音楽メディア・フリーマガジン

HEY-SMITH

魂を受け継いだ5人が鳴らす音に我々は狂喜乱舞する

昨年5月にアルバム『Free Your Mind』をリリースして全国ツアーを大成功させ、今年も2月にDVD『Our Freedom』をリリース後、全国各地の大型フェスや盟友coldrainとSiMとの“TRIPLE AXE TOUR 2012”の他、各種イベントやライブなどで大暴れしているHEY-SMITH。感情やキャラクターが溢れ出るそのステージでたくさんの音楽ファンを魅了し続けている彼らが、殺傷能力の高い両A面シングルを完成させた。1stシングル『Download Me If You Can / Goodbye To Say Hello』は、タイプは違えど彼らの内面が瞬間的に伝わってくる瞬発力のある2曲とカヴァー曲「Surfin' U.S.A」という濃い3曲が収録。バンドとして、そして人間としてますます磨きをかけた彼ら、12月には恒例の“OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2012”も控えており、“楽しむ”ことに邁進する5人はもはや誰にも止められない。

INTERVIEW #1
「コードを弾いたらもう“そいつの勝ち”というような位置に行きたいなって、最近すごく思うんですよね」

●去年に引き続き、今年も充実した日々を送ってこられましたよね。春は“TRIPLE AXE TOUR 2012”があり、夏はフェス、先日も九州に行って。忙しかったですか?

猪狩:忙しかったですね。今振り返るとけっこうやっていますね。

●印象に残っているライブはありますか?

Task-n:僕はフェスですね。2年前に“FUJI ROCK FESTIVAL”のROOKIE A GO-GOに出してもらったんですけど、今年はホワイトステージで。ROOKIE A GO-GO出たときは他のバンドを観て、ステージに立って、また他のバンドを観て。でも今年は出番が1番目だったので、ステージに立った後で客として他のバンドを観たんです。そうしたら“こんなにデカかったんや!”と。

●“俺たちはこんなに大きなところでさっきまでやっていたのか”と。

Task-n:ものすごい感動が湧き上がるというか。

●猪狩くんは?

猪狩:フェスは上げるとキリがないんですけど、いちばん最近の話だと九州ツアーかな。

●HOTSQUALLのツアーに帯同したんですよね。

猪狩:そうです。STOMPIN' BIRDとSHANKと一緒にまわったんですけど、やっぱり年代的にもHOTSQUALLとSTOMPIN' BIRD vs HEY-SMITHとSHANKみたいな。

●確かに世代対決みたいなところはありますね。

猪狩:しかも前日に、HOTSQUALLに「世代を飛び越えてかかってこいよ」みたいなことを言われたんです。普通に飲んでいるタイミングでそういうことがあって内心メラメラと。俺は、自分の経験も上がってきたし、ツアーに出たりライブをたくさんやっていくと、そこまで感動するようなことは減っていくんだろうなと考えていたんですよ。

●慣れじゃないけど。

猪狩:そう思っていたんですけど、この4バンドでの九州ツアーは全然違って、本当に初めてのツアーみたいな感覚で“バイバイするのが嫌!”みたいな。“終わるのが寂しい!”って。最終日は福岡だったんですけど、HOTSQUALLがリハーサルをやって楽屋に戻ってきたときに、「リハーサルが終わったちゃったよ…」と(笑)。

Task-n:言ってた言ってた(笑)。

●先輩がそんなことを(笑)。

猪狩:何か1つのことをやり終えるたびに終わりに近付くことを、みんなが寂しく感じていて。

Task-n:あのツアーは本当に濃かったよね。

猪狩:すごくバチバチでやれたし、この年になって、あんな感動が味わえるなんて、思っていなかったです。

●ブログにも“今は1日1日を無駄に過ごしたくない”と書かれていましたよね。まさに1分1秒まで充実した日を送れたんですね。

猪狩:寝ようとして寝なかったですもん。電池が切れるまで、いっぱい話して、「もう無理!」っていうところまで、毎日一緒に過ごしました。バンドを組む前からHOTSQUALLとSTOMPIN' BIRDのファンだったということもあると思うし、SHANKはバンドを組んでいちばん最初にツアーでまわってもらったバンドなんです。そんな想い入れのある横の繋がりと大先輩、しかも大先輩からは「おい! この野郎!」みたいに言われて、燃えまくったんじゃないですかね。

