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GalapagosS

2010年代に生まれた、新たなビートパンクの鼓動がここから鳴り響く

2011年は2枚の作品リリースだけでなく、ヨーロッパも含むツアーで各地をまわるなど活発なライブ活動を続けてきた、GalapagosS(ガラパゴス)。彼らが前作『Black including all』以来、約1年ぶりに新作をリリースする。ライブで鍛えあげられたライブ感とバンドサウンドに、Vo./G.小林写楽の別ユニット・FLOPPYでも冴え渡る緻密なプログラミングが融合。80年代バンドブームを彷彿させるような疾走感に、遊び心溢れるテクノポップの要素が合わさり生まれた2010年代の新たなビートパンクがここに鳴り響いている。

「(オリジナルに忠実に)再現できることも、きっと面白いと思うんですよ。でもできなかったところがGalapagosSというか、自分なんだろうなと」

●今作はライブで盛り上がる感じを意識して制作されたそうですが、前作『Black including all』のツアーで受けた刺激もあったんでしょうか?

写楽:ツアーで他のバンドを観ていると、バンドっぽい感じがいいなと思えてきて。CDはCDでいいんですけど、ライブではお客さんが“来てよかったな”と思えるような曲をもっと増やしたいという気持ちがありました。

●ライブでより活きる曲を増やそうと思った。

写楽:前作のツアーを始めた当初はCDの再現という部分があったんですけど、ツアーの終盤には演奏がどんどん激しくなっていって。セットリストを組んでいる時も、やっぱり激しい方に寄っちゃうんですよね。そうなると“曲が足りないな”ということになってきて、だったら今回は最初からそういう曲を作ろうかなと。

●曲作りに向かう意識も変わったんでしょうか?

写楽:以前は“かっこいいことをやろう”という気持ちが多少あったんです。“こういうジャンルも押さえているんだ”って思われるようなアレンジを入れてやろうとかも考えていたけど、今回はあまり深く考えずに“出てきたものをやろう”という感じでしたね。

ゴキミ。:色々と考えて前作を作ったんですけど、今回はもうちょっとロックバンド寄りで“夏!!”っていう感じのものを出そうかなと。どうせなら、そこまで突き抜けた方がいいんじゃないかとは思っていましたね。

●夏を意識したということは、当初はもう少し早めに出す予定だったりも…?

ゴキミ。:まあ、そういう考えもあったんですけど…、色々やっている内にもう秋ですね…。

一同:(笑)。

●制作で手こずったりしたんですか?

ゴキミ。:でも前作よりは早かったですよ。曲数が多かったということもあって、前回はかなりカツカツだったんです。でも今回はライブで既にやっている曲もあったので、スムーズな感じでした。

●今回の制作に取り掛かったのはいつ頃?

新太郎:リリースに向けて動き始めたのが3月くらいで、レコーディングを始めたのは6月でしたね。動き始めた時点で既に、M-3「世界が君を待っている」とM-6「アンドロイドは電子意識で夢を見るか?」の2曲はできていて。その次にM-1「さらば青春の光」ができたんですけど、あとはもうギリギリで…。全曲が仕上がったのは結局、レコーディングの3日前とかでした(笑)。

●「アンドロイドは電子意識で夢を見るか?」は元々、写楽さんが個人活動用に作った曲だそうですね。

写楽:自分で言うのも何ですけど、“いい曲だからやりたいなぁ”と思って(笑)。バンドでやったらすごくバンドっぽくなるんじゃないかと思っていたら、実際にそうなったんですよね。元々は4つ打ちで、ファミコンの音だけを使ったような曲でした。

●それをここまでバンド寄りに変えたと。

新太郎:初めは方向性が見えていなくて、悩んだんです。そこで写楽さんが「バンド寄りにしたい」と言ったので、とりあえず“激しく”というキーワードが出て。そこから色々とアイデアを出していきましたね。

●この曲は鍵盤の音が印象的でした。

写楽:ピアノ音源にハマっていた時期でしたね。ちょうどその頃、FLOPPYのアルバム(『GREENWORLD』)を作っていて。そこで“ピアノを使いたいな”と考えていたことが、一貫して表れた結果なのかもしれない。

