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cruyff in the bedroom

クライフ史上最高にアッパーで蒼く切ない轟音アルバム誕生

cruyff in the bedroomが、2年ぶりとなるニューアルバム『hacanatzkina』を完成させた。全世界で盛り上がるシューゲイザームーブメントに呼応するように日本でも若手バンドたちが台頭してきている中、彼らはシーンの熱を“蒼さ”として楽曲に昇華。さらに、その甘く溶けるようなドリーミーなメロディと、幾重にも重ねたギターの紡ぎ出す轟音世界は今作で精度と純度を増している。バンド史上最高にアッパーで蒼く切ない傑作アルバムを生み出した彼らは、その軸を全くブレさせることのないまま今もなお終わりなき進化の旅を続けていく。

 

「“ロックンロールは各所で尖りながらも、終わらない撤退戦を余儀なくされている”と思っていた僕に、素晴らしい朗報だ。このアルバムを聴いて思った。“王様が帰還した”と」(作家・中村航)

●前作の4thアルバム『ukiyogunjou』以来、2年ぶりのアルバムとなりますが。

ユウスケ:僕らの中では2年というのが、ミニマムの期間なんですよ。レコーディングにも曲を形にしていくのにもすごく時間がかかるので、準備期間がすごく必要で。これでも必死でしたし、2年が最速ですね。

●クライフ(cruyff in the bedroom)にとっては、通常のペースだったと。

ユウスケ:曲作りにしても、形を詰めるのにすごく時間がかかるんですよ。特に今回はドラマーが3人いたのもあって。ミキヤ(タツイミキヤ/ex.SLAP STICKS) とはいつも一緒にスタジオへ入っているので、そこで一緒に音を合わせながら作ったんです。修(比田井修 ex.School Food Punishment)とは1ヶ月の間でまとめてスタジオに入って、そこで仕上げた感じで。ボボ(ex.54-71)とは1回リハーサルに入って、次はもうレコーディングという感じでしたね。

●ボボさんとの作業はそんなに速かったんですね。

ユウスケ:彼はその場でスパっと決めてくれるので、時間短縮にもすごく役立ってくれました。今回、ボボが叩いたのはM-5「hanabira eine krause」とM-9「mele」、M-11「tokyo loves you」ですね。「tokyo loves you」に関しては、みんなに「マンチェっぽい曲を作って欲しい」と言われて作った曲で。「mele」はボボの代名詞的なドラムパターンを使って、“ザ・シューゲイザー”な感じをやりたいねと。「hanabira eine krause」に関しては、メタルっぽい感じで作りました。

●全然、色が違う3曲をボボさんは叩いている。

ユウスケ:でもこの3曲はどれも、ボボに叩いてもらうことを想定して作った曲なんですよ。これまでも毎回アルバムに1曲はメタルっぽいのを入れているんですけど、今回の「hanabira eine krause」はちょっとポップにしすぎたかなと思っていて。やりすぎたかなと思ったけど、ボボのドラムが入っただけで全部OKになったんですよね。本当にボボ様様という感じです(笑)。

●3人それぞれに個性が出ているんでしょうね。

ユウスケ:修は本当に8ビートのキレが良いんですよ。その上、M-4「la vie en rose」という変な3拍子の曲では、面白いフレーズを作ってくれたりもして。僕のムチャぶりに対してもちゃんと応えてくれるし、解釈がすごく深い感じがして良かったですね。ミキヤはもうずっと一緒にやっているので安心感があるし、何をやってもミキヤだから。3人ともタイプが違うんですけど、なんで今までやらなかったのかなというくらい楽しかったです。

●そもそも今回、3人のドラマーを起用した理由は何だったんですか?

