夢見がちなダーティ・サーティを中心に地味な快進撃を続ける“テクノロック界の四次元殺法コンビ”ことHONDALADYが、通算11枚目のニューアルバム『ON PATROL』をリリースする。現在の2人体制になってから10年目にして10枚目という節目の前作『HONDALADY』を経て、彼らが至った境地は「あなたに叱られたい…」だった!? 真面目なのかフザケているのかよくわからない不思議なスタンスで、様々な音楽を取り入れつつ独自の進化を続ける2人が、リスナーの心の闇をそっと照らすべくご近所をパトロール。そう、きっとあなたも叱られたいはず…?
●前作『HONDALADY』は現在の2人体制になってから10年目にして10枚目のアルバムというメモリアルな作品だったわけですが、その次に取り組みたいことは見えていたんですか?
マル:メンバーと(レーベルの)社長が見ている前でこんな話をするのはアレなんですが、まるでヴィジョンがなかったんですよ(笑)。
Die:ハハハ(笑)。でも、それはわかってたよ。
●わかってたんだ(笑)。
マル:無理矢理“10周年”というエポックメイキングな意味を持たせて前作を作ったことで、それなりに手応えは得ていて。燃え尽き症候群じゃないですけど、そこから「次は何をやろうか?」という話になった時に何も浮かばなかったんです。
●前作での達成感があったと。
マル:ありましたね。いつもは作った直後にはもう次に何がやりたいかというイメージが見えているんですけど、今回はそれがまるでなかったんです。あと、前作をリリースして一段落してから、お互いに別のことを始めたんですよ。DieちゃんはDieTRAXとして、僕は別のバンドでそれぞれに1枚ずつ作品を出したりもして。それがカンフル剤的なものになって何か変わるかなと思っていたんですけど、たいして変わらず…(笑)。でも「そろそろ次の準備をしなきゃね…」ということで、2人でどうしようかと話し合うところから今回は始まったのかな。
●イメージはない中でも、とりあえず新作に向けて動き始めたと。
マル:バンド活動を続けていく上で「年に1枚出すというのはマストだな」というのは、レーベル側も含めて僕らの中で見解が一致しているから。それも念頭にあって曲作りを始めてから、最初にできたのがM-2「叱られたい」だったんです。
●今回は「あなたに叱られたい…。」というのがキャッチフレーズなんですよね。
マル:叱られたいんですよ(笑)。大人になると、叱られることが少なくなってくるから…。この曲に関してはこれまでHONDALADYで掘り下げてきた、フォーキーなスタイルやあまりキラキラしていない世界観をピックアップしてみようと。今までのものを進化させた形がこれかなというところはありますね。
●タイトルも含めて、キャッチーだとは思います。
マル:できあがってみたら意外とキャッチーだったので、リード曲にしてしまおうと。
Die:歌詞を見ると、すごいんですけどね。「これって放送禁止用語じゃないの?」っていう言葉が…(笑)。
●この歌詞はどんなイメージで書いたんですか?
マル:僕は横浜出身なんですけど、曙町といういわゆる赤線地帯にある学校に当時通っていて。そのあたりの情景が思春期に焼き付いていたので、そこからイメージをどんどんふくらませていって歌詞を書きましたね。
●歌詞にある“蔑んだ目で見られたい”といった欲求が、マルさんの中にもあるんでしょうか…?
