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UNCHAIN

時代に媚びない創造性が生んだ、未知なる輝きを放つ結晶体。

UNCHAINが、通算10枚目となるオリジナルアルバム『LIBYAN GLASS』を完成させた。ロックからジャズやソウル・ミュージックに至るまで、様々な音楽を昇華して自分たちだけのサウンドを常に追い求めてきた彼ら。独自進化を遂げてきた中で鳴らす音が、シティ・ポップ隆盛の現在のシーンと偶然リンクするのも面白いところだろう。時代に媚びることなく、モチベーションを失うことなく、創作を続ける4人が生み出した新たな結晶体は未知なる輝きを放っている。

 

「もちろん吉田が曲を作ったということ自体もすごく大きかったんですけど、それによってバンド内に新しい風が吹いたということが一番大きくて。だからこそ、このアルバムができたと思うんですよね」

●まず今回の新作で注目されるのは、リードトラックのM-1「Libyan Glass」を吉田くんが手がけているという点だと思いますが…。

谷川:アルバムに向けた曲出しミーティングをした時に全く聴いたことのないサウンドが急に流れてきたので、みんながちょっと動揺したんですよ。しかもそれが吉田の作った曲だと知らされて、“えっ…マジで!?”となって(笑)。22年もバンドをやってきた中で(吉田の)人生初作曲だったということもあって、本当に度肝を抜かれましたね。

●最初に聴いた時はとにかく驚いたと。

谷川:大体はサウンドの感じで“これは佐藤が作った曲だな”とかわかるものなんですけど、全く違う世界が急に飛び込んできたというか…。まず“吉田が作った”というのが衝撃的すぎて、最初に聴いた時は曲が頭に全然入ってこなかったんです。だから、“もう1回聴かせて”と言いましたね。

谷:ホンマにビックリして。二度見する感じですね(笑)。

佐藤:みんな、若干震えていたと思います(笑)。

吉田:僕はすごく怖くて、ドキドキしていましたけどね。

●みんなの反応が怖かった?

吉田:そうですね。

佐藤:みんなの前にデモを出す瞬間って、何回やっても慣れないんですよね。1人のテンションで作ったものを出すというのは、未だにドキドキします。

●他人の反応は読めないですからね。

吉田:でも変な自信はあったんですよ。

●自信はあったんだ…。22年間で初の作曲ということですが、今までも作ろうとはしていたんですか?

吉田:いや、していなかったですね。そもそも“(自分に)作れるとは思っていなかった”というのが一番大きいかもしれない。カラオケにも行かないので、歌うこと自体がほとんどなくて。だからメロディが浮かぶなんて自分でも思っていなかったし、コードもあまり知らないんですよ。そういうこともあって、今までは作ろうとしてこなかったんです。

●そんな中で「Libyan Glass」に関しては、急に何かが降りてきたんでしょうか…?

吉田:降りてきたというか…。たまたま“夜の砂漠”の動画を見ていた時に、その映像がすごく神秘的で心を動かされたんです。そこで“これなら書けそうだな”と思ったんですよね。

●“夜の砂漠”の動画というのは…?

吉田:僕は自然が好きなので、そういう動画を色々と漁っていた時に偶然見つけたんです。そこですごく壮大なものを見た時に、別の何かにして出したいという気持ちになったというか。

●“夜の砂漠”から得たインスピレーションを、曲という形にして出そうとした。

吉田:あと、“メンバーをビックリさせたい”という想いもあって。22年という長い時間やってきている中で、モチベーションをずっと維持していくのは難しいことだと思うんですよ。でも何か衝撃的なことが起これば、僕自身もメンバーもまた次に進んでいけるんじゃないかなと思って作りました。

●次へと進む起爆剤にもなったというか。

谷川:もちろん吉田が曲を作ったということ自体もすごく大きかったんですけど、それによってバンド内に新しい風が吹いたということが一番大きくて。だからこそ、このアルバムができたと思うんですよね。

佐藤:前作『from Zero to “F”』の時は谷川が海外に行って、メロディを作って帰ってきたりもして。そうやって今までの自分たちにはなかった刺激を、バンドとして形にするということはあったんです。でも結成22年・デビュー13年というところで、ここに来て新しいものがメンバーの中から出てくるというのはすごいことだと思うし、ちょっと悔しい部分もありましたね。今回はそういうものが良い方向に働いて、制作が加速していったと思います。

