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フラスコテーション

無垢なる理想郷を目指して、終わりなき化学反応は続く。

神戸発・平均年齢19歳の男女混合バンド、フラスコテーションが2nd E.P.『イノセントユートピア E.P.』をリリースする。今年3月に1st E.P.『儚心劇化』を発表して以降、Vo./G. 佐藤摩実の透明感溢れる歌声に潜む狂気や苦悩などが見え隠れする楽曲が10代を中心に支持を着実に広げてきた。全国53本に及ぶ初の全国ツアーも経て、人としてもバンドとしても成長を遂げた3人が前作から1年も空けずに完成させた今作。ここからまた理想郷を目指す旅が、新たに始まっていく。

 

「“イノセントユートピア”という言葉には“理想郷を探している”という意味を込めているんですけど、“自分の理想郷はどこだろう?”と考えた時にやっぱりライブハウスだなと思って」

●1st E.P.『儚心劇化』リリース後に、全53本のツアーに出たんですよね。

+9:まず僕らにとってツアー自体が初めてやったんで、それが基準になったところはあって。今後もっと長いツアーに出ることがあったとしても、心の余裕は持てるかなと思っています。

●いきなり53本のツアーは大変だった?

吉識:慣れるまで、最初の頃は大変でした。

+9:ツアーの前半は東京でライブと聞いたら“めっちゃ遠いやん!”と思っていたんですけど、後半にもなると“あ、東京か。行ってきます”くらいになっていて(笑)。秋田とかにまで行った後やと、東京なんて全然楽やなと。

佐藤:感覚がおかしくなっている(笑)。

●今まで行ったことのない場所でライブをして、得られたものもあったのでは?

+9:色んなライブハウスに行った中で、会場ごとに音や雰囲気が違うのを知ったりもして。半年という期間に莫大な経験を得られた気がします。

佐藤:今まで神戸や大阪で活動してきた経験だけを持ってツアーに行ったんですけど、各地で“こういう人もいるんやな”とか“こういうバンドもいるんやな”ということを知って。“自分はこういうことをするのがカッコ良いと思っていたけど、こういうカッコ良さもあるんやな”ということを知れたのは大きな収穫でしたね。レコ発ライブの時の自分と、ツアーファイナルの自分とでは全然違うなという実感がありました。

●ちなみに“ツアーファイナルで「まみはいい意味で悪くなったね」と言われた”(※原文ママ)とTwitterでつぶやかれていましたが。

佐藤:それを言ってくれたライブハウスの店長さんはレコ発で観て以来、久々にツアーファイナルで私たちのライブを観て下さったんです。そこで“悪くなったね”と言われたんですけど、自分としてはあまり実感がなくて…。

●“悪くなった”というのは、どういう意味で捉えている?

吉識:何となく言いたいことはわかるんですけど…、言葉にするのは難しいですね。

●“悪い”と言っても、ライブで荒ぶっていたりするわけじゃないですよね(笑)。

+9:最初の頃のライブではまさに“荒ぶっている”感じやったんですけど、今は“ここぞ!”っていうところでそういう面を出してくれるというか。

吉識:表現力も増して、歌詞もこれまで以上に伝わりやすくなったと思います。元々は“佐藤摩実”のトガっている感じが全体的に出ていたけど、ツアーファイナルではそういう部分を場面によって出し入れできるようになった気がしましたね。

●ステージ上で感情のコントロールができるようになって、大人の表現ができるようになったのかなと。

佐藤:そういう感じやと思います。おとなしい曲ではもっと優しく歌えるようになったし、アッパーな曲ではもっとお客さんがノリやすい感じにパフォーマンスできるようになったんじゃないかな。

●ツアーを経て価値観や表現の幅が広がったことが、今回の『イノセントユートピア E.P.』にも表れているのでは?

佐藤:やっぱり私たちは(前作のリード曲)「三角形」の印象が強いと思うんですけど、そこに寄せるのではなく今回のM-2「センチメンタル」のように自分のことをもっと出せるようになったんじゃないかなと思いますね。

●意識的に自分のことをもっと出そうと思ったんですか?

