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nano.RIPE

過去と未来を照らし出す“今”の輝きに満ちた1stフルアルバム

 nano.RIPEがインディーズ時代を通じても初となる、待望の1stフルアルバムをリリースする。昨年9月にシングル『パトリシア』でメジャーデビューして以降、約1年の間に5枚のシングルをリリースしてきた彼ら。その間も制作の合間を縫って精力的なツアーを展開するなど、ライブに軸足を置いた活動スタンスを変えることなく動き続けてきた。今作『星の夜の脈の音の』はそんなブレることのない活動の中で、1つ先のステージへと彼らが突き抜けたことを明確に示すような1枚だ。シングル曲に加えて、新録されたインディーズ時代の代表曲、さらにはそれらにも匹敵する新曲も合わさり全14曲全てが輝きを放っている。Vo./G.きみコへのインタビューからは、バンドが今いる状態の素晴らしさが端々で伝わってくるようだった。

Interview

「ベスト盤的に"今までのnano.RIPE"っていうものを表現しつつも、"これを聴いてもらえば、ぼくらのことがわかってもらえる"っていう名刺代わりの1枚になったんじゃないかな」

●今作『星の夜の脈の音の』をリリースするまでにシングル5枚を挟んでいるわけですが、アルバムの構想はシングルを制作しながら考えていた?

きみコ:1stシングル『パトリシア』(2010年9月)を作っていた頃はまだ見えていなかったんですけど、2ndシングル『フラッシュキーパー』(同年12月)の頃には「2011年中にアルバムを出したいね」という話はしていました。

●アルバムに向けた曲も書き始めていたんですか?

きみコ:アルバムに向けて曲を書くと言うよりも、どの曲もシングルを意識して作っているんです。シングルにはならなかった曲の中から、アルバムのイメージに合うものを選んだ感じですね。

●確かに今作はどの曲もシングル曲と遜色ない並びになっています。

きみコ:インディーズ時代の曲も入っているので、ベストアルバムみたいな気もします。シングル5枚のタイトル曲は全部入れることが決まっていたんですけど、テーマ的な部分は当初見えていなくて。M-1「セラトナ」をジュン(G.ササキ)が持ってきた時にみんなが"これは良い曲だ!"となって、この曲をアルバムのリード曲にしようと決めたんです。そこから新しい歌詞のテーマが浮かんできたりして、少しずつアルバム全体のイメージも見えてきました。

●それはいつ頃のこと?

きみコ:M-6「面影ワープ」をシングルでリリースする少し前だったので、今年の6~7月くらいですね。だから「セラトナ」が、今作の中では一番新しい曲になります。この曲を中心にして、アルバムのイメージや収録曲と曲順も考えていった感じです。

●「セラトナ」という言葉の響きも面白いですよね。

きみコ:さそり座の一等星で"アンタレス(Antares)"というのがあって、それが好きだったのでツアータイトルも"アンタレスコープ"に決めたんです。その同時期に、この曲名も決まって。"Antares"という文字を逆から読むと"セラトナ(Seratna)"だなと気付いて、言葉の響きもいいなと思ったんですよ。それまでの時点で歌詞も何となくはあったんですけど、タイトルが決まってから書き直して今の形になりました。

●そもそも"アンタレス"を好きな理由とは?

きみコ:宮沢賢治さんの『銀河鉄道の夜』という本が好きなんですけど、その中でさそり座についてのエピソードがあって。…ちょっと長くなるけど、いいですか?

●どうぞ(笑)。

きみコ:さそりは尻尾の毒で色んな動物たちを殺してきたんだけど、最後はイタチに追いかけられて井戸に落ちて死んでしまった。その死ぬ直前に"今まで自分はたくさんの命を奪ってきたのだから、最後くらいイタチに食べられて自分の命をくれてやればよかった"と悔いるんです。そして"どうか自分が死んだ後はみんなを照らす星にして下さい"と神様にお願いして赤く燃える星になったというお話が、あたしはすごく好きで。あたしもずっと答えが出ないまま歌詞を書いて歌っているので、"頑張れ"とか"大丈夫だよ"みたいなことは簡単に歌えない。でももしかしたら自分が死ぬ直前に見えることもあるかもしれないと思いながら、「セラトナ」の歌詞を書いたんです。

