2017年12月にReanne(Key.)の脱退を経て新体制となったOctaviagraceが、新作EP『new eclosion』を完成させた。“新たな羽化”を意味するタイトルにも象徴されるよに、バンドとして再び生まれ変わる強い決意を感じさせる今作。リード曲の「sorrow joker」を筆頭に、いずれも強力な個性を持った7曲が揃った濃密な作品となっている。ヘヴィメタルやハードロックを軸にプログレッシヴな展開も見せる楽曲に、口ずさみやすいキャッチーなメロディを搭載した独自のサウンドがさらに進化。ここから先にも期待させる、新たな一歩を4人が踏み出した。
「次作のイメージも何となく見えてきた気がします。今作を作ったことで、次に向けて1つの目印ができたかなとは思いますね」
●去年の12月にReanneくんが脱退して新体制になったわけですが、そうなった経緯とは?
実稀:私たちって結構ユルく始まったんですけど、そのままの流れで来てしまっていたところがあって。メンバー間で改めてミーティングをした時に、“ここらでテコ入れしませんか?”という話になったんです。そういう時にReanneくんは今の生活的にこれ以上バンドに時間を割くのは難しいということと、他にもやりたいことがあるという理由もあって脱退することになりました。今後も協力は惜しみなくするけれど、正式メンバーとして活動を続けるのは難しいということでしたね。
●バンドとして、テコ入れをしたい気持ちがあったんですね。
実稀:メンバーそれぞれの年齢も考えると、全力で音楽をやれる期間はもうそんなに残されていないと思うんですよ。そういうこともあって、“ここからもうちょっと本気で打ち込んでいこう”という話はしました。
Youske:これまで色々と思いどおりに動けていない部分もあったし、“今回のリリースを皮切りにもっと精力的にやっていきましょう”という話はしましたね。
●前作のミニアルバム『Polyhedra』では音楽的な幅を広げたわけですが、今回もその延長線上にはあるんでしょうか?
Youske:前作の作風がトリガーになったところはありますね。色々やりたい気持ちはあるし、“シーンを限定したくないな”っていう想いもあるんです。だから今作でもブレイクダウンを取り入れてはいるんですけど、それ以外にもっと色んな要素を追加していきたいとは思っていました。
●メタルやラウドのシーンだけではなく、もっと幅を広げた表現がしたいと思っていたんですね。
Youske:ただ、前回からメンバーが1人減ってしまったので、今までと同じやり方ではできない部分もあって。今の4人でやれる最大限という感じにはなりましたね。
●脱退したとはいえ、今作にもReanneくんのキーボードは結構入っていますよね?
Youske:今回はサポートメンバーとして、参加してもらいました。
実稀:あくまでもサポートメンバーなので、自分のエゴは一切入れないという感じで関わってくれて。“自分ならどうする”というところよりも、私たちから求められたものに応えるというスタイルを今回は徹底してくれたのかなと思います。
●キーボードの音自体はバンドとして必要としている?
実稀:そこは今回意識しながら作っていた部分でもあって。完全にピアノだけによるソロパートはあえて作らないようにしました。それと、今まではライブで同期の使用を避けていたのですが、昔の曲をやるにあたってどうしても同期は必要になるなと。それであったら今までできなかったことも同期を使うことで分厚くできるから、気にせず作ろうというような自由さになりましたね。
●メンバーにキーボードがいなくなったことで、自由度が増したところもあると。
Youske:今回、僕の作った曲はM-5「DEADLOCK」を除いて、Reanneくんのプロダクションは入ってないんですよ。そこはちょっとチャレンジしてみた部分ではありますね。本来なら鍵盤が担当するであろうパートをベースで弾いてみたり、イントロでタッピングをしてみたりして。逆にキーボーディストならではのひらめきもあるんだなと今回で学んだ部分もあったんです。彼がいることでもたらしてくれたものと、いなくなることで上がった自由度という、2つの側面が今回はありましたね。
実稀:あと、今回はキーボードがいないことを想定したミックスになっているので、そういうところでの比重も変わっているかもしれないです。
●楽曲に関しては今までどおり、それぞれがやりたいものを持ち寄った感じでしょうか?
実稀:そうですね。特にコンセプトもなかったので、個々にデモを持ち寄った中から選んだ感じです。何かオーダーして出してもらっているわけではないので、その時に各自がやりたいものを出してもらっていて。hanakoの曲も入っていますけど、彼女の好みが毎年変わっているのも感じますね。
●M-3「Loss of signal」はhanakoさんの作曲ですが、今までにない感じになっている?