●ピアノ弾き語りから始まる「世界が君を待っている」のイントロは、今までにない感じがします。

ゴキミ。:これは僕が過去にパンクバンドをやっていた頃からあった曲なんです。元々のイントロは、ギターの弾き語りだったんですよ。そのままのアレンジで写楽さんにも歌ってもらおうかと思っていたんですけど、いつの間にこうなったのかわからなくて…。

写楽:最初にデモをもらった時に「ギターと歌から始まる感じで」と言われたんですけど、どっちも自分のパートだから嫌だなぁと思って(笑)。だったらピアノの打ち込みはどうだろうということで、作って聴かせてみたら“これでいいんじゃないか”となりました。

●この曲とM-2「奇跡な僕ら」は共にゴキミ。さんの作曲ですが、どちらもすごく爽やかで…。

写楽:爽やかですよねぇ。

ゴキミ。:でも狙って作ったというより、普通に作った感じなんです。僕はこういう曲がかっこいいなと思うので。

●歌詞も爽やかな曲調に合った、応援メッセージ的な内容ですよね。

写楽:応援メッセージですね。ここ数年で、“応援もしてみようかな”という気持ちになってきたんです(笑)。

●歌詞を書く上での心境変化があった?

写楽:3〜4年前は、“応援されたい! こういうふうに応援してよ!”という歌詞ばかりだったんです。でもみんなに応援された結果、最近はやっと“自分も応援していこう”と恩返しをする気になったんですよね(笑)。

●(笑)。以前からのテーマとしては、「さらば青春の光」のような“諸行無常感”があるんですよね。

写楽:GalapagosSでは最初から“何だかわからないけど、もの悲しいなぁ…”という歌詞を書いていますね。自分の中では海外を視野に入れていたのもあって、インストは除いてタイトルでは絶対に英語を使わないし、歌詞もできるだけ英語を使わないようにしていて。太宰治のような文学感を感じさせる歌詞を考えた結果、もの悲しくなってしまったというか。過去を振り返って“もう戻れないんだなぁ”とか、そういう歌詞が多いです。

●M-5「カリユガに咲く花」はそこから一歩先へと進んだような、“諸行無常、しかし進むしかない”というのがテーマだそうですが。

写楽:最近覚えた、もう1つのテーマです(笑)。悲しいだけじゃダメなんだと思って。GalapagosSをやってきて、そういうふうになったのかもしれない。

●FLOPPYでの創作活動とは意識が違う?

写楽:FLOPPYでは、ちゃんとした“作品”を作ろうという感覚があって。だから歌詞も物語調になっているんですけど、GalapagosSでは自分の気持ちをもっとわかりやすく作品にしようと。だからライブをやっている感覚とかが、そのまま反映されるんですよね。

●自分の気持が楽曲にも素直に反映されている。…という意味で言うと、M-4「バカなので」は?

ゴキミ。:“これこそ!”っていう感じですね。“僕らはずっと子どもなんだな”と思っているし、これこそまさに等身大の僕らなんじゃないかと思います。

写楽:しかも、この歌詞ではそんな自分を全く悪びれていないというのがすごくリアルだなと。たぶん、ちゃんとしたバンドの人なら“このままじゃいけない!!”っていうことを書くんだと思う(笑)。でもオイラはあまりそうは思わなくて、“こんなのでもいいや”と思っちゃうので。

●バカな子どものままでいいと(笑)。ニューウェーブっぽいサウンドも、好きなものが素直に出た結果?

写楽:そうですね。この曲を一番最後に作ったこともあって、素の部分しか出せなかったというか。オブラートに包むことができなかった(笑)。

●他はわりとシリアスな曲調が多い中で、この曲はちょっと異色ですよね。

写楽:この曲がなかったら、聴いた人は勘違いしちゃうかもしれない。“ちゃんとしているな”って思われちゃう。

新太郎:かっこよすぎるんですよね。だから、「こんなんじゃいけない!!」ということで(笑)。

●あえて逆に、ちゃんとしていない曲を入れた(笑)。

写楽:もし「バカなので」が入っていない状態で今作を聴いて“かっこいいバンドなんだ”という印象を持ったままライブに来られたら、実はちゃんとしていないことにガッカリされちゃうかもしれないので(笑)。

●そこを表現するために、こういう曲が必要だったと。でも“ちゃんとしていない”と言いながらも作品を重ねるごとにバンド感が増しているのは、ツアーを経て3人の結束が固まってきたからでは?

