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ORESKABAND

まるでさなぎから羽化する蝶のようにアーティストとして見事に進化を果たした6人

PHOTO_ORESKABAND2010年11月にアルバム『COLOR』をリリースして以来、約2年3ヶ月ぶりにORESKABANDが新作をリリースした。結成10年、デビューして7年、数えきれないほどたくさんの経験をしてきた6人は、この2年3ヶ月の間に大きな成長を遂げた。待望のニューミニアルバム『Hot Number』をまず驚くのは、その表現の豊かさ。様々なジャンルを飲み込んで昇華し、自らが信じる表現を極限まで追求した新作は、聴く者の感覚に直接訴えかける魅惑的な7曲が収録。きらびやかでどこか切なくて、24歳になる彼女たちの感性で鳴らされたORESKABANDの魅力が満載の今作。さなぎから羽化した蝶のように、アーティストとして見事に進化を果たしたORESKABAND、必聴です。

INTERVIEW #1
「今まではORESKABANDというものを表現した曲だったんですけど、今回はウチらがORESKABANDじゃなくても聴きたいというか、自分が買いたい作品を作ろうという感覚だった」

●2010年11月にリリースしたアルバム『COLOR』以来、約2年3ヶ月ぶりのリリースとなりますが、この2年3ヶ月はなにをしていたんですか?

iCas:ひたすら曲を作ってました。ひたすら曲を作ってライブして。

tae:遊んで。

iCas:遊んで。呑んで。呑んだくれてぶっ倒れて(笑)。

●Tomiは泣いて?

tae:Tomiは酔っ払って泣き。怒り。

iCas:飲みの席でメンバーと喧嘩しては怒り、また泣き(笑)。

●ハハハ(笑)。ライブをやりつつ、ひたすら制作をやっていたと。

iCas:そうですね。『COLOR』を作り終わってから、“次はこういう作品にしたい”というのはあったんです。それはどういうことかというと、女の子が生活していく中で一部分を切り取ったような曲が集まって1枚のアルバムになったようなもの。そういう作品を作りたいという想いがあったんです。

●ふむふむ。

iCas:それをめがけて作っていたんですけど、リリースの間隔が空けば空くほど、プレッシャーじゃないですけど、“次に出すのは勝負曲じゃないといけない”みたいな意識もどこかにあって、自分たち自身が渋ってしまっていたというか。

●渋っていた?

iCas:何を決め手にすればいいのかわからなくなっていた時期があって。

tae:リリースの間隔が空けば空くほど、反応がわからなくなってしまっていたんですよ。お客さんともまたドキドキから始めなくちゃいけない、みたいな。

●夏休み明けに久々に会った友達とはちょっとギクシャクしちゃう、みたいな。

tae:そうそう(笑)。

●今作『Hot Number』を聴くと、すごく音楽的に成長していると思ったんです。今までも作品ごとに成長してきたと思うんですが、『COLOR』から『Hot Number』は劇的な成長が伺える。自分たちがやりたいことをもう1度掘り下げた2年3ヶ月だったんでしょうか?

tae:今まではORESKABANDというものを表現した曲だったんですけど、今回はウチらがORESKABANDじゃなくても聴きたいというか、自分が買いたい作品を作ろうという感覚だったんです。だから今までとは全然違いますね。

iCas:結成して今年で10年目になるんですけど、10年やってくると「ORESKABANDってこういうもの」っていう、勝手な自分のイメージみたいなものに縛られちゃったりした部分もあって。ホーンの存在や、ライブスタイルもそうなんですけど。でもバンドと共に自分たちも育ってきているから、好んで聴くのは違うような音楽だったりするんです。例えば人の深い悲しみとかを表現している音楽とかに惹かれていたり。

●うんうん。

iCas:自分たちの好みはすごく幅があるのに、今までのORESKABANDに縛られていたなっていうのがあって。さっきtaeちゃんも言ってましたけど、1回フラットに考えたときに自分がいいと思える音楽というか、自分が好きな音楽を作りたいなって。ライブはライブやし、CDはCDのおもしろさがあるという割り切り方をして、だからCDは声がいっぱい入っててもおもしろいなとか。音楽の楽しみ方はもっといっぱいあると思って、そういう意味では『COLOR』のときの感覚とは全然違いますね。