●勉強することも多かったんでしょうね。

猪狩:もちろん。ライブはかっこいいから当然好きなんですけど、人間力というか。俺らは体調の悪いメンバーもいたんですけど、「どうしたん?」と一発で向こうが気付いて声をかけてくれて。「体調を崩しているんですよ」と自然に話をしたら「大丈夫か? いけるか?」っていうメールが毎日来るんですよ! もうね、その辺がね、好き。

●ハハハ(笑)。仲が良いのにガチでというのがいいですね。

猪狩:僕が言うのはおこがましいかもしれないですけど、たぶん向こうが僕らのことを対等に見てくれたんだと思うんですよね。“後輩にこういうことを教えてやろう”とかよりも、すごく対等にしゃべらせてくれる感じがあって。言いたいことを言える環境を作ってもらったし、訊きたいことを訊ける環境を作ってくれたし、先輩の方から受け入れてくれたことがデカいと思うんです。俺は後輩をそこまで受け入れるキャパはまだないですね(笑)。“でっかいな〜!”と思いました。

●自分たちのライブが今年1年で変わってきたと感じる部分はありますか?

猪狩:どうかなあ?

Task-n:常にがむしゃらなのは変わっていないですよ。

猪狩:バンド全体のことは分からないんですけど、個人では“上手く見せよう”とか“上手く演奏しよう”とかを考えなくなりましたね。例えば“TRIPLE AXE TOUR 2012”を一緒にまわったSiMやcoldrainの演奏はすごく堅いし、観ていてもただ単に演奏能力の面ですごく気持ちいいんですよね。3バンドの中では俺らが断トツで下手だったし。

●そうかなあ?

猪狩:俺はそう思いますよ。

Task-n:まあ、そうでしょうね(笑)。

●下手というか、タイプが違うんだと思う。

猪狩:そう感じたときにものすごく練習したんですけど、俺らはガチッと演奏がタイトにまとまったところで別に良くなかったりするんですよね。演奏がいい=ライブが良くなるというわけじゃなくて、俺としてはタイトにやろうとするよりも「俺が弾いているから聴いといて?」みたいな。ミスっても上手くいっても俺だから、お手本みたいなギターを弾くことをやめちゃっている気がします。

●それは今年に入ってから?

猪狩:そうですね。以前までは、もう少しちゃんと弾こうとしていた気がしますし、弾けることがかっこいいことと結び付いている部分があったんです。

●バンドマンをやっている限りは、1回はそういうところを通りますよね。

猪狩:でも、弾けていてもかっこ悪いやつを観たり、弾けていなくてもかっこいいやつを観たときに、俺は“弾けていなくてもかっこいいやつが好き!”って思ったんですよね。

●なるほど。

猪狩:そういうやつって、1曲弾いたらかっこいいんじゃなくて、一発Dコードを弾いただけでもうかっこいいんですよね。俺はそういうギタリストになりたいと思ったんです。上手く縦を合わせるギタリストというよりは、コードを弾いたらもう“そいつの勝ち”というような位置に行きたいなって、最近すごく思うんですよね。

●HEY-SMITHの歴史から見ても、そういう心境になったのは初めてなんですか?

猪狩:ずっとあったのはあったんですよ。

Task-n:より明確になったというか。

●“俺らはこれでいいんだ”って?

猪狩:そうです。昔はうやむやにしていたんですよ。「だからって、かっこいいとかかっこ悪いに繋がるわけじゃないんやろ?」って。でも、いざ練習してできるようになったときに、ちゃんと確認した上で“うん、これは違う!”と思えたというか。そういうバンドを結構観ましたし。

●そういう意味では、STOMPIN' BIRDとかは演奏の1つ1つから人間味がほとばしっているというか“俺、生きています!”みたいな感じがすごくかっこいいですよね。

猪狩:そうそう! あの感じです! あれが好きです!

INTERVIEW #2
「歌詞を見ないとある程度の喜怒哀楽を知ることは難しいと思うんですよ。でもこの曲には、言葉がなくても伝わる部分があるような気がした」

●今回両A面シングルがリリースとなりますが、シングルは自身初なんですよね。

猪狩:そうです。趣味みたいに曲作りをしていて、制作期間も特に設けていないので「曲がたまったらアルバムを出そうぜ」というくらいの感覚でいつも作っているんです。それで、M-1「Download Me If You Can」がいちばん最初にできたんですけど、この曲ができたときに自分的に理想に近い曲だと思ったんですよ。

●理想というと?