佐藤:前作『儚心劇化』の収録曲は、実体験があまり入っていないものが多くて。でも今回は、私の実体験がそのまま入っている曲が多いんです。「センチメンタル」は特にそうなんですけど、そういう曲も書けるようになったんやなとは思いますね。

●「センチメンタル」の“あなたは誰にもなれないよ だってあなたは あなただよ”というのは、自分に向けて歌っているのかなと感じました。

佐藤:そうですね。以前は憧れているバンドやボーカルの人みたいになりたいと思っていたんですけど、“やっぱり自分にしかないものがあるな”ということに改めて気付けたんです。この曲は、それについて歌っている感じですね。

●それもツアー中に気付けたこと?

佐藤:いや、この曲は去年に感じたことを元に書いたんですけど、こうやって形にできたことで今はより強く感じられています。

●作る曲も変わってきたんでしょうか?

佐藤:自分としては、変わりましたね。『儚心劇化』をずっと聴いてくれていた人が今回の『イノセントユートピア E.P.』を聴くと、全然違う印象で捉えられそうな4曲だなと思っていて。良い意味で“人間味が増した”という感覚が、自分の中ではあります。

●それも自分のことを歌うようになったからでしょうね。

佐藤:前作では自分のことをあまり書いていなかったから。今回はもっと自分のことを書くようになって、世界観的にも人間味が増したんじゃないかなと思っていて。バンドを始める前に比べたら本当に色んな人に会えるようになったので、ツアー前の自分とツアー後の自分とでは全然違うなと思っています。

●メンバーから見ても変わった?

+9:僕の印象としては前作のほうがトゲトゲしていてリアリティを感じる音だったんですけど、今回のほうがフワッとしてファンタジックな世界観があって。雰囲気としては、丸くなった気がします。でも歌詞の面では人間味が増しているので、そこで良い化学反応が起きているんじゃないかな。

吉識:経験値はもちろん増していると思うし、ツアー中もメンバー同士で真剣に話し合うことが増えたんですよ。そういう中で気付けたこともあったので、バンドとして変われたのかなと思います。

●バンド内での話し合いも増えたんですね。

+9:一緒に曲を作っている時も“もうちょっとこうしよう”という案が出たり、それに対して“とりあえずやってみようか”という場面も多くなりましたね。

佐藤:“次のライブではこういうことに挑戦してみよう”という話もよく出てくるようになりました。

●積極的に新たな挑戦をするようにもなっていった。

+9:ツアーの前半は大体「vivid」(※前作のオープニングナンバー)から始まっていたんですけど、後半になると別の曲で始めることもあって。最初は“「vivid」から始めなくてはいけない”という固定観念みたいなものがあったところから、ツアーの中で色々と考えながら自分たちなりに試行錯誤していった感じですね。

●もしかしたら次のツアーでは、今作のオープニングナンバーである「水明」が1曲目の可能性もあるわけですよね。この曲はどんなイメージで書いたんでしょうか?

佐藤:「水明」は『儚心劇化』の主人公のお話の続きというイメージなんです。『儚心劇化』は“人生が終わるまで踊り続けよう”ということを歌っているんですけど、「水明」の主人公は“エンディングには早いけれど 花束を贈ろう”という歌詞の通り、自分で勝手に人生を終わらせちゃうという内容になっていて。

●“呼吸は止まるけれど”とも歌っていますが、そういう内容だったんですね…。

佐藤:今回の収録曲の中でも一番暗いというか…、人間の弱いところが詰まっているような曲だなと思います。私自身もすぐ思い詰めて気持ちが沈んじゃうところがあるので、そこを突き詰めて書いた曲ですね。

●前作の少しダークな世界観や、トガッた歌詞の流れを受け継いでいるのかなと感じました。

佐藤:自分の中でも、そことつなげたところはあります。イントロは水のイメージできれいな感じにしたんですけど、歌詞の内容的には『儚心劇化』に一番近いものがある曲だと思いますね。

●M-3「染まる」も佐藤さん自身のことを歌っているんでしょうか?

