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POLYSICS

初ライブから15年、遊び心と音楽的好奇心が 詰まった豪華な15周年記念アルバム完成

 DEVOに憧れてバンドを始め、その魅力にハマり続けて15年。3/3には記念すべき1000本目のライブ、そして続く3/4には15周年記念ライブを開催するPOLYSICS。

昨年3/9には3人体制となって初のフルアルバム『Oh! No! It's Heavy Polysick!!!』をリリースし、ストイックさとソリッドさと狂気を更に深化させたライブでシーンを魅了し続けてきた彼らが、15周年記念アルバム『15th P』を完成させた。

たくさんのゲストを迎え、好奇心と遊び心をエッセンスに加え、15年間で磨き抜いてきたセンスを駆使しつつ手間暇かけて組み上げられた今作は、“おもしろいと思うことには努力を惜しむな”というPOLYSICSのメッセージが込められた歴史に残る名盤。

バイザーの奥でキラリを目を輝かせ、キャリアに胡坐をかくことなく、常に正座&前傾姿勢で己の限界に挑戦し続けるPOLYSICSに怖いものはない。

Interview

「せっかくだから派手にいきたいなと。自分たちも"15周年に乗っかっちゃえ"みたいな気持ちだったんです」

●早速ですが、3/4で15周年なんですね。

ハヤシ:そうですね、新宿JAMでの初ライブが3/4なんです。そういう意味での15周年。

●オリジナルメンバーはハヤシさんだけですが、15周年の実感はあります?

ハヤシ:あるっちゃあるけど、ないっちゃないっていうか…初ライブとか、今でもすごく鮮明に覚えていて"あれって15年も前だったっけ?"って感じ。初ライブはすごく緊張したんですよ。リハーサルも初めてだったし、トップバッターだったから入り時間が16時ぐらいだったんだけど、"開演が18時半なのにそんなに遅く行っていいのかな?"と不安になって。何より新人だし、12時半ぐらいに行ったらライブハウスが開いてなかった(笑)。"逆リハ"っていうルールさえも知らなかったんですよ。

●初々しいですね(笑)。

ハヤシ:本番もよくわからないうちに終わって。今でも鮮明に覚えていますね。

●15年というとバンド界隈ではちょっとしたベテランのように見られると思うんですが、POLYSICSはあまりそういうイメージがないんですよね。

ハヤシ:ヤノが入って8年目だったりするし、結成当初とは体制が違いますからね。この3人で15周年だったらまた違った印象だと思うんだけど。新たなPOLYSICSが始まって、また変わってっていうのがあったから、そういう意味では落ち着いてらんないというところはあるかもしれない。どっしり構えるというよりは、その都度"今のPOLYSICSの形を作っていかなきゃいけない"といっぱいいっぱいになっているうちに15年経った、という方が近いかも。

●胡坐をかいている暇はなかったと。

ハヤシ:正座しっぱなしみたいな。足がしびれるけど取りあえず正座しておくという(笑)。

●アハハ(笑)。今回、15周年記念ということでアルバム『15th P』をリリースされるわけですが、毎度のことながら1曲たりとも手を抜いていないですね。様々な人とコラボした楽曲も多くて、想像するに制作は大変だったと思うんですけど、"15周年記念で何か特別なことをしよう"と考えていたんですか?

ハヤシ:いや、考えていなかったです。ライブは"1000本記念"ということもあって意識していたんですけど、スタッフから「15周年記念盤を出さないか?」というアイディアが出てきて、そこで「あ、おもしろそうだね」と。自分ではそういうことは思いつかなかった。

●なるほど。

ハヤシ:15周年ということで、最初に「コラボをしよう」というアイディアはあったんだけど、誰とやるかっていうのはあまり決め込まずに。なんとなく"ここでゲストが入ってくる"くらいのイメージで曲を作っていって。それにせっかくだから派手にいきたいなと。自分たちも"15周年に乗っかっちゃえ"みたいな気持ちだったんですね。前作の『Oh! No! It's Heavy Polysick!!!』では3人での音を追求したわけだからゲストは入れずにやったんだけど、基本的にPOLYSICSはあまりゲストを呼ぶことがないんだよね。

フミ:ほぼないね。梅津さんとか。(※2010年1月リリースのベストアルバム『BESTOISU!!!!』収録「I Say I Don't Want」にSaxで参加した梅津和時氏)

ハヤシ:そういうのは楽曲として必要だったからお願いする、という感じだったんですけど、コラボを前提に曲を作ろうっていう発想はまず思い浮かばなくて。だから今回は「普段やらないようなコラボでいこう」と。自分たちでも楽しんじゃってました。

●なるほど。

ハヤシ:曲がいくつか形になった時点でみんなで聴き直して、「この曲はここでコラボできたらおもしろいんじゃないか」みたいに話し合ったりして、そこで生まれたコラボ・アイディアも入ってます。

INTERVIEW #2

「"氷は入れない方がいい"という歌詞があるのは、氷を入れると薄まるからです」

●せっかくなので1曲ずつ聴いていきたいんですけど、M-3「Mix Juice featuring TAKUMA(10-FEET), 橋本絵莉子(チャットモンチー)」はTAKUMAくん(10-FEET)と橋本絵莉子さん(チャットモンチー)ですよね。この曲はすごくバカバカしい歌詞をラップ的に乗せていておもしろかった。

ハヤシ:オケはいかついんだけど、歌詞は人畜無害で普通のことを歌っているだけという(笑)。すごくどうでもいい内容ですよね、能天気な。

●なぜこの2人が思い浮かんだんですか?

