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野上智子

浮遊する孤独な魂に寄り添い、聴く者の心震わせる“僕の欠片”

nogami_AP渡された紙資料のプロフィールを見てみると、そこには「趣味:恋 / 特技:恋 / パーソナル:人見知り。だけどたぶんあなたのこと好き」と書かれてあった。いったいどれだけ恋に恋する乙女なのだろうかと想像したが、そのイメージは実際の対面で意外な方向に裏切られることになる…。2013年2月にタワーレコード主催のオーディション“Knockin'on TOWER's Door vol.3”にて最終選考5組に選出され、注目を浴びた女性シンガーソングライター・野上智子。人の弱い部分、汚い部分、底の強さ、心に潜む不安定な部分を独自の視点で描き出す彼女の歌は、聴く者の孤独に寄り添って心を震わせるものだ。そんな歌がいかにして生み出されているのか、そして彼女自身の実像に迫る初インタビュー。

 

 

「“本当の自分”というか、“私”っていうものを誰も知らないと思っていて…。自分の中で思っていたことや私の中での“正しいこと”とか、そういうものを誰かにわかって欲しいというわけじゃないけど、“残したい”というか」

●プロフィールを見ると、趣味も特技も“恋”となっていたんですが…。

野上:それは…趣味や特技と言えるほどのものがなかったからで…。音楽をやっている以外で何をやっているかと考えたら、そういうことしかしていないなと思ったので書いただけなんです…。恥ずかしい…(笑)。

●たとえば町で見かけた人を「かっこいいな」と思って、恋しちゃうような感じでしょうか?

野上:「かっこいいな」というよりも、私は「なんて愛らしい人なんだ」みたいな感じなんです。

●「愛らしい」というのは?

野上:男の人ってピュアだから。かっこいいところよりも、情けないところとかに私は惹かれるんです。「あの人、本当は超かわいいのにかっこつけちゃっているんだろうな」みたいに、勝手に想像しています(笑)。

●男性のかわいらしい内面を勝手に想像していると。

野上:私はあんまり相手との距離を詰めたくないんですよ。「絶対に守る」くらいの覚悟がないと、あんまり近付きたくなくて。そういう部分って、それくらいの覚悟がないと見ちゃいけないと思うんです。

●守ってあげたいんですね。

野上:男の人ってピュアで真っ直ぐで、悪く言ったらバカなんですけど、それがかわいいんですよね。そういう男の人のピュアな部分は、女の人が守るべきものだと私は思っています。

●内面的な部分を守ってあげたい?

野上:そこを包んであげたいというか…。外に立つのは男の人だけど、その人の中にある子どもの部分とかを守ってあげられるのは女の人なんじゃないかなって思うから。

●歌詞の内容は、“恋”がテーマになっている?

野上:“恋”…というよりは、もうちょっと温かいものですね。そんなにキラキラしていないです。恋が水色とかピンクだとしたら、むしろもっとトーンが落ちていて暗くて、もうちょっと体温があるものというか…。

●少女マンガ的なキラキラした“恋”ではないと。

野上:私としてはそういうものをM-2「モノポリー」で書いてみて、ちょっとポップさも出してみたつもりなんですけど…(笑)。これはもう「ただ独り占めしていたい」という感じですね。でも恋をしている時点ではない…、もうちょっと先の気持ちを描いていて。…そんなに浅い感じではないんです。

●野上さんの中で“恋”は表面的なイメージ?

野上:私の好きなドラマの中で「“恋”は楽しそうだけど、絶対にいつか終わるもの。“恋”はみんなが乗りたがるようなすごくきれいなバスだとしたら、“永遠”は古くて汚くて人もそんなに乗っていないバス。でも永遠に続く」といったお話があって。…私は“恋”よりも“永遠”のほうが圧倒的に欲しいんです。

●お話を聞いていると、自分の中をすごく掘り下げて歌詞を書いているように思います。

野上:曲を書いている時点では、自分でもあんまりよくわかっていないんですよ。それまで頭の中でぼんやりと感じていたものを、曲を書くことで整理している部分があって。だから、掘り下げることになるんでしょうね。

●自分の中を掘り下げる作業は、つらくないですか?

野上:つらくは…ないです。というか、私にとっては日常的かもしれない。いつも考え過ぎちゃうみたいなんですよ。私は“孤独”というものがすごく重要だと思っていて。私は人に伝えるのが苦手だからかもしれないんですけど、孤独な時間はとても重要で、その中で自分が育ったところもあると言えるくらいなんです。そこが考えるという作業にもつながっているのかなと思います。

●孤独な時間で考えていたことが曲になっている?

野上:その中で考えていたことしか、むしろ書けないかなって思います。

●曲を作るということは、何か人に伝えたいことがあるからではないんでしょうか?

野上:…私は元々「このまま死にたくない」って思っていたんですよ。

●え? 「このまま死にたくない」というのは…?

野上:中高生の時とかは「このままこの町で結婚して子どもを産んで、この町で死ぬんだとしたら、それは絶対にイヤだ」と思っていて。それは“そこで結婚して子どもを産んで死ぬ”こと自体がイヤだったわけじゃないと今はわかるんですけど…。そこではまだ誰も私のパーソナルな部分を知らないし、そのまま知られずに死んでしまうのはイヤだということだったんです。

●内に秘めた“自分”を誰かに知って欲しかった。

野上:“本当の自分”というか、“私”っていうものを誰も知らないと思っていて…。自分の中で思っていたことや私の中での“正しいこと”とか、そういうものを誰かにわかって欲しいというわけじゃないけど、“残したい”というか。とにかく「このまま死にたくない、自分のことを誰も知らないまま死ぬのはイヤだ!」っていう気持ちのほうが、“伝えたい”ということよりも近いんです。

●歌詞や曲にすることで、形に残したいと。でもそれを地元の町ではなぜできなかったんですか?

