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浅田良

何かと何かの狭間で揺らぎ続ける 音の断片が見知らぬ次元へと誘う

2016年に自身のバンド・tepPohseenとして1stアルバム『Some Speedy Kisses』を活動20年目にしてリリースした浅田良が、次作へのステップとでも言うべきソロアルバム『code』を完成させた。アカペラからアヴァンギャルドまで、何か1つの枠に分類することは不可能な全9曲を収めた今作。日常的な裏切り者にして、普遍的な嘘付き。そして揺るぎないロマンチストを自称する浅田に、この不思議な魅力を持った作品が生まれるまでの経緯をじっくりと訊いた。

 
 
■timetrial again / Ryo Asada

 

「家電を叩いたりするようなノイズミュージックではなく、ちゃんとした楽器を使ったノイズミュージックをやろうと思っていたんですよ」

●浅田さんが今回のソロアルバムを作るに至ったのは、2016年にtepPohseenの1stアルバム『Some Speedy Kisses』を活動20年目にしてリリースしたことが大きかったのではないかなと想像したんですが。

浅田:メチャメチャ大きかったです。というのは、2つ理由があって。溜めてきたものをもう消化しても良いんじゃないかと思って、形にしたことで“これは1回置いておいて良いじゃん”となれたのがまず1つ。そしてリリースに伴って、色んな人と話したり、色んな場所で演奏したりした経験もすごく大きかったんですよね。色んな人と知り合えたのも楽しかったし、色んな音楽を知ることができたから。そういうものに関しては、もっと欲しいですね。

●作品を世に出したことで反響もあって、そこから得られる刺激もあったわけですよね。

浅田:今までは自宅の六畳一間で完結していたものを、日本中…もしかしたら世界中にまで広げようとしているわけですからね。自分の気持ちが変わったというか、視野が広がったのかな。もちろん閉じていくカッコ良さもあるとは思うんですけど、僕は広げられていることが嬉しいんです。たとえばライブでどこかへ行った時に相手が自分のことを知ってくれているだけですごく話しやすかったし、話の組み立てもしやすかったので、それはとても良いことでした。

●そういう経験をしたことで、また次に作品を作ろうという気持ちになれたのかなと。

浅田:そうですね。本当だったら“このまま2ndアルバムを作ろう”と思ったんですが、何せ20年でやっと1枚アルバムが作れたわけだから。そこからたった1年で次のアルバムを作ろうとしても、誰も協力してくれないんじゃないかと思って…(笑)。それもあって、“自分はこういうものがしたいんだ”というものを1人でコソコソ作っていたんです。

●コソコソ作っていたんだ(笑)。

浅田:ライブに関してもtepPohseenでは行けないものを、代わりにソロで行くという機会も増えて。そういう中で、“こういうことをやりたいんだよな”というものを1人でやれば良いんじゃないかと思うようになったんです。ただ、他のメンバーは参加していないので“tepPohseenです”と言うわけにはいかないから、“だったらソロをやるしかないな”と思って作り始めました。

●そこからソロ作品を作り始めた。

浅田:エンジニアの友だちがいるんですけど、何も否定せずに全部面白がってやってくれるような変わった人なんですよ(笑)。彼と一緒に、自宅やスタジオで録り始めて。tepPohseenではちょっと哀しくて儚いアンサンブルのある曲調を絶対にやりたいと思っていて、基本的にはそれだけをやっているんです。でもそうではない、宅録で昔やっていたような突飛な部分を今回はやりたいなと…。それをバンドでやる方法がわからなかったというのもあるんですけどね。

●バンドではやれないし、やらないことという感じでしょうか?

浅田:そうだと思います。前からM-3「timetrial again」みたいな曲をやりたいなと思っていて、バンドでも何回か試したんですけど、全然ニュアンスが違うなと感じて。“ギターは要らないじゃん”と思ったんですよね(笑)。だから、家でこっそりやっていました。

●M-4「detune」は打ち込みのように聞こえるのですが、ギターは使っていない?

浅田:この曲は全部、打ち込みですね。ちなみに「detune」という曲名は“チューニングをずらす”という意味なんですけど、今回この曲以外はどれも楽器のチューニングをしていないんですよ。「detune」だけは完全にチューニングが合っているので、“逆にお前が合ってねぇ!”という意味でこのタイトルにしました。

●そういう意味のタイトルだったんですね。

浅田:この曲は全てPCで作ったんですけど、すごく古くてダサいことを逆にやってみようと思って、4つ打ちの曲にしたんです。最近はモジュラーや機材の種類がすごく増えて、使っている側の人たちもそれを上手く利用していて。そういうのもカッコ良いとは思うんですけど、どこかにずっと疑問があったんです。

●疑問というのは?

