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Drop’s

10周年を迎えたDrop'sの 新たな進化

2019年にバンド結成10周年を迎えたDrop'sが、前作『organ』と対をなすミニアルバム『trumpet』を完成させた。前作のリード曲「Cinderella」に引き続き、今作のリード曲「毎日がラブソング」でも多保孝一とのコラボレーションが実現。ホーンセクションを大胆に採り入れ、Drop'sのルーツを感じさせつつ多幸感をまとったサウンドは、Drop'sが新しい扉を切り拓いた新境地。拠点を移して新体制となり、様々な経験と想いを重ねたその才能は、今まさに羽化の時期を迎えたといえる。

 

「朝、玄関を出るときに深いため息をつくこととかあるじゃないですか。それを隠したくないんです。みんなそうだと思うし、だからこそ一輪の花や光があればがんばれるし、明日まで生きられる」

●Drop'sは今年で10周年を迎えますが、そもそもは高校生のときに中野さんが中心となってはじまったバンドですよね。中野さんが音楽の道を志そうと思ったのはいつ頃だったんですか?

中野:小学生からずっとエレクトーンを習っていて音楽はやっていたんですが、ロックは中学生のときに洋楽から…オーストラリアのジェットというバンドが好きになって、そこからですかね。

●ご両親の影響で聴いたんですか?

中野:いえ、洋楽のコンピレーションアルバムがあって、その中に1曲ジェットの曲が入っていて。両親はビートルズをよく聴いていたんですけど…1曲だけ“すごくビートルズっぽいな”と感覚的に思って、“私ってこういうのがたぶん好きなんだな”って自覚して。そこから色々と聴いていった感じですね。

●歌い手になろうと思ったのは?

中野:歌を歌うのはずっと好きだったんですけど、中学ぐらいのときから“バンドをやりたい”という気持ちがあって、高校生になったら軽音楽部でバンド組むつもりだったんです。

●それで結成したのがDrop'sだと。中野さんは「人生の半分」とまではいかないですけど、人生の1/3以上は音楽を中心に生きてきたじゃないですか。そういう人生になると思っていました?

中野:考えてなかったですね。4歳くらいから絵を習っていて、デザインとかアート系の仕事をやりたいと最初は思ってたんです。でも、あまり向いてないなと気付くタイミングとかもあって。

●あ、そうだったんですね。

中野:アートスクールとかだと、美大の受験とかで周りの子がデッサンとかやっていて、そういう人たちと比べて自分はいまいち上手くなかったし、音楽をやり始めたらそっちの方がすごく楽しかったし。高校に入ってバンドを組んで、インディーズでCDを出せることが決まって、そのときに“進学しないで音楽をやってみよう”と決意したんです。

●今までの10年という道のりを振り返ってみると、どう感じます?

中野:この10年を振り返ってみると、2年くらい前に東京に出てきたのがすごく大きな区切りだったなと思います。それまでは本当に好きなことをやっていただけというか。周りにもすごく甘えていたと思うし、“自分でやっていく”という気持ちはもちろんあったんですけど、周りの人に助けられてた部分がすごく大きかった。そうはっきり気付きました。

●なるほど。

中野:東京で現実を目の当たりにしたというか。22歳ぐらいまで札幌に居て、実家だし、周りも「好きなことしてていいよ!」という感じだったんです。でも20代半ばに差し掛かり、年下のバンドもたくさん出てくるし、同世代の子とかもバリバリ働いたりしていて。そういうのを見ていて、自分から意識的に「あれやりたい」とか「これやりたい」とか、「そのためにはどうしたらいいか?」とか、キチンと考えて動かないとダメなんだなって…当たり前なんですけど(笑)。そういうことに気付きましたね。

●音楽に対しての自分の気持ちは以前と比べて変わりましたか?

中野:自分で作る音楽は、以前は自分だけで完結していたんです。自分と向き合って…もちろんそのときに好きなものっていうのはあるんですけど、基本は周りとか考えずに。歌詞とかも。でも東京出てきてからは、時代の流れみたいなものが嫌でも見えてくるというか。今まで新しい音楽とかあまり聴いてなくて。

●聴いてなかったんですか(笑)。

中野:聴いてなかったんですよ(笑)。ずっと好きなアルバムを聴いてそれで満足していて。でも新しい音楽に目を向けると、すごくかっこいいものがたくさんあるし、自分が作る音楽と新しい音楽って今まで全くと言っていいほど結びついてなかったんですけど、結びつけていかないと今の時代に生きて音楽やってる意味ないんだなってすごく思いますね。

●色んなものを知ると、逆にDrop'sの個性も改めて自覚できたんじゃないですか?

