音楽メディア・フリーマガジン

サンゼン

滲む景色の中で幻想的な光を放つ美しき言葉と音

2007年の1stアルバム『瞬間描写』以来、フルアルバムとしては11年ぶりとなる新作『レイとグリント』をサンゼンがリリースする。メンバーの脱退など様々な紆余曲折を経て、自主レーベルより世に放たれる今作。ホーンセクションが鳴り響く今までにないアッパーな楽曲「毎秒に波」から始まり、彼ららしい気怠い空気感の中にもロックバンドとしての進化を感じさせる「雨に冷たい」「夏」といった楽曲まで、珠玉の名曲揃いの最高傑作が完成した。全てを背負い歩いていく覚悟と挟持に満ちた、美しい佇まいの普遍的サウンドに今こそ触れて欲しい。

 

「“やっぱり年月が経っただけのことはあるな”とすごく感じられて。自分たち史上最高のものができたという自信はありますね」

●今作『レイとグリント』は、フルアルバムとしては何と11年ぶりのリリースという…。

オザワ:そうなんですよね。“何やってたんだ?”っていう話なんですけど(笑)。でも実は2009年に出したミニアルバム『アルベド』は元々、フルアルバムの予定だったんですよ。

●えっ、そうなんですか?

オザワ:それだけの曲をレコーディングはしていたんです。でも当時の事務所と話し合いをする中で、“リリースタイミングを分けたほうが良いんじゃないか”という話になって。先に1枚ミニアルバムを出して様子を見てから、次を出そうということになったんですよ。

●本来はミニアルバムを2枚出す予定だった。

オザワ:だから、その時点でミニアルバムもう1枚分のプリプロ音源はあって。ただ、その直後にメンバーの脱退があったり、『アルベド』のセールスが思ったより上手くいかなかったりして、リリースできなくなったんですよね。

●メンバーの脱退も大きかったんですね。

オザワ:そうですね…。やっぱりバンドって活動が上手くいかないと、求心力も下がってしまうものなんですよ。あと、年齢的にもみんな良い大人だったというのもあって脱退することになって。そこから今の3人になりました。

●3人になって変わったところもある?

オザワ:3人になって、重苦しくはなくなりましたね。メンバー脱退の2年後くらいには事務所も離れて自分たちでやることになったんですけど、そんなに切羽詰まった感じはなくて。それまではある程度、事務所の意向も反映した上で曲を作っていたところがあったんです。でも3人になってからは“いったん新しい曲だけでライブをやってみようか”ということで曲作りをしたので、より自由にやれるようになったというか。

●メンバーが少なくなったことも、逆に自由度の高さにつながっているのでは?

オザワ:その時に今のサポートメンバーとも一緒にやるようになったんですけど、自分の好きにやれる楽しさはありましたね。あと、3人でやるようになってから、最初は“もっとギターを弾いたほうが良いのかな”と思ったりもしたんですけど、そういう意識をなくして“ただアコギを持って歌うだけ”という形にしたんです。

●ギターよりも、歌に専念したわけですね。

オザワ:自分はただ歌うだけで、他の2人にはそれに寄り添って演奏してもらうような形でライブをやってみたら、それでも成立したんですよね。逆に“潔いね”と言われたり、色んな人から褒められたりもして。

●そのスタイルができあがったのは、いつ頃?

オザワ:2010年初頭にメンバーが抜けたんですけど、その年の秋のワンマンを前に3人で京都と大阪へツアーに行ったんですよ。そこで“あ、3人でも良いんだ”と思えて、ある程度固まったところはあると思います。

●2010年の秋には、今の形ができていたと。

オザワ:そこからもちょこちょこレコーディングはしていて。ただ、どういう形でリリースするかを事務所と相談している中で、“このままじゃ出せないな”という感覚があったので“どうすれば良いんだろう?”と思っていたんですよ。でもその頃にはもう誰でもCDを作って出せる時代になっていて、ちょっと動いたら自分たちのCDをお店に並べられると知ったんです。その“ちょっと動く”ということの大事さもそのあたりで知りましたね。それで今もお世話になっている人たちに手伝ってもらって、2013年にミニアルバム『かさねる』を出しました。

