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Kidori Kidori

開放されたマインドと強固な決意を手に3人は真っ白な新世界へと降り立った

188_Kidori“キドリキドリ”からバンド名の表記を“Kidori Kidori”に変え、約1年ぶりにリリースされる新作ミニアルバム『El Blanco』。過去2作のアルバムタイトルは共にスペイン語で「最初の◯◯」を表していたのに続き、今回は「白い◯◯」という意味を持つという。ミックス/マスタリングに迎えた三浦カオル氏(LITEやThe Flickersを担当)との出会いに加え、前作以降で音楽に向き合う覚悟を強めたことで生じた大きな意識変化。芯にある音楽性やスピリットは変わらぬまま、一段階上の真っ白なステージに降り立った3人は、より開かれた世界に向けた進化を遂げようとしている。

 

●今作『El Blanco』では、1曲目の「Watch Out!!!」のおどろおどろしい感じがまず印象的でした。

マッシュ:ホラーテイストはKidori Kidoriの特徴だと、よく言ってもらうんですよ。今回のジャケットにも描かれているオバケのキャラクターは元々、1stアルバムの1曲目(「The Song Of New Age Rock'n'Roll」)のおどろおどろしいイメージから出てきたもので。この曲を作る上ではおどろどろしいものを、より開けていて楽しい形で作ろうと思ったんです。

●テイストとしては暗いけれど、確かに開けていて楽しい感じはありますね。

マッシュ:ライブで初めて披露した時にお客さんから「妖怪大行進だ」と言ってもらったんですけど、僕はそれを“夜の墓場で運動会”と解釈して「すごく良いな」と思いましたね。前作(2ndアルバム『La Primera』)までは気持ち的に暗い部分も出ていたけど、今作は単に見える景色が暗いだけというか。

●前作制作時は精神的に少し病んでいたんですよね。

マッシュ:ヤバかったですね(笑)。あの時は大学を卒業したばかりで、まだ先があまり見えていない状況だったんです。でも今回はそのまま行くとどうなるのかというところまで見えているし、“じゃあ、こういう開けた意識でやるとどうなるんだろう?”っていう感覚になれていて。今はもうそこから1周しちゃった感があって、“ワクワクしている”という感覚が近いかもしれない。

●今はポジティブな精神状態にあると。

マッシュ:今は毎日楽しく生きている感じがありますね。“音楽でやっていこう”というベクトルに向かえているし、そもそも音楽って絶対に楽しいものであるべきだと思うんですよ。だから作り手がつらいと思いながら作っていたら、良いものはきっとできない。前作もああいう精神状況で作った中では良い曲が集まったと思うけれど、今はもっと良い曲が書けると思うんです。

●音楽でやっていくという覚悟が生まれた?

マッシュ:今から音楽をやめたり、音楽をしながら就職したりするのは中途半端でイヤだと思って。だったらいっそ割り切って音楽に専念しようというところで、そのために色んな努力をしていくことにしたんです。大衆に向けた音楽をやって売れているアーティストの人たちを好きかと言われると未だに好きにはなれていないんですけど、そういう人たちとなぜか同じベクトルに行けるんですよ。そのベクトルで進むとしても、僕らの音楽性はそのままだとコアなリスナー向けのものになってしまう。それを理解してもらうためにはそういう人たちの何倍も努力が必要だけど、「じゃあ何倍も努力しようじゃないか」という心境に今はいますね。

●かといって、音楽性を極端に変えるというわけではないですよね?

マッシュ:急に僕らがポジティブな曲調で、ストリングスを多用したような音楽をやり始めても違うと思いますからね(笑)。このまま行くために努力をするというか。たとえばビラをまくっていうこともそうなんですよ。この前、大阪でワンマンをやったんですけど(6/5@心斎橋Pangea)、販売開始当初はチケットの売れ行きが良くなくて。それでもめげずにビラを配り続けていたら、最終的にはSOLD OUTできたんです。

●地道な活動が結果につながったと。

マッシュ:実際にビラを見てライブに来たというお客さんも多かったし、やって良かったですね。それがメンバーのモチベーションにもつながっていて。色んな会場でビラ配りをしていると、やっぱりお客さんに無視されることもあるんですよ。音楽が好きでみんなライブハウスに来ているはずなのに、そこにいる人たちには自分たちの音楽が全く響いていないというのを感じて、ンヌゥ(Ba./Cho.)は悔しかったらしいんです。そこで「自分たちの音楽をもっと響かせたい」ということを口に出してきて。彼は基本的にやる気がない人なんですけど(笑)、熱くなってきた感じがするのはすごく良い傾向だと思いました。

●そういう意識の変化もあってか、今回は初めて制作のための合宿をしたそうですね。

マッシュ:前作までは僕がドラムやベースのパートも考えて、メンバーに弾いてもらっている部分が多かったんです。でも今回の作品ではそれをやめて、もっと3人の個性が際立つようにしようと思って。そのためにはスタジオを2〜3時間借りてやったところで間に合わないというか、もっと熱いものが出てこないとダメだと思ったので合宿をすることになりました。

●合宿はどんな環境だったんですか?

