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吉田健児

今年に入ってから新曲の一発録り映像を 立て続けに発表した真意と背景とは?

飾ることなく、奇をてらうこともなく、そして悲観することもなく、ただ自分の歌だけを信じてきたシンガーソングライター・吉田健児。西原誠(ex.GRAPEVINE)がプロデュースし、西川弘剛(GRAPEVINE)をゲストに迎えて制作された1stアルバム『forthemorningafter』を2016年にリリースした後、しばらくリリース的沈黙を守ってきた彼が、今年に入って新曲の一発録り動画をYouTube上で立て続けに発表。新たに発表された「ドントレットミーダウン」「I LOVE YOU」がまたたく間に再生回数を重ね続けている中、吉田にその真意と背景、今後の展望を訊いた。

 

「映像は強い。だからミュージックビデオやスタジオライブではなく、一発録りした映像を発表することで、ミュージシャンというスタンスを崩さずに発信できる」

●YouTubeにて1月に一発録り第1弾として「ドントレットミーダウン」、2月には第2弾「I LOVE YOU」を公開されましたが、1stアルバム『forthemorningafter』を2016年7月にリリースしてから2年半くらい経ちますよね。その間はどうされていたんですか?

吉田:正直に言うと、新曲のレコーディングも既に終わっているんです。予定では、2018年中に新作をリリースするつもりだったんですよね。

●あ、そうなんですね。

吉田:でもなぜリリースが実現していないかというと…新曲はクオリティ的にはまったく問題なくて、でも「いまリリースしてどうなる?」と関係者と話してて。いまいち確証が持てなくて。

●ほう。

吉田:日々痛感しているんですけど、いまの世の中で“CD”というものは非常にキツいなと感じていて。例えば、新曲たちは浅田信一さんプロデュースで録り終わってるんですけど、「吉田くん、新曲のデータ送りたいけどCDの盤とデータどっちがいい?」と言われて。

●はい。

吉田:でもよく考えたら、盤でもらっても俺はCDプレイヤーを持ってないし、MacにCDドライブも付いてないから「データでください」と答えたんです。そこでも改めて痛感したんですけど「俺、CDプレイヤー持ってないわ」と。ここ数年、ずっと持ってないんですよ。

●でも知り合いのミュージシャンとかにサンプルCD貰ったりしますよね?

吉田:貰ったら、外付けのCDドライブを押入れから引っ張り出してきてMacに取り込む感じですね。以前はiPhoneとかをMacと同期させて、楽しく音楽を聴いていたんですけど、今やストリーミングやサブスクリプションが主流で。僕は今Apple Musicですね。仲間のミュージシャンもそう言ってました。

●なるほど。

吉田:なので“CDってどうなのかな?”という疑問があって。レーベルとも相談してたんですけど、最近はミュージシャンがYouTuberみたいな感じになっていて、でもそれは「仕方なく」という部分もあると思うんですよね。例えば新型Macbook「開封の儀」とかの動画なんて5〜10万再生とかいっちゃうじゃないですか(笑)。

●そうですよね。

吉田:でも音楽でいうと、水面下で頑張ろうとしてるミュージシャンがライブ映像を公開したとして、1000回いけばいい方なのかなって。僕の映像を担当してくれてるカメラマンは、他にもミュージシャンの映像を頼まれたりすることが多いみたいで色々撮ってるけど、1000回とか良くて2000回とか。ほんとにそれくらいで。僕の場合ケタが違うってテンション上がってくれてるくらいなんですよね。そういう現状ならば、YouTubeで何か面白いことをやりながら”ついでに音楽やっている”方が絶対に強いわけで。とはいえ、僕は音楽を主とするスタンスは崩したくないなと。

●はい。

吉田:でも映像は強い。だからミュージックビデオやスタジオライブではなく、一発録りした映像を発表することで、ミュージシャンというスタンスを崩さずに発信できるんじゃないかなって。

●要するに、世に出す方法を模索していたと。

吉田:そうですね。制作は結構終わっていて、そのリリースに合わせて関係者と相談しながら「いま何ができるだろう?」と。それと平行して「CDはどうなのかな?」と。ただ、「CDの次は何だ?」と考えたとき、それもいまいち見えていないし。そこが過渡期というか、狭間なのかなって。