ハヤシ:何となく"ラップを入れたいな"と思っていて、でもラッパーの友達があんまりいないというのもあるし、直感で雰囲気を感じ取ってくれて、アドリブが上手くて、コラボ慣れしている人であり、センスをわかってくれる人…と考えたときにパッとTAKUMAさんが浮かんだんです。

●確かに彼なら今の条件に合いますね。

ハヤシ:でしょ? オファーしたらちょうどツアー中だったにも関わらずやってくれて。電話で「こういう歌です」みたいなのを説明して。僕の仮歌が入っていたんですけど「こういう世界観で、あとはお任せします」って。そしたら「オッケー! オッケー!」って。"これだ!"というバッチリなものが返ってきましたね。やっぱり流石でした。えっちゃん(橋本)は、TAKUMAさんというビジョンを持ちながら、異色コラボとしてビックリするような組み合わせはないかなと思ったときに"チャットモンチーがいいかもしれない"って。

●意外性も押さえつつ。

ハヤシ:えっちゃんのラップは聴いたことないけど「おもしろいケミストリーが生まれるんじゃねぇか?」みたいな。それでお願いしたところ「歌詞を書いてくれるならやります」と。そしたらバッチリなメロを付けてくれて、これは上手くいったなって感じですね。

●すごくPOLYSICSっぽいというか、不思議なメロディですよね。

ハヤシ:これもスタジオに来てすぐに歌ってもらって。バッチリだったよね。

フミ:たぶん歌入れは12分もかかってない。

●え? たった12分?

ハヤシ:トータルでそれくらいでした。「バイバイ」ってスタジオ出るまでが12分くらい。

フミ:談笑込みで。

●談笑込みって(笑)。「Mix Juice featuring TAKUMA (10-FEET), 橋本絵莉子(チャットモンチー)」の歌詞なんですけど、この曲に限らずPOLYSICSの曲ってどうでもいいことを歌詞にされていることが多いんですけど、これなんかまさにその極みですよね。これ何なんですか?

ハヤシ:何なんでしょうかね(笑)。どうでもいい内容が好きっていうのもあるんだけど、声に出して言いたい言葉っていうのがあるんだよね。この曲の場合は"僕のノドボトケ"がパッと降りてきて、そっから生まれた曲。

●あ、そこなんだ。

ハヤシ:『声に出して言いたい身体の部位シリーズ』が"ノドボトケ"だっという。あと、ちょうどフミがジューサーを買って、いつもディレクターとジューサー談義に花を咲かせてたんですよ。「今日はこれを入れたら美味しかった」「あれは入れない方がいい」とか言って。それがえらく楽しそうだな~と思って横で聞いたんです。

●羨ましかった?

ハヤシ:羨ましかった。

●ハハハ(笑)。だから"ケールも入れない方がいい"とか言っているのか(笑)。

ハヤシ:飲み辛くなるぞという。

フミ:"氷は入れない方がいい"という歌詞があるのは、氷を入れると薄まるからです。

●実にバカバカしくていいですね(笑)。

ハヤシ:自分が伝えたいことっていうのが、メッセージというよりは音楽の楽しさだったり、POLYSICSは"歌詞も音"っていう感じが未だにあるから、声に出して言いたい言葉だったり、音になったときに強い言葉を自分たちのサウンドに乗せたいという感覚。そっちの方が勝ってるし、それはインディーの頃から変わっていないのは確かですね。

●メッセージ性みたいなものはあまり出したいとは思わない?

ハヤシ:う~ん…、いわゆる"メッセージ"って色んなものがあるじゃないですか。自分がそうやって音楽を聴いていなかったというか、そこで"ロックってすげぇ!"とは思わなかった。もっとプリミティブな…ドラムがバカスカ鳴ってるところだったり、ギターがギャリーン! って鳴る感じとか、あとヴォーカルの声にやられたり。僕は歌詞カードをほとんど見たことがなかったんですよね。それより、音色のかっこよさであったり、"アガる"感じを自分もやりたいと思ったのがそもそもの動機というかルーツなので。

●ところで数々のコラボの中でかなり異色なものもありますよね。いちばん驚いたのがM-4「ムチとホース」なんですけど、競馬実況アナウンサーの宇野和男さんとのコラボって。

ハヤシ:はいはい。

●しかも事実を知って更に驚いたんですけど、POLYSICSは3人とも競馬に興味ないらしいですね。

ハヤシ:よくわからないです。

●ハハハ(笑)。

ハヤシ:買い方とかよくわからないですね。

フミ:買ったことないね。
ヤノ:ないです。

ハヤシ:『ファミリージョッキー』(初代ファミコンで登場したナムコの競馬ゲーム。その後、ゲームボーイ版、PCエンジン版、Wii版と発売されている)くらいしかやったことがないです。

●宇野さんって解説のプロじゃないですか。

フミ:あの高揚感が欲しかったんですよ。

ハヤシ:煽りがすごいじゃないですか。あれはロックを感じる。さっき言ったアガる要素。

●ハハハ(笑)。

ハヤシ:あと、テクノも煽りがあるじゃないですか。

フミ:ツマミが開いてくる感じのね。

●ああ~、確かに似たような感じではある。

ハヤシ:あれが僕は競馬の実況と近いものを感じるんですよ。もともとこの曲のバックのサウンドができたときに「この曲ってどういう曲かな?」ってメンバーと話していて。最近そういうの多いよね?

フミ:うん。

ハヤシ:曲が先にできることが多いので、みんなと意志を合わせる意味でも曲に対していろいろ話すんですよ。「ムチとホース」の曲が先にできたとき、シーケンサーが「パッカラッ、パッカラッ」って感じだったから「馬っぽいね」って。

フミ:「馬と言ったら競馬」「競馬と言えばアナウンサーの実況はアガるよね」みたいな。

ハヤシ:「この曲のあそこに実況が入ったらいいんじゃね?」みたいな感じでいろいろ実験してみたんですけど、"これはイケるぞ"と思って。そうやって生まれた曲です。

●確かに宇野さんの実況はすごく合っていますね。実況のセリフはどういうオファーをしたんですか?