ユウスケ:これまではミキヤと一緒にやることが多かったんですけど、あくまでもサポートメンバーなので、せっかくだったら色んな人と一緒にやりたいねという話になって。やっぱり5枚目のアルバムともなると、色々やりたいことが出てくるんですよね。ずっとやってきているバンドなので曲の作り方とかも決まってきているところを、今回はちょっと崩してみようかというのがあったんです。そこで違う血を入れることで、自分たちだけでは出ないようなものが出るんじゃないかということでした。

●そういう新鮮さを求めたからか、今作からは“蒼さ”も感じられます。

ユウスケ:それは自分の中の流行りが出ているんでしょうね。今回だったら近くにいるプラガ(PLASTIC GIRL IN CLOSET)だったり、若い世代のバンドからの影響を間違いなく受けていると思うんですよ。若いバンドのライブから受けた刺激もあって、8ビートの速い曲をやりたい気持ちがあったんです。だから自ずとそういう曲を作っていて、そこに8ビートが抜群の修がちょうど加わったという感じでしたね。

●若手のバンドから受けた刺激が、今作には昇華されている。

ユウスケ:自分たちの世代より上にはまだまだ現役でカッコ良い先輩たちがいるし、下を見れば勢いのある後輩たちから突き上げられていて。もう僕らは伸びるしかないですもん(笑)。やっぱり負けたくないし、常に気を張っていなきゃいけないなという感じはありますね。

●そのためにもクオリティの高い作品を作り続けていかないといけない。

ユウスケ:ここ3枚のアルバムに関しては自分の中で毎回、ベストアルバムを作りたいという気持ちでやっていて。シングル集を作るくらいの気持ちでやっているんですけど、今回はまずそういうものが8曲できたところでメンバーと「あとはどういう曲がほしい?」と相談して、残りの3曲を作ったんです。

●全体のバランスを考えて、曲を書き足したりもしたんですね。後から作ったもの以外は割と早い段階からあったんですか?

ユウスケ:M-8「diamond bell」は前作を作り終えた後くらいにはできていた曲で、ライブでもやっていましたね。この次にできたのが、シャッフルの入ったロカビリー風のM-2「when moonrise」で。自分はやっぱりロカビリーが好きなので、この曲ではそっちに振り切ってやってみようとなったんです。別にウッドベースを使っているわけでもないので、そのままそういう音になるわけじゃないからいいかなって。

●自分のルーツを包み隠さずに出したというか。

ユウスケ:シューゲイザーのバンドでシャッフルなんてやっている人たちは他にいないと思うし、気にせずやっちゃおうと。この曲に関しては最初からオーバープロデュースしてやろうと思っていたので、あえて思いっきりストリングスやピアノを入れて。そしたら思いのほか、良い曲になりましたね。

●ロカビリーがルーツになっているシューゲイザーのバンドって、他にはいないでしょうね…。

ユウスケ:そうなんですよね(笑)。かと思えば、M-7「moon river boat」という曲はモータウンっぽい感じになっていて、それも1つのルーツなんですよ。メンバーとも「このリズムでシューゲイザーになるのかな?」っていう話をしていたんですけど、面白いからやってみようということで作ってみました。そういうところで、シューゲイザーから広がるんですよね。

●シューゲイザー以外のルーツも、自分たちの音楽に昇華している。

ユウスケ:それが嫌いな人もいると思うんですけど、やっぱり5枚目にもなるから色々やりたいんですよ。かといって、轟音ギターやフワッとしたメロディという軸の部分は絶対にブレることがないから。リズムに関しては色々試して、ちょっとずつ広げていきたいとは常日頃から思っています。

●どの曲を聴いてもクライフに聴こえるのは、その軸がブレないというところなんでしょうね。

ユウスケ:曲も歌詞も同じ人間が作っているから、そこは絶対にブレないですね。あと、レコーディングにしても、クライフのやり方というものがあるんですよ。ギターのトラックにしても10本以上は録った上で、それを1つに重ねていて。そのギターサウンドというのはエンジニアとのリレーションも取れていないと出せないし、みんなである程度“共有する”ことによって“クライフらしく”なっているんです。