●吉田くんが「Libyan Glass」を作ってきたことが、今回の制作を加速させたんですね。

谷川:バンドを続けていくにあたって、モチベーションを保つのは本当に大変なことだと思うんですよ。特に我々はフルアルバムを10年連続で作っていて今回が10枚目になるんですけど、僕の中では去年リリースした『from Zero to “F”』で出し切った感覚もあって。1年に1枚出しているとすぐに次の制作が来てしまうので正直、ネタ切れ状態だったんです。でもその状態で聴いた吉田の曲に、だいぶ感化されたというか。そこから生まれたものは今回、たくさんありますね。

●「Libyan Glass」がまさに今回の出発点にもなっている。

谷川:そういう部分は非常に大きいです。アルバムタイトルも、この曲があったから決まったわけで。

●“リビアングラス(Libyan Glass)”というのは、リビア砂漠で見つかる特殊なガラスのことですよね。それはやはり“夜の砂漠”のイメージから浮かんだ言葉なんでしょうか?

吉田:歌詞を書いている時にも砂漠のイメージがあったので、そこから連想する言葉を色々と出していった中にリビアングラスもあったんです。それがタイトルになりました。

●リビアングラスは隕石の衝突で生まれたという説が有力だそうですが、吉田くんが曲を作ってきたこともそれくらいの衝撃だったのかなと。

谷川:まさにそうですね。リビアングラスが何でできているのかは、まだ解明されていないらしいんですよ。そういう未知のパワー感が良いなと思って。UNCHAINの音楽から、未知なるパワーを引き出した曲なんじゃないかなと思っています。

●「Libyan Glass」以降に生まれた曲もあるんでしょうか?

佐藤:M-5「Miracle」、M-9「Just Marry Me」、M-12「I Am」あたりは、そうですね。

谷川:「Libyan Glass」を超えようとして、良い曲がどんどん生まれていったというところもあります。でもアレンジや歌詞の内容に関してはどれも後から作業しているので、そういう意味では全て影響を受けていますね。

●個人的にはM-4「butterfly effect」もリード曲に匹敵するような名曲だなと感じました。

佐藤:この曲も確か「Libyan Glass」を聴いた後にできましたね。ピアノリフを聴きながらアレンジを考えている時に、蝶が舞っているようなイメージが浮かんで。元々“バタフライ・エフェクト”をテーマにした歌詞をいつか書きたいと考えていたので、“ここだ!”という感じでした。今までで一番、スラスラと書けた気がします。

●ピアノリフがすごく印象的でしたが、曲を作る上でもキーになっている?

谷川:そうですね。この曲はピアノリフが最初にあって、そこからイメージを膨らませて作っていきました。

●この曲はピアノリフが出発点になっているんですね。

谷川:同じような曲の作り方ばかりしていると、なかなか新しいものが生まれなくなってきて。できるだけ違う形の出発点を探すというか、そういう方向に最近はシフトしていっています。「butterfly effect」もそういう感じで、ピアノで遊びながら作った感じですね。

●M-8「アイスクリーム」でヒップホップ的なアプローチをしているのも、1つの新しい試みなのかなと。

谷川:ここまでヒップホップに寄せた楽曲は、今まであまりなくて。これはアルバム制作の序盤にできた曲で、“I SCREAM”というワードから始まっているんですよ。食べ物の“ICE CREAM”ではなくて、“叫ぶ”という意味のほうで。ある小説の一節から取ったんですけど、最近は“何か引っかかるな”っていうワードから膨らませて曲にすることも多いんです。“叫ぶ”という表現の仕方を上手くUNCHAINなりの形にできないかなと思って、この曲を作りました。

●引っかかるワードという意味では、M-10「Da, Da, Da, Da,」も言葉がすごく耳に残りました。

谷川:これは連想ゲーム的にどんどんイメージに合った言葉を出していって、それを上手く違和感があるように組み合わせるというやり方で作りました。書いていても面白かったし、僕も気に入っています。

●そんな曲の後に、重苦しい雰囲気のM-11「33」が来るという流れも面白いなと。これは33歳の時の苦悩を歌っている曲でしょうか…?