●この曲の歌詞からは、きみコさんがそうやって答えを探しながら進んでいる姿も浮かびますよね。

きみコ:すごく"あたし"らしい歌詞になったんじゃないかなと思います。最後の"わかんなくて伸ばした手の先に触れたものが今ぼくの答えだ"という歌詞は、結局はいつも言っているような"わかんないけどわかんないことが答えだ"っていうことなんですよ。この歌詞を書く少し前にお祖父ちゃんが亡くなったのが、あたしにとっては初めての近しい人の死だったんです。人が死ぬっていうのは悲しいことだとずっと思っていたんですけど、その時は悔しかったんですよね。

●悔しい?

きみコ:長い間、闘病していたからいつかそういう時が来るとわかっていたのに、あたしは精一杯のことをしてあげられなかったなと思って。家族はみんな泣いていたけど、あたしは泣く資格がないと思ったんです。

●もっと自分にできることがあったと、亡くなられて初めて気付いた。

きみコ:実際にそういう場面に遭遇しないと、自分がどう思うかなんてわからないんだなって。色んなことに悩んで"こうなるだろう"と想像していても、本当にその場面になったら違うっていうことは今までもこれからもあると思うんです。そういう想いを「セラトナ」では歌にしました。

●きみコさんのブログでも"越えたかった線の向こう側へ行けた"と書かれていましたが、今までより吹っ切れた感覚も歌詞に出ている気がします。

きみコ:まさにこの曲がターニングポイントになって、越えられたんですよ。アルバムを作り始めて一番最初に歌入れをしたのがこの曲で。今まではCDとライブに違いがあるということを他人からも言われてきたし、自覚もあったんです。"CDでもライブに近い感情表現をしたい"というのが今まで越えられなかった一線だったんですけど、この曲は自分の中でも攻めて書いた歌詞だったのですごく感情を出せたというか。

●今まで越えられなかった感情表現の一線を「セラトナ」の歌で越えられた。

きみコ:それがキッカケになって、その後の歌もすごく良い感じで録れたんです。シングル曲以外の歌を録ったのは、8月の半ばくらいからでしたね。

●既発曲を除くと、「セラトナ」の他にM-3「雨を待つ」とM-8「星の夜の脈の音の」、M-14「てのひらのマリー」が初出になりますけど、どれも新しく作った曲なんですか?

きみコ:「雨を待つ」と「てのひらのマリー」は両方ともあたしの曲なんですけど、去年の末から今年の頭にかけての曲作り期間に作りましたね。「雨を待つ」はサビの部分だけ2年くらい前からあって、それを聴き返した時に"いいな"と思ったので続きを書き始めたんです。"ルララルララ"っていう言葉がすごく言いたくて、そこからサビの歌詞も出てきました。

●「雨を待つ」には、きみコさんの歌詞によく登場する"さよなら"が出てきますね。

きみコ:またしても"さよなら"の歌です(笑)。この曲は『パトリシア』のカップリング曲で"明日きみとぼくは離ればなれになる"と歌っている「水性キャスト」と、同じ主人公のイメージなんです。

●「水性キャスト」とストーリーがつながっている。

きみコ:泣きたくても泣けない時があって、そこで泣くための言い訳として雨を待っているという歌詞ですね。お祖父ちゃんが亡くなった時もすごく晴れていたんですけど、天気が良い時のほうが逆に悲しくて泣きたくなったりする。でもそこを越えてしまうと泣けなくて、あたしも"雨が降ってくれたら泣けるのに"と実際に思ったりしたんですよ。

●雨が降っている中なら泣いても涙が雨つぶに紛れてわからないからということですよね。

きみコ:素直になれないがゆえに雨を待つっていう。そういう青い歌を書いてみたいなと思ったんです。

●別れの歌ではあるけど、曲調は軽やかですよね。

きみコ:サビは車を運転しながら、鼻歌で浮かんだメロディなので(笑)。ライブだとみんなに飛び跳ねながら聴いてもらえたらいいなと思うくらい、ポップな曲になりましたね。そんなポップな曲に悲しい歌詞が乗っているっていう、ねじれた感じがまたいいかなって。

