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ArtTheaterGuild

今迎える萌芽の時、新たなる才能が未知の軌跡を描き出す。

都内を中心に活動するオルタナティブギターロックバンド・ArtTheaterGuild(アートシアターギルド)が、 the pillowsの山中さわおプロデュースのもとでデビューミニアルバム『HAUGA』を完成させた。Vo./G.伊藤が描き出す独自の世界観を持った歌詞とメロディ、そしてG./Cho.木村とDr.浅井と共に織りなすサウンドは、初めて聴く者の心にも奥深くまで浸透していく。2枚の自主制作盤EPを経て、ベルウッド・レコード内のロックレーベル・ROCKBELLより初の全国流通盤としてリリースされる今作を契機に、彼らの名と音は着実に広がっていくことだろう。

 

「今回の5曲に関しては、僕なりの言い方もできたのかなと思いますね。これからたくさん曲を作っていく中でも、1つの“指針”になるものができたなと思います」

●プロフィールによれば、2012年1月8日に栃木で結成したとのことですが。

伊藤:最初からいるのは、僕だけですね。当時、僕ともう1人のメンバーが”曲を作ってみようぜ”と言って、初めて曲ができたのがその日で。僕はそのことをずっと覚えているので、そこを結成日にしているんです。

●記念日的なものというか。実際、そこからずっと活動していたわけではない?

伊藤:そうですね。精力的にやっていなかった時期もかなりあります。

●メンバーも何度か変わっているんですよね。

伊藤:別にメンバーをたくさん変えたいわけではないんですけど(笑)、色々と事情が重なったりもして。そもそも今の2人が入るまでは、”バンドをやる”ということに対する僕の意識が低すぎたんです。それはたぶん当時のメンバーも同じで、僕が持っていった曲を形にしたら“それで良いでしょ”くらいの感じだったというか。

●趣味のようなレベルだったというか。

伊藤:そういう雰囲気はあって。だからメンバーが辞めることに関しても、そこまでヘヴィな話にならない時期があったんです。でも浅井さんと木村が入ってから、意識がだんだん変わっていったところはありますね。

●現メンバーの2人が入ったことで、伊藤くんの意識も変わった?

伊藤:とにかく最初に“素晴らしいな”と思ったのは、木村のギターで。初めて一緒に入ったスタジオで木村が音を一発鳴らした時に、“これが良いギターなんだ!”ということを教えてもらったんです。そもそも“良いギター”という概念すらも、自分は知らなかったというか。明らかなレベルの差も感じたけれど、同い年というのもあって“ライバル意識”みたいなものがあるんですよ。

木村:マジで? ライバル意識があるんだ…。

●伊藤くんは、そういう意識があったと。

伊藤:最初に出会ったのが23〜24歳くらいの時で、既に大人同士だったので最初はちょっとギクシャクするところもあったんです。それもあって2人で飲みに行ったんですけど、その時に木村が言った言葉にハッとさせられた部分があって。

●その言葉とは?

伊藤:当時は意識が低かったので、“これからどうしていくか?”みたいな将来の話をすると僕は口が濁っちゃうところがあったんです。自分の曲に嘘はついていないけれど、バンドで人に認められて有名になれるとは思えていなくて。だからその時も僕は“良い曲を作れたら良いなと思っているよ”というくらいに答えたんですけど、木村は“俺はthe pillows(以下ピロウズ)みたいになる”と言ったんですよ。

木村:…言ったかもしれない。

●本人はそこまで覚えていない(笑)。

伊藤:それを聞いた時に“こいつ、やるな!”と思って。木村は他にもバンドを色々とやってきて、経験は間違いなく僕よりもあったんです。同い年のヤツがこんなに頑張っていて、意識も全然違うのを知って、“自分も本気でバンドをやらなきゃな”と思った部分はありますね。

●浅井さんも同じように意識が高かった?

浅井:どうなんでしょうね…? 自分ではよくわらないんですけど…。

伊藤:浅井さんはどちらかと言えば、僕寄りだったかもしれないです(笑)。ただ、演奏の“相性”みたいなところで、合うんじゃないかなとは思っていて。木村に対して“良いギターだな”と思ったのと同じように、浅井さんも前のバンドをやっていた頃から“良いドラムだな”とは思っていたから。だから、(この3人が揃った時に)”いけそうな気がする!“という感覚はありました。

●先ほどピロウズの名前も出ましたが、3人のルーツは共通しているんでしょうか?