谷川:実際、この曲は33歳の時に書いたんです。30歳ならまだバンドを辞めて第2の人生に進めるかもしれないけど、33歳まで来てしまうと“もう後戻りできないぞ”という感覚があって。後ろを向くとそういう感じだし、前を向いたらすごい先輩たちが大きな壁として立ちはだかっていて…、当時はそれらに挟まれて苦悩している感じだったんですよ。それを上手く音で表現したいなと思って、作った曲ですね。

●その結果、こういう音になったわけですね。

谷川:当時は“これをリード曲にしてくれ”と言っていたんですけど、誰も反応してくれなかったです(笑)。

●これをリード曲にしようと思っていたんだ…(笑)。

谷川:“この曲で勝負しましょう!”と言って欲しかったな…(笑)。これはその年のアルバムを作るとなった時、最初にできた曲なんですよ。

●2016年の『with time』ですね。その頃にできていた曲を今回発表しようと思った理由とは?

谷川:『LIBYAN GLASS』のテーマに合っていたというか。“息苦しさ”みたいなものが、今作の世界観では表現されていて。そういう息苦しい時代感が、当時の僕が抱いていた感覚にも合うんじゃないかなと思ったんですよね。

●この曲の後、ゴスペル的なM-12「I Am」がラストに来ることで全てを浄化するような流れにもなっているように感じました。

谷川:「I Am」は現在の僕の気持ちを歌っているので、そういうところもあるかもしれないですね。

●歌詞にもあるように“代わりはいない 変えられはしない”、“私でなければ 私を成し得ない”という心境になれていることが大きいのでは?

谷川:“自分はいったい何者なのか? 何のために生きているんだろう?”みたいなものが、人生のテーマだと思うんです。その答えを見つけないと生き残っていけないだろうし、人生の意味合いみたいなものも大きく違ってくるだろうから。それをちゃんと見つけて、掴み取ることが大事というか。まだ見つけられているかどうか、自分でもわからないところはありますけどね。

●UNCHAINはジャズやソウル・ミュージックなど様々な要素を消化吸収つつ、初期から常に音楽的な進化を遂げてきたと思うんです。そういう中にシティ・ポップ的なサウンドもあるわけですが、今の音楽シーンでちょうど流行っていて。いつの間にか時代とリンクしてきているところもあるのかなと…。

谷川:最近は本当にそういうバンドが多いですからね。“自分たちの時代が来た!”とまでは言わないですけど、チャンスだなとは思います。僕らにとってはずっとやってきていることなので、このシティ・ポップ戦国時代を生き残りたいとも思っていますね。

●今作の宣伝資料にある“時代の先端にぶら下がり、砂漠を突き進む愛すべきマイノリティー”というキャッチフレーズがすごく良いなと思って。

谷川:これは自分で考えました。急に先端になっちゃった感じがするというか。今まで僕らがやってきたところに、流れが急にやって来て。“あっ、ヤバい! 今行かなアカン!”みたいな感じで、必死にしがみついています(笑)。

●ハハハ(笑)。自分たちがマイノリティーであるという自覚がある?

谷川:昔はそうでもなかったんですけど、“どうしても自分たちはマイノリティーなんだろうな”と感じてしまうところはあって。CDの売上だったり…結果で見せつけられるところが年々ありますね(笑)。

●そういう中でも22年続けてきたことが、今の良い状況につながっている気がします。

谷川:“マイノリティーだからこそ”というのはあると思うんですよね。媚びすぎないというか。媚びたものを作るようになっちゃうと、それこそ続かないような気がして。曲を作る時にそういうことを考える時もあるんですけど、そうなった瞬間に面白くなくなっちゃう気がするから。そこはできる限り、自分たちだけのものをやっていきたいなと思っています。

●自分たちにしかできないことをやるという姿勢は、ずっと変わらない。

谷川:それがマイノリティーなものだとしても、全然良いんですよ。でも今はそのマイノリティーだったものが、マジョリティーに変化するチャンスではあるんじゃないかなと思っていて。そういう時代に来ているんじゃないかなと思っています。

Interview:IMAI
Assistant:Shunya Hirai

 

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