マッシュ:琵琶湖近くのコテージを3日借りて、そこで朝から夜中までずっとセッションをしていました。テレビもつかないし、電波状況も悪くて、近くにお店もないっていう娯楽が全くない状況だったので、とにかく音楽に専念するしかなくて。そして、メシはカレーしか食わないっていう…。

●えっ、それも何か意味があってのこと?

マッシュ:そうすることで、「今日のご飯は何にしよう?」っていう雑念が1つなくなるんですよ。そんな環境の中で初日から夜中の2時までやったら、その日だけで20曲くらいできて。そして翌日も朝から、また同じようにやるという感じでした。

●本当に音楽だけに集中してやったことで、曲もどんどん生まれてきた。

マッシュ:しかも当時はまだ寒くて暖房を入れていたんですけど、熱気がまわりすぎて頭がクラクラしてくるんですよ。いよいよ何も考えられなくなってきた時にできたのが、M-2「Silly」のイントロで。後から弾こうとするとすごく難しかったんですけど、その時はかなりのトランス状態に入っていたのでなぜか弾けたんです。

●非日常的な環境だからこそ、生まれるものがある。

マッシュ:10時間以上もぶっ続けでセッションしたことで、メンバーの個性や変なクセとか「こうしたいのかな?」という意志まで汲めるようにもなったんです。あの合宿がなければ、間違いなく今作はないと言えますね。収録曲は、ほぼ合宿中にできた曲なんですよ。

●M-3「Paperhouse」では、アフロビートとニューウェーヴの合体ということに挑んだそうですが。

マッシュ:ずっとアフロビートを取り入れてみたかったんですけど、やっとこの曲で果たすことができたんです。80年代にトーキング・ヘッズがやっていたような手法なんですけど、今改めて自分なりの解釈でやってみようと。目指したのは“黒人っぽい音楽をやろうとする白人を目指す黄色人種”みたいなイメージでした(笑)。

●この曲にも入っていますが、今回は耳を澄ますと色んな音が聞こえますよね。

マッシュ:過去2作では自分たちの楽器以外の音はあまり入れていなかったんですけど、今作では雰囲気を作るための環境音みたいなものがいっぱい入っていて。今回はミックス/マスタリングを三浦カオルさんにお願いして、音響的な部分でもわりと冒険してもらったんです。この曲にも民族楽器の口琴が入っていたりして、すごく変な音がいっぱい鳴っていますね。

●三浦さんの参加による効果も大きかった?

マッシュ:実は今回初めて第三者を招いて、制作作業をしたんですよ。今までの作品ではほとんど、ンヌゥがミックスやマスタリングをやっていて。一線で仕事をされているプロの方に頼むとこんなにも違うんだということがわかったし、本当にすごいなと思いました。「中途半端なことをしたら全部、音に出るんだ」というのはよく言われることだけど、確信はしていなかったんです。でも三浦さんから「そういうものが全部出ている」と初めて断言されたので、それは信じようと。

●信じられるだけの説得力があったわけですね。

マッシュ:三浦さんからは「今回は遊びがある感じだけど、今後はそういうのを控えたほうが良い」と言ってもらって。それはまさに自分たちの心情のとおりで、「遊びたい部分はあるけど、上に行きたい」と思っていたんです。そうやって音と会話できる人がいるということを知って、本当に一緒に仕事をして良かったなと思いました。そこで意識がすごく変わったことで、今作は良いものに仕上がったんだと思います。だから次回作もその次もきっと良いものができるだろうと思うし、良いものを良い状態でみんなに聴いてもらえるようにしたいという決意が湧いてきたんですよ。ベクトルが本当に変わったと思えた瞬間でしたね。

●アルバムタイトルをスペイン語で『白い◯◯』という意味の『El Blanco』にしたのは、そういう意識変化の下でまっさらな状態に戻すという意味もあった?

マッシュ:そうですね。でも今までの作品がイヤだというわけじゃなく、ここからは別ベクトルだということが言いたくて。意識が変わったことによって、今までとは別のバンドというくらいの気持ちでやっているんです。

●それでバンド名も英語表記に変えたわけですね。表記だけを変えたというのは、本質的な部分は変わっていないということの象徴かなと思いました。

マッシュ:本質的には変わらないですね。ずっと付き合いのある3人で一緒にやってきて、もう3枚目の音源なわけですよ。でも今回は“1st”くらいの気持ちでいるし、そういう意識の下で活動して行きたいなと思っていて。それくらいの意識変化があったから、これをキッカケに何かを人に与えられたり、自分たち自身も変われたらなという思いもあって表記を変えました。

●意識も変わり、真っ白な状態から再出発というか。

マッシュ:今まで築いてきたものを崩したというわけじゃなくて、一層上に上がったという感じがあって。そこはまだ更地の状態なので、どんどん地表から伸び出てくるようにやっていけたらなという思いも込めて「今回は白だな」と思ったんですよ。

Interview:IMAI

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