ハヤシ:だいたいの馬の名前や"ハヤシステークス"という架空のレース名を決めて、大まかな流れはこっちで考えましたけど、後はお任せみたいな感じで。

フミ:一応"こういう解説がいい"っていうイメージはあったんですよ。その理想を出しておいてから、あとは宇野さんのアレンジで。

フミ:"ここからアガっていきたい"とか、最後の"差せるかどうか?"という感じは絶対に欲しくて。後は宇野さんの個性でお願いしました。アナウンサーさんってやっぱり芸風が定まっているし、宇野さん独自の言い回しがあると伺ったので。

●もうなんというか、やり切ってますね(笑)。もう一度訊きますけど3人とも競馬に興味がないんですよね?
3人:ないです。

●ハハハ(笑)。異色のコラボといえばM-5「明るい生活 featuring 徳井義実(チュートリアル)」もそうですよね。この曲はチュートリアルの徳井さんとのコラボですが、直接繋がりはあったんですか?

フミ:まったくなかったです。

ハヤシ:チュートリアルの出囃子で僕らの曲を使ってくれていると聞いていたし、POLYSICSのTシャツを着ている写真とかを見たことがあって、嬉しいなと思っていて。この曲ができたとき、最初はコラボをどうしようかと迷ったんですけど"この曲に徳井さんがどうでもいい話を入れたらおもしろいのかもしれない!"と思って。

●作詞クレジットに"Yoshimi Tokui"と書いてありますけど…徳井さんが歌っているいなり寿司のくだりは全部徳井さんが書いたんですか?

ハヤシ:そうです。スタジオに入ったときにその場で。

●それはすごいな。

フミ:パッと聴いてすぐにムードを掴んでくれるのがすごかった。"私たちが何を求めているか"みたいなことというか、"狙い過ぎていない温度感"というか。さすが芸人さんだなと思ったところですね。まるでインプロビゼーションを見ているような感じだった。

ハヤシ:メロとか歌いまわしもちょっと複雑じゃないですか。でも2回くらい歌ったらもうオッケーみたいな。さすが音楽が好きなだけあるなって思いました。僕は最後の早口になるところが特に気に入っているんです。徳井さんにお願いして本当によかった。

INTERVIEW #3

「そこの手間は惜しまないっていうか、手間をかけないとおもしろいものができないと思ってますからね」

●とにかく驚いたのはM-6「友達ケチャ featuring 友達」なんですけど、ゲストの参加総数が67名って…。

ハヤシ:ケチャがやりたかったんです(笑)。"1曲の中にものすごい数のゲストを呼びたい"っていう漠然としたアイディアがあって。それをどうしようかずっと考えていたんですけど、大勢でケチャをやろうと。その案を出したら会議室も「いいねぇ!」って盛り上がって。

●POLYSICS会議室が盛り上がったと。

ハヤシ:Ki/oon Recordsの4階がちょっと揺れた。

●ハハハ(笑)。

ハヤシ:「友達ケチャ」というタイトルができた瞬間"勝ったな"と思いましたね。これだけの人に許可を取るのは(レコード会社のスタッフが)本当に大変だったろうし、ありがとうございます! って感じです。みなさんの協力があってできたんです。

●すごくくだらないことに…と言ったら失礼ですけど(笑)…スタッフ全員が一丸となって取り組んだと。

ハヤシ:ケチャの話は前からあったんですけど、"これでいこう!"って決めたのが夏フェスの時期だったんですよ。去年は結構フェスに出ていたので、そこで集めるだけ集めようと思って。ライブ後にバックヤードでレコーダーを持って「今ちょっといい? ケチャを作ろうと思ってるんだけどさ」みたいな感じで。そしたらみんな「はぁ?」みたいな。

●そりゃ言うわ(笑)。

ハヤシ:そうやってコツコツ集めたケチャを家のPro Toolsに貯めて、またライブで録りにいくっていう。もちろんライブも大事だったんですけど、とにかくケチャ集めの夏でした。

●でも本格的なケチャに仕上がってますね。スケール感がすごい。

ハヤシ:そうなんですよ。これは録りの作業も手間がかかっていますけど、それからの制作が本当に大変だったんです。曲作りのプリプロ合宿が何日かあったんですけど、毎日起きてすぐに"朝ケチャ"をやるという。

フミ:まず朝にケチャを聴いて、違う曲の作業に入って、その日の終わりに朝に作ったものを時間をおいてチェックしてみる、みたいな。要するに毎日"朝ケチャ"と"夜ケチャ"をしてたんです。「どうやったらもっと立体感が出るかな?」とか「機械的すぎるから、もうちょっと人間の強弱が出る感じにしよう」とか言ってちょっとずつ詰めていった。

●ケチャなんてそもそもルーツにも前例にもないから、どうやったら荘厳な感じが出るかを色々試しながら練りに練ったと。

ハヤシ:練りましたね~。人の声をエディットしていくんだけど、ケチャってバラバラなものがひとつの曲になるわけじゃないですか。それをちゃんと人の声でやっているからおもしろいわけで、ただパターンを作るだけだと高揚感や熱量がないんですよ。

フミ:機械っぽくなっちゃうんだよね。

●整いすぎるとおもしろくならないというか。

ハヤシ:そこの研究で毎日エンジニアと「あーでもないこーでもない」って。人工ケチャの研究です。

●そんなことやるバンド、他に聞いたことないです(笑)。

フミ:ケチャって"チームAはアクセントをこの拍で"という感じで、いくつかパターンに分ける必要があるんです。でもみんなから「チャッ」しかいただいていないから、上手く音量に差をつけて出すのが難しくて。

ハヤシ:細かい上げ下げだったりはテクノロジーを駆使して結構工夫しました。あと、ボナ(バリ島にあるケチャ発祥の村)のケチャを聴くと変拍子があったりして結構複雑なんですよ。だから最初はもっと楽しくやれるのかなと思っていたけど、作っていくうちにどんどん大変になってきて。最終的にはケチャの夢を見るくらいになりました(笑)。

●ハハハ(笑)。で、M-8「1.2.ダー! featuring 小島麻由美, ユウ(GO!GO!7188/チリヌルヲワカ)」は小島麻由美さんとユウさん(ex.GO!GO!7188 / チリヌルヲワカ)とのコラボですね。