●今作に至るまでに曲はたくさん作ったんですか?

iCas:たくさん作りました。300曲くらいは…。

●マジか!

iCas:どうでもいいネタとかも合わせたら400曲くらい作ってます。

tae:その中からバンドアレンジまで全部完成させたのは50曲くらい。一度のプリプロで20曲くらい録ったりして。

●おかしくならなかったんですか?

tae:いや、集中して曲を作ってるのは楽しかったですよ。iCasはたぶん300曲とかやってるからおかしくなったと思うけど。

iCas:おかしくなってました。何周もしてる感じ(笑)。

●バンドで完成させたのが50曲なんですよね? そこから今作の収録曲7曲を選んだ?

tae:いや、そこからはあまり選んでないんですよ(笑)。

●どういうこっちゃ(笑)。

tae:録り始めたのは去年の10月なんですけど、今作はそこから作り始めた曲がほとんどです。300曲は、結局今回の7曲を生むためのものだったという。

●素振りみたいなもんか。

2人:そんな感じ(笑)。

iCas:あの300曲がなかったら絶対にここに辿り着けてないですね。いろんなことを試したんですよ。自分というものをあまり入れない曲を作ってみたり。とにかくいろんなものを。

tae:それも、自分を入れたり入れへんかったりって、何周もしてたな(笑)。

iCas:うん(笑)。“自分たちのアイデンティティは守るべき”という思考と、“新しいものを作りたい”という思考がずっと入り交じっていて。

●どうやってこの7曲ができたんですか?

iCas:今作を作るとき、今一度コンセプトをはっきりさせようと思ったんです。スタッフさんも含めて話したんですけど、とにかく“世界一のガールズバンドになる”というのがまずあったんですよ。

●うんうん。

iCas:世界一になるかどうかは別にして、そこを目指そうって。例えば世界でいちばん大きい音楽フェスに出たとしても、「あの女の子たち超イケてる!」と言われるサウンドって何なんだろう? と想像して、そのコンセプトに当てはまる曲を作っていったというのが取り掛かりだったんです。

●音楽的には?

iCas:今まで守ってきた“6人の音”ということじゃなくて、CDとして楽しめるものを目指したんです。表現的にも、バンド構成を軸に考えるんじゃなくて、曲で表現したいことを思いっきりやろうと。

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INTERVIEW #2
「自分が作りたいと思うものを、人にわかってもらえるように書けることにちゃんと意味を持ちたかった。とにかく音楽で勝負したい」

●今回の7曲を聴くと、曲ごとに雰囲気や世界観がバシッと入ってくるんですよね。鳴らしている6人が見えるというより、楽曲の世界観がぎゅっと固まっているものばかりだと思ったんです。

2人:うんうん。

●そういうところが今までのORESKABANDのイメージとは明らかに違っていて。曲がどうやって完成に至ったかがいい意味で見えないんです。M-2「Tokyo Magical Wonder City」やM-6「Orion Night Move」とか特にそうなんですけど、聴いた瞬間に曲の世界に入り込んでしまう感じ。

tae:今まではiCasのメロディがまずあって、そこからバンドの音に膨らませていく感じで作っていたんですけど、今回は「こういうサウンド感でこういうことを歌っていて」ということを決めてからメロディを作り始めたんです。例えば「Tokyo Magical Wonder City」は、「東京のことを歌った曲を作ろう。ウチが思っている東京っていうのはこういう感じでキラキラしていて」みたいなやり取りをした上で曲を作り始めたんです。

●あ、最初にそういうイメージ合わせをしたんですか。

tae:そうです。ウチとiCasの2人で「こういうビート感がいいよね」と話し合って。

iCas:「Tokyo Magical Wonder City」は特にその最初のイメージをはっきりさせて作ったんです。ウチはウチなりに東京のイメージみたいなものがありつつも、taeちゃんの思う東京みたいな話をまず聞いて「あ、そういう女の子やったらこういうサウンドの中に居てほしいよな」みたいなものをイメージして曲を作って、それを渡してtaeちゃんが歌詞を付けて。

●どの曲もそういう作り方をしたんですか?