中野:そうですね。今までやってきたことは特に意識していたわけじゃなくて、普通というか自然というか。最初にジェットが好きだと思ったときの感覚そのままに、ただ好きというだけでやってたんですけど、自分たちが好きな泥臭さだったり土っぽさっていうのは…そこは間違ってないなって思うし、そういうものと今の音楽の要素を混ぜたら…そういうことをやってる人は実際にも居るし、すごくかっこいいことだなと思うので、新しいものを作るのが楽しいというか…それを今やるべきだなと思います。

●M-5「SWEET JOURNEY BLUES」やM-4「RAINY DAY」は、今おっしゃってきたような「Drop’sの音楽」が曲のテーマとしてあるような気がしたんですが。

中野:この2曲はどちらも2年以上前に書いた曲で、自分にとって節目の曲というか。「RAINY DAY」は「東京に出る!」と自分で勝手に決めたときに…。

●勝手に決めたんですか(笑)。

中野:メンバーに話す前に(笑)。それまでも東京にライブとかで来て、「いつか出たいな」という気持ちはあったんですけど、やっぱり学校行ってるメンバーのことだったり現実的な問題が色々あったんです。でもやっぱり東京に出たいなと。いい意味で「どうにでもなれ!」くらいの勢いで決めて(笑)。

●だから歌詞に“帰りみち知らないの”とあるんですね。

中野:そうです。これ以上札幌でくすぶってるというか、何かが起きるのを待ってるのがすごく嫌で。その勢いみたいなものを歌にしたという感じですね。あと「SWEET JOURNEY BLUES」は、この歌で描いているのは札幌の景色なんですけど、ここで1つ故郷に静かに別れを告げるような気持ちを綴ったんです。

●なるほど。一方で今作のリード曲、トランペットが入っている多保孝一さんとの共作M-1「毎日がラブソング」ですが、今までのDrop'sを知る立場としてはびっくりしたんですよね。Drop'sらしさはあるんですが、すごく開けているというか、簡単に言うとめちゃくちゃ明るい。

中野:前作収録の「Cinderella」を多保さんと作った後、「次の曲を作ろう」ということになって、ルーツミュージックの匂いがするんだけど新しいアプローチの音を入れたり、現代のかっこいいバンドみたいなことをしたい、という話になったんです。それで多保さんがこのコード進行とか作ってきてくださって、メロディも一緒に作って、歌詞は私が書いて。

●歌詞の内容もタイトルもそうですけど、かなり明るい曲ですよね。

中野:実は最後までタイトルが決まらなくて。多保さんともお話する中で、曲自体が持っているハッピー感に負けないような…映画のようなタイトルが欲しくて。

●キャッチーなタイトル。

中野:そう、キャッチーなもの。そういうことをすごく考えたんですけど、自分の中ですごく明るいテンションのとき…マックス明るいときに思いついて(笑)。

●ハハハ(笑)。

中野:「毎日がラブソングじゃね?」となって(笑)。ミディアムテンポでこんなに明るいのって意外とあまりなかったような気がして。この曲はずっと繰り返していく感じで緩く歩いていくリズムなんですけど、すごくハッピーなんですよね。歌詞で書いているように、日々の生活は楽しいことばかりじゃないし、逆に苦しいことがあるからこそ大事な人とか物が本当に大事に思えるっていうか…そういう存在が大きいっていうのは日々痛感していて。

●はい。

中野:サビなんて今までだったら選ばなかったぐらいの、単純明快な明るい言葉だと思うんですけど、でも多保さんと一緒にやっていく中でそれぐらい開けた言葉の方が聴く人には伝わると思うし、譜割りも…英語を結構使うのも今まではやってこなかったんですけど…耳に入ってくる感じを考えるとすごく気持ちいいし。これはアリだなって思えたんです。

●多保さんとやりとりする中で、試行錯誤があったんですか?

中野:そうですね。私自身がもともとあからさまにハッピーみたいなのが嫌で(笑)。私が音楽を好きになったのは、自分の苦しい部分とかモヤモヤしたところを代弁してくれるというか、そこに寄り添ってくれるからだったので、“憂い”とか“陰り”みたいなものがないと説得力がないと思ってしまっていたところがあって。

●リアリティを感じるかどうか。

中野:そこは無くしたくないっていうのはすごくあって。でも“たくさんの人に聴いて欲しい”という気持ちも同時にあって、自分の中のハッピーな感情を最大限まで溢れさせてみた、という感じですね。そう思って作ったものをフラットな気持ちで聴くと、すごく良い曲だなって思えたんです。

●「あからさまにハッピーみたいなのが嫌」とおっしゃいましたけど、この曲の歌詞に“泥だらけの日々”という言葉があることによって、Drop'sのアイデンティティがしっかりと存在している印象がありました。

中野:その“泥だらけの”というのは絶対に変えたくなくて(笑)。

●ハハハ(笑)。

中野:朝、玄関を出るときに深いため息をつくこととかあるじゃないですか。そういう気持ちで過ごしていた時期もあったんですけど、それを隠したくないんです。みんなそうだと思うし、だからこそ一輪の花や光があればがんばれるし、明日まで生きられる。そういう結構ギリギリな毎日というか。明日に向かうのはすごく大変なことだと思うんです。そういう気持ちを明るいハッピーなメロディで表現できたのは新しいかなって思います。

●うんうん。あとM-2「空はニューデイズ」はビートが効いていて勢いのある楽曲ですが、これはどういうきっかけでできたんですか?

