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ベランダ

ここからどこにでも行ける。新たな始まりを告げる歌。

京都を拠点に活動するロックバンド、ベランダが初の全国流通盤となるアルバム『Anywhere You Like』をリリースする。昨年1月に発表した会場限定盤『Any Luck to You』が一部で話題を呼び、著名ミュージシャンからも賞賛を受けるなど、注目度を徐々に増している彼ら。その簡潔でありながら情景がありありと浮かぶ粋な言葉選びと、どこかフォーキーで親しみやすい秀逸なメロディラインは音楽マニアを唸らせ、ライトなリスナー層も一聴で惹きつける魅力を持っている。今後さらなる進化と広がりを見せていくであろう4人に訊く、1stインタビュー。

 

「“ここが始まり”みたいなイメージがあって。でもたとえば次の作品は“何これ?”って思われるようなものになるかもしれないし、本当に“ここからどこにでも行ける”と思っています」

●(金沢)健央くんがTwitterでつぶやいていたのを見かけたのですが、2016年頃はバンド内の雰囲気が最悪で“存続の危機”だったそうですが…。

髙島:バンドとしての結果も出ていなかったし、それに加えて各々の私生活もあまり上手くいっていなかった時期で…。

金沢:僕は大学を卒業したばかりでお金もあまりなくて、みんなもピリピリしていて、それぞれにワガママや文句を言っているような状況でしたね。一緒にライブに出ていながら、僕と(中野)鈴子が一言も口を利かない日もありました(笑)。

中野:仲が悪かったというよりも、精神的に参っていて調子が悪かったというか…色々と未熟だったんだと思います。

●そこを乗り越えて、2017年からはバンドとして良い状態になっていった?

金沢:それでもバンドを続けようと決めた後の2017年1月に1stアルバム『Any Luck to You』をリリースしたんですけど、それを色んな人が聴いてくれて。そこから色んなイベントに誘ってもらえるようになったりしたんです。有名な方が作品についてツイートしてくれたりして嬉しかったし、“やっていて良かったな”と思えましたね。そういうこともあってメンバーの仲も良くなって、バンドの状態も良くなっていきました。

中野:確かにアルバムを出したことが、個々の精神状態にも良い影響を与えたんじゃないかなと思います。

●前作を出したことが大きなキッカケになっているんですね。

髙島:めちゃくちゃ大きいです。

金沢:色んなイベントにも呼ばれるようになってライブをたくさんやっている中で、演奏のレベルがどんどん上がっていくのを自分たちでも感じられたりして。それで音楽をやることが楽しくなっていったというところもありました。

中野:リリースしてから、特に(髙島)颯心くんの演奏がめちゃくちゃ上手くなったんですよ。それまで貯めていた伸びしろが一気に開花したんだと思います(笑)。

●サポートメンバーの田澤くんも、その頃から参加していた?

田澤:2016年の5月頃から参加していました。元々は知り合いではなかったのもあって、最初は何を喋ったら良いのかもわからなくて。2回目のスタジオくらいでバンド内の雰囲気がすごく悪いのを見て、“このバンド、ヤバいんじゃないか…”とちょっと思っていました。

一同:ハハハハハ(笑)。

●客観的な立場だったのもあって、逆にバンドの状態が良くなっていくのも実感できたのでは?

田澤:それはありましたね。

髙島:そんな状態のバンドの中に、こういう人がいてくれたというのはめちゃくちゃありがたいことで。

金沢:“第三者(※田澤)に気を遣わせないようにする”という、僕ら3人の共通の目標ができたのは良かったです(笑)。

●そういう経験を経て、大人になったと(笑)。

金沢:そうです。

田澤:いや、僕が最初から一番大人だったということだと思うんですけど…。

髙島:メンバー全員が相談に乗ってもらっていましたからね(笑)。

●お悩み相談室的な(笑)。そういう効果もあって、バンドの状態も次第に良くなっていったわけですね。

金沢:そうですね。前作の制作途中くらいからリリースに向かっていくにつれて、だんだん雰囲気が良くなっていったんです。

●M-1「2017」の曲名にもなっていますが、バンドにとって良い変化があったのが2017年だったのかなと。

髙島:はい。まさにそうですね。

●この曲では“すべての悲しみを 歌ではなく 涙にちゃんと変えるんだよ”と歌っていますが、悲しみを歌に変えることもあった?

