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そこに鳴る

あの衝撃を呼び醒ます会心の一作が、彼らをネクストレベルへ到達させる。

そこに鳴るが、初期衝動や原点回帰をテーマにした新作EP『ゼロ』を完成させた。過去2枚の作品では様々なスタイルの楽曲に挑戦してきた彼らだが、原点に立ち返った今作ではその緻密に構築されたアンサンブルと一聴で心を奪うポップネスをさらに研ぎ澄ましている。超絶テクニカルな重厚サウンドに、男女の幾重にも重なりあう独特の和メロと美麗なハーモニーが見事に融合。鈴木重厚(G./Vo.)が自らの根本にある感覚を解き放つことで生み出した新たな名曲群は、バンドの存在をもう1つ上の次元へと押し上げることだろう。

 

「僕が日々思っていることなんですけど、“共感は得られないんやろうな”とは思っていて。そういうものを脚色せずに言っているというか。本当に自分の“根っこ”の部分を掘っている感じなんです」

●今回の新作『ゼロ』は、“原点回帰”をテーマにしたということですが。

鈴木:前作(3rd EP『METALIN』)は、わりとコンセプチュアルだったんですよ。“メタルをやろう”とか“邦ロックの切ない曲をやろう”みたいな、“こんな曲を作ろう”という作為が結構あったんです。それは“売れるためにはどんな曲を作れば良いか?”を考えた結果やったんですけど、自分たちが望んでいたような結果は出なくて…。そういう中で自分が“すべきやな”と思い込んでいたことと、周りが求めていることとの間にギャップを感じたんですよね。

●“周りが求めていること”とは?

鈴木:『METALIN』のリリースツアーで、お客さんにどの曲が一番好きか訊いてみたんですよ。そしたらみんな総じて1st EP(『I'm NOT a pirolian』)の収録曲か、もしくは2nd EP(『YAMINABE』)の中でも昔のdemoから再録した「6月の戦争 -extreme explosion ver.-」といった答えが多くて。

●ファンには初期の曲が人気だった。

鈴木:僕らからすると昔の曲は拙くてクオリティが低いと感じていたんですけど、そこに鳴るを好きな人は別にそういうところを気にしているわけではないんやなと。求めているのは、そういうところ(※初期の曲)なのかなと感じたんです。昔って、ホンマに何も考えずに曲を作っていたわけで。だから一度“メタルをやろう”みたいな作為を全部なくして、曲作りをやってみようという感じになりました。

●昔のように何も考えず、初期衝動の赴くままに作るというか。

鈴木:自分の元々持っている感覚みたいなものに、忠実に作るというか。今回のコンセプトは、そういう感じでしたね。

●そのコンセプトで行こうと考えたのは、いつ頃から?

鈴木:いつ頃だったかは忘れたんですけど、どこかのタイミングでM-5「physical destrudo」を入れたいという話を藤原にしたんです。そのくらいの時期からかな。

藤原:「physical destrudo」は、3rd demoに入っていた曲なんですよ。それを今回の作品に入れるとなった時に、“こういうコンセプトの作品にしようと思っている”みたいな話がありましたね。

●1st demoの収録曲をセルフカバーするという自主企画「return to “zero”」を今年3月と4月にやったのも、今作に関連してのことなんでしょうか?

鈴木:そうですね。1st demoは特に拙いしクオリティも低いし、歌もめちゃくちゃ下手やったんですよ。でも昔作った曲が(ファンには)好かれているというところもあったので改めて聴いてみたら、“この曲を作ったヤツ、ヤバいな…”と思って(笑)。

●ハハハ(笑)。

鈴木:ただ、昔から(凛として時雨のVo./G.)TKさんみたいだとよく言われてきたんですけど、今聴いてみたらそんなにそれっぽくないなと思って。“やっぱり自分のギターやな”という感覚もあったんです。だったら何か新しいことをしようとするのではなく、元々持っているものを研ぎ澄ませるほうが良いんじゃないかと思ったんですよ。それで昔の曲も認められるようになったというか、面白いなと思えるようになりましたね。

