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Nothing’s Carved In Stone

怖れることなく自らを信じて鳴らされる音にオーディエンスは歓喜の声を上げる

8月から10月にかけて開催された“Silver Sun Tour”にて、誰もが到達したことのない高みからの景色を見せてくれたNothing's Carved In Stone(以下、Nothing's)。今年8/15にリリースした4thアルバム『Silver Sun』の1曲目、類まれなるアンサンブルと強烈なグルーヴでカオスから一気に頂点へと導く彼らのライブを象徴する「Spirit Inspiration」がこの度シングルカット。カップリングは今のNothing'sが存分に味わえる2曲が収録され、今作はシングルながら彼らが持つ様々な魅力に溢れている。何も怖れることなく自らを信じて鳴らされる音にオーディエンスは歓喜の声を上げる。

 

「向かうことにより素直になれたというか。その空間にいるオーディエンスに対しても、少し素直になれたんじゃないかと思います」

●アルバム『Silver Sun』のツアーが10/6に終わったところですが、このツアーでライブがすごく変わったと思うんです。ここ最近は取材の度に「ライブが変わってきましたね」という話をしていますが、同ツアーZepp Diver Cityのライブを観て、それが如実に形になっているなと。

生形:今まででいちばん変わったツアーかもしれないですね。メンバー各々もそうだし、バンドとしても。それぞれがいろんな役割をわかってきたというか、考えるようになってきたというか。

●“まとまり”という部分で言えば、以前の方がまとまっていたと思うんです。今回のツアーは今まで以上にラフな感じがあったんですけど、まとまっている部分とラフな部分との緩急があったし、観ている側の感覚では自由度がすごく高くなった気がして。

生形:歪なところがうちのバンドらしさだと最初の頃から思ってはいたんです。それがどんどん進化していって、今回のツアーではかなり如実に出たんじゃないかと思いますね。

村松:真一(生形)が言ったようにそれぞれに役割があって。メンバーがまったく別の方向を向いているわけじゃないけど、方法論としてまったく逆のことをしている瞬間があるということがこのツアーで分かったんです。そういう別のベクトルのものが上手くひとつになって、エネルギーを放つ空間が出来上がるということが見えたというか。それって簡単なことじゃないと思うんですよ。今まで培ってきたものをないがしろにするわけじゃなくて、個々が今やりたいことを曲げるわけでもないという。

●それに、以前のインタビューで拓さんが「こちらが心を開かないとお客さんも開かない」とおっしゃっていたじゃないですか。まさに心を開いた分、お客さんもすごく心を開いていた印象もあって。

村松:そうなんですよね。ツアー初日からけっこうパカーンと開けていたんです。やらないと分からない恐れってあるじゃないですか。でも今回は、もう何も気にしないでやろう、全部振り切ってやってやろうと思ったので、ツアーの前半の段階でオーディエンスに対する恐れのようなものはなくなりました。歌うことに関しても、オーディエンスに何かを求めるにしても、ツアーを通して以前より楽しくなりましたね。

●以前とは違う感覚ですか?

村松:ツアーをまわるときもMCで何を言うかとか、いろいろと考えていたんです。でも、伝わらない恐怖とかを…自分はもともとそういう性格なんですけど…そういうことをあまり考えなくなりました。そもそも、今からNothing'sになるというわけじゃなくて、現状でNothing'sじゃないですか。だから、そういう事実をどう伝えるか? という方向になりましたね。

●ありのままの自分を認めるということ?