マル:ハハハ(笑)。…極度のMなのかもしれない(笑)。
Die:歪んだ性癖が…(笑)。しかもそれを歌詞にしてキャッチーなメロディに乗せて、みんなに発表するっていうのがすごいよね(笑)。
●すごいと思います(笑)。
マル:10年前に出した『東京VINYL』というアルバムの中に「アドアド」という曲があって、そこでは“憧れられたい”と歌っているんですよ。今回の歌詞を読んだウチのスタッフからは「“憧れられたい”が10年経つと、“叱られたい”になるんだね」と言われました(笑)。
●ハハハハハ(爆笑)。“憧れられたい”の進化形が“叱られたい”だったと(笑)。
マル:『JUNGLE☆LIFE』を見ていても、ここに載っているバンドのほとんどより僕らのほうがもう世代が上なんですよね。そこで僕らが愛だの恋だの歌っていられないなというところから、(歌詞のテーマが)生活の悲壮感になってきて。そうするとだんだん、叱られたい方向に行くんですよ。生活からにじみ出てくる“ブルーズ”というか。それが「叱られたい」で形になったので、やっぱりここだろうと。ここをどんどんふくらましていこうというところから、新しい曲が少しずつ出てきた感じですね。
●サウンド的なものではなく、精神的な“ブルーズ”ですよね。
マル:ただ単にブルーズをやっても、トンチが利かないというか。それだけだと僕らなりのオリジナリティが出ないと思うから、サウンド面では興味があるものをどんどん取り入れるようにはしていて。古いものも新しいものも含めて、ロックやダンスミュージックの中からチョイスしているつもりです。
●自分たちにとっての新たな要素を取り入れようとはしている。
マル:そこはやっぱり課外活動が大きいと思います。DJだったり別のバンドでの活動から持ってくるものが、バンド内に活気を与えている気がするから。
●DJの人って、常に未知の音楽にアンテナを張っているものですからね。
マル:自分がプレイすることもそうだけど、その周囲にいる人たちのバイタリティやアイデアに気付かされる瞬間が多いんですよ。今思うと、DJから学んだことが結構ある気がしますね。たとえば選曲にしても、全部が4番バッターみたいな曲を選んでも盛り上がるわけじゃない。ヒット曲を連発していればいいわけでもないし、だからといってマニアックな方向に行き過ぎるのも違う。そこにいる人たちを見ながらやらなきゃいけないものだと思うので、そういうところは上手くバンドにも還元できている気がします。
●確かに作品でも全てがキラーチューンだとまとまりにくいわけで、そこのバランスも考えながら曲を作っていったんでしょうか?
マル:何曲かできあがったタイミングで、「あとはどうしようか?」という話し合いをしましたね。そこで「こういうのがあるといいんじゃない?」という感じでどんどん肉付けしていって、1枚の作品にまとまりました。
Die:まず最初に「叱られたい」があって、次にM-3「ふるさと」ができた後にM-6「ファイナルステージ」が形になって。そこからM-1「PATRAVER」や中盤あたりの曲を作っていった感じですね。最後にできたのが、M-7「RAMO」でした。
●それがそのままラスト曲になったと。この曲は中島らもさんに捧げているんですよね?
マル:僕が大好きなんですよ。“生きる道標”というと大げさですけど、そういう部分で思春期にすごく影響を受けていて、それを形にできないかなと。
Die:HardfloorのRamon Zenkerから来ているのかなと、僕は思っていました(笑)。
マル:パンクっぽい曲だから、ラモーンズにもかかっているよね。…と、色んなものにかかっています(笑)。
●ルーツを感じさせるものとしては、M-5「Dirty30」ではレゲエやスカの要素も出ていますが。
マル:レゲエやスカは自分の根元にあるものなので、それを上手く形にできないかなと。Major Lazer(DiploとSwitchというエレクトロ/クラブ系の最注目プロデューサー2人による“デジタル・レゲエ”ユニット)が大好きで、ああいう下品なダンス・ミュージックみたいな感じでワーワー言えるノリにしたくて作った曲ですね。
●「Dirty30」というタイトルは、自分たちに向けられていたりする?
マル:若い女性や若者たちに上手いように翻弄される中年の歌ですね(笑)。「自分、頑張れ!」みたいな(笑)。
Die:翻弄されているんだ(笑)。僕は、今流行りの格差婚で頑張っている人たちへの応援歌的なイメージなのかなと。30代半ば〜後半くらいの男性が行く婚活パーティーって、相手の女性はだいたい20代らしいんですよ。でもそこで20代の女性を上手く捕まえたとしても、それはそれで大変だっていう…。それを歌にしたんじゃないかな?