髙島:よくありました。悲しいことがあれば、曲を作らずにはいられないタイプのソングライターなんです(笑)。逆もしかりですけどね。でもこの曲はそういうネガティブな精神を芸術に向けるんじゃなくて、“ちゃんと現実に向き合えよ”っていう自分への戒めの意味で書いたんですよ。

●自分への戒めだったんですね。

髙島:歌詞にある“マイフレンド”というのも自分自身のことですね。

中野:自分自身のことを歌っているんやろうなと、私も思っていました。去年3月に大阪でやったレコ発イベントの時に颯心くんがMCで“悲しいことを悲しいって思えたり、嬉しいことを嬉しいって思えるのは当たり前のことじゃないから大事にして欲しい”と言っていて。だからこの曲を颯心くんが書いた時に、私はすごく嬉しかったんですよね。

髙島:そんなこと言ってたっけ…?

中野:言ってた、言ってた。

●ハハハ(笑)。

中野:ちゃんと現実に向き合うようになってきたんだなと思って、嬉しかったんです。颯心くんにとって、ターニングポイント的な歌なのかなと思っていました。

髙島:さっきも話したように元々は“悲しいことがあったら曲を作る”みたいな感じやったんですけど、それは本当の芸術ではないなと思うようになって。そういうことがなくても曲が作れるようにならないと、本物じゃないなという想いが出てきたんです。そう思い始めた頃の精神状況が、この曲には出ていると思います。

●当時の精神状態が良い意味で表れている。

髙島:メロディと歌詞が同時に出てきて、かつ自分の本心みたいなものを全て上手く表現できた曲だと思っていて。「2017」の歌詞を書けたことは、自分の中では革命的なことでしたね。前作から比べたら本当にものの考え方がすごく変わったと思うし、今作の歌詞にもそれは出ていると思います。

●ものの考え方が変わったキッカケも、バンドの状態が良くなったから?

髙島:それも半分くらいはありますね。あと、去年は私生活の面で自分の環境が変わったり、人間関係のあれこれがあったりして、個人的に考えることが多かった年なんですよ。それが大きいかな。

●歌詞の特徴として、繰り返しが少ないなと思ったんですが。

髙島:確かにそうですね。僕はきれいな優等生的な“歌詞”っていうのがあまり好きじゃなくて。歌のために同じ歌詞をわざわざ繰り返すというのが無駄やと思っているんですよ。だから自分の歌詞の中には、必要な言葉しかないですね。

中野:曲の構成的に、2番があるものが少ないんです。だから歌詞を付ける時も、繰り返しにならないんだと思います。

金沢:そもそも曲自体、繰り返しの部分が少ないんですよ。

●確かに曲の構成が独特ですよね。歌詞を見ただけでは、サビがどこなのかもわからないというか…。

髙島:曲によっては、サビが最後に1回あるだけだったりもしますからね(笑)。でもM-3「エニウェア」は、テーマが先にあって作ったというか。リード曲にしようと意識して作った曲なので、構成もちゃんとそれらしいものになっていると思います。

金沢:曲を並べた時にリード曲っぽいものがなかったので、そこから作った曲なんですよ。

中野:仮タイトルも「(リード曲)」でした(笑)。

●M-5「しあわせバタ〜」もMVを制作中とのことですが、こちらもリード曲的なイメージで作った?

髙島:こっちは違いますね。前作をリリースした直後くらいにはもうあった曲で、一番長くライブでもやっている曲なんです。自分たちでも良い曲やなって思うし、今までのベランダにはなかったような雰囲気の曲でもあって。“こういう曲もあるぜ”っていう意味で、MVを作りたいと思いました。

●「しあわせバタ〜」はPavementあたりのUSインディー的な匂いを感じたんですが。

金沢:それは彼(※田澤)のギターが原因かと…。

田澤:そうですね(笑)。

髙島:田澤のギターは、そういうジャンル的な部分を決めるという面で大きいですね。こういう変な曲も好きなので、今後はやっていきたいなと思っています。あと、M-4「IZUMIYA」も今までになかったアプローチをしている曲で、ギターはコードをほとんど弾いていなくて。弾き語りでは結構前からやっていたんですけど、バンドアレンジにするのが難しくて、どういう方法でやろうかなとずっと考えていたんです。結果として、隙間感もあり、オルタナ感もあるようなアレンジにできましたね。