佐藤:「染まる」は自分のことというより、現代のことをテーマに書いていて。“ダウンロードした”とか“リセットした”という歌詞もあるんですけど、インターネットでは何でもすぐにダウンロードしたり、消したりできるじゃないですか。でも実際の恋愛では、そういうわけにもいかないわけで。“現代でも指1本ではできないことがある”ということを歌っています。あと、内容的には「三角形」の別サイドを描いているようなイメージもちょっとありますね。

●M-4「あのこのはなし」は、どういうイメージで?

佐藤:この曲は前にやっていたバンドの頃に、サビだけはあったんですよ。実は生まれて初めて作ったサビだったんですけど、それが頭からずっと離れなくて。だから今回、改めてサビ以外の部分も作ってみようと思ったんです。

●前のバンド時代は形になっていなかった?

佐藤:サビの部分だけ作って持っていったんですけど、その時期にはもうバンドが解散する直前だったので形にはならなくて。でも自分はこの曲をやりたいなとずっと思っていたので、フラスコテーションを組んでから改めて他の部分も作って完成させました。

●“この場所が全てだろ?”と歌っていますが、これはライブハウスのことを指している?

佐藤:そうですね。作品タイトルの“イノセントユートピア”という言葉には“理想郷を探している”という意味を込めているんですけど、“自分の理想郷はどこだろう?”と考えた時にやっぱりライブハウスだなと思って。だから最後の“わたしはここでうたってる”という部分を、早くライブハウスで歌いたいなと思っています。

●“イノセントユートピア”というタイトルは、どこから出てきたんでしょうか?

佐藤:今回の4曲を作り終えてから並べてみた時に、そこから浮かんできた感じですね。最初は『ユートピア E.P.』だったんですけど、自分の中でもちょっと微妙だなと思っていて。その後で“純粋”とか“無垢”という意味の“イノセント”を付けたら良いんじゃないかと思い付いて、“これだ!”という感じで決めました。

●イメージ的にも、この言葉がハマったわけですね。

+9:僕らにとって、ライブハウスが“ユートピア”みたいなものなんやなということを改めて思いましたね。

●そこを再認識するキッカケにもなったと。前作から約8ヶ月という短いスパンでのリリースになりますが、ツアーを経て自分たちの中で生まれたものを早く作品として出したいという気持ちもあったんでしょうか?

佐藤:レーベルからリリースのお話をもらった時も“早い”という印象はなくて、“もう次の作品が出せるんや”と思って純粋に嬉しかったですね。

+9:とにかくツアーをずっと続けたかったんですよね。リリースの話をもらった時も、“またツアーに行けるんや”と思って。ツアー中は土日が大体ライブだったので週末が近付くと“また出かけなきゃ”という感じだったんですけど、終わってしまうとやっぱり寂しくなったんです。でもこれからまた新しいツアーが始まるということで、ワクワクしています。

●本当にツアーが楽しみでしょうがないんですね(笑)。

吉識:『儚心劇化』のツアーが終わってから、虚無感みたいなものが自分の中でもあって。それと同時にやっぱり1回目のツアーだったので、まだ自分たちでもわかっていないことが多かったなと感じたんです。たとえば摩実と私は性格も全然違うんだなということが、前回のツアーでよくわかったんですよ。自分はめちゃくちゃ単純なんですけど、逆に摩実はめちゃくちゃ複雑やったりして…。今回のツアーではそういうところでも自分からもっと行動して、理解を深めていきたいなと思っています。

●今作リリース後のツアーで得たものが、また次の作品で形になって出てくるんだろうなと思います。

佐藤:また新たに得られるものを求めて、ツアーに行きたいですね。

吉識:ツアーでは新しいバンドともどんどん出会うじゃないですか。やっぱり全国には同世代のカッコ良いバンドも多いので、そういう人たちと仲良くなって輪を広げると共に、吸収できるところは吸収してフラスコテーションでの活動につなげていけたらなと思っています。

Interview:IMAI

 

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