音楽メディア・フリーマガジン

FAT PROP

満を持して描かれる多彩な世界

鹿児島で結成して以来15年、キーボードとロックサウンドを融合させた唯一無二の存在としてシーンを駆け抜けてきたFAT PROP。メンバーチェンジを乗り越えて2015年にミニアルバム『Leap of Faith』をリリースした彼らが、現体制となって初のフルアルバムを完成させた。Vo./Key.Rindaが「満を持して新しいチャレンジが出来るメンバー」と言うように、今作は4人の感性が融合し、まさにタイトル通りカラフルかつ誰も味わったことがない音像を描き出し、無限大の可能性を感じさせる。

 

「“FAT PROPやっていてよかったな”って今いちばん思うし、 それを『COLORFUL』で表現できたということがすごく嬉しい」

 

●JUNGLE☆LIFEでは2012年のミニアルバム『SHINE』以来のインタビューですが、その間にメンバーチェンジがありましたね。

Ema:はい。前に所属していたレーベルとの契約が切れて、自分たちだけになってしまって。慎太郎(G.上原慎太郎)とナギ(Ba.梛木健一郎)が抜けて。

●Komiくんはどういうきっかけで加入したんですか?

Komi:僕は広島出身なので、10年くらい前から知り合いなんです。広島でSIDE AQCELというバンドをやっていて、もともとNMNL RECORDSのレーベルメイトだったんです。

●あ、SIDE AQCEL知ってる!

Komi:FAT PROPとは広島にいる時から仲がよくて、対バンとかしていて。僕のバンドが終わってしまって、それでもFAT PROPとの関係は続いていたんですよ。前のギターの慎太郎が抜けるタイミングで、僕が東京までFAT PROPのライブを観に行った時に「お前入る?」と誘われて、“これはチャンスだ!”と。SIDE AQCELが解散した後、広島でバンド活動はしていたんですけど、自分の思うようにいかなかったというのもあって。

●なるほど。つい最近正式メンバーになったNozomiさんは東大卒なんですよね?

Nozomi:はい。東大の大学院も卒業してます。

●何してるんですか?
一同:ハハハハハ(笑)。

Nozomi:よく言われます(笑)。色んなバンドのサポートでベースを弾くことが多かったんですけど、FAT PROPも最初はサポートだったんです。今作では曲の制作からレコーディングまで関わっているので、リリースのタイミングで正式加入という形になったんですけど、ナギさんが辞めて、「FAT PROPはコーラスが多いので歌が歌えて楽器が弾けるメンバーじゃないとダメだ」という話になった時に、私が6年くらい前にRindaさんのソロプロジェクトのバックコーラスをやっていたことがあって、その繋がりで誘われて。

●前からバンドとか音楽をやりたかったんですか?

Nozomi:大学の時に入ったサークルがたまたま合唱とかバンドとかをやっているサークルで。大学在学中は音楽をやる気はなくて、趣味で年に2〜3回くらいコピーバンドをやっていたくらいです。

●日本を良くする仕事とかを目指さなかったんですか?

Nozomi:最初は目指していたんです。研究者になろうと思って大学院を卒業して、でも大学で研究をやっている時に色々あって“研究なんかくそくらえだ! もうやめよう!”と思って、就職するのを諦めて、大学院を卒業してからバンドを始めたんです。

●東大の大学院卒でバンド…気合い入ってるな。

Nozomi:フフフ(笑)。

●ところで今回のアルバム『COLORFUL』ですが、全体的なイメージはありましたか?

Nozomi:特になかったので、出来上がった曲を集めたら“こんなにいっぱいになっちゃってどうしよう?”みたいな感じになっちゃって。

Ema:だから『COLORFUL』なんです。

●まさに字の如くですね。

Ema:でもM-6「Dreams & Wishes」が出来たことが大きかったかな。

●「Dreams & Wishes」はびっくりしたんですよ。“これバンド?”という感じで、ミュージカルかと思った。

Ema:M-4「Find a Way」は今までの感じでバンドらしさが出ているからよかったんですけど、“この2曲が一緒に入っているアルバムを作っているバンドって何?”みたいな感じですよね。