●確かに過渡期かもしれないですね。

吉田:レコーディングでも、音を聴く環境に合わせてエンジニアもミックスするわけで。今なら高価なヘッドフォンというよりも、iPhoneに付属しているイヤホンとか、そういうものに合わせてチューニングする方がいい場合もあるってエンジニアも言っていて。ステレオのスピーカーもだんだん1つになってきているし、色々と変わっている時期なんだなっていうのは思っているところで。

●確かに。

吉田:なので、とりあえず1つのトライだったんですけど、映像でどれくらいの反応があるか、試金石にしたかったんですよね。

●それが冒頭で話した一発録りの映像だと。あの映像は、音源の発表方法の1つというか、プロモーションの1つというか。

吉田:そうですね。何かCDを出すよりも、プロモーションとして。「作品」といえるほど思い切り力を入れているわけではなくて、演奏も一発録りで、カメラマンが映り込んだりもしてますけど(笑)、やってみようぜって背中押してもらった感じです。

●なるほど。

吉田:それで実際のところ、まだ映像を公開してもらってからあまり日が経ってないですけど、これはなかなか反応が良いんじゃないかなーっていうのはわかったんです。

●ライブハウスでしのぎを削って少しずつ動員を増やし、それを自身のワンマンライブやCDのリリースにフィードバックさせるという、従来の一般的なミュージシャンの活動スタイルから脱却しようとしているんでしょうか?

吉田:そこまでかっこいい話かどうかはわからないですけど、実際にその狭間で揺れている感じですかね。「動員を増やす」というのは必要なことだと思うんですが、そこに至る過程というのは明らかに変わってきていて。すべてがwebで完結っていうわけではないけど、何か行動を起こさせる敷居は実際かなり上がっていると思うんです。

●はい。

吉田:じゃあまず先んじてやらなきゃいけないことは…ライブハウスでっていうのももちろんわかるんですけど…何かしらで音楽を発信しないといけない。でも、現実的には何かおもしろいことをした方が注目を浴びるし、時事問題について話すだけでもいいかもしれない。炎上商法も効果的なんだろうなとか。でもそうすると音楽からどんどん遠ざかっていってしまうし、「わざわざ音楽をやる必要があるのか?」という感じにもなってしまう。

●確かにそうですね。

吉田:だからちゃんと音楽に特化した上で試してみたいなと思っているところなんですよね。

●まさに今、その過程だと。レコーディングは既に終わっているという話でしたが、それをそのままリリースする予定なんですか?

吉田:もともとの予定は、シングル3作リリースという感じだったので。シングルを出すアーティストなんて今や居ないので、おもしろいんじゃないかとレーベルの人が言ってて、確かにそうなのかもなって思ってるんですよね。今年の半ばくらいまでに体制整えてからリリースしようと…盤であるのかどうかは、今現在も悩んでいるところなんですけど。今月中にまた打ち合わせあるので相談です(笑)。

●現在進行系で悩んでいると。

吉田:どちらにしてもまた録り直すというか、録ってるものをそのままリリースするつもりはないんですが。さらに曲も書いたし。

●最近の動きだと、シングルを配信限定にして、アルバムとツアーを1つの流れとして捉えるという動き方も増えましたよね。

吉田:音楽だけじゃなくて、映画なども配信サービスが普及してきていますよね。レンタルCDやDVDもどんどん変わってくると思うし。YouTubeも『YouTube Music』を始めたし。じゃあ盤を作るよりも…と考えちゃうんですよね。第1弾、第2弾と発表した一発録りの動画も既に数万再生いってるし、周りがちょっと嬉しそうだし(笑)、今後もコンスタントに映像は発表していくつもりで、リリースの方法はその反応を見ながらもう少し考えてみようかなと思っているんです。

●ふむふむ。

吉田:配信って確かに今の時代に合ってると思うし、でも一方で“配信”も色んなサービスがあって有象無象だとも思うし。

●でも吉田さんのYouTubeチャンネルが発表の起点になれば、リリースの方法はあくまでも手段なので、大勢には影響ないんじゃないですか?