フミ:この曲でやりたかったニュアンスを言葉にするのは難しいんですけど、何となく私と共通するニオイがあると思うので、このお2人方に同じ曲でコラボしてもらいたいと思って。こう…何かあるんですよ。この曲を聴いていただくとそのニュアンスはわかると思うんですけど。

ハヤシ:気怠さもあるけど、でもアツさもあるし。フミが「小島麻由美さんがいい!」と言って、僕らも「わかるわかる!」って感じだったよね。

フミ:最初に私が仮歌を歌ったときにピンときたんです。"昭和歌謡っぽいムード"みたいなイメージが浮かんで、そこで思いついたのがこの2人だった。

●そのニュアンス、聴けば確かにわかりますね。そしてM-9「783640 featuring 三柴理」は三柴理さんとのコラボですが。

ハヤシ:僕は筋肉少女帯時代から三柴さんのクラシックピアノが大好きなんですよ。POLYSICSも4人のときにはキーボードがいましたけど、ピアノやオルガンは使ったことがなかったんですよね。で、この曲ができたときにパッと「鍵盤を入れたらどうかな?」って。ロックピアノもいいんだけど、もうちょっと振り切った感じが欲しかった。

フミ:「若干の気持ち悪さが欲しいね」って。

ハヤシ:そこでエディ(三柴)さんが思い浮かんで。

フミ:エディさんが「こんな明るいコードの曲、本当に久々に弾いた」と言ってましたけど。

ハヤシ:「明るいなー」って言ってました。

●ハハハ(笑)。

フミ:でも気持ち悪いんですけどね。素敵な感じがします。

ハヤシ:ちゃんと"三柴さんのピアノだ"ってわかるもんね。

●どのコラボも豪華ですが、その中でもPOLYSICSにとっては夢のようなコラボがありますね。M-7「MECHA-MANIA BOY featuring Mark Mothersbaugh(DEVO)」はDEVOのオリジナル曲とのことですが、演奏がPOLYSICSでヴォーカルがMark Mothersbaugh。POLYSICSを始めたきっかけであるDEVOとのコラボなんて、夢が叶っちゃいましたね。

ハヤシ:そうですね~。昔"DEVOと対バンする"っていう夢があって、それはゲストとして呼ばれたときに実現したんですよ。でもその後、"次はコラボしたい"と思っていたんですよ。そういう日がいつか来るだろうなと思っていたら、15周年記念盤の話があって、それで「DEVOとコラボしたい」って。

●なるほど。

フミ:15年前にDEVOを観てバンドを始めようと思ったわけですからね。続けていると叶うことも多いわけじゃないですか。最初はフェスで共演して、今度はDEVOのライブのオープニングアクトに出て。今回こういうコラボができたから、これから更に色々できるんじゃないかなと思ってます。

●ざっとコラボ曲について訊いてきましたが、M-1「Buggie Technica 2012」という曲は今まで3回録っているんですよね?

フミ:そうですね。だから今回で4回目です。1回目のライブからやっている曲なので、新しい体制になった現バージョンを録りたいなと。POLYSICSを結成するにあたって作った曲でもあって、未だにライブではやってるし、自分たちも未だにアガる。今まで作品に収録したテイクは、その都度メンバーが違うんですよ。今回はドラムがヤノだし、3人体制ということでアレンジが変わっていたりもするから、これはぜひ再録したいなと。

●それとM-2「ありがTOISU!」ですが、この曲は過去に発表してきた61曲のパーツを使ったセルフマッシュアップって……67人が参加した「友達ケチャ featuring 友達」といい、いったい何してるんですか。

一同:アハハハ(笑)。

ハヤシ:15周年記念盤のアイディアからいろんなコラボは浮かぶんですけど、曲自体で15周年を祝うものが欲しかったんですよ。「じゃあ昔の曲のパーツを組み合わせてひとつにしよう」っていう。もうそれだけでおもしろそうじゃないですか。

フミ:最初は「メドレーやろうか」とか言ってたんですけど、それだとあまりおもしろくないなと思って。

●おもしろいかおもしろくないか…その判断基準は素晴らしいですね。実にPOLYSICS的というか。

フミ:だったらマッシュアップで、過去のギターもドラムもシーケンスも全部バラバラにして、全然違う曲が合わさってひとつの円になっていく、みたいな。それくらい過剰にしたかったんです。

●でもその作業ってえげつなくないですか?

フミ:選ぼうと思えばいくらでも選べるわけですからね(笑)。

ハヤシ:それをまとめるのが本っっっっっっ当に大変でした。まずみんなに聴かせるためのデモを家で作るだけで3日くらいかかったもん。どうしようかと思った。

●それ自業自得ですよ(笑)。

フミ:全てのシーケンスのデータを集めてくるところがスタートだからね。

ハヤシ:しかもメディアがフロッピーディスクとかMOとかもあるんですよ。

●え? フロッピーもあるんですか?

ハヤシ:あるんですよ。

●でもフロッピーディスクドライブとか、もう全然見かけないですよね?

ハヤシ:僕が持っているシンセサイザーに付いていて。ちょっと前に壊れて買い直したんですけどね。1992年のすっげぇ中途半端な年に出たやつで、当時は14万円したんだけど2万9千円で買えた。

●アハハハハハ(笑)。

フミ:この曲は形になるまで1週間くらいかかったよね。

ハヤシ:「ここまで詰め込むと聴き辛いね」とかあったし。

フミ:原曲がどの曲かある程度わからないとおもしろくないですからね。聴き込んでいる人だったら"ここはあの音が鳴ってる"とかわかるから、そういうのを探す楽しさとかも欲しいなと思って。

