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Poet-type.M・門田匡陽 Special Interview 夜しかない街を舞台に描き出す壮大なるサーガ。一番新しいお伽話が幕を開けた

PtM_Asha2015年の1年間をかけて、“Dark & Dark=夜しかない街”の物語を4枚の作品リリースとライブで表現していくことを発表したPoet-type.M(以下PtM)。その序章となる“A Place, Dark & Dark -prologue-”が県民共済 みらいホール(横浜・みなとみらい)にて開催されたのは、1月末のことだ。演奏された全15曲中10曲が未発表の新曲というセットリスト、弦楽四重奏とのコラボレーション、合間にMCはなくナレーションのみという、まさしく挑戦的と言うほかない試みだった。そんな圧巻の世界観を垣間見せたライブを経て、いよいよ春夏秋冬に合わせた4作の第1弾『A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-』(【春盤】)がリリースされる。不退転の覚悟と気高い誇り、そして明確なビジョンの下に新たなお伽話をスタートさせた門田匡陽に訊くスペシャルインタビュー。

 

●まずは先日(1/31)の“A Place, Dark & Dark -prologue-”についてお訊きしたいんですが、アンコール前のMCで「楽しかったでしょ?」と言ったのが印象に残っていて。自分でもすごく良いライブをできたという実感があったからなのかなと。

門田:俺がああいうことを言うのって、結構珍しいよね。“Dark & Dark”をやるにあたっては他との差異化というところで、まず一番にライブについて考えていて。いわゆるフェス・フォーマットのライブというか、実態のない亡霊のような楽しさに対するアンチがやりたかった。中味がなくても楽しいということが“正義”ではないし、逆にあの時間に凝縮されていた楽しさっていうのはすごく“リアル”だったと思う。俺の中で“リアリズム”の定義というのは、“想像したものをちゃんと鮮明にみんなに届けられるか”というところで。そういう意味ですごく芳醇な時間だったと、ライブをやっていて思ったんだよね。

●ちゃんとお客さんにも届いているというのも実感できていたのでは?

門田:でも正直、お客さんの反応はあまり気にしていなくて。やれたら“やれた”って自分でわかるからさ。それに対してお客さんがどう感じるかというのを気にしすぎた結果が、今の音楽シーンだと思っているから。でも本編が終わるまで1回も拍手が起きなかったというのは、成功だったんだなと思うよ。それが俺の中で大きかったと思う。してやったりというか。

●最初から1曲ごとに拍手は起きないものだと想定していた?

門田:自分が「うわっ、すげぇ!」と思ったら、そうなるから。そうなったら良いなとは思っていた。

●演奏中も充実感のようなものはあったんでしょうか?

門田:演奏に関しては15曲中の10曲が新曲だったのもあって俺たちの中では充実感というよりも、棺桶に釘を刺すような感覚が強かったかな。「この角度や強さで良いのかな?」と1本1本確かめながら釘を打っていくような、ピリッとした1時間半だったんだよね。

●楽曲によっては、初めて人前で演奏するものもあったわけですよね。

門田:ほとんどの曲がそうだったし、ストリングスとの共演もあったから。俺たちの中で、演奏を楽しむという感覚は一切なかったね。このメンバーでやりたいことは、はっきりしていて。ただひたすらそれに徹するというか。

●セットリストはどういう基準で選んだんですか?

門田:まず一番最初にあったのは、春・夏・秋・冬の4枚からそれぞれ何曲ずつかはやろうということで。あそこでは“Dark & Dark”という物語の“目次”をやりたいと思っていたから。

●ライブ自体がまさに“prologue”的なものになっていたと。列車に乗っているイメージに誘導するようなアナウンスは、今回がまず“Dark & Dark”の入り口への旅だったというところから?

門田:“Dark & Dark”という街にみんながどこかからやって来るというか、そういうのが今回のテーマだった。だから「今、みなさんは“Dark & Dark”に着きましたよ」というところで終わったんだよね。みんなが列車に乗って、1年続くこの街に遊びに来たというところで今回のお話はおしまいっていう。

●ということは今回の『A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-』(以下『春盤』)に入っている曲は、どれも街に着いた後のお話?

門田:『春盤』に関しては、“prologue”の後という時系列になっていて。だから、みんなはもう“Dark & Dark”の中にいるという感じだね。それで今後はおそらくM-1「唱えよ、春 静か(XIII)」の歌詞に出てくる“XIII(サーティーン)”という女の子の目を通して、“Dark & Dark”の中を1年間歩くことになると思う。

●“XIII”は人の名前だったんですね。

門田:“XIII”というあだ名の女の子のお話なんだよね。春・夏・秋・冬と進む中で、そこがより鮮明にわかりやすくなっていくと思う。つまり、その“XIII”という女の子に対する全肯定の物語なんだけど、それは自分の価値観を「全肯定されていると思って生きてみる」という仮定であって。そうすることによって、今感じている閉塞感やつまらない不満といったものに対する何かしらの糸口になるかもしれないなっていう。それを1年間を通して、音楽業界に示していきたいなという気持ちはある。

●以前のインタビューでも“Dark & Dark”の世界観は日本の現状に対する“合わせ鏡“になっているというお話がありましたが、それともつながっている?