tae:だいたいそうですね。メロディの破片があったとしても「その破片をこのイメージに合わせたい」みたいなやり取りで。

iCas:例えばM-7「Walk」は、Aメロが最初サビだったんです。でももうちょっと軽くて、口ずさみながら歩けるような雰囲気にしたいと思ったから、その気分を表現したサビを新たに作って。どの曲もそうですね。気分をメロディで表現した感じです。

●確かにどの曲のメロディも感情に対して感覚的に作用する感じがありました。

iCas:どうやったらその気分がメロディで表せるかっていうところはすごくこだわったんです。ちょっとでもポジティブ過ぎたら「なんか違う!」みたいな。

●そう。ポジティブ過ぎる曲はないですよね。暗すぎる曲もないし。

iCas:絶妙なところにいきたかったんですよ。最初に曲のコンセプトを決めたと言いましたけど、どの曲のコンセプトも「こうだからこうだ」みたいな単純なものではなくて、もうちょっと複雑な景色や気分を音楽で描きたかったんです。

●ということは、作品の全体像があり、1曲1曲で表現したいコンセプトを決めてから曲を作っていったということ?

tae:そうですね。だから1枚のアルバムとしてバランスが取れたと思うんです。300曲の中から選んでいったら、たぶんまとまらなかったと思います。曲ができていくに従って「後はこういう雰囲気の曲がほしいよな」とか言いながら作っていったんです。iCasも、300曲を作っていなかったらコンセプトに合うメロディや曲を作れなかったと思うんですよ。

●そうでしょうね。確かに。

tae:「こうだ」と思ったメロディをポンと出せたのも、それまでにいっぱい曲を作ってきたからだと思うんです。

●こういうメロディを作ったらこういう雰囲気になる、ということが経験としてわかっていたと。

iCas:そうそう。

tae:それに今回はアレンジャーさんを立てたんですけど、1曲1曲別の方にお願いしたんです。それも意味があって、バラエティ感が欲しかったんです。いろんな人とできたことで、すごく勉強にもなって。例えばドラムだったら「こういうドラムが叩きたい」ではなくて「この曲にはこういうドラムが欲しい」というアプローチなんですよね。

iCas:曲をプレイするんじゃなくて、曲を表現するという感じなんです。

●ああ~。

tae:それがすごく新鮮で。

iCas:1つ1つの音も、自分らしさではなくて、曲を表現することを目的としているというか。自分を表現したいわけじゃなくて、自分の感覚を表現したかったから、ギターのサウンドとかもアレンジャーさんと「いや、ここはもうちょっとキラキラしてるんですよ」って細かくできたことも今回のアルバムが初めてで。

●なるほどね。

tae:今まではORESKABANDとしてみんなを見ていたけど、今回はウチらもみんなと一緒にORESKABANDを見ているような感覚で。「こういう音楽を聴きたいよね」っていう感じで全部鳴らしてきたし、曲を作る段階でもそういう意識やったよな。

iCas:うん。今まではただやっていることに対して自我があったんですよ。でも今は音楽がアイデンティティになった感じ。

●うんうん。

tae:バンドをやっている自分を好いてほしいという感覚と、「こういう表現がしたいんだよね」っていう表現を好いてほしいという感覚は全然別のものじゃないですか。私、今回ホーン3人に「もう誰が演奏してもこれがORESKABANDやっていうアルバムを作りたい」って言ったんですよ。

●ほう。

tae:「自分たちの音楽にちゃんとアイデンティティを持ちたい」って。「HAYAMIが吹いてるからORESKABAND」、「SAKIやからORESKABAND」じゃなくて「このサウンドを鳴らせるのがORESKABANDだよね」ってなりたい。ということはメンバーチェンジしてもいいという話じゃないですか。このサウンドを鳴らせたら誰でもORESKABANDになれるから。そういうアルバムを作りたいっていう話をしたんです。

●そしたら3人はどうなってました?

tae:めっちゃビビってました(笑)。

●アハハハ(笑)。

iCas:私も含め、ただ居ることに安心しちゃうっていうところがあったんですよ。「私は曲書いてるし」みたいな。その曲がどういうものであれ、いいものか悪いものか別にして、「曲を書いてる」ということに自分で満足していた部分があったんです。