浅田:たとえばTB-303(※ローランドのシンセサイザー)は名機と呼ばれていますけど、元々は作った人が想定していなかった使い方をされたところから人気が出たわけで。そういう“工夫をする”というところがテクノのカッコ良さだったはずなのに、いつの間にか(機材を)作った人の要望するままに使わされている感じがするんですよ。だから、この曲では逆に“ダサいことをやってやりたいな”と思ったんです。

●あえてダサいことをやろうとした。

浅田:僕は元々、テクノミュージックが大好きでよく聴いていたんですよ。でも今って、たとえば“トランス=ダサいもの”という扱いになっているじゃないですか。そういうところに対して、“俺のカッコ良い4つ打ちを返せ!”という意味で今回やってみました(笑)。

●なるほど(笑)。打ち込み以外にも今作では、鍵盤やトランペットが使われていますよね。色んな楽器を使うのは、頭の中でそういう音のイメージが湧いているから?

浅田:最初から湧いている時もあれば、作っている最中に湧いてきちゃう時もありますね。トランペットに関しては、元々は入れるつもりがなかったんですよ。でも練習中にトランペットの音が聞こえてきちゃったから、とりあえず友だちに電話してトランペットをもらって。

●もらったんですね(笑)。元から吹けたんですか?

浅田:いや、音が鳴らせるというだけで、全く吹けないです。でも1週間練習して“音が出れば、こっちの勝ちだ”と思って。そうやって出した音を録音して、それをPC上でイジるというやり方をしました。

●自分で出した音をPCに取り込んでから、データ上で加工して使っているんですね。

浅田:そうです。不自由にしか吹けないので、不自由に出た音を自由に加工しています(笑)。今回、何となくあったテーマとして、“ノイズを使わないノイズミュージック”を作ろうと考えていて。たとえば家電を叩いたりするようなノイズミュージックではなく、ちゃんとした楽器を使ったノイズミュージックをやろうと思っていたんですよ。

●ノイズと言っても、今作は聴きづらいものにはなっていないというか。

浅田:僕はノイズって、ダンスミュージックの1つだと思うんですよ。やっぱりノれないノイズは聴けないし、それが聴きづらい感じにもつながると思うんですよね。聴きやすいかどうかの基準というのも、可聴領域とかそういう話ではなくて、“音楽かどうか”が大事なのかなと。

●音楽的でないものは、聴きづらかったりしますよね。

浅田:音楽って、たとえば割り振られた拍子や音階だったり、そういう決まりごとがあったほうがやっぱり聴きやすくて。それは“ルール”じゃなくて、“オススメ”なんだと思うんです。“こうしなきゃいけない”ではなくて、“こっちのほうが気持ち良く進行していくよ”っていう。そこを意識せずにツマミを回したり、物を叩いていたりすると、(聴いている側は)“ちょっとおかしいな”と感じるというか。

●違和感が聴きづらさにつながると。

浅田:でも今回は、そこをちょっと外してみようと思った曲もいくつかあるんですよね。ちゃんとした音階を持った音楽をちょっと崩していくと、ジャズっぽくなるなと思っていて。ノイズとジャズの仲が良いのって、だからなのかなと思うんですよ。M-3「timetrial again」とM-8「nill」は、そういうところをすごく意識しながらやってみました。

●M-1「強奪」も最初と最後がブツ切りになっていたりして、違和感を感じさせる曲かなと。

浅田:この曲は今回で一番の冒険というか…。ミックスエンジニアの友だちと2人で録音していた時に、その人がドラムセットを準備しながら試しに叩いていたのをマイクで録ったものを使っているんですよ。そこに自分で弾いた変拍子のベースを乗せて、さらに最初と最後の部分を中途半端に切ることで、テンポが変な感じになるようにしていて。しばらく前に流行った土着的なドラムのビートも取り入れつつ、“それをやっていれば気持ち良い”というイメージを裏切りたかったんです。