中野:この曲はミナ子さん(Dr.石川ミナ子)が加入して割とすぐできたんですけど、ジャングルビートというか、こういうビートの曲をやってみたいという話が出て。そのとき私が別でコードだけ作っていた曲に合わせてみたんです。

●このビートからは根源的な生命力みたいなものを感じるんですけど、歌っていてもすごく気持ちいいんじゃないですか?

中野:そうですね。こういう曲は今までやったことなかったんですけど、そこはやっぱりミナ子さんが叩くとすごく気持ちいいし、このビートを採り入れるにあたってどうやって曲として完成させるか、みんなですごく時間をかけたんです。その過程で、サビではストレートなビートに戻すアイディアが出て。

●あ、確かにこの曲、サビの展開がちょっと不思議ですよね。サビのメロディが予想外のところに展開して、それが気持ちいい。

中野:確かに意外ですよね。「サビどうしよう?」となって(笑)、盛り上がりが欲しかったのでこういう感じになったんです。

●あと1つ気になるところがあって。M-3「ムーン・ライト」に“あなたの全てを知りたい なんてこと言わないわ”という表現があって、でもその後に“さみしさに ほおずりするわ”とありますよね。中野さんの視点として、何かに隠された気持ちとか、敢えて隠した気持ちとか、そういうところに美しさを感じる感性を持っているんじゃないかなと。隠れた気持ちを愛でるというか。

中野:自覚は無かったんですけど、そう言われてみればそうかも知れないですね。すごく見透かされた気がする(笑)。私、妄想するのが好きなんです。

●妄想するのが好き?

中野:妄想っていうか…イメージみたいなものを言葉にしたらどうなるんだろう? みたいなことをよく考えるんです。

●あ、なるほど。はっきりとした輪郭のない、ぼんやりした気持ちというか微妙な感覚を、世の中に無い言葉で表現するということ?

中野:そうです! 「寂しそうな顔」とかじゃなくて、別の言葉を当てはめてうまく言えないかな? みたいな。

●例えば「魔法瓶みたいな表情」みたいなことですよね。例えとしても全然上手く言えてないけど…。

中野:ハハハ(笑)。本とか読んでいてもそういう表現が伝わってきたらすごくぐっとくるんです。普通に文字面だけ捉えたら全然意味分かんないんですど、感覚的に伝わってくるもの。そういう表現がすごく好きで、歌詞を書く楽しみになっているんです。直球で言わないことの面白さというか…自分が楽しいだけなんですけど(笑)。

●でもそれは、歌だとすごく力を発揮すると思います。

中野:そうですよね。ストレートに表現する伝わりやすさはもちろんあると思うんですけど、自分が感覚的に“なんか分かるな”という表現が好きなんです。

●「ムーン・ライト」は“さみしさに ほおずりするの”という言葉がすごくポイントになっていますよね。矛盾を孕んでいる絶妙なニュアンス。

中野:これは1人で夜に散歩したりしてるときの歌なんです。東京に来て、自分の自由にできる夜の時間とか、いつまでも歩けるような気持ちになって、街を1人で歩いたり。ビルとかを見るのが好きなんです。

●夜のビル?

中野:そうですね。オフィス街って夜遅いと誰も居なかったりするじゃないですか。土日の夜とかに行くと、全然人が居ないのにビルだけがあって、すごくワクワクするんですよね。「絶対ここで働いてないだろ!」という感じの私がただそこを歩いてるっていうのがワクワクして、いつまでも歩いてたいなって。

●歌詞にあるように「自由」を感じる瞬間。

中野:そうですね。贅沢だし自由だなって。歩き出したらどこまでも歩けちゃう気がするんですけど、だんだん疲れてくると急に「あれ?」って寂しくなったりして。その感じを表現したかったんです。

●なるほど。近2作の経験によって音楽的な幅も視野もぐっと拡がったと思うんですが、今後のDrop'sはどうなりそうですか?

中野:この2作を作って、いい意味ですごい衝撃を受けたんです。現代の音楽の魅力とか、それを自分たちが持っているものと混ぜることはすごく楽しいし。今はどんどん新しいものを採り入れて、新しいことをしたいムードが高まっているんです。何でもやっていきたい感じですね。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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