●昔のほうが知識や技術も足りないぶん、自然と独自性の強いものになっていたのかなと。

鈴木:そうですね。昔の曲を聴いたら、自分でも意味がわからないですもん(笑)。「physical destrudo」は構成やキメの感じとかが、本当にトガっていると思うんですよ。でも当時の心境としては“邦ロックのど真ん中をど直球で突く”くらいの気持ちで作っていて。今聴いたら、全然そんなことはないんですよね。

●全然そんな曲じゃないですね(笑)。

鈴木:これを“ど直球”だと思っていた自分の感覚を、もっと掘り起こして良いかなと思ったんです。

●M-2「Less Than Zero」は“0以下”という意味ですが、バンドとしての原点よりももっと前の、音楽を聴いて初めて衝撃を受けた時のような感覚に立ち返るという意味合いもあるのかなと思いました。

鈴木:そういう意味での僕の原点は、凛として時雨なんですよ。ただ、自分に対してピュアに作った結果としてそれっぽくなるなら良いんですけど、“凛として時雨っぽい曲をやろう”というのは違うというか。

●結果的に似てしまうのはしょうがない?

鈴木:“しょうがない”というより、“それでも良い”っていうか。「Less Than Zero」のイントロのギターフレーズは、自分でもめちゃくちゃTKさんっぽいと思うんですよ。でもあれは楽器屋に行ってギターを試奏する時にパッと適当に弾いたフレーズのような、もう自分に染み付いているものやから。パッと弾いてみた瞬間に出てきたものがカッコ良かったので、そこから広げていこうと思ったんです。

●それこそ自分の元々持っている感覚に忠実に作った結果として、「Less Than Zero」ができたと。この曲の“100点満点の糸を紡いで”や“こびりついた普遍性を見限りたい”という歌詞は、先ほど話していた“売れるためにはどんな曲を作れば良いか?”という作為につながる内容に感じたのですが。

鈴木:ホンマや…! そうですね(笑)。

●無意識的に、今の心境が歌詞に出ている?

鈴木:歌詞はホンマに自分が思っていることを書いているだけなので、そうなっているんやと思います。“こんな歌詞を書きたい”と考えてしまうと、不自然なものになるなと思っていて。もしかしたら作者の意図や作為みたいなものが出ている歌詞のほうが(作品として)優れたものになるのかもしれないですけど、僕はその人のパーソナリティが出ている歌詞のほうが好きなんです。だから自分の考え方や思想みたいなものの“根っこ”の部分をどれだけ掘れるか(が大事)というか。掘っていった先にあるものを歌詞に起こすような作業を今回は特にしていますね。

●今まではそういう方法ではなかった?

鈴木:『METALIN』が一番そうじゃなかったですね。本心を全く出していないわけではないんですけど、たとえば“これは別れの曲です”とかテーマを決めて書いていたから。でも今回はそういうものじゃなくて、単純に自分の根っこを掘っていく感じでした。だから指摘されたように、自分の話しているようなことが歌詞に出ているという自覚もなくて。今言われてみて、“あぁ、そうか”って思いましたね。

●“こびりついた普遍性を見限りたい”と歌っているということは、普遍的なものを目指していたわけですよね?

鈴木:そこは初期の頃からずっと同じですね。自分の価値観に寄りすぎるよりは、より客観的に普遍的に良いものを作りたいという感覚はずっとあります。ただ、そこで歌っている“こびりついた普遍性”というのは、ちょっと意味が違っていて。時間が経ったことで、自分の視野が広がったというか。それによって、自分の中での“普遍性”という言葉が指す幅も広がっていると思うんです。

●視野が広がっているという自覚はある。

鈴木:たぶん、そうだと思います。

藤原:昔の自分を認められるようになったということは、すごく視野が広がっている証拠なんじゃないかなと思います。大人になった証拠というか。

●でも歌詞は“中二病”っぽいところがあるような…。

鈴木:そうですね。僕は中二病なので…って、もう26歳なんですけど(笑)。そういうものが好きなんですよ。

●たとえばM-6「indelible time」の歌詞で使われている“metaphysical(=形而上学の)”という単語なんかも、中二病っぽいですよね(笑)。

鈴木:“physical”と“metaphysical”って、“絶対に辞書で調べたやろ?”っていう(笑)。

一同:ハハハハハ(笑)。

●“何となくカッコ良さげな単語を使ってみた”みたいな(笑)。M-4「self connection」の最後に出てくる“「所詮、思い過ごしか」”というフレーズが、中二病というものの全てを言い表している感じがします。

鈴木:そうですね。そのとおりだと思います。

●自分でもそれはわかっている?