猪狩:好きな要素が全部入っていて、もしかするとちょっと伝わりにくいかもしれないけど、俺は渾身の曲ができたと思っていて。普段だったらシングルにするとかアルバムのパイロットソングにするのは“どうなんだろう?”と迷っていたかもしれないようなタイプの曲なんですが。

●ポップやキャッチー、もしくはポジティブみたいな一般的な価値観とは違うところにこの曲のポイントがあるということ?

猪狩:そうですね。普通に“売れそう”だとか“売れなさそう”だとか“らしくない”とか。いろんな要素でなんとなく“これはシングルにするような曲じゃない”と思ったし、レーベルにも「これがシングルのパイロットソングなの?」って言われましたもん。でも俺は、この曲の持つ意味が好きですし、本当に渾身の曲ができたので、初めての感覚で“売れても売れなくてもいいや”って思ったんですよね。

●それは初めての感覚なんですか?

猪狩:そう。「この曲はいいもん」って言える。そういう曲を一度シングルで出してみたかったんです。売れるか売れないかも分からないし、売れても売れなくてもいいような曲。

●でもめっちゃ好きだし、渾身の出来だと。

猪狩:うん。そういう曲をシングルにしてみたかった。

●今作は歌詞を見ずに聴かせていただいたんですが、タイトルと曲調だけでも超メッセージフルなんですよね。HEY-SMITHの楽曲はタイトルでスパーンと入ってくるようなものが多いと常々思っているんですが、この曲は“怒り”に近いメッセージがすぐに伝わってくる。

猪狩:そうですね。

●音楽のおもしろいところって、そういうネガティブな感情を曲にしたとしても、ライブとかだとワッと盛り上がるじゃないですか。“怒り”が込められていたとしてもシュンとしないし。それってすごくいいことだと思うんですよね。

猪狩:歌詞を読んでいなくても怒りの感情が伝わると言ってくれたじゃないですか。まさにそうで。そういう曲ができたからシングルにしたいと思ったんですよね。“なんとなく分かるやろ?”っていう。普通は歌詞を見ないとある程度の喜怒哀楽を知ることは難しいと思うんですよ。でもこの曲には、言葉がなくても伝わる部分があるような気がしたんです。耳じゃなくて胸に何かが来るなって。

●すごく気になっていたんですけど、曲が先にできたんですか? それとも歌詞が先ですか?

猪狩:曲が先です。

●曲ができた時点から、このマイナーな雰囲気や怒りがあったんですか?

猪狩:そうですね。俺はよく曲を作ろうと思ってもギターを弾きながら寝ちゃうことがあるんですよ。この曲は、寝る前に“いいリフができたな”と思って弾いていたんです。その後に寝て、起きたらもうできていたんです。

●え? どこに?

猪狩:頭に。

●間奏で展開が変わるところも?

猪狩:あそこはまだできていなかったですけど、そういうノリが間奏に入るというのはあったんですよ。だからスタジオに入ったときに1から説明して、メンバーは意味が分からなかったとは思いますけど、「ここにこういうのが入るから」と言って。

Task-n:スタジオで再現して。

猪狩:本当にすぐにできたもんなぁ。

●リフだけでスタートしたのに、起きたら全部できていたんですか…。

猪狩:たまにあります。“ラッキー!”って思う(笑)。

●他人事か(笑)。

Task-n:2日間連続でスタジオに入ったとき、1日目は何もできなかったけど2日目に行ったら曲ができていることはありますね。「昨日は何もなかったのに?」みたいな。1日目の夜にリフを思い付いて、そのまま寝ちゃって、起きたら全尺ができていて、スタジオに来たら「できました」と。

●めっちゃラッキーじゃないですか。

猪狩:だからラッキーなんですって(笑)。まさに降ってきたんです。でも“こういうことを歌いたい”っていう気持ちはあったんですよ。

●前々から。

猪狩:それが、まるっきりそういうメロディとリフで降りてきたので、“前から考えていたことを歌詞にして乗せよう!”と、フレーズがちょこちょこあったのでそれをバンバン当てはめて、言いたいことばかりを書いて。

●歌詞も含めて出来上がるまでがすごく早かったんですね。それともう1つのA面、M-2「Goodbye To Say Hello」も聴いたらすぐに感情が伝わってきますよね。

猪狩:これもそんなに時間はかかっていないよな?