●同じ感覚を共有しているからこそ、クライフらしいものになる。

ユウスケ:“歪み”、“揺らぎ”、“フワフワ”、“くらくら”とか名前が付いているんですけど、1本ずつ聴いても何のことかわからないですからね(笑)。それを1つに重ねた上にシゲ(G./Vo.サンノヘシゲカズ)の上モノをまとめて、やっと伝わるようになる。自分の音もシゲの音もどっちもクライフっぽいんですけど、やっぱり混ざり合わないとクライフにはならない。それがやっぱり“色”でしょうし、ギターという面ではその集合体がクライフらしさになっているんだと思います。

●色を塗り重ねていくような作り方だからか、クライフの音楽には絵画的なイメージがあります。

ユウスケ:絵画的な影響は強いですね。音楽に近い部分もあると思うんですよ。印象派だとかフォービズムだとか色々ある中で、画家ごとにも手法の違いがあって。ゴッホだったりモネだったりマネだったり、1人ひとり違っている。自分はゴッホが好きなんですけど、絵のタッチで言えばモネのほうがクライフに近いと思います。重ねて重ねて微妙な色を変えていく感じが近いというか。ゴッホはもう気持ちをキャンバスにババっとぶつけていく感じですけど、自分はそんなロックな人間じゃないし、もうちょっと紡ぎたいタイプなので…。

●確かに、色んな音を繊細に紡いでいっている感じですよね。

ユウスケ:ゴッホみたいなタイプのほうがカッコ良いし、憧れるんですけど、ああはなれないですからね。自分の中で過去2作くらいの時期はずっとゴッホ・ブームだったんですよ。2ndアルバム『hikarihimawari』の曲名は、ほとんどゴッホの絵のタイトルだったりもして。そのブームも落ち着いて、最近は家で夜中に月ばかり見ているんです。ベランダにイスを出して、月光浴をしたりとか。

●だから今回も歌詞やタイトルに“moon”や“月”がよく出てくると。

ユウスケ:前から“花”と“月”についてはよく歌っていて。歌詞については、いつも自分の好きなものについて書いているんですよ。でも特に今回は、花と月が多いですね。実は今作を3分の2くらい作り終えた時点で歌詞が月と花ばかりなことに途中で気付いて、残りの歌詞にはあえてその言葉を入れたんです。

●アルバムタイトルの『hacanatzkina』というのも、“儚い花のように 月の刹那のように”という意味なんですよね。

ユウスケ:アルバムタイトルは最後に決めました。僕は言葉遊びが好きで、実際にはない言葉を勝手に造るのが好きなんです。今回もその一環という感じですね。

●造語だけど、伝えたい情景は浮かび上がってくるような言葉だと思います。

ユウスケ:3rdアルバム『saudargia』の頃から、日本の純文学的なものを読むようになって。特に宮沢賢治をすごく読んでいたんですけど、あの人の言葉遣いがすごくきれいなんですよね。しかも岩手のことを“イーハトーヴ”と言ってみたり、色んな言葉を造っていたりする。擬音語とかも実際にはない言葉なのに、それだけで情景が浮かんできたりして。今回もそういうものから影響は受けましたね。

●サウンド的にもそうなんですけど、歌詞も幻想的ですよね。

ユウスケ:幻を作っているから、そうなっているんだと思います。曖昧な言葉を合わせて1つの情景を絵にするような感じで、歌詞を書いているんですよね、普段はあまり使わない言葉を使うというのがテーマなんです。

●言葉と音が一体になって、ドリーミーな世界観を作り出している気がします。

ユウスケ:ドリーミーな人間ですからね。月を見て美術館に行って酒を飲んで…夢の世界の住人です(笑)。

●夢の世界って(笑)。そういう人間性や嗜好が軸にあるところは変わらないままで、音として描き出す情景は時間と共に変わっていくようなイメージでしょうか。

ユウスケ:だから次のアルバムも大きく変わることはないんでしょうけど、何かが変わるんでしょうね。同じ場所にいても景色はずっと変わり続けるというのは、今までに出した全ての作品に言えることなのかもしれない。2012年のクライフとして、一番良いアルバムが作れたかなと思います。

Interview:IMAI

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