伊藤:僕と木村は似通っているところもありつつ、浅井さんはちょっと違うところもありますね。大前提としてピロウズがルーツにあるのは僕と木村で、その上で各々違う音楽も好きなんです。

浅井:違う部分はありますけど、dipやThe Strokesといったところは共通していて。ピロウズに関しても2人がすごく好きだということで、私も聴くようになりました。

●浅井さんとの出会いは?

伊藤:当時、浅井さんのやっていたバンドが僕はすごく好きで、ライブも観に行っていたんですよ。お客さんが全然いなくてガラガラの客席のど真ん中で、なぜか僕は棒立ちで1人観ているっていう…ちょっと嫌な客でしたね(笑)。

浅井:“何者なんだ?”って思いました(笑)。

●それが出会いだったと(笑)。

伊藤:浅井さんは、そのことを覚えていたらしいんですよ。僕がTwitterでそのバンドについて言及したり、YouTubeの動画にリンクを張ったりしていたら、彼女もそれに気付いて。そこから僕もバンドをやっていると知って、ライブを観に来てくれたんですよね。その時にちょうど当時のドラムが辞めることになっていたので、“一緒にやらない?”と声をかけました。

●どこか同じ匂いを感じていたんでしょうか…?

浅井:そうですね…、はい。

伊藤:本当かよ(笑)?

浅井:いや、そうじゃないと一緒にやらないです(笑)。

伊藤:だったら、良かったです(笑)。浅井さんとは、そういうキッカケで一緒にやるようになりました。

●なるほど。2016年7月に自主制作でリリースした1st EP『4AM MELLOW DIVERS』は、このメンバーになってから作ったもの?

伊藤:そうです。その時点ではベースもいて、当時のメンバー4人で初めて作った音源でしたね。自分にとっても、ちゃんとエンジニアさんを交えて作った初めての音源でした。

木村:僕がこのバンドで本当に“頑張ろう!”と思ったのは、1st EPをレコーディングした日だったんです。まだミックスも終わっていない段階で聴いた時に、“これはすごいぞ…!”と思って。

●良いものができたという実感があった?

木村:ものすごく良いものができたという感覚はありました。“これは絶対に何かできるバンドだ”と感じたし、その時に僕は“このバンドを一生懸命やろう”と思いましたね。

●その1st EPをリリースから2ヶ月後に、ピロウズの山中さわおさんによるリミックスを施した“新装版”として出し直した経緯とは?

伊藤:2016年の7月に音源ができた翌日(7/22)にちょうど、ピロウズの“STROLL AND ROLL TOUR”のファイナルがZepp Tokyoであって。木村が元々さわおさんの知り合いだったので、ぜひ自分たちの音源をお渡ししたいということでライブにお伺いしたんです。

●木村くんがつながっていたんですね。

木村:以前から良くして頂いている先輩だったんです。

伊藤:そこで音源をお渡ししたら翌日には木村宛にメールが届いて、“今度ライブを観に行くよ”と言って頂いたんです。8月末には実際にライブを観て頂いた上に、その時の打ち上げで“良い曲だからラジオで流したい”と言って下さって。僕らがちゃんとミックスする前に売り始めてしまっていたのもあって、さわおさんから“ラジオ用にリミックスしても良いかな?”というお話を頂いたというのが新装版の経緯ですね。

●そういう流れで、今回の『HAUGA』もプロデュースして頂くことになったんですね。

伊藤:そうですね。バンドをやっていく上で“いつかはさわおさんにプロデュースしてもらいたい”というのが、1つの目標としてあったんですけど、今回は本当に色んな幸運が重なって、プロデュースして頂けることになりました。

●活動において、色んな部分でさわおさんとピロウズの存在が鍵になっている。

伊藤:本当にそうです。音源以外でも“バンドはこうあるべきだよ”ということを教えてくれる“お手本”みたいな存在だと僕は思っていて。色んなアドバイスを頂いていますね。

●楽曲制作の上でも影響を受けている部分はあるんでしょうか?

伊藤:たとえば歌詞が持っている雰囲気や、それがどういう曲とマッチするかというところはすごく参考にしていて。細かいところまで言うとキリがないんですけど、そういう部分で参考にしていることは間違いないですね。やっぱり好きでずっと聴いているので、(ピロウズの曲について)細かいところまで見られているのかなと自分では思っています。僕なりの解釈ができているというか。

●何かを真似するわけではなく、自分なりに解釈した上で影響を受けている。

伊藤:そういう影響が一番色濃く出ているのは、自他ともにピロウズだと認めるところではありますね。ピロウズの曲って展開はシンプルなものが多いんですけど、その中に織り込まれている“隠し味”みたいなものが自分は好きなんだなと気付いたんですよ。“さわおさんなりのこだわりみたいなものがここにあるんじゃないかな?”ということを考えていくうちに楽しくなってきて、それで“もっと研究しよう”と思ったんです。結果的にそれが自分のことにも活かせて、今こういうことになっているので、相乗効果みたいなものも出ているとは思います。

●伊藤くんの歌詞には独自の世界観を感じますが、そういう研究の成果も出ているんでしょうか?