Task-n:そうだね。制作の最後辺りでできたよね。

猪狩:もっともっと楽曲の候補はいっぱいあったんですけど、Task-nが弾き語り的な感じで丸々1曲持ってきたんですよ。最初、個人的にはパッとしなかったんですけど、一部分だけすごくいいと思うメロディがあって、“そのメロディを歌いたいな”と。これはいつでも会えると思っていた人が、急に会えなくなっちゃう歌なんですけど、そういう現実の記憶がすごく鮮明なときで、この曲に合う感受性があったんでしょうね。

●具体的にそういう出来事があったんですね。

猪狩:そうなんです。そのすぐ後にTask-nがこの曲の元となるメロディを持ってきたので、“これは俺の気持ちにぴったりだな”と。

●この曲も同様に、自分の気持ちと曲の雰囲気が近いところにあって形になったと。

猪狩:たぶん「Download Me If You Can」と一緒で、メロディを聴いたときにその感情がブワッと来たので、そのままやりました。

●HEY-SMITHのライブは音楽的に云々よりも、何を考えているかだとか何をしたいかというものがすごく見えやすいと思うんですよね。音楽から人が見えてくる感じというか。そういうライブから受けていたイメージとこの2曲はすごくリンクするんですよね。

猪狩:嬉しいですね。

INTERVIEW #3
「先輩のステージを観て楽しそうだなと自分が思ったから、“バンドは楽しいで!”っていうことを発信したかった」

●ところで以前から訊いてみたかったことがあるんですけど、HEY-SMITHはどうやってホーンアレンジを考えているんですか?

猪狩:ホーンがギターリフみたいにあるときとないときがあって、これは先に作った者勝ちです(笑)。僕はギターが好きなので断然ギターリフを推します。

●ハハハ(笑)。バンドでスタジオに入って曲を作っていくときに?

猪狩:そうですね。ホーンリフが先にあった場合は従うしかないし。

Task-n:大事にしたいところはそこですよね。ホーンがあればホーンを大事にして音を当てていく。ギターがあれば、ギターを大事にしてホーンを当てていく。

●ホーンがいるバンドでも、ほとんどホーンが入っていない曲も当然出てくるじゃないですか。

猪狩:ありますあります。俺らもバンバンあります。

●それはライブを観ているとよく分かります(笑)。

猪狩:踊っているからね(笑)。たぶん、みんな自分が好きなんだと思うんです(笑)。やっぱり自己主張をしたい。でもそれ以上にかっこいいやつが出てくると、自分が負けたというだけで曲としていいものでいこうと思う。

●そこは潔く。

猪狩:俺もホーンを持ってこられたとき、耳から離れないことがあるんですよね。そうしたらやっぱりそういう曲を作りたいと思いますし。

Task-n:割り切っているんですよね。やっぱり“これはそんなに良くないな”と思いながら持って行くと、実際に「あまり良くないな」となって、自分がいいと思っていたものはスッと通って。そういう物差しが似ているというか。

●エゴを伴わないというか。

Task-n:そこで未練みたいなものはないですね。

猪狩:もしくは逆にスーパーエゴかですよね(笑)。他人に興味がないし、自分が良ければいい。

●ハハハ(笑)。なるほどね。

猪狩:俺はそっちだと思う。

Task-n:他のメンバーも“猪狩が良ければいい”という部分があります。「ここは譲れねえぜ!」と言ってぶつかることはないですね。

猪狩:「じゃあOKのやつ考えてくるわ」みたいな。

Task-n:誰かが「あかん」と言ったら、あかん感じ。

●おもしろいバンドですね。

猪狩:そうなんですか?

●多くのバンドは、もうちょっと肩を組む感じになるような気がする。

猪狩:俺たちは肩を組んでいるという感覚はないですね。俺がこの団体にいる。俺は自分の思ういちばんいいプレイをする。そういう感じで“それぞれがそれぞれの足は引っ張るなよ”と思っているんじゃないですかね。

●ある意味、大人ですね。

Task-n:自然と自分の幅を分かっているんでしょうね。僕はフロント陣に見栄えでは勝てないですし、動けないですけど、だったら音でしばこうとか思います。ドラムだからみんなまとめて殺しに行くという攻め方ができますし。

●殺すって(笑)。

Task-n:それはフロント陣にはできないことですからね。フロントが横とか上の移動で華やかに見せるなら、僕は少し後ろから援護射撃する。でもダメージはデカいよっていう(笑)。そういう立ち位置が好きなんですよ。