●そこもnano.RIPEらしさですよね。同じく新曲の「てのひらのマリー」はラスト曲でもありますが。

きみコ:曲順を考える時にあたしが"この曲は最後がいい!"って、主張したんです。インディーズ時代にライブの最後でよくやっていた「影踏み」という曲があって、それも"好きな子と一緒に帰っている時に、2人の影の手と手が重なって恥ずかしい"っていう青臭い歌詞で(笑)。その曲へのアンサーソングじゃないんですけど、"主人公の2人の未来はどうなったんだろう?"と考えて書いた歌詞ですね。

●この曲は「影踏み」とつながっている。

きみコ:その青さや温かい感じは残したままで、よりリアルさを加えて"こういう時期もあったけど、今はこうなっている"っていう内容にしています。夢物語になりすぎない、優しい歌を作りたいなと思っていたんです。主人公たちの10年後をイメージしたので、仮タイトルは「10年後」でしたね。

●「てのひらのマリー」という曲名はどんなイメージ?

きみコ:「影踏み」では"手をつなぐ"っていうことがキーワードになっていて、この曲もあの時と同じような夕暮れの帰り道で手をつないで歩いているイメージなんです。そのキーワードをタイトルにも表現したいと思って、"てのひら"をまず考えて。夕焼けの色を表現する言葉を探していたら"マリーゴールド"っていう色があたしのイメージにすごく近かったので、"てのひらに閉じ込めたマリーゴールド"っていう意味でこのタイトルにしました。

●"マリー"は人の名前じゃないんですね。アルバムタイトル曲の「星の夜の脈の音の」は作品全体のイメージが見えた後に作った曲?

きみコ:元々"インストを1曲入れたいね"という話をしていて、男性メンバー3人でセッションしながら作っていったんです。最初はあたしが語りを入れる予定はなかったんですけど、アルバム全部ができあがってきた時に、入れることになって。

●ここで語っている内容とは?

きみコ:メンバーとも色んな案を出し合って結局、あたしがブログを書くようなイメージでアルバム全体のテーマ的な言葉を入れたんです。曲順的にもちょうど真ん中なので、アルバムの心臓になるようなものをイメージしていて。アルバムのテーマがぼんやりとしすぎないように、短い中にもギュッと詰め込んで伝えるようなものが作りたいと思っていましたね。

●「星の夜の脈の音の」というタイトルは初めから決まっていた?

きみコ:これは曲が出揃って順番を並べる少し前に、アルバムタイトルとして浮かんで。その時点ではまだインストだったんですけど、それをそのまま語りに入れてしまうのは説明しすぎている感じがするということでメンバーから反対もあったんです。でもあたしが歌詞を書いた結果、"これしかない"ということで今の形になりました。

●これをアルバムタイトルにした理由は?

きみコ:M-9「フラッシュキーパー」で"脈拍はいくつだ?"と歌っていたり、今作のキーワードになる言葉が全部入っているんですよ。それを"の"でつなぐことで、その先にも延々と続いていくようなイメージにしました。聴く人にも色んな続きを想像してもらえるような言葉だし、インパクトのあるタイトルになったと思います。

●nano.RIPEの歌詞は1つの解釈を押し付けるんじゃなくて、自由な想像ができるものが多いですよね。今回新録したインディーズ時代の曲を選んだ基準も代表曲でありつつ、今の自分が歌ってもおかしくない歌詞のものかなと思いました。

きみコ:代表曲になっているということは、そういう部分もあるんでしょうね。今も変わらず伝えたいことがあるし、今歌っていることと昔歌っていることで矛盾が出てしまうのは絶対にイヤだなと思っていて。"あたし"っていうものが中心にありながらの過去と今に違いはあってもいいんですけど、そういう意味で"あたしらしさ"がブレていない曲が集まったのかなと思います。

●インディーズ時代の曲を新録するということは元々考えていた?

きみコ:今回のアルバムでもう一度録り直したいという話は、結構前からしていましたね。ベスト盤的に"今までのnano.RIPE"っていうものを表現しつつも、"これを聴いてもらえば、ぼくらのことがわかってもらえる"っていう名刺代わりの1枚になったんじゃないかな。

●曲順についてもイメージはあったんですか?