村松:たぶんそうなんですかね。今はブレずに自分たちのやりたいことをやるということがいちばん大事で。特にうちのバンドは昔から1つの方向に向かってやっていくことが大事で…それが何なのかは分からないんですけど…向かうことにより素直になれたというか。その空間にいるオーディエンスに対しても、少し素直になれたんじゃないかと思います。

●ライブの変化という面でいちばん変わってきたのはお客さんとの距離だと思うんです。それはやっぱり日本語詞が大きいとも思うんですが。

村松:アルバム『Silver Sun』だと「白昼」とか「Red Light」もそうですよね。特に「白昼」はライブでやってみて強く実感したかもしれないです。勢いのある曲を日本語でやっていなかったから。

生形:「白昼」はみんなが歌うんだよね。

村松:そうそう。分かりやすく気持ちよくなっている感じが見えたんですよね。

生形:エモい顔をして歌っていましたよ(笑)。

●みんなが一緒に歌ってくれたのはやはり嬉しかった?

村松:嬉しかったですね。それに、オーディエンスがライブに来る醍醐味は、そういうところにあるんだろうなと改めて思いました。自分もライブを観に行ったらそう思うし、単純に日本語で歌うのはいいなと。毎回のツアーで言っている気がするんですけど、日本語詞をやってよかったし、次もやりたいと思います。

●そして11/28にシングル『Spirit Inspiration』がリリースとなるわけですが、M-1「Spirit Inspiration」はアルバム『Silver Sun』の1曲目で、今回のシングルはリカットということですよね?

生形:そうです。アニメの話が来てOKして「シングルで出そうか」と。カップリングは新曲なんですけど。

●M-2「Lighthouse」とM-3「BLUE SHADOW」は、シングルが決まってから作ったんですか?

生形:いや、今年の6月くらいに作ったんです。アルバムのレコーディングが終わって1ヶ月丸々空いたので曲作りをしていたんですけど、そのときにほぼできていました。

●「Spirit Inspiration」はNothing'sの真骨頂を味わえる曲で、ライブでお客さんが暴れている情景がそのまま曲になったようなイメージがあるんです。対して「Lighthouse」と「BLUE SHADOW」は全然別の面を出していますよね。「Lighthouse」は人の意識の中に入っていくというか、もやもやっとしていてNothing'sが得意な感じ。どうやって作ったのかも想像できないという。

生形:拍を取りづらいですよね(笑)。

●「Lighthouse」はどういう経緯でできた曲なんですか?

生形:俺たちは「Lighthouse」みたいな、めちゃくちゃな拍を曲にまとめるのがけっこう得意なんです。でも、自分たち的にもこの曲は今まででいちばん難解ですね。たぶん現時点ではライブでできない。

●あ、マジですか。

村松:僕はもうギターは弾かないです。

生形:俺もコーラスはできないな。

●歌メロが音の合間を縫っているというか。

村松:そうなんですよ。最初は歌えなかったですからね(笑)。こういう変拍子の曲はだいたい真一がメロディを書いているんですけど、最初は毎回“なんだこれ!”と思う。

●ハハハハ(笑)。

村松:聴いているときは全然そんなこと思わないんですけど、歌うとやっぱり難しいんですよね。特にこの曲は、リズムと歌メロの拍が違うから、拍を聴いていると絶対に歌えないんです。こっそり練習しました(笑)。

●カップリングのもう1曲、「BLUE SHADOW」を聴いたときに僕はアルバム『Silver Sun』収録の「Red Light」を思い出したんです。アルバムのインタビューで生形さんが「Red Light」について「初めて歌を際立たせるギターを弾いた」とおっしゃっていたんですよ。この「BLUE SHADOW」も全編ではないですが、1回目の間奏以降が歌を際立たせるギターになっているなと。

生形:ああ〜、2Aからのギターとかそうですね。

●そうそう。だからこの曲は「Red Light」の延長線上だと思ったんです。タイトルも「BLUE SHADOW」で対照的だし。

村松:そこはちょっと意識しました。「Red Light」は僕と人との繋がりを歌った歌なんです。きっかけになる出来事があったんですけど、“自分と同じような気持ちの人たちに寄り添えたらいいな”と思って書いたんです。