Nozomi:最初の3曲の繋がりがすごいです。

●そうそう。M-3「Wheel of Fortune」もびっくりした。“オペラか!”と思いました。

Rinda:「Dreams & Wishes」を作った頃は、個人的にディズニーのサントラをよく聴いていて。ディズニーのような音楽をバンドで表現すると幅も出ると思ったんです。ディズニーの音楽って、いつ聴いてもワクワクするじゃないですか。それをバンドに落とし込めたらおもしろいなと。FAT PROPの新しい引き出しも増えるし、リスナーにも楽しんでもらえるかなと漠然と思ったんです。

Ema:この曲は、スタジオで作ったんですよ。

●え? マジですか。

Rinda:俺が断片的なものをまず持ってきて。

Komi:大サビはその場の流れで…。

●こんな壮大な曲、よくその場のインスピレーションで作れますね。

Nozomi:最初はイントロとAメロくらいまでアイデアとして持ってきてもらって、みんなで合わせたら、“どうしよう?”ってなりました。

Komi:アレンジの正解が分からなかったですね。“どれが正しいのか”ってなりました。まぁ正解なんてないんでしょうけど。

●いつも4人で曲を作るんですか?

Ema:曲はだいたいRindaが1サビくらいまで持ってきて、そこから全体のアレンジをし始めるので、構成とかもその場で決まっていくんです。どの曲も同じような感じ作っているんですけど。

●すごいな…。さっき言いましたけど「Wheel of Fortune」もかなり振り切れてますよね。

Ema:誰を意識した曲だっけ?

Rinda:Museだね。この曲は慎太郎がいたときに原型があったんです。当時俺と慎太郎がMuseをよく聴いていて、2人で“こういう曲を作ってみようぜ”ということになり、断片的に置いていたんです。今とは全然違ったんですけど、完成していない状態でとりあえず眠らせてて、それを今作で掘り起こして完成させたんです。

●これも新しい挑戦ですよね。難しくなかったんですか?

Komi:難しいです。というか、わけ分からなかったです(笑)。だからこそ何をやってもいいんですけど。

Rinda:そういうチャレンジを、満を持して出来るのがこのメンバーだと思ったんですよ。確信的な手応えもあったし、この段階で“新しいものを見せたい”という想いもあって。例えば写真のアルバムを見返した時って、当時の思い出が蘇ってくるじゃないですか。そういう変化を音楽のアルバムでも感じたいんです。その時期によって音の環境も声も歌い方も違うし、影響を受けたアーティストも違うし。だから“FAT PROPっておもしろい!”と思えるんです。こういうバンドってなかなか少ないですよね。THE BEATLESにしてもそうですけど、昔のアルバムと聴き比べると全く違う。そういうバンドになりたいと思っていたし、それが“変化”や“進化”に繋がるとも思っているんです。それが出来るメンバーがようやく揃ったかなと。

●なるほど。今作は先ほど話したようなチャレンジもありつつ、FAT PROPっぽい曲も収録されていますよね。僕はFAT PROPのいちばんの個性というか武器はRindaくんの声だと思っているんですけど、一方で今作はコーラスワークも充実していて。

Komi:コーラスは前作辺りからやばいことになっていますね。ライブがめっちゃ大変です。

●「Find a Way」もMVでは全員歌ってますもんね。

Komi:あれはまだマシですね。

●あ、マシなのか。

Nozomi:全然マシです。いちばんマシかもしれない。

●いちばんヤバいコーラスはどの曲ですか?
Komi&
Nozomi:「Dreams & Wishes」!

Nozomi:これ、弾きながら歌う曲じゃない(笑)。

●なぜ前作からコーラスがヤバいことになったんでしょう?

Komi:僕とRindaの2人で曲を考えていて、僕もディズニーやミュージカルが大好きなので、そういうものを入れていこうっていう感じで。ただ、やりすぎるとライブではコーラス出来るのが3人なので、再現できなくなってしまうんですよ。例えば音源で8声入れてしまったら…“Rinda無双”って言ってるんですけど(笑)。

●“Rinda無双”?

Nozomi:レコーディングの時にRindaさんが8本のコーラスを入れていて、私たちの中ではそれを“Rinda無双”と呼んでいるんです。

Rinda:最高で16声入れました(笑)。

●それもうEnyaやん!

