことに対して向き合って考え続けていくこと、それを忘れないような生き方をすることが、心の断面の美しさを得ることにつながるんだろうなと思ったんです。一番最後のセンテンスにある“それらを知っている僕らだから”というのは、“これであなたも知ったでしょう”ということで。“知ったのなら、これからもそれを続けて、美しい心で生きましょう”という結論が書けたんじゃないかなと思っています。

●前作のツアー以降の期間でずっと考えていた問いへの答えを、ここで出すことができた。

上北:そうですね。あと、この1年間で模索していたライブの作り方というものも、先日のライブ(※2018/3/25@東京・渋谷マウントレーニアホール “僕と君が、前を向くための歌” 4th STAGE『花さわぎ』)に帰着した感じがあって。自分の中では、上手くつなげられているなと思うんですよね。あっちに行ったり、こっちに行ったりではなくて、先が見えない中でもぼんやりと上北健の“行き場”みたいなものをイメージできている。その上で2017年から1つずつ“次はこれ”というふうに継ぎ足していったものが、先日のライブにはつながっていたと思うから。ここ1〜2年、模索はしながらも“どういう手段を取れば良いか”というのはしっかり考えてやってこれたんじゃないかな。

●未来は見えないものだとしても、“こういう方法で自分はやるんだ”というものが明確にあれば前に進んでいける。

上北:先は見えないものだから。見えていないものは、みんな平等に見えていないんですよ。その見えないところに行くための、自分の方法がしっかりあるかどうかが大事で。あとはもう“今をどうするか”っていうところで、それは自分の意識と意志の問題なんですよね。自分はそこを突き詰めているにすぎないのかもしれないです。

※上北健、その半生から創造の源泉に迫る記事は今後WEBにて随時アップ予定。

Interview:IMAI

 

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