実稀:この曲は、私の中では完全にそういう立ち位置にありますね。これまで私たちがリリースしてきた曲はメロディの起伏がドラマチックで、すごく展開があるという部分に大きな特徴があったと思うんです。
●確かにそういう印象があります。
実稀:でも今回のhanakoの曲は、音のレンジがすごく狭いんですよ。同じような音域の中でAメロからサビまで来るような曲は、今までになくて。これまでは自然に歌えばドラマチックになるようなメロディが多かったんですけど、今回のhanakoの曲はちょっと違うなと…。そこでいつもより大げさに感情の起伏を、歌で表現したところはありますね。
●歌で、楽曲に起伏を付けている。
実稀:そうですね。Aメロもサビもそんなに高さが変わらなかったので、その中でどうサビ感を出すかというのは自分の中でも新しい挑戦でした。
●ちなみにKo-ichiさんだけが今回、曲を持ってきていないわけですが…。
Youske:そうなんですよ! でもM-1「oddeye」のドラムは、彼に丸投げして考えてもらったんです。最初は自分で考えていたんですけど、途中で煮詰まってしまったのでKo-ichiに“任せた!”という感じで丸投げして。そういう意味では、“プチ共作”感はありますね。
●「oddeye」では、ウィスパーボイスと歌の掛け合いが新鮮でした。
実稀:デモの段階で、そういう感じにしたいとは言われていて。今までとは違うコーラスの掛け合いをしたいというところがあって、色々と案が出た中で選ばれたのがウィスパーボイスでした。
●掛け合いになっているので、ライブでの再現が難しそうではありますが…。
実稀:これに関しては、同期が入ったからこそできるという部分はありますね。そういう縛りがなくなったことで遠慮なくできるところもあります。
●ウィスパーボイスで歌っているパートについて1番のAメロには英詞が入っていて、2番のAメロでは日本語になっているのも何か意味があるんでしょうか?
実稀:歌詞の内容的に1番は現実ではない情景を歌っていて、Bメロで夢から覚めて現実に戻ってきたという流れになっているんです。だから2番のAメロは現実世界ということで区別を付けるために、普通の声で歌っているんですよね。
●そういう意味があったんですね。歌詞は、物語的な内容なんですか?
Youske:僕が『Re:ゼロから始める異世界生活』というアニメにハマっていて、その中に出てくるキャラクターの“レム”が特に好きなんです。それもあって、この曲の仮タイトルが「レムたん」だったという…(笑)。
実稀:そういう背景も聞いていたので、歌詞にも取り入れたほうが良いのかなと思って書いてみました。
●左右の眼の色が違うことを示す「oddeye」というタイトルは、どこから?
実稀:“本音と建前”みたいな部分もこの曲のテーマではあったので、“右と左で言っていることが違うよ”という意味を込めて付けました。
●“約束のない今日の方が 運命めいて素敵でしょう?”という歌詞が、すごく耳に残りました。
実稀:そういってもらえると嬉しいですね。難しい言葉を使って奇をてらった表現をすれば、オリジナリティを出すのは簡単だと思うんですよ。でも私は誰もがわかるような言葉を組み合わせて、印象を残すことにこだわっているんです。
●“手には触れられない方が 輝きは永遠でしょう?”という部分も含めて、この曲からはメッセージ性も感じたのですが。
実稀:私は曲ごとに主人公を立てた上で、その目線から歌詞を書くことが多いんです。でもその中にも自分が普段思っていることを、スパイス的な感じで混ぜたりはしていて。この曲に関しては特に、物語から外れたとしてもフィットするような場面があるフレーズを入れています。
●現実の世界でも当てはまるような言葉というか。そういう意味でM-7「Tales of us」の歌詞は、バンドのことにも重なる内容かなと思って。
実稀:こういう爽やかな曲は今までもよくやってきたものなので、それゆえに歌詞についてもやり尽くしてしまった感があったんです。それもあって今こういう曲に歌詞を乗せるなら、どんなものにするかというところでちょっと悩んだんですよ。たとえば初期の「Dramatic Quiet」(1st EP『RESONANT CINEMA』収録/2015年)では“今から始まっていく”みたいなことを歌っていたんですけど、そこから3年経った今また同じようなことを歌ってもしょうがないなと思って。だから今回はあえて“終わりが見えている”というシチュエーションで書いてみました。
●“終わりが見えている”というのは?