猪狩:そうやんな。Task-nはそれが好きやんな。

Task-n:MC中、僕は水を飲まずにずっと叩いているんですけど、その間だけは僕の時間なんですよ。HEY-SMITHの時間ではありますけど、他の人が入って来られない僕の時間なんです。

●お、なるほど。

猪狩:「曲が終わったらドラムを適当に叩いてほしい」ということは言っているんですよ。普通にビートが始まって、チューニングのために後ろを向くじゃないですか。スポットライトを浴びて勝手に叩いているときにおもしろいフレーズを入れてきたら、俺はチューニングしながらも“おお、いいねえ!”ってなりますもん(笑)。そうなったらTask-nがまたいらんことをして、“それはあかんわ”ってなる。

●ハハハ(笑)。ライブ中に実はそんなことが行われていたのか(笑)。

Task-n:その時間が楽しくて楽しくて。

●それぞれに自己主張できるところがあるんですね。

Task-n:「ここで出るから他はいらない」とかね。そんな自分の時間の中でも、お客さんを動かせられるときと動かせられないときって、すごく明白にわかるんですよ。動かせられていないときはやっぱり“あかんかったな”と自分で思いますし、そういうところで僕はけっこう燃えています。もちろん曲中も燃えていますけど。

●HEY-SMITHのライブは、感情が伝わってくるところ、メッセージ性の強いところ、逆に超ふざけているところ、キャラクターが見えるところ…そういう色んなところがあっていいなと思うんです。真面目だけじゃなく、でもふざけているだけでもなく、伝えたい部分がちゃんと出ている。すごく印象的だったのは“TRIPLE AXE TOUR 2012”のファイナル、赤坂BLITZでバンドをやっている子をステージに上げていたこと。あれを見て感動したんです。「ここから見える景色を忘れるなよ!」と猪狩くんが言っていて。あれは、自分たちが先輩たちから受け継いだ大切なものを伝えていこうというメッセージだと思ったんです。

猪狩:そうですね。僕は“京都大作戦”に初めて行ってステージ横でライブを観ていたときに“ここでギターを弾きてえ!”って思ったんですよね。正直に言うと、行くまでは大多数の前でやりたいという気持ちはあまりなかったんです。

●あ、そうだったんですか。

猪狩:万人規模でやりたいとかドーム公演をやりたい気持ちなんて全然なくて。TOTALFATのG.Kubotyに誘われて観に行ったんですけど、「今から俺がギターを弾くのを袖で観とけ」って言われたんです。で、観てみたらKubotyがくそかっこよくて“俺もここでギターを弾きたい!”と思ったんです。だからBLITZでは、先輩のステージを観て楽しそうだなと自分が思ったから、“バンドは楽しいで!”っていうことを発信したかったんです。

●そういう体験があのメッセージに繋がっていると。

猪狩:“TRIPLE AXE TOUR 2012”は特にそうで、同い年で、みんなタメ口でしゃべっていて、「今日は先輩がいるからこれをやっておかないとあかんで!」みたいなルールも何もなくて、飲むときはツレですし、ライブを観ていたらファンですし、ただ単に楽しかったんです。好きなバンドと普通に酒を飲めるというのがすっごく楽しくて、バンドっていいなと思って、“もっとみんなもやったらいいのに”って。

●そうか。もっと言うと“メッセージ性”みたいな堅苦しいことじゃなくて、思ったことをそのまま発したと。

猪狩:うん。あのときは“こんなに楽しいのに”っていう感じでした。やっぱりそのときに思っていることをMCでも言っちゃいますし、思ったことは言いたいですね。

INTERVIEW #4
「ギリギリだと思うんです。そういうやつらが来る場所なので、やっぱり感情が溢れて当たり前だと思います。爆発させに来たらいい」

●今回、ツアーは5ヵ所なんですね。

猪狩:そうですね。ちょっと短めですけど。

●東名阪以外に佐賀と山形が入っているのは、何か理由があるんですよね?

猪狩:前回『Free Your Mind』のツアーを60本やっておきながら(笑)、佐賀と山形だけ行けなかったんですよね(笑)。

●都道府県の数より多い本数をやっといて(笑)。

猪狩:佐賀と山形に友達がいなかったんです。

●え? そういう理由?