門田:やはりそういう部分は強く意識したね。今の日本では、自分を卑下する方向に全ての文化が向かってしまっている気がしていて。でも世界的に考えたら、日本ほど恵まれている国なんてないんだよ。食べるものも着る服も聴く音楽も何でも自由に選択できるっていう、こんなに自由な国は他にない。だって、俺たちには何のルーツもないんだもん。

●ルーツがないというのは?

門田:今、俺たちが“日本”だと思って生きているこの社会って、何のルーツにも則していないんだよ。色んなものの吸収を繰り返してきたから、そういった意味で日本という国はすごく懐が広いというか。外国文化に対するコンプレックスの裏返しで、わりと何事に対しても“Yes”じゃん。音楽に関してもそうで。今回は“Dark & Dark”の第1章ということでわりとニューウェーヴ色が強いんだけど、別にこれが俺のルーツではないわけさ。俺はニューウェーヴや80sポップスを自分の音楽的なルーツにしているわけではない。でも裏返せば、それってすごく“日本”っぽいんだよね。これがミシシッピ出身のアーティストだったら、絶対にこうはならない。俺たちは最初からデルタブルースを聴いているわけでもないし、最初からマージービートを聴いているわけでもないから。

●街に根付いた音楽があって、それをルーツにしているわけではない。

門田:そうなんだよね。でも俺たちは(童謡の)「シャボン玉」を聴くのと同じ感覚で、「グリーングリーン」とか「ロンドン橋落ちた」を聴いているわけじゃない? 全世界の民謡をこんなに最初から聴いている国は、他にないからね。そういった意味では日本人って別にルーツにこだわらなくても良いわけで、選べる自由がある。だから“Dark & Dark”の1作目に関しては、春らしい爽やかなニューウェーヴ調の曲を入れたところがあって。でも夏は全然違うものになるかもしれないし…というようなところも、1年間を通して楽しんでもらいたいなと思ってる。

●ニューウェーヴに限らず、今作のサウンドには振り幅の広さがあるというか。聴く人によって、解釈の違いを許容するものにもなっているのかなと。

門田:そうなっていたら嬉しいよね。文脈を知らないと語れない音楽にはならないようにしたいと思っていて。やっぱり“Dark & Dark”という街に住んでいる1人1人の物語だから、群像劇って多様で当たり前じゃない? “Dark & Dark”という街をすごく憎んでいる人もいれば、この街をすごく愛している人もいる。そういう様々な視点が入り乱れるようなプロジェクトにしたいなと。ただ春夏秋冬と進む中でも、“XIII”はいつもどこかにはいるんだろうなと思ってる。

●1曲1曲で“Dark & Dark”という街の中の色んな人や場所を表現している。

門田:たとえばM-3「観た事のないものを、好きなだけ(THE LAND OF DO-AS-YOU-PLEASE)」の副題になっている“THE LAND〜”は“Dark & Dark”におけるテーマパークで、そこで流れているテーマソングというコンセプトで作ったんだよね。

●副題で言えばM-5「泥棒猫かく語りき(Nursery Rhymes ep3)」の“Nursery Rhymes”というのは“童謡”という意味ですが、そういうものを意識して作った?

門田:“Dark & Dark”の街で歌われている「赤とんぼ」や「シャボン玉」みたいな曲だよね。そういう街の歴史も作っておいてあげないとなって。

●「泥棒猫かく語りき」はユーモアのある曲ですよね。

門田:こういう曲が1つ入ることで空気に隙間ができて、呼吸がしやすくなるから。サブタイトルに“ep3”と入っているんだけど、お察しのとおりこれは“ep(エピソード)4”まであって。その中の3つめを『春盤』には持ってきた。これは単純に曲調で選んだだけで、番号自体には意味がないんだよね。

●M-6「楽園の追放者(Somebody To Love)」の副題は同名の有名な曲があったりしますが、そこも関係していたりする…?

門田:「Somebody To Love」に関してはQUEENの名曲を想起する人が多いと思うんだけど、実はその邦題がすごく秀逸でさ。「愛にすべてを」というタイトルなんだよね。それがすごくジンとくるというか。“愛”にも色んな形があるだろうけど、「楽園の追放者」で歌われているような“覚悟を持って1人であることを受け入れる”という、世界に対する愛し方もあるわけで。たとえば今回の“Dark & Dark”の第1章は全肯定の物語であるとさっき話したけど、「唱えよ、春 静か」は“XIII”という女の子の旅立ちを笑って見送るという全肯定の“別れの物語”なんだよね。

●そこにも愛があるというか。

門田:音楽をやる上でのファンタジーであり、俺の非常にロマンチックな部分なのかもしれないけど、やっぱり“愛”っていうのは唯一の全肯定できるワードなんだよ。“夢”とか“自由”だとちょっと違う。自分の場合は音楽に対して特にそうなんだけど、“愛”は全肯定できる唯一の言葉なのかもしれない。最後にそういうものを持ってくることで、物語がちゃんと落ち着けたというか。だから「楽園の追放者」に関しては、絶対にこれを最後に持ってくるというのは決めていたんだよね。