●なるほど。

iCas:そうじゃなくて、自分が作りたいと思うものを、人にわかってもらえるように書けることにちゃんと意味を持ちたかった。とにかく音楽で勝負したい。『COLOR』のときのオリジナリティを追求していた感覚って音楽というよりは自分にフォーカスが当たっていたんです。そうじゃなくて、作りたい音楽は何なのか? というところをずっと追求していたんです。

●意識が全然違うんですね。

tae:だから今回ホーンがない曲(M-3「それは勝手な理論」)もあるんです。そうすることによって、ホーンが入っていないORESKABANDのアイデンティティを示すことができたし。「その代わりに歌って」って、コーラスとかも結構今回入ってるんです。

●コーラスは今回すごく入ってますよね。

iCas:そうなんですよ。むっちゃ入れたんです。それも、今まで「ツインヴォーカルのスカバンドだよね」みたいな、勝手な固定観念が染み付いちゃってて。そうじゃなくて、ウチは客観的にtaeちゃんを見て「声がいいな」と思っていたし、taeちゃんが新しい曲の歌詞を作ってきたときのデモの仮歌を聴いたときに感動したことがあって。taeちゃんの声から伝わってくるものがあったから「あ、taeちゃんもいい歌を歌うから入れたい」と思って。

●なるほど。

iCas:今まではTomiが歌うことに意味があったんですけど、そうじゃなくて、声とか歌とか、何を表現しているかということを大切にしたんです。TomiはTomiで違う活かし方があるし、それもちゃんと見極めていこうっていう想いも今回あって。

tae:Tomiも今まで以上にベースをめっちゃ追求するようになったから、だから歌う暇もなさそうやしなって。

●ハハハ(笑)。でも今作のベースすごくいいと思う。

tae:そうですよね。めっちゃ必死に弾いてるから。

iCas:Tomi自身もそれで解放された感じがあって。

tae:「私、もうどこで弾いてもいいんや~」「iCasを支えなくていいんや~」って。

●それTomiの真似ですよね(笑)。taeさんはどの曲で歌っているんですか?

tae:結構歌ってますよ。「それは勝手な理論」もそうやし、「Tokyo Magical Wonder City」も「Walk」も歌ってます。

●「Walk」は途中でヴォーカルが変わるじゃないですか。

tae:Bメロとかですよね。あれ私です。

●あっ、Tomiじゃないんですか。あのふんわりしたヴォーカル。

iCas:taeちゃんです。

●やるやん!

tae:ハハハハ(笑)。

iCas:いい声なんですよ。ウチ、ずっといい声やなと思っていて。

●さっき言ったように誰が歌うかということが大切なんじゃなくて、表現として考えたときに、誰が歌ったらいちばん適しているのかという。

iCas:そうです。

tae:やったもんな。オーディションチックなことを。

●ORESKABAND内ヴォーカルオーディションしたんですか(笑)。それでtaeさんが勝ち残ったと。

iCas:そうです。

tae:ウチは歌詞を書いてるから、やっぱりイメージがそもそも共有できているんでしょうね。


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INTERVIEW #3
「ウチらにかっこいい服を着せる人とかはたぶんいろんな人が居るかもしれないけど、いい音を出すのはウチらにしかできないことなんですよね」

●iCasのヴォーカルもすごく表情が豊かになりましたよね。

iCas:昔とは全然感覚が違いますね。昔は「これを表現したい」というのがあまりなくて、歌っているのが単純に楽しかったりしていたんですよ。でも今回は「これを表現したいな」というのが常にあったから、「じゃあこれを声で表現するにはどうしたらいいんやろう?」っていうトライがすごくありました。曲の中の主人公になりきるっていう。今までは、自分のスタイルに落とし込む感覚だったんですよ。

●そういうものを全部取っ払ったと。

iCas:それも同じで、自分のヴォーカルスタイルに対する勝手なイメージに縛られたくなかったから、1回ひとりの人間として見つめなおしてみようって。

●今作は非常にバラエティに富んでいて、スカというジャンルでは括れない楽曲ばかりですが、ブラックミュージックが持つノリや雰囲気がルーツになっている印象があったんですけど、そういう自覚はありますか?