●なるほど。

ハヤシ:もう作業中はすごかったですよ。山積みになったMOがズラッ並んでて。

フミ:いつでも探し出せるようスタンバイしてるんですよ。

●もう作曲の作業じゃないですよね。

ハヤシ:そうそう(笑)。デジタルなんだけどめっちゃアナログ。

●今作は本当に手間がかかってますね。

ハヤシ:かかってますね。出来上がったけど、まだやらなきゃいけないことがいっぱいあるんじゃないかって気がしちゃう。"ケチャってもうできたんだっけ?"みたいな、そんな感じです(笑)。

●楽しいことやバカバカしいことを本気で一生懸命やるということは、POLYSICSのバンドとしての姿勢のような気がするんです。さっきメッセージ性の話がありましたが、そういう姿勢ことPOLYSICSのメッセージのような気がする。

ハヤシ:そこの手間は惜しまないっていうか、手間をかけないとおもしろいものができないと思ってますからね。

INTERVIEW #4

「ギターは…ちょっとドラムから距離をおけるっていうのが大きかったりします。冷静にドラムを見ることができるんですよ」

●ところでちょうど1年前の号で『ヤノ最強(狂)伝説』という特集(※天然とも言えるヤノの数々のエピソードをメンバー及び関係者からの証言を交えて紹介した特集)を組ませていただきましたけど、この1年間で新たな伝説は生まれました?

フミ:やっぱりあれじゃない? ギターの話。

ハヤシ:去年の春のツアーでヤノがギターデビューしまして、ライブでかなりギュインギュインな感じで弾いたりしていて。

フミ:まあそれ自体はいいんですけど、ヤノの中で、その日のライブの出来はギターが上手く弾けたかどうかで判断してることが結構あったんです。「今日のライブはダメだったなー! ギターがもうちょっとなー!」とか言ってて。「ギターの方かよ!」って突っ込んだことが何度かありました。

ハヤシ:「今日は良かった! あそこのギター良かったぁ!」ってずっと自分で言ってるんですよ。

●アハハハハ(笑)。

ハヤシ:最近はまたニューギターが欲しいんだよね?
ヤノ:うん。ちょっと個人的に欲しいなと思って。

フミ:ライブでは使わないの?
ヤノ:使えないね。

●ギターに目覚めたんですか?
ヤノ:ギターは…ちょっとドラムから距離をおけるっていうのが大きかったりします。冷静にドラムを見ることができるんですよ。

●そうですか。

ハヤシ:あと、今作の初回限定盤にDVDが付くんですが、そのDVDには今まで製品化していないミュージックビデオを収録しているんですよ。で、副音声が入っていて。

フミ:副音声にはAとBがあるんですよ。

ハヤシ:Aは僕とフミの2人で、Bはヤノ1人でしゃべっていて。これはかなりいいっすよ。

フミ:初めてヤノ1人での副音声だったんですけど、これは新しい扉を開いたよね(笑)。

ハヤシ:ヤノもどんどん新しい扉を開けていってるんです(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

INTERVIEW #1
「せっかくだから派手にいきたいなと。自分たちも“15周年に乗っかっちゃえ”みたいな気持ちだったんです」

●早速ですが、3/4で15周年なんですね。
ハヤシ:そうですね、新宿JAMでの初ライブが3/4なんです。そういう意味での15周年。
●オリジナルメンバーはハヤシさんだけですが、15周年の実感はあります?
ハヤシ:あるっちゃあるけど、ないっちゃないっていうか…初ライブとか、今でもすごく鮮明に覚えていて“あれって15年も前だったっけ?”って感じ。初ラ イブはすごく緊張したんですよ。リハーサルも初めてだったし、トップバッターだったから入り時間が16時ぐらいだったんだけど、“開演が18時半なのにそ んなに遅く行っていいのかな?”と不安になって。何より新人だし、12時半ぐらいに行ったらライブハウスが開いてなかった(笑)。“逆リハ”っていうルー ルさえも知らなかったんですよ。
●初々しいですね(笑)。
ハヤシ:本番もよくわからないうちに終わって。今でも鮮明に覚えていますね。
●15年というとバンド界隈ではちょっとしたベテランのように見られると思うんですが、POLYSICSはあまりそういうイメージがないんですよね。
ハヤシ:ヤノが入って8年目だったりするし、結成当初とは体制が違いますからね。この3人で15周年だったらまた違った印象だと思うんだけど。新たな POLYSICSが始まって、また変わってっていうのがあったから、そういう意味では落ち着いてらんないというところはあるかもしれない。どっしり構える というよりは、その都度“今のPOLYSICSの形を作っていかなきゃいけない”といっぱいいっぱいになっているうちに15年経った、という方が近いか も。
●胡坐をかいている暇はなかったと。
ハヤシ:正座しっぱなしみたいな。足がしびれるけど取りあえず正座しておくという(笑)。
●アハハ(笑)。今回、15周年記念ということでアルバム『15th P』をリリースされるわけですが、毎度のことながら1曲たりとも手を抜いていないですね。様々な人とコラボした楽曲も多くて、想像するに制作は大変だった と思うんですけど、“15周年記念で何か特別なことをしよう”と考えていたんですか?
ハヤシ:いや、考えていなかったです。ライブは“1000本記念”ということもあって意識していたんですけど、スタッフから「15周年記念盤を出さないか?」というアイディアが出てきて、そこで「あ、おもしろそうだね」と。自分ではそういうことは思いつかなかった。
●なるほど。
ハヤシ:15周年ということで、最初に「コラボをしよう」というアイディアはあったんだけど、誰とやるかっていうのはあまり決め込まずに。なんとなく“こ こでゲストが入ってくる”くらいのイメージで曲を作っていって。それにせっかくだから派手にいきたいなと。自分たちも“15周年に乗っかっちゃえ”みたい な気持ちだったんですね。前作の『Oh! No! It’s Heavy Polysick!!!』では3人での音を追求したわけだからゲストは入れずにやったんだけど、基本的にPOLYSICSはあまりゲストを呼ぶことがない んだよね。
フミ:ほぼないね。梅津さんとか。(※2010年1月リリースのベストアルバム『BESTOISU!!!!』収録「I Say I Don't Want」にSaxで参加した梅津和時氏)
ハヤシ:そういうのは楽曲として必要だったからお願いする、という感じだったんですけど、コラボを前提に曲を作ろうっていう発想はまず思い浮かばなくて。だから今回は「普段やらないようなコラボでいこう」と。自分たちでも楽しんじゃってました。
●なるほど。
ハヤシ:曲がいくつか形になった時点でみんなで聴き直して、「この曲はここでコラボできたらおもしろいんじゃないか」みたいに話し合ったりして、そこで生まれたコラボ・アイディアも入ってます。