●この曲で歌っている“大人になるなよ 無駄に許すなよ 二度と日和るなよ”というのは、自分自身に対する戒めでもあるのかなと思ったんですが。

門田:これは曲調を聴いたらわかる人にはわかると思うんだけど、Good Dog Happy Men(以下GDHM)をやり始めた頃の自分が今の自分に対して歌っているというイメージだね。

●“毒入りのリンゴ 齧ってもどうやら死なないようだ”というのも、GDHMの「林檎」を想起させますよね。

門田:そこは完全にスターシステムだよね。GDHMの『the GOLDENBELLCITY』(1stフルアルバム/2007年)で、既に今回の“Dark & Dark”みたいなことをやっているわけじゃない? これはその何万年後かの話かもしれないし、もしかしたら明日の話なのかもしれない…というようなサーガ(※1つながりの物語を長い期間にわたって壮大に描く長編の作品)になっていて。それは昔から聴いてくれている人たちへの1つの「ありがとう」でもあるし、そういうのがあるから楽しいんだよね。

●ずっと聴いてくれている人たちにはわかる仕掛けも隠されている。

門田:そういうのが俺の責任のとり方なんだよね。昔から知ってる人たちに対して、屋号をコロコロ変えて申し訳ないなとは思ってるからさ(笑)。

●ハハハ(笑)。音楽を続ける上では、ちゃんと責任感を持ってやっているということですよね。

門田:今まで自分がすごく感動してきた音楽に対して、恩返しがしたいと思うから。俺は物にも人間関係にも執着心があまりないんだけど、やっぱり音楽だけにはあって。心がグラグラ動かされるというか、そこに対する「ありがとう」を生涯かけて言いたいんだよね。それをしっかりやりたいというのが一番大きいかな。

●自分を揺り動かしてきた音楽というものに対する感謝を、ちゃんと責任感を持って表現していく。

門田:これは声を大にして言いたいんだけど、今って“アーティスト”と名乗っている人がたくさんいるでしょ? アーティストって、アートを作る人じゃん? アートっていうのは文化とイコールなわけで、本当に「自分たちが文化の礎(いしずえ)になっているという自覚はあるの?」って思う。やっぱりそこなんだよね。これから生まれてくる子どもやそのさらに子どもたちたちが聴くかもしれないと考えたら、中身のないものなんか作れない。

●ちゃんと文化として成り立つものを意識的に作っていかなくてはならない。

門田:Poet-type.Mが今やっていることもそういう文化の1つだから、後々の人たちのスタンダードになっていくということを自覚しないといけないんだよ。そういうことを考えながら音楽をやらないといけない時代になっているんだと思う。でも今の日本の音楽シーンは90年代初頭に完成して既に終了したフォーマットでずっとやってきていて、そこから時が全然動いていない。

●そういう音楽シーンの現状への投げかけがM-4「救えない。心から。(V.I.C.T.O.R.Y)」なのかなと。

門田:「救えない。心から。」はまさにそういう側面の曲で、「唱えよ、春 静か」や「楽園の追放者」には全肯定のテーマがあるとしたら、これはもう全否定だよね。現状の音楽にまつわる全てを、音楽にまつわる人たち自身がバカにしている感じがするから。1人のミュージシャンとして、そこに対するイラ立ちはハンパなくて。「あんたらが音楽をナメて、どうすんの?」っていう。

●でもそういう部分が変わっていく可能性を信じているから、今回のような試みをやろうとも思うのでは?

門田:それはまさにそのとおりだし、俺はたまたまこういう道を歩んで来れたというのもあって。実際に音楽をやめてもおかしくないタイミングなんて、いっぱいあったからね。普通の人は25歳でまず悩むらしいけど、俺には全くそれはなくて(笑)。たとえばGDHMが2人だけになった時とか…。

●普通だったら解散してもおかしくなかったですよね。

門田:そう。でも何でか知らないけど(笑)、(内田)武瑠と2人で『The Light』(2ndフルアルバム/2010年)までやったわけじゃん。

●そんな状況下で作ったとはいえ、『The Light』はすごく良い作品になったと思います。

門田:俺も『The Light』はすごく好きで。というか、2人になってから『The Light』までのCDはどれも好きなんだよね。でもあの時って、誰も見向きもしてくれないような状況だったわけ。それはすごく感じていたからこそ、絶対にあの時の自分たちの仇を討ちたいっていう気持ちがある。

●今回のプロジェクトもその一環ではあるわけですよね。ちなみに、春夏秋冬の4枚を完成させた先というのも既に考えている?

門田:うん、考えてる。でも冬が終わった先に、俺が“Dark & Dark”から帰って来られるのかがまだわからないけどね(笑)。

●まずはそこなんだ(笑)。

門田:もしかしたら、やりたいことが1年では終わらないかもしれないわけで。とにかく、俺は自分のミュージシャン人生を長いタームで考えているから。決めつけずに、やりたいことをやりたい時にやれば良いかなって思ってる。その気軽さがないと、やっぱり夢のあるものは作れないんだよね。

Interview:IMAI

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