2人:全然ないです。

tae:ジャンルに関しては全然意識してなかったんですよ。『COLOR』はウチらなりのスカ・アルバムだったんですけど、それとは全然違うアプローチだったので。今作の中では唯一M-5「ラブ・ラ・ラバーズ」が裏打ちでちょっとスカのテイストがありますけど、それももうちょっと進んだものっていうイメージで。6つの音だとどうしても表現しきれない部分って出てくるじゃないですか。だから今回はどの曲もいろんな音を入れているんですけど、それもウチらが普段好んで聴いているアーティスト…例えばリリー・アレンとか…を参考にしているんです。

●ああ~、なるほどね。

tae:そういうのに挑戦したかったんです。

●あとtaeさんによる歌詞なんですが、今作は単語として際立っているものが多い気がして。明確に「こうだ」と歌っている曲はなくて、歌詞も雰囲気を表現しつつ、単語としてのキャッチーさが残る印象があったんです。歌詞を書く感覚も、今までとは違いました?

tae:今までとは絶対に違いますね。シングル『自転車』(2010年4月)辺りからちゃんと歌詞に向き合って書くようになった感じがあって、それまではポーッとして書いていたという記憶しかないんです。

●ポーッとしていたのか。

tae:「私はこういうことが書きたい」というものがないまま、中学校のときから歌詞を書いていたんですけど、だんだん好みみたいなものがハッキリとしてきて、例えばさだまさしとかユーミンとか井上陽水とかが今は大好きなんですよ。あの人たちの歌詞の世界がいいなと思っていて。

●ほう。

tae:最近って短くてメッセージがバーンとした歌詞が多いじゃないですか。でもあの人たちの歌詞を読んでいるだけで、ひとつの映画を観た感じになれるというか。

●ああ~、なるほど。“ホテルはリバーサイド”とか言われてもわけわからないですもんね(笑)。

tae:そう! ほんまにわかんない!

iCas:ちょうど昨日もそういう話をしてて(笑)。

●でも雰囲気はわかるという。

tae:そうなんですよ。なんかエロいのはわかる(笑)。

一同:ハハハハハ(笑)。

tae:ああいう例え方が綺麗だったり、そういうのがすごく好きで。だからどの曲も言い切らないというか。そういう歌詞が好きやと思った時点で、何か答えがないことも歌にできるんやっていうことに気づいたんですよね。今までは日々の中で発見がないと歌詞にできなかったり、ぼやけたままで歌詞を書き始めても、書き終わることには「こういうことだよね」って自分でオチを付けちゃってたんです。

●うんうん。

tae:でもオチがないこと…ひとつの景色も言葉で歌えるんやなっていう感じがこの2年3ヶ月の間にしていたんです。だから「Tokyo Magical Wonder City」も、iCasは「もっとメッセージがある方がいい」と言っていたんですけど、でもこの歌詞はマドンナがニューヨークに行った日の話を聞いて「すげぇ!」と思ったことがきっかけになっているんです。ウチらはトラックに乗って東京に出てきたんですけど。

●うん。マドンナとはちょっと違いますね(笑)。

iCas:アハハ(笑)。

tae:マドンナは35ドルしか持ってないのにニューヨークに来て、タクシーに乗って「私を世界の中心に連れて行って」と言って。タクシーの運転手さんがタイムズ・スクエアに連れて行って、そこでマドンナが「私は神様よりも有名になるのよ」と誓ったらしいんです。その話を聞いてめっちゃ感動したんです。ウチはどうかわからんけど、東京に出てきている女の子とか見るとみんな1人で出てきているじゃないですか。その子たちってこういう感覚なんかな? って思いながら。その子たちから見える景色を書きたいから、iCasに「もっとメッセージがある方がいい」と言われたけど「逆にウチはそういうの入れたくないねん」って。

●なるほど。

iCas:前作に「街を出るよ」という曲があったから、ウチはウチで「上京した答えを出さないと」って思ってたんですよ。でも自分の生活とかを改めて考えてみたら、自分が上京して思うことっていうのは、東京という街に対してびっくりしているし、興奮しているし、楽しいし。答えが出ていないけどがんばろうって思うし、そういう歌はおもしろいなと思ったから「これや!」と思って歌ったんです。

●ざっと話を聞いてきましたが、かなり意識が変わったんですね。今、ORESKABANDとしてやりたいことは、さっき言っていたように表現を追求すること?