●元々は弾き語りでやっていた曲なんですね。

中野:弾き語りの時は今とは雰囲気が全然違って、もうちょっとしっとりしていて、優しい歌というイメージだったんです。でもアレンジの時に“ちょっと奇妙な感じを出したい”という話が出て。意図的にストレンジ感を出そうという挑戦をした曲ですね。

●歌詞もちょっと変な感じですが、“甲子園に向かって毎朝敬礼しろよ”っていう歌詞はどういう意味で…?

髙島:このくだりは食堂で昼飯を食っている時に、TVで流れている高校野球の試合を見ながらヤジを飛ばしているオッサンに対して思ったことですね。“ほら見たことか”って言っているオッサンに対して、“おまえ何様やねん。球児のほうが偉いぞ”って思ったという(笑)。

●思ったことをそのまま書いている(笑)。

髙島:確かに、今作の中でもとりわけ具体的なことを書いていますね。日記的な感じというか。この曲が一番パッと見て、意味がわかることを書いているかもしれないです。

●他の曲は一見しただけでは意味がわからないぶん、想像をふくらませてくれる歌詞が多いというか。

髙島:自由に解釈してくれて良いと思っているので、それはそれで良いんです。歌詞は自分の中で本当に過不足なく書いているつもりなので、何か解説を加えるというのも難しいんですよ。

●歌詞の中に伝えたいことを全て込められている?

髙島:それが上手くいっているのが今作ですね。前作では“ここはちょっと字足らずやな”と思って、あとから言葉を足した曲もあったんですけど、今回はそのへんが上手くいっているのかなと思います。

●M-7「(ever)lightgreen」の“東京にだってひとりで行ける”という歌い出しがすごく耳に残ったんですが、この曲はどういうことを歌っているんですか?

髙島:去年は東京へライブに行くこともすごく増えて、自分の中で京都以外の場所が身近になった年でもあったんです。そういう中で“どこにでも行けるぜ”という気持ちになったというか。かといって、この曲の主人公が僕だというわけではなくて。この曲の主人公に“そう思って欲しい”ということを書いている感じですね。

●この曲を鈴子さんが歌っているのは、歌詞のイメージから?

髙島:それもありますね。僕が歌ってしまうと、“わかりすぎている”感じがするというか。もっと純真な感じが出たほうが良いんじゃないかと思ったんです。それを上手く出せるのは鈴子の声かなと思ったので、歌ってもらいました。

●あどけなさやピュアな感じが伝わってくる歌だなと思いました。

中野:実際にそういうリクエストがありました(笑)。前々から自分でも歌いたいなと思っていたので、颯心くんに言ったりはしていたんですよ。

髙島:そう言われたことも頭にはあったので、“じゃあ歌ってもらおうかな”と思いながら作っていたかもしれないですね。

●先ほど“どこにでも行けるぜ”という気持ちになったという話もありましたが、今回のアルバムタイトルも『Anywhere You Like』ということで、今はそういう心境なのかなと。

髙島:そういう心境ですね。さっきも言ったように京都以外の場所に行くことも多くなったことで、“今いる場所にこだわらなくても良い”と思うようになったのが去年のことなんです。“自由だぜ”というか。“俺もどこにでも行くし、おまえもどこにでも行けよ”っていう気持ちが今作には表れていると思いますね。

●今作をキッカケにまた次に進めるような作品にもなっているのでは?

髙島:はい。完全にそうですね。『Anywhere You Like』と銘打っているのもあるし、リード曲が「エニウェア」というのもあるし、“ここが始まり”みたいなイメージがあって。でもたとえば次の作品は“何これ?”って思われるようなものになるかもしれないし、本当に“ここからどこにでも行ける”と思っています。

中野:私は常に“始まり”みたいな感覚があって。常に“始まり”だし、常にどこかに行きたいと思っているんです。本当に“Anywhere You Like”っていう心境ですね。

Interview:IMAI

 

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