マル:おお…! すごい振り方をするね(笑)。
●ハハハ(笑)。実際はどうなんですか?
マル:でも30代になっても結婚せずに昔のまま仲良くワーワーやっている人もいれば、だんだん取り残されている人もいるし、先を突っ走っている人もいて…。同じくらいの年代でもこの歳になると、違いが浮き彫りになってくるというか。
Die:どっちが正しいのかわからないんだよね。
●他人からは情けなく見えたりもするんでしょうけど、結局は本人が幸せかどうかが大事なわけで。
マル:そうなんですよね。「叱られたい」とか言ってたりするけど、それが案外良かったりもして。「ダメだな、俺…」みたいな意識ではないんですよ。
●人生を投げている感じではない。
Die:そしたら(音楽を)やっていないよね(笑)。
マル:それはつまらないと思うんですよ。30代とか40代になるとちょっとしたはずみで鬱になっちゃう人もいるし、社会的な抑圧に押しつぶされちゃう人もいて。僕らみたいなヤツで申し訳ないけど、“大丈夫なんだな”と気付かせてあげるキッカケになりたいというか。“そういう心の隙間をパトロールしたい”みたいな意味で、今作は『ON PATROL』というタイトルにしたんです。
●そういう意味だったんですね。
マル:“心の闇をちょっと照らしてあげたい”みたいな…。照らすと言っても、懐中電灯なんですけど(笑)。
●光が弱い(笑)。
マル:でも、そういう人の心の扉をノックしてあげるくらいのことは僕らにでもできるんじゃないかなと。東日本大震災があってから、今まで鬱積していたけど見えなかった不安が如実に出てくるようになった気がするんですよ。震災後の1週間くらいはみんな家にいたので、特に1人暮らしの人とかは「これからどうなるんだろう?」みたいな感じだったと思うから。Twitterとかを見ていると、「みんなもそういうふうに思ってたんだ」というのがわかってきて。
●婚活が流行っているのも、震災によって1人でずっといることが不安になったからというのはあるでしょうね。HONDALADYは、そういう心の隙間をパトロールするという。
マル:懐中電灯で照らして、「みんないるか?」って(笑)。
●夜回り先生みたいな(笑)。
Die:ライブで点呼を取りたいですね。「みんな、来てるか?」って(笑)。やっぱりライブハウスに来れば1人じゃないし、友だちもできたりするわけだから。
マル:友だちがいなくても、少なくとも僕らはいますからね。ステージに立ってはいるけど、普段は僕らもみんなと同じような生活をしているわけで。
●そういう親しみやすさも、オシャレなクラブ系にはないHONDALADYならではの魅力ですよね。…そもそもオシャレなバンドは、1曲目(「PATRAVER」)に変なうめき声みたいなものは入れないでしょうけど(笑)。
Die:あれはサイレンですよ(笑)。あえて本物のサイレン音を使わずに、口で出しているという…。
マル:何を1曲目にしたらビックリするかなと考えたら、あれしかないなと。…頭がおかしいですよね(笑)。
●隣の部屋からあの声が聞こえてきたら、確実に頭がおかしい人だと思いますね(笑)。
Die:前作で『HONDALADY』というセルフタイトルの作品を出したことで、聴いてくれる人の中でハードルが上がっていると思うんですよ。そこから次に出た新作で1曲目にあれが入っていることによって、「変わってないな」と思われるのがいいかなと(笑)。
●今回も良い作品ができた実感はある?
マル:まだライブでやったのは数曲だけなので、あんまり実感が湧いていないんですよ。僕らの曲は、ライブでやっていく中で解釈が変わっていくものだから。
Die:でも「叱られたい」はDJで使ってみたら、大合唱でしたよ。そういうところで、手応えは感じています。
●意外とみんな叱られたいんじゃないかっていう…。
マル:そうなんですよ。「しょうがない人ね」とか言って、若い女性に叱られたいです(笑)。
Die:結局、そこなんだ!?
一同:ハハハハハ(爆笑)。
Interview:IMAI
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