tae:そうですね。もうそこしかやることがないよなってことが、リリースがない間にすごく思ったことで。何よりも今自分たちにいちばん大事なことは音楽やし、音楽を追求すること以外にやりたいことなんてないと言っていいぐらい。ウチらにとってはそうしていくことが生きていくこと、くらいの感じですね。

●いいことですね。

tae:リリースがなかった2年3ヶ月の間、いろんなことを考えていたんです。バンドの見られ方とか。でも最近はそういうのもどうでもいいなと思ってきて。

iCas:うん、そうやな。

tae:見られ方なんて見る人が勝手に決めたらいいし。自分が出せる音を良くすることは、ウチらにしかできないことなんですよね。ウチらにかっこいい服を着せる人とかはたぶんいろんな人が居るかもしれないけど、いい音を出すのはウチらにしかできないことなんですよね。だから「そこに対する追求しかやることはないよな」って最近よくメンバーと話してるんです。

iCas:この2年間で腹を括れた感じがあるんです。将来音楽業界がどうなるかわからないし、レーベルとかもどうなるかわからないし。今までレーベルの力を頼ってやってきたからもちろん感謝はしているんですけど、ウチらがどこに行こうが、どういう環境で音楽をしていようが、“音楽がいい”っていうのが第一やし、それを聴くのはお客さんじゃないですか。今のレーベルやからってCDを買わないわけで。

●うんうん。

iCas:だから音楽に対する責任感はすごく芽生えてきて。そこが今までといちばん違いますね。

tae:うん。この2年3ヶ月は、発信できないフラストレーションを初めて感じた期間だったんですよ。今までは「CD作るよ」と言われてワーッと作って、追いついていくのに必死やったんですよ。でも曲は作っているけど出すまでには至っていない期間が長かったりすると、生きている心地がしないんです。ライブをしても、まだ10代の気持ちを書いた曲とかをやってても、こっちはもう23歳なんですよ。

●いつまでセーラー服着てるねんと。

tae:そうそう。そこに対してリアルタイムな気持ちを発信したいという想いは、この2年3ヶ月で強くなった感じがします。

iCas:この2年3ヶ月の間に自分たちは何がしたいんやろう? と考えたとき、「今鳴らしたい音を鳴らしたいことしかないな」とすごく思ったし、環境を自分たちで作っていくことだとも思ったんです。

tae:うん。それはこれからの課題でもあるなって。

●自分たちが鳴らしたい音を鳴らすために、自分たちで環境を作りたいと。

iCas:誰かに頼るんじゃなくて、自分たちがしたいことのために誰かに手伝ってもらうっていう感覚にだんだん変わってきていて。

tae:しかもラッキーなことに、いろんな経験をさせてもらっているので、いろんな方法を知っている分、暗くもならないよな。「アメリカだって行けるんじゃね?」みたいな(笑)。

iCas:うんうん(笑)。

tae:いろんな経験をさせてもらったから思えることで、「こういうこともできるんじゃないか」ってすごくポジティブに思えることがすごく不思議なんです。2年3ヶ月もリリースしていなかったから暗くなってもいいのに、まだ見ぬ自分たちの未来に興奮してるんですよ。

●そういう気持ちになれているのは、2年半前に東京に出てきたことも大きいんじゃないですか?

iCas:そうですね。改めて思うのは、今まで生きてきた人生というのは家族のルールだったんだなと思ったんです。こっちに出てきて、自分のルールで生活するじゃないですか。

tae:ウチら全員初めてのひとり暮らしだし。

●あ、そうか。

tae:そこからひとり暮らしして、生活っていうことがわかったのは大きいですよね。「あ、ほんまにご飯は作らんと出てこないんや」とかって(笑)。

●そういうことですね(笑)。ライブやリリースは待っててもできるものではないと。

tae:そうそう。自分がやろうとしないと何も動かない。でも、そもそもがそうやんなって。

iCas:若いときにデビューしてるから、その辺がこんがらがっていたというか。結構いろんな人に頼りまくってここまで来たから。

tae:そういういろんなこともわかったから、今はすごくバンドのテンションがいい感じなんですよ。未だ見ぬ世界にワクワクしてます。

interview:Takeshi.Yamanaka

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