猪狩:はい。“誰に頼んだらええんやろ?”みたいな。佐賀と山形のライブハウスに「出させてください」っていう電話をしたことがなかったんですよ。それにいきなり行っても…。俺はそういうのがちょっと微妙で。

●ハハハ(笑)。

Task-n:どこかで会っているとかがないとね。

猪狩:1回挨拶をしているとか。今までずっとそういう場所に行っていたんですよ。同じ都道府県で何個もやっていたのは、友達がいたからなんです。友達が「ここに来て」って言ったら「じゃあ行くわ」って。それが今回、やっと行けることになって。当初は東名阪のツアーにしようと思っていたんですけど、やっぱり前回の申し訳なさもあるし、佐賀の人が福岡に来たり、山形の人が仙台に来たりして、後から「うちの県にも来てくれ」って言われたんですよね。「じゃあ行こう」と。求めてもらえたというか。

●本当に人との繋がりでバンドをやっているんですね。

Task-n:そうですね。だから今回は佐賀よりも下の人たちは佐賀に、山形よりも上の人たちは山形に来てほしいです。

●そして12月には“OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”が今年も開かれるわけですが、HEY-SMITHにとって一大イベントですよね。

猪狩:俺にとったら“TRIPLE AXE TOUR”状態で、みんな一緒にツアーをまわったり対バンしてきたバンドばかりなので、「こんなにおもしろいやつらが集まったら絶対おもしろいでしょ!」みたいな感じ。

Task-n:どう考えても裏でお酒の匂いがプンプンしますね(笑)。

●楽屋でグチャグチャになっているという話は聞いています。

猪狩:やっぱりはしゃいでほしいんですよね。出演するバンドに楽しいと思ってほしいんです。どインディーズなイベントなので大きいフェスに出ていないような連中もバンバン出ますし、そういうやつらに「フェスに出たら酒を飲み放題やし、出番が終わったらずっと友達と酒を飲んでいていいねんで」って伝えたいんです(笑)。

●“楽しい”ってHEY-SMITHらしいというか、いちばんピュアな動機ですね。

猪狩:“楽しい”っていいですし、去年も一昨年も、ライブを観ていたら俺の横で「今日楽しいなあ」と言って泣き出したやつがいたんですよ。

●お客さんが?

猪狩:いや、バンドマンです。「めちゃめちゃ楽しいわ」って。それも1人や2人じゃなくてけっこういたんです。

●めっちゃいい話だ!

猪狩:楽しくて泣き出すとかヤバいじゃないですか。その姿を見て俺も“そう!”って思ったし、楽しくて泣けるなんて最上級だと思っているので、今年もそこを目指します。

●いいことですね。僕は震災後、ライブハウスに行って感じることがあって。ライブハウスで感情の糸が切れたような人がすごく増えた気がするんです。

猪狩:それは俺も感じていますよ。

●日常生活では感情を我慢する部分も多いだろうけど、ライブハウスではおかしくなれる。全員がハッピーではないのかもしれないけど、暴れ狂っておかしくなっている人もいるかもしれないけど、ライブで我を忘れている人を見ると涙が出そうになるというか。ライブハウスはそういう場所なんだと改めて認識したんですよね。

猪狩:お客さんにもそういう人が増えていますけど、バンドマンにも増えていて。みんなギリギリなんですよね。金があるやつなんかたぶん居ないし、できるだけバイトを入れてツアー費を稼いで、ギリギリなんですよね。というか、ギリギリアウトですよ(笑)。みんな感情もギリギリのところに居て余裕なんてないですから、溢れますよね。たぶん客もなけなしの2500円を払って、ドリンク代も払って、ギリギリだと思うんです。そういうやつらが来る場所なので、やっぱり感情が溢れて当たり前だと思います。爆発させに来たらいい。

●今年も思いっきり楽しむと。

猪狩:もしかしたら人に迷惑をかけることだってあるかもしれないけど、ぶっちゃけ俺は“それでもいいやん”と思っていて。

●猪狩くんはそういう人ですよね(笑)。

猪狩:周りのやつらが許してやれって思うんです。もちろん人を殺すとかはダメですよ。みんなが共有できる道徳があって、ギリギリのやつらが来ているんだから、ちょっとはみ出ることもありますよ。

●そうでしょうね。

猪狩:そんなギリギリのやつなんだから、受け入れる側が幅を広げてやってほしい。「そいつはギリギリなんだから許してやれ」って。俺はそういう場所でありたいと思う。自分が勝手に何をやってもいいような気持ちになれる場所として置いておきたい。

●聖域というか。

猪狩:そうですね。自分もそうだったし。俺も、好きなバンドのステージに上がって殴られたことがありますから(笑)。

Task-n:そうしたくなっちゃうなら仕方ないよね(笑)。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M

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