●普通は気持ち良くなるはずのビートを、あえて気持ち悪くなるように使っている。

浅田:テンポが合っていないのにそういうビートが鳴っていることで、気持ち悪い感じになっていて。たとえばBGMとして遠くから聴いているとそれっぽく聞こえるけど、(よく聴いてみると)“何か違うんじゃない?”というものをやってみたかったんですよね。

●アルバム冒頭から“ん?”となる感覚がありました。

浅田:まずアルバムの1曲目に“これを聴けるなら、その次も聴けるだろう?”っていうものをあえて入れたんです。“そこで選んで下さい”という感じですね(笑)。

●いきなりリスナーを試している(笑)。

浅田:M-2「10分間」で始まったほうが聴きやすくて良いアルバム(という印象)になるんだろうけど、“それは俺のやることじゃないな”と思って。それで元々入る予定ではなかった、この曲を入れようと思ったんです。「強奪」について“新しい”とか“聴きやすい”とは思わないですけど、ちゃんとやりたいことをやれているなと思うんですよ。自分の可能性を試している曲かなという気がします。

●今おっしゃられたように、「10分間」は特に聴きやすい曲ですよね。

浅田:元々はギターの弾き語りで入れる予定だったんですけど、ミックスをしている時に“これはギターじゃなくて良いな”と思ったので、コーラスに変えたんですよね。上手く“大瀧詠一”風にならないかな〜と思って(笑)。

●そこを狙っていたと(笑)。アカペラ的な雰囲気で、神聖な感じは出ているかなと。

浅田:でも元々はゴミみたいな歌だったんですよ。本当はもっと長い曲なんですけど、後半の歌詞がヒドすぎて“もう歌わないで”って何人かに言われて(笑)。だから2番を全部カットして、短くなっているんです。

●そんな事情があったとは…。M-6「黄燐の鳥」も歌モノですが、この歌詞は以前ブログにアップされていましたよね。

浅田:お気に入りということでしょうね(笑)。たぶん(この曲が)何かの手がかりになったというか、成果が大きかったんだと思います。この曲では“良い歌を歌おう”というよりも、“立ち直らない”とか“元気なんか出さない”という感じで、“いかにダメな気分になれるか”ということを歌いたかったんです。だから“元気を出さなくても良くない? このまま滅んでいこうぜ”という内容になっているんですよね。

●成果が大きかったというのは?

浅田:“こういうものは今まで作れたことがないな”というか。ちゃんと洋楽っぽくなくて、ロックっぽくない…というものがやりたかったので、それができたなという実感はあって。この曲自体も大事だし、次にも活きる曲かなと思っています。

●今作を聴いた印象として、目指す形に至るための“習作”集のような感じがしたんです。もちろん1枚の作品としても成り立っているんですけど、tepPohseenの1stアルバムから次の2ndアルバム制作に至るまでの過程として、色々と実験している作品なのかなと。

浅田:たぶん、それは正解だと思います。それが中途半端に見えていないかどうかを、僕は心配しているのかなと…。自分ではこれが良いと思っているんですけど、(聴いた人に)どう受け取られるかが全然わからないんですよね。ただ、必ず形にしておきたい9曲だったので、自分では気に入っています。

●アルバムタイトルの『code』にはどんな意味を込めているんでしょうか?

浅田:PCのプログラミングを勉強していた時期があって、AppleのSwiftという言語を使っていたんですけど、その時によく“コード”が出てきたんですよ。今回はM-9「秘密」も入っているし、“暗号”という意味でつながるので“code”が良いなと思って。あと、「nill」にもつながるんですけど、“nil”というのもプログラミング用語で、“中身がないもの”を意味しているんです。そういったプログラムが呼びかけても返答がないからエラーになる類のものに対して、箱みたいなものを仮定して作ることを“オプショナル”と呼んだりもして。今回はそういう“中身が定まらないもの”を定義して形付けようという気持ちがあったので、『code』というタイトルにしました。

●プログラミングとつながっていたんですね。

浅田:“中身が定まらない”と言っても、中身がないわけではないから。単に“まだ分類しきれていないもの”というか。そういう分類しきれていないものを、“まだ分類しきれていない”という分類に入れるということを今回はやってみたんです。

●音楽を通じて、そういう未分類のものを形にするような作業をしているのかなと思います。

浅田:たぶん僕の中から、完全に新しい音楽というのは生まれないんですよ。だからこの“中途半端”というか、何かと何かの間にある“この感じ”をずっと作り続けていくんだろうなと思っています。

Interview:IMAI

 

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