INTERVIEW #2
「“氷は入れない方がいい”という歌詞があるのは、氷を入れると薄まるからです」

●せっかくなので1曲ずつ聴いていきたいんですけど、M-3「Mix Juice featuring TAKUMA(10-FEET), 橋本絵莉子(チャットモンチー)」はTAKUMAくん(10-FEET)と橋本絵莉子さん(チャットモンチー)ですよね。この曲はすごくバカバカしい歌詞 をラップ的に乗せていておもしろかった。
ハヤシ:オケはいかついんだけど、歌詞は人畜無害で普通のことを歌っているだけという(笑)。すごくどうでもいい内容ですよね、能天気な。
●なぜこの2人が思い浮かんだんですか?
ハヤシ:何となく“ラップを入れたいな”と思っていて、でもラッパーの友達があんまりいないというのもあるし、直感で雰囲気を感じ取ってくれて、アドリブ が上手くて、コラボ慣れしている人であり、センスをわかってくれる人…と考えたときにパッとTAKUMAさんが浮かんだんです。
●確かに彼なら今の条件に合いますね。
ハヤシ:でしょ? オファーしたらちょうどツアー中だったにも関わらずやってくれて。電話で「こういう歌です」みたいなのを説明して。僕の仮歌が入っていたんですけど「こう いう世界観で、あとはお任せします」って。そしたら「オッケー! オッケー!」って。“これだ!”というバッチリなものが返ってきましたね。やっぱり流石でした。えっちゃん(橋本)は、TAKUMAさんというビジョンを 持ちながら、異色コラボとしてビックリするような組み合わせはないかなと思ったときに“チャットモンチーがいいかもしれない”って。
●意外性も押さえつつ。
ハヤシ:えっちゃんのラップは聴いたことないけど「おもしろいケミストリーが生まれるんじゃねぇか?」みたいな。それでお願いしたところ「歌詞を書いてくれるならやります」と。そしたらバッチリなメロを付けてくれて、これは上手くいったなって感じですね。
●すごくPOLYSICSっぽいというか、不思議なメロディですよね。
ハヤシ:これもスタジオに来てすぐに歌ってもらって。バッチリだったよね。
フミ:たぶん歌入れは12分もかかってない。
●え? たった12分?
ハヤシ:トータルでそれくらいでした。「バイバイ」ってスタジオ出るまでが12分くらい。
フミ:談笑込みで。
●談笑込みって(笑)。「Mix Juice featuring TAKUMA (10-FEET), 橋本絵莉子(チャットモンチー)」の歌詞なんですけど、この曲に限らずPOLYSICSの曲ってどうでもいいことを歌詞にされていることが多いんですけ ど、これなんかまさにその極みですよね。これ何なんですか?
ハヤシ:何なんでしょうかね(笑)。どうでもいい内容が好きっていうのもあるんだけど、声に出して言いたい言葉っていうのがあるんだよね。この曲の場合は“僕のノドボトケ”がパッと降りてきて、そっから生まれた曲。
●あ、そこなんだ。
ハヤシ:『声に出して言いたい身体の部位シリーズ』が“ノドボトケ”だっという。あと、ちょうどフミがジューサーを買って、いつもディレクターとジュー サー談義に花を咲かせてたんですよ。「今日はこれを入れたら美味しかった」「あれは入れない方がいい」とか言って。それがえらく楽しそうだな~と思って横 で聞いたんです。
●羨ましかった?
ハヤシ:羨ましかった。
●ハハハ(笑)。だから“ケールも入れない方がいい”とか言っているのか(笑)。
ハヤシ:飲み辛くなるぞという。
フミ:“氷は入れない方がいい”という歌詞があるのは、氷を入れると薄まるからです。
●実にバカバカしくていいですね(笑)。
ハヤシ:自分が伝えたいことっていうのが、メッセージというよりは音楽の楽しさだったり、POLYSICSは“歌詞も音”っていう感じが未だにあるから、 声に出して言いたい言葉だったり、音になったときに強い言葉を自分たちのサウンドに乗せたいという感覚。そっちの方が勝ってるし、それはインディーの頃か ら変わっていないのは確かですね。
●メッセージ性みたいなものはあまり出したいとは思わない?
ハヤシ:う~ん…、いわゆる“メッセージ”って色んなものがあるじゃないですか。自分がそうやって音楽を聴いていなかったというか、そこで“ロックってす げぇ!”とは思わなかった。もっとプリミティブな…ドラムがバカスカ鳴ってるところだったり、ギターがギャリーン! って鳴る感じとか、あとヴォーカルの声にやられたり。僕は歌詞カードをほとんど見たことがなかったんですよね。それより、音色のかっこよさであったり、 “アガる”感じを自分もやりたいと思ったのがそもそもの動機というかルーツなので。
