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辻詩音

好きなものだけを持って踊る、わたしの王国が今ここにある。

今年でデビュー10周年を迎えたシンガーソングライター・辻詩音が、3rdアルバム『わたしの王国』を完成させた。タイトルにもなっている“王国”とは、“自分が自分らしくいられる心の居場所”のことだという。これまでの創作活動において“破壊と再生”を繰り返してきた彼女が、“自分はなぜ音楽をやるのか”という根源的な問いに向き合いながら作り上げた今回の作品。クラウドファンディングやZepp Divercity TOKYOでのワンマンライブなど新たな挑戦もしつつ、辻詩音の“王国建設”はこれからも続いていく。

 

「元々は音楽をやることで幸せになりたかったはずなのに、“良い曲を書くためには傷つかなきゃいけない”みたいな感覚にみんな無意識になっている気がして。それは何か違うんじゃないかと思うし、“もっと楽しくやりたいな”という葛藤が自分の中であったんですよね」

●今作『わたしの王国』はデビュー10周年記念オリジナルアルバムとなるわけですが、どういった作品にしようというイメージはあったんでしょうか?

辻:アルバムを作るにあたって何か大きなテーマを決めてから始めることは今までなかったんですけど、今回は“王国”という言葉だけが最初にあって。それをテーマに創作するということを中心に置いて、ほぼ新曲だけで作っていったんです。だから結果的に、その時に感じたり考えたりしていたことが多く出ていますね。

●“王国”という言葉が最初にあったと。

辻:1年前くらいからありました。去年の秋頃にアジアの1人旅をして、2ヶ月間で6ヶ国をまわったんですよ。その中でもタイには王国があるので、宮殿とかを見ながら“自分の王国とはどういうことなのか?”というのをずっと考えていたんです。その“王国”という言葉が、ずっと頭から離れなくて…。

●“自分の王国とはどういうことなのか?”と考えていたんですね。

辻:王国って、敵が攻めにくいような構造になっていたり、部屋の中も色々と工夫されていたりして、“自分の好きなものだけを集めている”というイメージがあったんです。“これはアルバム作りやライブにも似ているな”と思ったので、私もそこを目指してやってみようというところから始まりました。

●まさに“わたしの王国”を作ろうというところから始まっている。

辻:音楽を続けている中で色んな人の声が耳に入ってきたり、活動でつまずくこともあったりして、良くも悪くも自分の“核”がブレることがたくさんあったんです。それを自分の手でどうやって立て直すかということをその時期にすごく考えていたのもあって、そういうテーマで作っていきましたね。

●M-1「王冠」の“壊れてしまった王国で わたしは生まれて”という歌い出しが印象的だったのですが、元々いた王国が壊れてしまったという想いがあった?

辻:物事って、新しく始まる前に一度壊れるという印象が私にはあって。これは王国が崩壊してからまた建設を始める前の、ただ土とか石しかない状態というか。音楽活動もそうですし、本当にゼロからスタートしていったので、“真っさらな状態”という意味で使っていますね。自分自身も毎回“壊しては作って”ということをしているなと思ったので、そういう気持ちも込めています。

●創作における“破壊と再生”のイメージを重ねているんですね。“王冠”という言葉には、どんな意味を込めているんでしょうか?

辻:“王冠”というのは、“探しているもの”とイコールの意味で今回は使いました。

●M-5「砂漠」では“乾きを求めて砂漠に出る”と歌っていますが、これも“探しているもの”に通じるのかなと。

辻:これまで音楽をやってくる中で色んな人から“何かに不足していたり、傷ついたりしているほうが良い曲が書けるよ”と言われてきたんです。“嫌な経験や恋愛をしているほうが良い曲が書けるよ”と言われるんですけど、音楽を始めたばかりの頃はそんなことを考えて作っていなかったというか。そもそも“なぜ幸せになっちゃいけないんだろう?”と思うんですよ。

●確かに(笑)。

辻:元々は音楽をやることで幸せになりたかったはずなのに、“良い曲を書くためには傷つかなきゃいけない”みたいな感覚にみんな無意識になっている気がして。それは何か違うんじゃないかと思うし、“もっと楽しくやりたいな”という葛藤が自分の中であったんですよね。そういうことをやっているうちにどんどん“目的”とか“やりたいこと”もわからなくなってきていたので、“なぜ音楽をやるのか”とか“どうして曲を書くのか”ということに対して自分なりの答えを探したいと思ったんです。

●その答えは見つかったんでしょうか?