実稀:私たちもメンバーチェンジを経て“これからどうしよう?”と考え始めたところで、“こういうエンディングを迎えるんだろうな”というのが何となく見えてきた部分もあって。そういうところも踏まえて“終わり”をテーマにしつつ、曲調は明るいので、悲しい感じでは終わらないように意識して書いていきました。“ここが終わりではあるけど、また新しい始まりでもある”というか。
●バンドの歩みに重なるという意味では、M-4「unknown chord」の“立ち止まっていられない”という部分にも意志を感じました。
実稀:この歌詞を書いたのは「Tales of us」を書いた後だったので、つながっている部分はありますね。いったん“終わり”を書いたので、今度はそこから見える“始まり”を意識したところはあって。物語というよりは、その時の心情にフォーカスを当てて書きました。
●“使い捨ての生命しかないから”というフレーズが印象的だったんですが。
実稀:人生は一度きりなので、残された若さをどう使っていくのかというところで考えましたね。
●そこも今の自分の心境につながっているんですね。MV曲のM-2「sorrow joker」は実稀さんの作詞・作曲ですが、これはどんなイメージで?
実稀:これまでの曲はサビがある程度仕上がった段階で歌詞も構想が浮かんでいたんですけど、今回は先に曲だけ仕上げてしまってから歌詞を乗せたんです。だから歌詞に関しては、完全に後付けですね。MVになると決まった時点で、もう1ひねり加えて変えたところもありました。
●MVに関しても何かイメージがあったんでしょうか?
実稀:今作はメンバーの構成が変わったところもあって、MVに関しては“こういう側面もあるよ”というのを見せたいと思っていたんです。前作でも“新しいOctaviagraceを見せたい”とは思っていたんですけど、MVの内容的にはそれまでと大きく方向転換はしていなくて。新しい側面を見せるには、今回がちょうど良いタイミングかなと思っていたんですよね。
Youske:メンバーの演奏がメインではあるんですけど、それ以外にもダンサーの方に出演して頂いたりして、今までとはちょっと変わった感じのMVになっています。
●MVのテイストも変えたんですね。
実稀:過去のMVではCGをわりと使っていたんですけど、今回はあえてアナログな方法で撮影したりもして。
Youske:CGではなく、本物の羽が舞っていたりするんです。
●ジャケットのイメージにも通じる感じでしょうか?
実稀:そうですね。この曲だけにフォーカスして撮った映像というよりは、ジャケットやアーティスト写真にもつながっているんです。今回のテーマは“羽化”なんですけど、“もう一度ここから再生しよう”といったテーマをMVの監督さんには伝えていて。そこからインスピレーションを得て、作ってくれたのかなと思います。
●“eclosion”は“羽化”という意味ですが、今作の『new eclosion』というタイトルにもつながっている?
実稀:そうですね。“new”の部分には“新しくここから”という意味も込めて、このタイトルにしました。
●先ほど話していたとおり、“もう一度ここから再生しよう”という意志が表れているわけですね。今作についてYouskeくんがTwitterで、“今までで一番濃厚なものができた”とつぶやいていましたが。
Youske:今作を通して聴くとわかるんですが、どの曲もメロディがめちゃくちゃ強いんですよ。メロディが強すぎて聴き疲れるくらいなので、そういう意味で“濃厚”とつぶやいたんです。どの曲もリード曲くらいの強さに仕上がっていて、全体的にギュッと濃縮されている感じがしますね。
実稀:今回はhanakoがシンプルな曲を出してくれたおかげで、バランスが取れた部分もあるなと思っていて。いつもみたいに濃いメロディが来ていたら、置き場所に困っていたなと思います(笑)。
●今作を作ったことで、今の4人でのバランスを見つけられたところもあるのでは?
Youske:そうですね。自分の曲には“こういうクセがあるんだな”というところもいい加減わかってきましたし、そういう中で“次はどういうものを作ろうかな”と考えたりもしていて。
●次作に向けた構想も既に浮かんできている?
Youske:次作のイメージも何となく見えてきた気がします。今作を作ったことで、次に向けて1つの目印ができたかなとは思いますね。
Interview:IMAI
Assistant:Shunya Hirai