●ところで数々のコラボの中でかなり異色なものもありますよね。いちばん驚いたのがM-4「ムチとホース」なんですけど、競馬実況アナウンサーの宇野和男さんとのコラボって。
ハヤシ:はいはい。
●しかも事実を知って更に驚いたんですけど、POLYSICSは3人とも競馬に興味ないらしいですね。
ハヤシ:よくわからないです。
●ハハハ(笑)。
ハヤシ:買い方とかよくわからないですね。
フミ:買ったことないね。
ヤノ:ないです。
ハヤシ:『ファミリージョッキー』(初代ファミコンで登場したナムコの競馬ゲーム。その後、ゲームボーイ版、PCエンジン版、Wii版と発売されている)くらいしかやったことがないです。
●宇野さんって解説のプロじゃないですか。
フミ:あの高揚感が欲しかったんですよ。
ハヤシ:煽りがすごいじゃないですか。あれはロックを感じる。さっき言ったアガる要素。
●ハハハ(笑)。
ハヤシ:あと、テクノも煽りがあるじゃないですか。
フミ:ツマミが開いてくる感じのね。
●ああ~、確かに似たような感じではある。
ハヤシ:あれが僕は競馬の実況と近いものを感じるんですよ。もともとこの曲のバックのサウンドができたときに「この曲ってどういう曲かな?」ってメンバーと話していて。最近そういうの多いよね?
フミ:うん。
ハヤシ:曲が先にできることが多いので、みんなと意志を合わせる意味でも曲に対していろいろ話すんですよ。「ムチとホース」の曲が先にできたとき、シーケンサーが「パッカラッ、パッカラッ」って感じだったから「馬っぽいね」って。
フミ:「馬と言ったら競馬」「競馬と言えばアナウンサーの実況はアガるよね」みたいな。
ハヤシ:「この曲のあそこに実況が入ったらいいんじゃね?」みたいな感じでいろいろ実験してみたんですけど、“これはイケるぞ”と思って。そうやって生まれた曲です。
●確かに宇野さんの実況はすごく合っていますね。実況のセリフはどういうオファーをしたんですか?
ハヤシ:だいたいの馬の名前や“ハヤシステークス”という架空のレース名を決めて、大まかな流れはこっちで考えましたけど、後はお任せみたいな感じで。
フミ:一応”こういう解説がいい“っていうイメージはあったんですよ。その理想を出しておいてから、あとは宇野さんのアレンジで。
フミ:“ここからアガっていきたい”とか、最後の“差せるかどうか?”という感じは絶対に欲しくて。後は宇野さんの個性でお願いしました。アナウンサーさんってやっぱり芸風が定まっているし、宇野さん独自の言い回しがあると伺ったので。
●もうなんというか、やり切ってますね(笑)。もう一度訊きますけど3人とも競馬に興味がないんですよね?
3人:ないです。
●ハハハ(笑)。異色のコラボといえばM-5「明るい生活 featuring 徳井義実(チュートリアル)」もそうですよね。この曲はチュートリアルの徳井さんとのコラボですが、直接繋がりはあったんですか?
フミ:まったくなかったです。
ハヤシ:チュートリアルの出囃子で僕らの曲を使ってくれていると聞いていたし、POLYSICSのTシャツを着ている写真とかを見たことがあって、嬉しい なと思っていて。この曲ができたとき、最初はコラボをどうしようかと迷ったんですけど“この曲に徳井さんがどうでもいい話を入れたらおもしろいのかもしれ ない!”と思って。
●作詞クレジットに“Yoshimi Tokui”と書いてありますけど…徳井さんが歌っているいなり寿司のくだりは全部徳井さんが書いたんですか?
ハヤシ:そうです。スタジオに入ったときにその場で。
●それはすごいな。
フミ:パッと聴いてすぐにムードを掴んでくれるのがすごかった。“私たちが何を求めているか”みたいなことというか、“狙い過ぎていない温度感”というか。さすが芸人さんだなと思ったところですね。まるでインプロビゼーションを見ているような感じだった。
ハヤシ:メロとか歌いまわしもちょっと複雑じゃないですか。でも2回くらい歌ったらもうオッケーみたいな。さすが音楽が好きなだけあるなって思いました。僕は最後の早口になるところが特に気に入っているんです。徳井さんにお願いして本当によかった。