●自主制作で初めてリリースした作品ですよね。

オザワ:それが自分の想像よりも売れたんですよ。想像していた設定自体が低いんですけど(笑)、何の宣伝もしていないわりには売れたなと。あと、周りのミュージシャンがSNSとかですごく“良い”と言ってくれたことで、その周りの人たちにも聴いてもらえたというか。そういうこともあって、自分の中では“良い盤になったな”という感覚があったんです。

●良い感触はつかめていた。

オザワ:そこでCDをリリースするということも含めて、ちょっと考えれば自分たちでも色々とできるんだなとわかって。…まあ、そこからまた5年も空いちゃったんですけど(笑)。

●ハハハ(笑)。その理由は何だったんですか?

オザワ:その間にDr.Funky-Yukkyが地元に帰ったこともあって。音源を出せる状態ではあるけど、出した後に“ライブでの再現はどうするのか?”という問題が生じたんですよ。ライブ自体もなかなかできなくなって“どうしようかな…?”と考えている中で、ここまで引っ張っちゃいました。

●その間にもCMへの曲提供をされたりしていたわけですが。

オザワ:ありがたいことに、そういうお仕事のお話を頂いたりはして。1本目に頼まれたほう(※M-8「明日の拍子」)は僕自身が元々持っているテーマで書いても問題なさそうなものだったんですけど、もう1本のほう(※M-9「街に景色」)はちょっと苦労しましたね。

●それはどんな面で?

オザワ:“アップテンポで明るく爽やかな曲”ということを求められると、何も出てこないというか…。基本的に自分の自然なリズムがあって、テンポ感のあるものはなかなか出てこないんですよ。何も言われずに作るとスローテンポなものばかりになっちゃうので、そこは苦しみましたね。

●元々の持ち味とは違うタイプの曲を作ることに苦戦したんですね。

オザワ:しかも制作期間が2週間だったんですけど、“やります”と返事をした翌日に僕が腎臓結石で緊急搬送されちゃったんですよ。

●またトラブルが…。

オザワ:でも他のメンバーのスケジュールもあるし、曲も作らなきゃいけないので、入院はせず家に帰ったんです。そういう中で、何とか〆切までに曲を作って提出したという…。ドラマーがいないのでその曲は打ち込みなんですけど、トラックを作ってくれた人に“よくそんな状況でこんな明るい曲を作れましたね”と言われました(笑)。

●今作を初めて聴いた時に、M-1「毎秒に波」の軽快なテンポ感が意外だったんですが。

オザワ:「毎秒に波」はわりと新しい曲なんですけど、ホーンを入れたり、コーラスアレンジをしてもらったら、想像以上に勢いが出たなと思って。

●そういったアレンジは誰か別の方がやったんですか?

オザワ:今回のアルバム中8曲でkagalibiの(Vo./G.河合)雄三くんにコーラスをやってもらっているんです。彼は緻密な計算ができるタイプなので、本当にお任せでやってもらっていて。サポートメンバーに対してもそうなんですけど、僕は“こうやって欲しい”と言うよりは“好きにやってよ”という感じで丸投げしちゃうことが多いんですよ。

●自分とは違う感性が入ることで生まれる化学変化もあるのかなと。

オザワ:僕はそれが好きなんですよね。メンバーが5人いた時から、いったん各々が好きなようにやってもらっていて。最終形が自分でもわかっていないほうが楽しいし、そういうものが「毎秒に波」には出ている気がします。

●今までとは少し違うテイストもあって、印象的な曲になっていると思います。

オザワ:今作にはMVを作る予定の曲が3曲あるんですけど、やっぱり4〜5年もリリースしていないと、候補曲も1曲1曲が自然と強いものになるんですよね。しかも最初に話したように、2009年に出せなかった曲たちもあるので…。

●あ、ここで復活しているんですね。

オザワ:そうなんですよ。M-3「夏」、M-4「サーファー」、M-5「秋」、M-6「モヤモヤ」の4曲は本来2009年にミニアルバムとして出す予定だったものをリアレンジして収録しています。だから、ある意味では“ベスト盤”みたいな感じもあって。

●「夏」と「秋」が収録されているので、「春」や「冬」はないのかなと思ったんですが…。

オザワ:実は「春」と「冬」は既にリリースしているんです。「春」は2008年リリースの1st EP『夕方から雨』に入っていて、「冬」はタワーレコード限定シングル『マスク』にライブテイクが入っているんですよ。

●既にリリースされていたと。最初から春夏秋冬を意識して、その4曲を作ったんですか?

