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VAMPIRE!

日本のパンク〜ニューウェーヴの創生期、 あの時代の空気を甦らせる生々しき傑作。

1979年結成のヴィンテージ・ニューウェーヴバンド、VAMPIRE!が2ndアルバム『夜想フ YOUR IMAGE』を完成させた。前作の1stアルバム『ヴァンパイア! Original recording』から、なんと24年ぶりのリリースとなる今回の新作には全17曲を収録。7代目ベーシストのKurimotoの加入後に作られた楽曲と、80年代から演奏し続ける楽曲の双方を含む70分超の大作だ。だがその収録時間を全く長いとは感じさせない疾走感と緊張感がみなぎった、まるでスタジオライブ盤のような空気を今作は漂わせている。そんな傑作を作り上げたG./Vo. Wahdah the Vampire(ワダザバンパイヤ)に迫る、貴重なスペシャル・インタビュー。

 

「また今回と同じように一晩でベーシックトラックを10何曲か録れたら、次の3rdアルバムもできてしまうわけじゃないですか。夜想とエンジニアのシュウさんには“次もまた頼むかもよ”とは言ってあって。出したい気は満々です(笑)」

●VAMPIRE!は1979年結成ということで、かなり長きに渡って活動されているんですよね。

ワダ:僕は1960年(昭和35年)生まれでかなりの昭和親父なんですけど(笑)、ドラマーのBaashiとは同級生なんですよ。同じ京都の大学に入って、軽音楽部で出会ったんです。最初は別々のバンドを組んでいたんですけど、どちらも上手くいかなくて。“上手くいかない者同士でやってみるか”というところから始まりました。当時はメンバーも5人いたんですけどね。

●最初から3ピースだったわけではないと。

ワダ:大学に入学した1979年当時は、フュージョンが流行っていたんですよ。僕もBaashiもそういうものにはあまり惹かれなかったんですが、他のメンバーはフュージョンっぽいものをやりたいとなって。結局そのバンドも解散の憂き目を見まして、僕ら2人だけが残っちゃったんです。そこにベーシストを僕が連れてきて、1979年の夏に3ピースになりました。

●そこから数えて来年には結成40周年を迎えるわけですが、その間もずっと活動は続けられていたんでしょうか?

ワダ:いえ、その間に4〜5年は休んでいます。仕事の関係で僕は海外に在住していた時期があって、現実的にライブをするのも難しかったので、1997年〜2000年頃は活動を休んでいました。

●休止していた期間もあったんですね。

ワダ:2001年に帰国したんですけど、その頃には日本を離れる前の時期に一緒にやっていたベーシストが仕事の関係で活動しにくい状況になっていて。頻繁にはライブができなくなっていたので、サポートメンバーを入れて活動していた時期もありました。そんなところで2005〜2006年頃に知り合いからの紹介で、7代目のベーシストになるKurimoto(以下クリモト)と出会ったんですよ。

●そこで現メンバーが揃ったと。

ワダ:その当時クリモトはソロ活動をしていて、ギターで弾き語りをしていたんですよ。でもそれ以前にはバンドでベースを弾いていたということだったので、試しに一緒に弾いてもらったら意外とハマりまして。しかも彼は僕らの1stアルバムも気に入ってくれて、曲もすぐにマスターしてくれたんです。そこからバンドも良い感じになっていって、クリモトとも一緒に曲を作るようになって、どんどん曲ができていきましたね。

●バンド活動に勢いが出てきたというか。

ワダ:クリモトが入りたての頃に東京の東高円寺U.F.O.CLUBに呼ばれて演奏させてもらったら、お店の人から気に入って頂いて。U.F.O.CLUBが出しているオムニバスシリーズの第4弾(『U.F.O.CLUB TOKYO JAPAN vol.4』)に誘って頂いたので、そこに初めてクリモトと一緒に作った曲を入れさせてもらったんです。それが今作(『夜想フ YOUR IMAGE』)のM-1「Dream on You」なんですけど、クリモトと初めて一緒に作った曲という意味も込めて1曲目に持ってきました。

●クリモトさんの加入が、バンドにとって大きかったんですね。

ワダ:大きかったですね。彼が入ったことで、今までとはまたちょっと違う“味”が出てきたんですよ。だから前作の1stアルバム(『ヴァンパイア! Original recording』/1994年)と今回の2ndアルバムを比べてみると、VAMPIRE!として共通する部分はもちろんあるんですけど、どこかクリモト色が出てきている…というのは主に曲を作っている僕自身も感じています。

●ワダさんたちとクリモトさんとでは、年齢も離れていたりするんでしょうか?