●はい。

村松:「BLUE SHADOW」はそのもう少し手前にあるもの。若い子が抱えているなんだかよく分からないフラストレーションとか、自分の言葉とか気持ちは発散しているけど、どこに向かっているのか分からない不安に対して歌っていて。

●だから“BLUE”なんですね。以前から拓さんは「青春を歌いたい」と言っていましたもんね。

村松:そうなんです。「BLUE SHADOW」も僕の中でいろいろなきっかけがあったんです。僕にとって弟みたいな奴がいて、そいつはいろんなことに悩んでいて。極論を言えば、自分の未来なんて決められないじゃないですか。自分で決めるものだけど、本当は行き先なんて分からなくて、それに対して不安はずっと抱えながら進むものなんですよね。

●うんうん。

村松:結局は自分が歩いて行くことで、自分にしか作れない道が後ろにできていることに後から気付くというか。だから“まだそれを知らないだけで今は進むしかないんだよ”ということを伝えたかったんです。「Red Light」も「BLUE SHADOW」も、歌に込める気持ちは同じようなところなんですけど、そういうことを歌った曲なので、「BLUE SHADOW」はどちらかと言うと若い人に聴いて欲しいとは思います。

●生形さんは歌を際立たせるギターを意識したんですか?

生形:どうだったかなあ…。特に歌をどうこうという意識はなかったんですけど、ギターでメロディを作ろうとは思いましたね。

●楽曲の世界観を際立たせるために?

生形:そうですね。

村松:この曲はすごくシンプルじゃないですか。だから歌だけだと寂しいんですよね。でもあのギターのメロディが入ってすごく際立っている。

●ちなみにこの曲、最後はアコギで終わるじゃないですか。曲全体の雰囲気は壮大だから、野外フェスとかで聴いたら高揚するだろうなと思っていたら、最後のアコギで急に引き戻される感じがあってびっくりしたんです。

生形:あれも直前で入れたんです。レコーディングの前日に思い付いて。

村松:俺らは録りが終わり、ミックスダウンで聴いたときに初めて「あれ?なんかはいってる?」となりました(笑)。

●他のメンバーも知らなかったんですか(笑)。

生形:俺は録る直前までアレンジを変えるんです。もともとアコギのイメージはあったんですよ。結構長い曲だし、フェードアウトで終わるよりも何か締めがあった方がいいなと思っていたんです。それで直前に思い付いて入れてみて。実は、弦がめっちゃ錆びたアコギで弾いているんです。

●そうだったんですね。この2曲をカップリングに入れたことで、シングルながらNothing'sというバンドの色んな側面を知ることができる作品になりましたね。

生形:そうですね。6月の時点でいろんな曲を作っていて、その中から敢えてこの2曲を選んだんですけど、特にシングルのカップリングっていちばん好きなことができるんですよね。アルバムほど流れを気にしなくてもいいので実験的なこともやりやすい。シングルという芯となる1つの曲があって、その分自由にできる曲で。特に「BLUE SHADOW」は、音の作り方としては俺たち的には相当新しいことをやっているんです。

●イントロのドラムとか?

生形:あれも新しいですよね。あれはただドラムをループさせているだけなんです。最初のキンキラキンキラ鳴っている音もギターをループさせているだけで。その他にもヴォーカルの歌の処理の仕方だとか、ギターの処理だとか、なかなか普段はやろうと思っても踏ん切りが付かないところをこの曲で自由にやったんです。そうすると、やっぱり次の作品にすごく繋がるんですよね。“次はもっとこうしよう”ということが試せたし、結果的に成功しているのでよかったと思います。

●その次の作品が気になるところですが、6月に何曲か作ったとおっしゃいましたけど、この2曲以外にも新曲はあるんですか?

生形:ありますよ。もうほぼ録れた曲もあります。まだ言えないけど決まっていることもあって…。6月の時点で書いて録った曲が6曲あるんですけど、俺はその曲たちがすごく好きで気に入っていて。近いうちに発表できると思います。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M

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