鈴木:はい、そこは大人なので。コントロールはできています。

●大人なので(笑)。MV曲のM-1「掌で踊る」の冒頭にある“神の意志があったとして 僕ら既にプログラム”というのも独特な表現ですが、これはどういう意味なんですか?

鈴木:これは僕が日々思っていることなんですけど、“共感は得られないんやろうな”とは思っていて。日々生きていて、気持ち悪いんですよね。

●気持ち悪い?

鈴木:誰もが3歳くらいで言葉を覚えて、13歳くらいでだいたい自我が芽生えてきて中二病になるじゃないですか。女の人の場合だと月に1回は生理が来たりだとか、“なぜみんな一緒なんだ?”っていうところが気持ち悪くて。“誰が作ったんだ?”って思うんですよ。

●神の意志にプログラムされていると。

鈴木:M-3「表裏一体」も、そういうことを歌っていて。歴史も同じことを繰り返しているんですよね。たとえば組織というものは大小にかかわらず、自分の持てる権力や富が増えていくにつれて誰もがどんどん邪(※よこしま)になっていくというか。同じようなことを何千年も繰り返しているわけで、それがどうしようもないことなのだとしたら虚しさを感じるんです。

●同じ過ちを繰り返していることに虚しさを感じる。

鈴木:二次元から三次元が認知し得ないように、三次元からは四次元や五次元を認知できないじゃないですか。だから僕らが認知し得ないところに何かがあるのかもしれなくて、それが神なのかどうかはわからないですけど、そういうものの存在を日々感じざるを得ないということですね。それでも僕らは懸命に生きて、抗うようにアイデンティティを仕立てていく。でもどれだけ崇高な存在になったとしても所詮はその何次元も上の存在以下にしかなれなくて、抗いようがないなっていう。日々、何かを目にするたびにそういうことを思ったりするので、それを歌詞にしてみました。

●そこも自分の日々思っていることを出しているわけですね。

鈴木:そういうものを脚色せずに言っているというか。本当に自分の“根っこ”の部分を掘っている感じなんです。

●歌詞に関して、嘘は言っていない?

鈴木:僕は歌詞に限らず、嘘はないですよ。本当のことというか、本音しか言わないですから。本当のことしか言わないということは、“建前”がないんです。だから気も遣わないし、あまり人と仲良くなれなかったりするんですけどね…。そういう建前がない感じで、歌詞も書いています。

●今回は今まで以上に建前のない歌詞になっている?

鈴木:たとえばテーマを決めて書くというのも、“建前”というか。以前は1つフィルターを通していた感じだと思うんです。でも今回は、そのフィルターを外していて。“フィルターを通さない”というのも、今回のテーマの1つでしたね。

●それによって自分の内面が今まで以上に解放されているような感覚もあるのでは?

鈴木:“もっと肩の力を抜こう”という感じはありましたね。何事も“力み”は良くないなと思うから。だから何というか…、“ええ感じ”です(笑)。

●“ええ感じ”という表現からも、肩に力が入っていないのは伝わります。“最高傑作”とか“金字塔”というと、ちょっと力が入りすぎているというか…。

鈴木:そうですね。

藤原:まさしく、“ええ感じ”の作品やと思います(笑)。

●ちなみに前作のインタビューでは“今までで一番良いものができたので、これ以上のものを作るにはどうしようか?”と話していましたが、今作で超えられた感覚はある?

鈴木:そんなことを言っていたんですか(笑)。でも毎回“これがベストや”とは思いますね。やっぱり時間が経ってみないと、わからないところというのがあって。今思うと『METALIN』はすごくコンセプチュアルなんですけど、当時はそれすらもよくわかっていなかったから。だからまだ客観的に『ゼロ』のことも見られてはいないんですけど、前作は確実に超えていると思います。

藤原:“そこに鳴るはどんなバンド?”と訊かれたら、“このCDを聴いてもらえたらわかると思います”と言えるくらいの作品ですね。

鈴木:それ、たぶん前回も言ってたで。

一同:ハハハハハ(笑)。

Interview:IMAI

 

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