一同:ハハハ(笑)。

●でも声がたくさん入ると、音楽にエネルギーが生まれますよね。

Rinda:そうそう、そういうのありますよね。

Nozomi:リードメロをコーラスで歌って、Rindaさんがフリーで歌うところを作ったりしたんですけど、そういう箇所はコーラスがしっかりしていないと成立しないんです。

●今作のツアーは見ものですね。

Komi:色んな意味で見ものです(笑)。

●歌詞についても聴きたいんですが、歌詞はEmaくんが大体書いてるんですよね? バンドの心境というか、メンバーチェンジ以降の気持ちが表れているような気がしたんですが。

Ema:暗いですか?

●うん、ちょっと(笑)。

Nozomi:前作もそうでしたよ。

Komi:だいたい暗い(笑)。

Ema:明るめにがんばったつもりなんですけど…。

●“トンネルの中で、出口の光が見えてきた状態”みたいな歌詞が多いかな。

Ema:暗いけど、希望はありますよね(笑)。今回はM-10「Catch Me If You Can」だけRindaが書いて、他の曲は全部俺が書いているんですが、オケが出来た時点で、適当な英語で歌うんです。そこから1つ聴こえたワードを拾って歌詞の世界を広げていく感じですね。妄想とかもあるし、現実じゃないことも入っています。

●作詞は楽しい? 難しい?

Ema:難しいですね。出来るまでのスピードは1時間くらいで、日本でもトップレベルくらいに速いんですよ。でも英語にしないと表現が出来ないというか。自信がなくて。語彙力があるわけでもないし、うまく人に気持ちを伝えるのが苦手なんです。英語だからなんとかいけるかなという感じ。

●歌詞では、結構バンドのことを書いてますよね。

Nozomi:M-9「Seize the Day」とかそうですよね。

Ema:あまりどんな歌詞を書いたか覚えていないんですけど…。

●「Seize the Day」は“一生諦めないと誓った日”という歌い出しですが。

Ema:あ、これはまさにバンドのことを書いてますね。

Komi:まだ明るい方です。トンネルの中の出口が見えるみたいな感じなので。でも前作のは本当に真っ暗です。

Nozomi:暗すぎて(笑)。

Komi:ホラー映画みたいな(笑)。

●ホラー映画て(笑)。最初の話にありましたけど、『COLORFUL』というタイトルは曲が出揃ってから付けたんですか?

Rinda:そうですね。Nozomiが考えてくれました。

Nozomi:タイトルや曲名は私が決めることが多いんですが、単語を探してきて。だから歌詞にない英語の曲名とかもあるんですけど、『COLORFUL』もそんな感じで付けました。バラエティに富んでいるアルバムだなと思ったので。

●確かにこのアルバムをひと通り聴いたら、“カラフルだ”と思う。

Rinda:“カラフル”の意味の色彩って、明るい方を想像しないですか? だけど1曲目のイントロや2曲目を聴くと、明るいって感じでもないじゃないですか。でもそこがミステリアスに感じて、俺は気に入っているんです。

●カラフルな音楽の幅は、さっきRindaくんが言っていたように、ずっと表現したかったことだったんですね。

Rinda:そうですね。2002年から始めて15年やってきて、1つのことを15年続けていくってなかなかのことだと思うんですよ。そう思って振り返った時に、“FAT PROPやっていてよかったな”って今いちばん思うし、それを『COLORFUL』で表現できたということがすごく嬉しいんです。

●うんうん。

Rinda:15年経ってこんなにおもしろいアルバムが出来たということが、自分に対して“まだまだやれる”と思えるし、“まだ自分の中の可能性が広がっているな”という自信が着きました。それで先ほども言いましたけど、あとから振り返った時に“こんなアルバムを作っていたんだ!”っていうのを思って聴くと、“リスナーも楽しんでくれるんじゃないかな”って思うんです。今回のツアーでは、そんなリスナーの顔を見るのも楽しみだし、“どういった感想を持ってくれるか?”というところも含めて、この15年をぶつけていきたいと思っています。

interview:Takeshi.Yamanaka
assistant:室井健吾

 

 

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