ワダ:クリモトは、僕らより10歳以上若いですね。VAMPIRE!はパンク〜ニューウェーヴの枠で捉えられることが多いですけど、僕自身は高校生の頃にレッド・ツェッペリンやハードロックを聴いていたんですよ。そして意外にも、クリモトもそのあたりの音楽が好きなんです。だから“ここでそういうベースを弾くか〜!”みたいな感覚がお互いにしっくりくるのもあって、曲がたくさんできるようになったんですよね。

●世代は違っていても、聴いてきた音楽や好きなものが近い?

ワダ:そうだと思います。逆にクリモトは、僕が大学に入った1979年頃によく聴いていたパンク〜ニューウェーヴは通っていなくて。1979年といえばフリクションやP-MODEL、ヒカシューがデビューした、日本のパンク〜ニューウェーヴの始まりみたいな年なんですよ。そういうところをクリモトは通っていないんですけど、そのさらに根っこにあるルーツは非常に近かったということですね。

●共通して好きなものは、60〜70年代頃の音楽でしょうか?

ワダ:そうですね。もちろんビートルズも好きでしたし、そこはBaashiとも共通しています。でも僕とBaashiも、意外と違う部分は多いんですよ。彼はポップなものや歌謡曲も好きなので、そういう意味では明るい側面もあるんです。逆に僕はKilling JokeやSiouxsie & The Bansheesみたいな、もう少しダークなものをよく聴くから。そういうちょっとした違いはあるけれど、2人とも本当の根っこにあるものはやっぱりビートルズだったりするんですよね。

●そこが共通しているから、ずっと一緒にやれているんでしょうね。

ワダ:そうだと思います。結成したての頃は“俺らも日本のパンク〜ニューウェーヴをやるんだ!”ということでたくさん曲を書いたわけですけど、そういう時に“ちょっと変にしたい”という気持ちがあって。そのための曲作りの練習を、2人とも一生懸命したんですよ。だからBaashiはそういうドラムを叩けるし、それを聴いて僕は“こういうギターのリフが良いな”というアイデアがすぐ出てくるんです。そういう曲作りにおける阿吽の呼吸みたいなものが僕ら2人にはあるというのも、一緒に長く続けてこられた秘訣でしょうね。

●VAMPIRE!の曲を一緒に作る上での感覚を共有できている。

ワダ:でもBaashiはそうやってVAMPIRE!の曲を作ったり、VAMPIRE!のドラムを叩くのは得意なんですけど、普通のロックバンドで叩くとなるとまた違うと思うんですよ。お互いに他のバンドもやってきましたけど、結局は居場所として一番落ち着くのがここというか。それも長く続けてこられた秘訣かなという気がします。

●なるほど。今回はクリモトさんの加入後に作られた楽曲と80年代から演奏し続ける楽曲が両方入っているそうですが、「Dream on You」以外に既発曲はないんでしょうか?

ワダ:他に既発曲はないですね。1stアルバムには入れなかったけど、それ以前の80年代に書いた曲もたくさん入っています。

●リリースしていないものも含めると、曲数はかなりあるわけですね。

ワダ:僕とBaashiは2人とも新しい曲を作るのが好きで、そこにクリモトもついてきてくれたことによって、曲を量産できたんです。それに加えて、ストックもあるという。1stアルバムは13曲入りで今回は17曲入りなので全部で30曲発表していますけど、まだ他にも録音できる状態のものが10曲以上はありますから。

●それだけ曲がありながら、約40年間でアルバム2枚しかリリースしてこなかったのには、何か理由があったんですか?

ワダ:キャリアの長いバンドで、これだけリリースが少ないのは珍しいですよね。理由としては、単純に僕が海外に行っていて活動できていなかった時期があったのと、80年代に流行っていた所謂“インディーズ・レーベル”からデビューしたいという気持ちが全然なかったというのもあって。あと、Baashiも私もずっと働いていた関係で、色々と難しい事情があったんです。

●色んな事情が重なって、結果的にこうなったと。

ワダ:それにレコーディングするにしてもコストがかかるので、そこの問題もありましたね。今回のアルバムはタイトルにも“夜想フ”という文字を入れたように、京都のライブハウスの夜想をスタジオ代わりに使わせてもらったんですよ。

●タイトルは、そことつながっていたんですね。

ワダ:ライブの予定が入っていない日にメンバー3人で夜想に集まって、エンジニアのSchu(以下シュウ)さんに録って頂いたんです。実際にステージに立ってライブをしているような感覚でベーシックトラックを録って、そこにギターとボーカルを重ねていくという作業をして17曲が仕上がりました。

●期間的にはどのくらいで録っているんですか?