きみコ:1曲目が「セラトナ」というのは全員一致していて、あたしが最後は「てのひらのマリー」がいいと言って。真ん中に「星の夜の脈の音の」を持ってくるのを決めてから、その前後をどうするかという方向で考えていきました。「フラッシュキーパー」「ノクチルカ」「パトリシア」というのは最近のライブそのままの流れなのでそこでライブ感も出しつつ、せっかくのフルアルバムだからドラマがあるほうがいいなと思って終盤の流れは考えましたね。

●ドラマというのは?

きみコ:「てのひらのマリー」は10年後を書いた曲なので、"過去があっての未来"というものが想像できる歌詞になっていて。まずM-12「細胞キオク」では"忘れない"っていうことを歌いながらも、M-13「世界点」では"忘れてしまうということは進んでいるということかな"と歌っていて、最後の「てのひらのマリー」では"そういうことが積み重なって今や未来がある"と歌っている感じです。

●「てのひらのマリー」の最後で「続いてく」と歌っているのは、バンドとしても続いていくという意志にもつながってきますよね。

きみコ:あ! そうですね…それは気付きませんでした。その通りです(笑)。

●(笑)。現在はもう既にnano.RIPE TOUR 2011"アンタレスコープ"も始まっていますが。

きみコ:8/7に渋谷O-WESTでワンマンライブをやったんですけど、これは『面影ワープ』のレコ発的な意味合いもあって。そこから始まったツアーは『面影ワープ』のレコ発という意味もありつつ、そのツアー中にアルバムも出しちゃおうと思ったんです。今までのシングル5枚分の想いも持って、「アルバムを出しますよ」っていうことを伝えながら各地をまわりたいなと。こういうのも、ぼくららしいかなと思います。

●自分たちらしさもありつつ、1つ先へと越えられたという感覚もある。

きみコ:元々のnano.RIPEというものがインディーズ時代からあるし、メジャーデビューするタイミングでも「ぼくらは変わりません」とファンに向けて言ったんです。でもインディーズ時代からも小さな変化はたくさんしてきたように、この1年間でもnano.RIPEという芯はありつつ自分たちが目指す方向に変われてきた実感があるんですよね。

●最近のブログでも"ぼくら4人、今、本当に良い感じなんです"と書かれていましたね。

きみコ:今回のツアーでは移動中に会話が…あるんですよね(笑)。

●メンバー全員が無言で静寂の中、移動していくという今までの雰囲気から変わってきたと(笑)。

きみコ:(笑)。他のバンドに比べればまだ少ないんでしょうけど、自然と話したくなるというか。みんなのテンションが今までより一段高いんだと思います。

●それだけツアーが楽しいというのもあるでしょうね。

きみコ:ツアー各地でもメジャーデビューした当初と比べて、びっくりするくらいのお客さんが遊びに来てくれていて。やっぱり1人でもお客さんが多いほうが嬉しいし、期待されればされるほど返したいと思うからバンドの熱もどんどん上がっていく。そういうこともあって、メンバー間でも"言わなくてもわかるよね"じゃなく、口に出して伝えたいことが増えてきたのかなと思います。

●今回のツアー終盤では、ワンマンも3箇所予定されていますが。

きみコ:東京と大阪と金沢でワンマンをやります。金沢はnano.RIPEが主題歌を担当したアニメ『花咲くいろは』の舞台なので、前にライブをした時も他の場所よりお客さん1人1人の熱が特に高かったんですよ。地域全体で『花咲くいろは』とnano.RIPEを盛り上げてくれている感じもあるのでアニメが終わってもその流れをつなげていけたらいいなと思って、ワンマンに挑戦してみようと思いました。

●ファイナルの渋谷CLUB QUATTROは過去最大規模でのワンマンになりますね。

きみコ:最初は不安もあったんですけど、8/7に渋谷O-WESTでワンマンを終えた時に"これは挑戦したいな"と思えたんです。今もツアーをまわりながら、ファイナルのイメージが少しずつ見えてきていて。"こういう景色に持っていけるんじゃないか"っていうイメージはツアー初日よりも今のほうがハッキリ見えています。

Interview:IMAI