辻:その答えを探すというのが、今回のアルバムにおける私の中でのテーマだったんです。制作を始める前は“こういうものが好きだ。私はこれです!”という確固たるものを作ろうと思っていたんですけど、作っていくうちに“これは1枚のアルバムで完成させるテーマじゃなくて、永遠に続くことだな”と気付いて。今も“失ったり探したり壊したりしている”ということが、答えなのかなと思っています。だから『わたしの王国』というものを作って完成というわけじゃなくて、活動を通じて一生“崩壊と建設”を繰り返していくんだなという答えに辿り着きましたね。

●“ない物を創るの ないからこそ完璧で”(「砂漠」)と歌っているように、そういう音楽を作りたいという気持ちもあるのでは?

辻:“創作”って、最初は“これがない。じゃあ、どうしよう?”というところから始まるような気がしていて。だから、“ない時こそチャンスだな”と考えたいなとは思っています。

●自分が本当に聴きたい音楽を、自分自身で創っていくという意味もあるのかなと思いました。

辻:そういうところもありますね。それが一番良いことで、一番難しいことでもあると思います。

●それを創ることに挑んできた10年間でもあった?

辻:どうでしょうね…? その時々で悩んでいることがあるし、やりたいことも変わってきているから。たとえば1枚目のアルバム(『Catch!』/2010年)と今回の最新作とでは、やりたいことが違うんですよね。

●M-12「Candy kicks -2007 ver.-」は17歳の時に録られた秘蔵音源とのことですが、それを今作に入れた理由とは?

辻:過去の曲に対しては“なぜこんな言葉を選んだんだろう”とか考えてしまうところがたくさんあって、改めて聴く機会が減ってしまっていたんです。でもやっぱり今10年目を迎えた時に、過去の自分がやってきたことに助けられる部分も多かったんですよ。“それがあったからこその今だから”ということで、受け入れようと思って。17歳の女の子だった過去の自分に感謝をしたいなと思って、今作に入れました。

●「砂漠」で“はじめの頃の気持ちを探すの”と歌っていることにも通じるのかなと。

辻:“初心を忘れないように”とみんな言うんですけど、それはなかなか難しいことだと思っていて。今回は本当に“創るとは何だろう?”ということだけを考えたアルバムだったので、そこから“音楽を始めた頃の気持ちをもう1回探そう”となったんです。

●音楽を始めたばかりの頃から、自分が音楽をやる意味についても考えていたんでしょうか?

辻:私の中では時期によって、セクションがいくつか分かれていて。子どもの頃から歌詞や曲を書いていたんですけど、その頃とデビュー前の17歳の時とでもだいぶ違うんです。“あの時はどういう気持ちでやっていたのかな?”と振り返りながら、今回の歌詞も書いていきましたね。

●ちなみに子どもの頃は、どういう気持ちで書いていたんですか?

辻:私は1人っ子で、両親ともに働いていて帰りが遅かったので、その頃は1人遊びをする感じで“日記”みたいに曲を書いていたんです。たとえば学校で嫌なことがあったら、それを消化するために書いたりもして。

●17歳の時には、どんなことを考えていた?

辻:その時は“18歳までに絶対デビューする。デビューできなかったら、音楽をやめる!”みたいな気持ちになっていたので、その時々で1つ1つ目標を立てていて。音楽をやりたくて高校も辞めたりして、自分を音楽しかできない状況に追い込んだりもしたんですよ。だから“音楽のことだけを考えて、これから生きていこう”と考えていましたね。

●そういう強い想いをデビュー後も持ち続けていたんでしょうか?

辻:やっぱりその世界に飛び込んでみないと、見えないものやわからないことがたくさんあって。デビューしてからのほうが、つらいことは多かったですね。

●つらい経験も糧になっている?