野上:別に嫌いなわけじゃないし、本当に良いところなんですけど、私が住んでいた町は長岡市というところで山が多いせいか、いつも暗いんですよ。いつも曇っているような気がするんですけど、TVで見る東京はいつも晴れていて。「こんなに違うんだ」と思いながら、毎日憧れていました。

●別に東京がいつも晴れているわけじゃないですけど(笑)、イメージとしてもっと開けた場所に行きたかったんでしょうね。

野上:それに憧れていたんだと思います。あと、両親も私が普通に学校を卒業して就職して働いて暮らすような人だと思っていなかったと思うんです。私…、昔からやりたくないことは本当にできなかったんですよ(笑)。だから自分でもそういうのは無理だと思っていたし、たぶん両親もそう思っていたのかなって。

●当時から音楽をやりたいという意識はあった?

野上:それ以外に好きなものは何もなかったから…。

●それが恋とかではなかったんでしょうか?

野上:たぶん、そういう意味であのプロフィールを書いたんですよ。音楽以外で何をしているかと考えたら、恋だったというか…。中学生の時は毎日24時間、恋をしていました。超好きな人がいて…中2で終わりましたけど(笑)。その時が人生で一番、恋していましたね。勉強にも全然集中できないくらいで、その人のことが好きっていう以外、何もなかったです。

●そういう経験も歌につながっているのでは?

野上:その時お付き合いしている人や大好きな人のことを想いながら、孤独な時間に色んなことを考えるんだと思います。そこでいっぱい掘り下げて考えたことを歌詞に書いていくのかもしれないですね。

●歌詞に関してはどれも実体験に基いている?

野上:想像だとしても、自分の中では体験しているんですよね。想像の中で、心はもうそうなっているから(笑)。たとえばM-3「ヒカリノライン」は自分の中でずっと掘り下げていった結果、たまたまその“ヒカリ”というのにつながっただけで、実際に体験したものではないんです。でも高速道路を走っているのを想像して、本当に自分をそこに置いて書いているんですよね。

●M-4「ピントを合わせて」は、“恋”の歌?

野上:これは恋愛の歌だけど、また“恋”とも違うというか…。この曲って、女のイヤな部分がすごく出ていると思うんですよ。逆に「ヒカリノライン」は冷たい感じで、感情的なものではなくて。たぶん「ピントを合わせて」は「ヒカリノライン」の後に書いたので、そういうものを書いてみたかったというのもあるんじゃないかな。自分の中でもモヤモヤしていたものを、「あの気持ちはこんな感じだったかな…」みたいな感じで書きました。

●自分の中でモヤモヤしているものを形にした。

野上:このへんで出しておかないと気持ち悪いなって。自分の中にも女のイヤな部分というか、女々しくてヒステリックなところがたぶんあるんですよ。そのままだとこの気持ちが私の中で死んじゃうから、曲にしたんです。この曲はかなり自然に書けましたね。私も共感できるし、女の人は共感できる曲じゃないかなと思います。

●M-6「何も無い」は何かを吐き出しているような…。

野上:自分としては、ちょっと精神年齢を下げたかったというか。「もう何もないよ!」っていうところを書きたかったんです。ここで“ないないないないない!”と言って、最後のM-7「迷い子」に行きたかったんですよね。最初は「tonight」で、最後は「迷い子」というのは決めていたんです。

●自分の中で流れが決まっていたんですね。

野上:ちょっと自虐的な曲があって、その後にちょっと寂しい感じの曲を弾き語りでやれたらなと。

●M-1「tonight」は今作のキーになる曲かなと。

野上:この曲は守りたいのに情けないという自分の不甲斐なさがあって…、だけどやっぱりちゃんと守るっていう決意が出ているんですよ。気持ち自体は冷めていないのにみんな「もういい!」とかよく言うじゃないですか。でも「もういい」わけがないから(笑)、ちゃんと守ってあげようという歌ですね。“もういいなんて諦めない 謝るし ただ抱きしめる 僕は君を見捨てたりしない”というところに一番表れていると思います。

●「迷い子」の歌詞は上京してからの実体験?

野上:私の通っていた専門学校が渋谷で、その近くにある学生マンションに住んでいたんですよ。早朝の渋谷って汚いじゃないですか? そういうものを日常的に目にしている中で印象的だったことがリンクしたというか。この曲が今回の作品全体をまとめている感じがして、私の中ではリード曲なんです(笑)。

●今作を象徴している曲というか。

野上:これが『僕の欠片』というか。この曲の主人公がそれぞれの曲で色んな体験をしているという感じかな。

●『僕の欠片』というタイトルにしたのは?

野上:私の中で音源が世に出るというのは、夢のあることだと思っていたんですよ。自分の中で考えていたことが曲になって、私とピアノだけの本当に狭い世界から外に出て。知らない人のところに行ってその人に解釈されることでその人のものになったり、知らない場所で流れたりするというのはすごく夢のあることだなと。「このまま死にたくない」という想いで作った“自分の欠片”が、どこかしらの場所へと旅立って欲しいなということで名付けました。

Interview:IMAI

 

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