オザワ:何を最初に作ったかは全く思い出せないんですけど、たぶん先にその中の2曲くらいができて、“だったら他の季節もあったほうが良いのかな”という軽いノリで作ったんだと思います(笑)。僕はそのあたりが、わりと軽いんですよね。聴いてくれている人たちは深読みしてくれるタイプが多いんですけど、作っている本人はそこまでではないというか。僕はわりと余白を出しちゃうんですよ。

●確かに歌詞は余白が多いですよね。はっきりしたことをあまり歌っていないので、逆に想像力が膨らむというか。

オザワ:自分が聴く上でも、そういうものが好きなんだと思います。全部を出されちゃうと、楽しむ余地がないから。だから自分が書くものも、そういうふうになっちゃうんですよね。内容的にはいくらでも後付けができちゃう感じなので、自分自身もそれを楽しんじゃっているところがあって。“こういう意味にも取れるな”というものが、後から次々と出てくる感じはあると思います。

●そういう中でM-10「フクロウ」は、自分たちのことを歌っているのかなと思ったんですが。

オザワ:「フクロウ」はFunky-Yukkyが地元に帰るあたりの時期に作ったんですけど、きっとその時のバンドの状況が出ているんだと思います。“こうなっても続けているんだな”と思って。もう15年もやっているので、いくらでもバンドを辞めるタイミングはあったと思うんですよ。場面場面を切り取れば“大変”っぽいことはたくさんあったんですけど、普通に暮らしている中でいくらでもあるようなことを大袈裟に言う商売じゃないですか(笑)。

●ミュージシャンという仕事は(笑)。

オザワ:“バンドは苦しい”とか“バンドマンは金がない”とか(笑)。ただ、そんなものは全国民が感じられるレベルのことだから。“それも自分で選んだんですよね。これからも続けていくんですけど”っていうことを書いていますね。

●「フクロウ」というタイトルはどこから?

オザワ:今の話が偶然にも重なるんですけど、“苦労がない”という意味なんです。“不・苦労(フクロウ)”っていう。

●そういう意味だったんですね!

オザワ:苦労したことを大袈裟に言ったりするけど、別にみんな一緒ですからね。何だったら、普通に日頃から汗水たらして働いている人たちのほうが大変なわけで。自分が楽しいことをやって生活しているのに、そのことに対して“ミュージシャンはつらいよ”とか言っている場合じゃないというか。“苦労なんか全然していない”っていう意味もあります。

●とは言え、活動を続けてきた中でバンドとしての進化は感じられているのでは?

オザワ:それはありますね。特にBa.吉田靖雄はずっと休むことなく腕を上げてきているわけだし、自分自身の成長もすごく感じていて。“やっぱり自分たちはロックバンドなんだな”という気持ちは、今回のアルバム全体としても出ていると思います。

●個々に進化してきた成果が作品にも出ている。

オザワ:一番新しい作品が自分たちにとって、一番良いものではあると思うんですよ。前作の『かさねる』を出した時に“メチャクチャ良いものができたな”と思ったんですけど、『レイとグリント』を聴いた後に前作を聴き返してみると“やっぱり年月が経っただけのことはあるな”とすごく感じられて。自分たち史上最高のものができたという自信はありますね。

●9/24にはリリースを記念して、久々のワンマンもありますが。

オザワ:2年半ぶりくらいにフル編成でのライブなんですよ。そこで今までで一番良いライブをしないと、やる意味もないから。気合を入れて頑張ります。

Interview:IMAI

 

 
 
 
 

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