辻:結局なんだかんだ言って、曲を書いてCDを出させてもらうことで消化しているような気がします。

●これまで生きてきた中で感じてきたことが、楽曲や歌詞の中にも表れているのかなと。

辻:結局…という感じですね。私はあまり感情を表に出して歌うタイプではないし、曲の中でもストレートに物事を言うほうではなくて。でも振り返って過去のCDを聴いてみると、やっぱりその時に考えていたことが嫌でも出てしまうんだなと感じるんです。それが良くも悪くも“シンガーソングライター”という職業な気がしますね。

●今作にもここ最近で感じたことが出ているわけですよね?

辻:今回はほとんど新曲なので、それぞれの曲を書いた時期に思っていたことが出ているかもしれないですね。

●今回は同じような時期に集中して、曲作りをしたんでしょうか?

辻:そうですね。M-9「秘密飛行」だけは結構前に書いたんですけど、それ以外はここ1年以内にできた曲だと思います。

●昨年、アジアを1人旅した中での経験も楽曲制作に活かされている?

辻:M-7「YEAH LAND」がアジアっぽいアレンジになっているのは、そこから影響を受けているんじゃないかなと思います。元々アジアっぽいサウンドがすごく気になっていたので、そういうのをやりたい気持ちはあったんです。

●アジアの1人旅に行ったのも、音楽的な刺激を受けたいという気持ちから?

辻:それもありました。“世界のクリエイターとコラボしながら曲を作る音楽旅プロジェクト!〜世界でいぇい〜”というタイトルでやったんですけど、その国ごとのカメラマンさんとコラボレーションして写真を撮っていったんです。その中でライブも観に行ったり、MVを撮ったりもしているので、結果的にそういうところから影響は受けていると思いますね。

●アジアのクリエイターとコラボする中で刺激も受けてきたと。

辻:現地でMVを撮ったんですけど、その監督もタイ人の方で。その時の経験で“言葉がわからなくても仕事はできる”ということに気付いたので、今回のアルバム用の写真は台湾で撮ってきました。

●今回はクラウドファンディングを通じて実現した企画なわけですが、元々そういうことをやりたいと思っていたんですか?

辻:元々、1人旅が好きだというのはあって。デビューしてから“やりたいことをやる”ということでやってきたつもりだったんですけど、いつの間にか“やるべきことをやる“が基準になってしまっている気がしたんです。そこをいったん忘れたくて、アジア各地をまわってみたいと思ったんですよね。そういう中で“好きなことだけで生きるとはどういうことなんだろう?”と考えるようになった結果、“王国”という言葉が頭に浮かんできました。

●仕事でも何でもそうだと思いますが、“やりたいこと”だったはずのものがいつの間にか“やるべきこと”にすり替わっていたりするものというか。

辻:そうなんです。ラジオ番組をやっていた時も“やりたいことがわかりません”というメールを結構もらったんですよ。その中には、学生の方も多くて。たぶん“やるべきこと”と考えてしまったり、“仕事にしなきゃいけない”と考えたりすることで、わからなくなるんだろうなと思うんですよね。

●今の辻さんは、本心から“やりたいこと”を探しているわけですよね?

辻:それをすごく探していましたし、今も探しています。永遠のテーマですね。今は“自分を取り戻す”ということを本当に考えていて。

●今作を作ったことで取り戻せた部分もあるんでしょうか?

辻:いや、取り戻したり失ったりしているので、ここはやっぱりゴールじゃなくて。また失って取り戻した時には、違う自分になっているということの連続なんじゃないかなと思うんですよ。だから永遠に続くテーマだなと思うし、今作を作り終えてそういう答えに辿り着きましたね。

●作品を作る度に自分自身を一度壊して、新しく生まれ変わっているような感覚もある?

辻:あります。でも発売日になると、もう次のことを考えていて。発売されたらもう“みんなのもの”だから、自分の役目は終わったというか。それこそ“リリースした(※手を離した)”という感覚なんですよね。

●次のイメージも見えてきていますか?

辻:いや、そこまではまだ考えていないですけど、また違うものになるだろうなということだけは確かですね。とりあえず11/11のZepp Divercity TOKYOでのワンマンライブが終わった時に、自分がどういう気持ちになっているのかまだわからないから。その時の自分に任せようかなと思っています。

Interview:IMAI

 

 

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