ワダ:ベーシックトラックは、あっという間に録れましたね。ただ、一昨年に僕が事故に遭った関係で、また数ヶ月のブランクがあったりもして。その間にギターとボーカルをオーバーダブする作業が滞りましたので完成までの時間はかかりましたけど、夜想を使わせてもらったのは3日だけです。

●3日で17曲も録ったんですね!

ワダ:普段のライブ通りにやったので、ベーシックトラックに関しては一晩で17曲録れちゃったんですよ。というのは“今のテイクはダメだ”ということで2ndテイク、3rdテイクと重ねていっても、どんどん悪くなるだけなんです。結局、1stテイクが一番良いんですよね。

●緊張感やライブ感が今作の音から伝わってくるのは、そういう録り方をしたからなんでしょうね。

ワダ:そのライブ感が欲しかったので、夜想をスタジオとして使わせてもらったところもあって。自分たちが実際によくライブをやっている会場だから。エンジニアのシュウさんは普段はライブのPAをやっている方なので、会場のハコ鳴りとかを正確に把握されているんですよ。“こんなふうにマイクを立てたら、こんな音が録れる”というのがわかっているんです。だからライブで大きなスピーカーで出している音をイメージして、今回のトラックダウン〜ミックスダウンをして下さったんですよね。

●個人的にはフリクションの『LIVE 1980』の空気感を思い出しました。ヒリヒリするような、ちょっと危険な空気が漂っている感じというか…。

ワダ:ありがとうございます! 僕もフリクションが大好きなので、そう言って頂けるとすごく嬉しいです。そういうヒリヒリしたライブ感のある録音をしたかったですし、その趣旨に賛同してくれた上で、(自分たちのやりたいことを)よくわかってくれているエンジニアのシュウさんがいてくれたからできたことだなと思います。そこからできるだけライブ感のあるような曲のつながりを考えて並び替えたら、本当に“スタジオライブ盤”っぽいものになりましたね。

●70分超という収録時間を聞くと長く感じますが、実際は1本のワンマンライブを観るような感覚であっという間に聴き終えました。

ワダ:僕は元々、MCをしないボーカリストなんですよ。普段のライブでも曲と曲の間にMCを挟まずにダーッと続けてやってしまうので、それと同じように17曲をつなげた時にどの順番が一番、疾走できるかというところで曲順を決めたんです。実際に買ってくれた方から“一気に全部聴けてしまいました”と言われるのは、褒め言葉だなと思っています。

●収録時間の長さを感じさせず、最後まで聴けるものになっている。

ワダ:CDに入る最長の時間は74分なんですよ。(その限界近くまで入っているものは)僕の持っている中ではフランク・ザッパのライブ盤だけなんですけど、それも必ず最後まで聴いてしまうんですよね(笑)。

●それに近いものが作れたんじゃないですか?

ワダ:そうなっていたら嬉しいですね。

●40年間で2枚目のアルバム、そして1stアルバムから24年ぶりのリリースとなりますが、それだけ時間をかけた意味のあるものができたのでは?

ワダ:そういうスタジオライブ盤に近いものができそうやなと感じていて、エンジニアのシュウさんと一緒にオーバダブもして、完成図が見えてきた時に、ギューンカセットの須原くんに“出してくれへんか?”と訊いたんですよ。そうしたら“ウチで良いんですか? 出します”と言ってもらって、あっさり完成にこぎつけたという(笑)。

●今作を出して、また次のアルバムを出したいという気持ちにもなっているんでしょうか?

ワダ:なっています。“そういえば、あの曲を入れていなかったな。クリモトと一緒にライブでできるやん!”みたいなものもあるから。また今回と同じように一晩でベーシックトラックを10何曲か録れたら、次の3rdアルバムもできてしまうわけじゃないですか。夜想とエンジニアのシュウさんには“次もまた頼むかもよ”とは言ってあって。出したい気は満々です(笑)。

●長く続けられている中でも、“今が一番良い”という活動をできているのかなと思います。

ワダ:VAMPIRE!にとっては、“VAMPIRE!の今”なんです。若いバンドの人たちが出している“今の音”にどれだけ近いのかという懸念はあるんですけど、そんなことを気にしてもしょうがないから。僕らには“VAMPIRE!の今”の音しか出せないんですよね。

Interview:IMAI

 

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