ゴキミ。:そこは変わらないというか…、普通なところがいいんじゃないですかね。家族みたいな感じで…とか言うと、すごく熱い感じになっちゃいそう(笑)。

写楽:“安心していられる場所…”みたいな。

ゴキミ。:“最高の、仲間…”。

新太郎:“最後は絶対にここへ戻ってくる…”。

●熱い言葉を重ねなくていいですから! (笑)。

一同:(笑)。

ゴキミ。:そういう熱い意味ではなくて、気を使わないという意味での“家族”ですね。GalapagosSはみんなで遊んでいる感じで、そこはずっと変わらないんですよ。

写楽:打ち合わせも3人で飲みながらしているんですけど、そういう場で誰かが急に「こういうのはよくない!」とか言い出したらちょっと嫌ですからね(笑)。

●ハハハ(笑)。3人ともが遊び心を持って、楽しみながら音楽をやっているというか。

ゴキミ。:何をするにしても誰も制限しないし、それがそのまま音や楽曲に出ていればいいんじゃないかな。だから今回のタイトルも、“ちょっとずつでも進んでいければいい(『Slowly But Surely』)”という意味なんです。

写楽:一気には行けないけど、少しずつ…ですね。

●制作自体は作品を経るごとに、スムーズになっていたりもするんじゃないですか?

ゴキミ。:でも次にまた別のコンセプトでやろうとなった場合には作り込む時間がかかるかもしれないし、どうなるかはわからないですね。

写楽:GalapagosSは、何が起こるかわからないバンドなので。“これをやるために組んだ”というわけじゃないし、“こういうバンドだ”っていうイメージを持っている人も少ないと思うんです。だから「こんなことをやってみようよ」っていうところから急に変わっていくかもしれないし、その時は苦労するかもしれないですね。

●とはいえ、ボサノバ感を取り入れたM-7「それから」すらも、GalapagosSらしい曲になっていたりして。

写楽:それがすごく悔しいんですよね。もっとボサノバっぽく、もっとパンクっぽくしたかったので。自分の中では“ボサコア”っていう新しいムーブメントを作ろうと思って、“これはいける!”という感じだったんですけど…。

●実際はあまりボサノバを感じない仕上がりに…。

写楽:でもコード進行は、ボサノバっぽいんですよ。…実はオイラもボサノバをそんなに知らないんです。

●実は(笑)。でも詳しくないからこそ本来の“ボサノバ”になりすぎず、オリジナリティが出たのでは?

写楽:それはそれで、バンドとしてはとてもいいのかもしれないですね。(オリジナルに忠実に)再現できることも、きっと面白いと思うんですよ。でもできなかったところがGalapagosSというか、自分なんだろうなと。

●楽曲の幅は確実に広がっている気がします。

写楽:前作は幅を広げようと思って広げたんですけど、今回はその中の1つから自然に広がったという感覚ですね。自分たちは今がちょうど変化中で、これからどうにでもなれるんじゃないかと思っていて。

●その変化をツアーではリアルに感じられる?

写楽:CDだけではそんなにわからないかもしれないけど、ライブを観てもらえば変化がすごくわかると思います。それにこれからライブをやっていく中でも、また変わっていくと思うんですよね。

新太郎:今作から何曲かは既にライブでもやっているんですけど、自分の中でもすごく手応えがあって。今回のツアーは前回よりも激しい感じで、自分たちが思っていた方向に上手く行けるんじゃないかと思います。

ゴキミ。:今回のツアーは初めて行くところもあって、すごく楽しみなんです! 特に米子は人生初なので、どんなスナックがあるのか…。

●各地のスナックツアーもするわけですね。

写楽:一応、誤解は解いておきますけど、(スナックに行くのは)主にゴキミ。くんですよ。

ゴキミ。:そう言われると、ライブが終わったら僕は絶対にスナックへ行っているみたいですけど、そんなことはないですからね!

●わかりましたから(笑)。

ゴキミ。:僕はずっとツアーをしていたい人なので、ツアーに出るといつも東京へ帰りたくなくなるんですよ。今はとにかく、ツアーが楽しみですね。

Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M

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