伊藤:1st〜2nd EPでは、まだ自分の中で思っていることを好き勝手に出していただけというか。ピロウズに対して深く研究していたものを、まだ自分の歌詞には浸透させられていなかったと思うんです。でも今回の5曲に関しては、僕なりの言い方もできたのかなと思いますね。これからたくさん曲を作っていく中でも、1つの“指針”になるものができたなと思います。

●日常会話的な表現というよりは、もっと深みのある歌詞だなと感じました。

伊藤:そう思って頂けたら、すごく嬉しいですね。普段使っているような言葉は、なるべく避けるようにはしていて。たとえばM-3「MADDERGOLD」で“街灯が今日も咲き始めた”という表現がありますけど、実際には街灯は咲かないじゃないですか。

●そうですね。

伊藤:でも“咲き始めた”と聞いた時に、各々の想像の仕方次第で頭の中にそういう画を思い浮かべられるというか。そういうことって直接的に言うよりも、間接的に言ったほうが、人の頭の中では美しく投影されることが多いと思うんですよ。同じ言葉でも各々で思い描くものが違うほうが面白いなと僕は思っているので、歌詞を書く時は直接的な表現を使わないようにはしています。

●そのせいか、どの曲の歌詞も“詩”的な表現になっている気がします。

伊藤:そうですね。“わかりやすいけど、深い”みたいな歌詞が、理想的だと思っていて。M-5「HOME ALONE」はどちらかというと“語感で楽しんで欲しい”という意味も込めて英詞にしているので省くとしても、自分の中で今回は全て僕らしい言いまわしや文章のつなげ方ができたかなと思っています。

●MVにもなっているM-1「Stamen」は、その中でも今作の軸になる曲なのかなと思って。曲名は“雄ずい/おしべ”という意味ですが、タイトルの『HAUGA』が“萌芽”という意味だとしたら、そこにもつながる気がしたんです。

伊藤:そのとおりですね。でも「Stamen」という曲名を決めたのは今作を作る前だったので、その時点からつなげようと思っていたわけではなくて。僕は元々、曲名に植物的な要素を入れるのが好きなんですよ。あと、『HAUGA』は“芽吹く”という意味の“萌芽”でもありつつ、ArtTheaterGuildというバンド名から“邦画”という意味も掛けているんです。

●日本アート・シアター・ギルド(※60年代〜80年代にかけて活動した日本の映画会社。同じく“ATG”と略称される)が、バンド名の由来になっているんですね。

伊藤:そういうモジリもあって、面白いかなと。“萌芽”というのは咲き始めのことだし、1枚目に相応しいタイトルかなと思っています。僕は元々、タンポポの綿毛を想像していたんですよ。花が咲いて、種がどこかに飛んでいって、完結するという流れがあるじゃないですか。今作は5曲とも全て、ある意味では“お別れの曲”みたいなイメージがあるんですよね。そのお別れして辛かった部分を曲にすることで“卒業する”という意味も込めて、『HAUGA』にしました。

●バンドとしても、これから芽吹いていくことを示しているわけですよね。

伊藤:そういう意味でも『HAUGA』っていうタイトルが相応しいのかなって。1枚目として、ちゃんとテーマを持ってタイトルを付けられたなって思います。

●自分たちでも、さらなる可能性を感じられる作品になったのでは?

浅井:音作り的な意味では、最近やっと自分の好きな音に近付けているような感覚があります。あまり難しいことをやっていないぶん、1つ1つの音や細かい部分について考えられるようになってきたなと思っていて。

木村:自分としても納得のいくギターフレーズが、今回は弾けていて。特にイントロに関しては、どれも印象的なもので固められているなと思います。

伊藤:これまでは曲によってバラバラだったんですけど、今回の5曲は全てにギターソロが入っているんですよ。今まで僕が無意識で隠してしまっていた木村の良いところがギターソロに出ていたりもして。そういう意味でも、僕らをわかりやすく伝えられる作品になったのかなと思いますね。

Interview:IMAI
Assistant:Shunya Hirai

 

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