吉田:確かにそうなんですよね。その辺を精査していけば、最終的にはまとまると思っていて。

●ちなみに、前作から期間は経っていますが、吉田さんが作り出す音楽は変化しているんですか?

吉田:ある意味、こだわりというものがだんだん無くなってきた感じがあって。

●一発録りで発表している2曲、かなりキャッチーですよね?

吉田:そうなんですよ。それはプロデューサーの浅田信一さんによるところも大きいんですよね。僕はソロ経験しかないけれど、もともとロック色が強いみたいで、だから西原さん(ex.GRAPEVINE)が過大評価してくれてると思うんですが、浅田さんはキャッチーでポップなんですよね。僕と全く逆の音楽性なので影響は大きかったと思います。

●なるほど、だから新曲はキャッチーだと感じたのか。

吉田:制作では、歌詞もメロディもそうなんですけど、僕がそのままやるとロック色が強くなるし結構ポリシーが凝り固まってる面があるんですよね。それは強みだとは思うんだけど、逆行してる面があるので、そこらへん色々ごにょごにょやりましたね。

●キャッチーになったのは、今の座組からすると必然的だったんですね。

吉田:そうですね。浅田さんとは色々とやり取りがあったんですけど、ある意味その経験があったお陰で、変なこだわりは無くなりました。ポリシーとしてはいいかもしれないけど、音楽として考えたときに、そういうこだわりを削ぎ落としていったというか。と言いつつまだ凝り固まってると思いますが。そこまで捨てると元も子もないだろうし。

●ライブは定期的にされていますが、ライブに対する考え方はどういう感じなんですか?

吉田:先日もライブハウスの周年イベントに出演させていただきましたし、4月にも予定が入っていますけど、ライブになにかを求めるというより、違う方法で観てもらったり聴いてもらう機会を増やした方がいいんじゃないかなと思っていますね。

●機会を増やすためのライブをするわけではないと。

吉田:例えば僕が東京に出てきたとき、ライブハウスでのライブはチケット代が高すぎると思ったんですよ。僕としては500円くらいでいいのにって(笑)。もちろんそれじゃあ採算が取れないんでしょうけど、そういう想いがそもそもあったから、違う方法で発信してライブに落とし込むっていう。ライブが手段ではなく目的に変わるというか、順序が変わっていく感じになる気がするんですよね。ライブハウスで成り上がるっていうことではなく。

●なるほど。

吉田:そもそもはそんな形ではなかったと思うんです。昔は、ライブハウスはイベントでみんなが楽しむ場所だったのに、いつしかミュージシャンが成り上がる為の場所になって、今はそういうことがおそらくほぼ不可能な時代になってきていて。だから今の流れに合わせたいっていう気持ちはありますね。

●今後、定期的に一発録り映像は発表していくんですか?

吉田:そうですね。今年に入って月1ペースで公開されてますけど、今後は月2回くらいに早めてもいいんじゃないかって話になってて。現時点(3月頭)で、第1弾の再生数が数万なので、今後月2ペースで新しい映像をアップしていくとして…そう考えると、拡散力はライブどころではないんですよね。

●確かに。単純にライブの来場者数と再生数を比べる話ではないと思いますけど、月1〜2回ライブをやったとして数万人には観てもらえない。

吉田:映像は全然関係ない人が観やすいじゃないですか。そこで何か引っかかってくれる人が居れば嬉しいなって。一発録りなので細かいミスとかはありますけど。それからリリースを迎える、っていう流れが今のところベストかなと。

●ある意味、今新しいチャレンジをしている段階だと。

吉田:そうですね。何か意志を持って「新しいことやるぜ!」みたいな感じではないんですけど、音源制作という意味での準備は完全に整っていて、でも実際に葛藤みたいなものが続いているので…突飛なことをやる気はまったくないんですけど…ちゃんとした体制でリリースに挑みたいと思ってます。

Interview:Takeshi.Yamanaka

http://kenjiyoshidamusic.com/

 

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