INTERVIEW #3
「そこの手間は惜しまないっていうか、手間をかけないとおもしろいものができないと思ってますからね」

●とにかく驚いたのはM-6「友達ケチャ featuring 友達」なんですけど、ゲストの参加総数が67名って…。
ハヤシ:ケチャがやりたかったんです(笑)。“1曲の中にものすごい数のゲストを呼びたい”っていう漠然としたアイディアがあって。それをどうしようかずっと考えていたんですけど、大勢でケチャをやろうと。その案を出したら会議室も「いいねぇ!」って盛り上がって。
●POLYSICS会議室が盛り上がったと。
ハヤシ:Ki/oon Recordsの4階がちょっと揺れた。
●ハハハ(笑)。
ハヤシ:「友達ケチャ」というタイトルができた瞬間“勝ったな”と思いましたね。これだけの人に許可を取るのは(レコード会社のスタッフが)本当に大変だったろうし、ありがとうございます! って感じです。みなさんの協力があってできたんです。
●すごくくだらないことに…と言ったら失礼ですけど(笑)…スタッフ全員が一丸となって取り組んだと。
ハヤシ:ケチャの話は前からあったんですけど、“これでいこう!”って決めたのが夏フェスの時期だったんですよ。去年は結構フェスに出ていたので、そこで 集めるだけ集めようと思って。ライブ後にバックヤードでレコーダーを持って「今ちょっといい? ケチャを作ろうと思ってるんだけどさ」みたいな感じで。そしたらみんな「はぁ?」みたいな。
●そりゃ言うわ(笑)。
ハヤシ:そうやってコツコツ集めたケチャを家のPro Toolsに貯めて、またライブで録りにいくっていう。もちろんライブも大事だったんですけど、とにかくケチャ集めの夏でした。
●でも本格的なケチャに仕上がってますね。スケール感がすごい。
ハヤシ:そうなんですよ。これは録りの作業も手間がかかっていますけど、それからの制作が本当に大変だったんです。曲作りのプリプロ合宿が何日かあったんですけど、毎日起きてすぐに“朝ケチャ”をやるという。
フミ:まず朝にケチャを聴いて、違う曲の作業に入って、その日の終わりに朝に作ったものを時間をおいてチェックしてみる、みたいな。要するに毎日“朝ケ チャ”と“夜ケチャ”をしてたんです。「どうやったらもっと立体感が出るかな?」とか「機械的すぎるから、もうちょっと人間の強弱が出る感じにしよう」と か言ってちょっとずつ詰めていった。
●ケチャなんてそもそもルーツにも前例にもないから、どうやったら荘厳な感じが出るかを色々試しながら練りに練ったと。
ハヤシ:練りましたね~。人の声をエディットしていくんだけど、ケチャってバラバラなものがひとつの曲になるわけじゃないですか。それをちゃんと人の声でやっているからおもしろいわけで、ただパターンを作るだけだと高揚感や熱量がないんですよ。
フミ:機械っぽくなっちゃうんだよね。
●整いすぎるとおもしろくならないというか。
ハヤシ:そこの研究で毎日エンジニアと「あーでもないこーでもない」って。人工ケチャの研究です。
●そんなことやるバンド、他に聞いたことないです(笑)。
フミ:ケチャって“チームAはアクセントをこの拍で”という感じで、いくつかパターンに分ける必要があるんです。でもみんなから「チャッ」しかいただいていないから、上手く音量に差をつけて出すのが難しくて。
ハヤシ:細かい上げ下げだったりはテクノロジーを駆使して結構工夫しました。あと、ボナ(バリ島にあるケチャ発祥の村)のケチャを聴くと変拍子があったり して結構複雑なんですよ。だから最初はもっと楽しくやれるのかなと思っていたけど、作っていくうちにどんどん大変になってきて。最終的にはケチャの夢を見 るくらいになりました(笑)。
●ハハハ(笑)。で、M-8「1.2.ダー! featuring 小島麻由美, ユウ(GO!GO!7188/チリヌルヲワカ)」は小島麻由美さんとユウさん(ex.GO!GO!7188 / チリヌルヲワカ)とのコラボですね。
フミ:この曲でやりたかったニュアンスを言葉にするのは難しいんですけど、何となく私と共通するニオイがあると思うので、このお2人方に同じ曲でコラボしてもらいたいと思って。こう…何かあるんですよ。この曲を聴いていただくとそのニュアンスはわかると思うんですけど。
ハヤシ:気怠さもあるけど、でもアツさもあるし。フミが「小島麻由美さんがいい!」と言って、僕らも「わかるわかる!」って感じだったよね。
フミ:最初に私が仮歌を歌ったときにピンときたんです。“昭和歌謡っぽいムード”みたいなイメージが浮かんで、そこで思いついたのがこの2人だった。
●そのニュアンス、聴けば確かにわかりますね。そしてM-9「783640 featuring 三柴理」は三柴理さんとのコラボですが。
ハヤシ:僕は筋肉少女帯時代から三柴さんのクラシックピアノが大好きなんですよ。POLYSICSも4人のときにはキーボードがいましたけど、ピアノやオ ルガンは使ったことがなかったんですよね。で、この曲ができたときにパッと「鍵盤を入れたらどうかな?」って。ロックピアノもいいんだけど、もうちょっと 振り切った感じが欲しかった。
フミ:「若干の気持ち悪さが欲しいね」って。
ハヤシ:そこでエディ(三柴)さんが思い浮かんで。
フミ:エディさんが「こんな明るいコードの曲、本当に久々に弾いた」と言ってましたけど。
ハヤシ:「明るいなー」って言ってました。
●ハハハ(笑)。
フミ:でも気持ち悪いんですけどね。素敵な感じがします。
ハヤシ:ちゃんと“三柴さんのピアノだ”ってわかるもんね。
●どのコラボも豪華ですが、その中でもPOLYSICSにとっては夢のようなコラボがありますね。M-7「MECHA-MANIA BOY featuring Mark Mothersbaugh(DEVO)」はDEVOのオリジナル曲とのことですが、演奏がPOLYSICSでヴォーカルがMark Mothersbaugh。POLYSICSを始めたきっかけであるDEVOとのコラボなんて、夢が叶っちゃいましたね。
ハヤシ:そうですね~。昔“DEVOと対バンする”っていう夢があって、それはゲストとして呼ばれたときに実現したんですよ。でもその後、“次はコラボし たい”と思っていたんですよ。そういう日がいつか来るだろうなと思っていたら、15周年記念盤の話があって、それで「DEVOとコラボしたい」って。
●なるほど。
フミ:15年前にDEVOを観てバンドを始めようと思ったわけですからね。続けていると叶うことも多いわけじゃないですか。最初はフェスで共演して、今度 はDEVOのライブのオープニングアクトに出て。今回こういうコラボができたから、これから更に色々できるんじゃないかなと思ってます。
●ざっとコラボ曲について訊いてきましたが、M-1「Buggie Technica 2012」という曲は今まで3回録っているんですよね?
フミ:そうですね。だから今回で4回目です。1回目のライブからやっている曲なので、新しい体制になった現バージョンを録りたいなと。POLYSICSを 結成するにあたって作った曲でもあって、未だにライブではやってるし、自分たちも未だにアガる。今まで作品に収録したテイクは、その都度メンバーが違うん ですよ。今回はドラムがヤノだし、3人体制ということでアレンジが変わっていたりもするから、これはぜひ再録したいなと。
●それとM-2「ありがTOISU!」ですが、この曲は過去に発表してきた61曲のパーツを使ったセルフマッシュアップって……67人が参加した「友達ケチャ featuring 友達」といい、いったい何してるんですか。
一同:アハハハ(笑)。
ハヤシ:15周年記念盤のアイディアからいろんなコラボは浮かぶんですけど、曲自体で15周年を祝うものが欲しかったんですよ。「じゃあ昔の曲のパーツを組み合わせてひとつにしよう」っていう。もうそれだけでおもしろそうじゃないですか。
フミ:最初は「メドレーやろうか」とか言ってたんですけど、それだとあまりおもしろくないなと思って。
●おもしろいかおもしろくないか…その判断基準は素晴らしいですね。実にPOLYSICS的というか。
フミ:だったらマッシュアップで、過去のギターもドラムもシーケンスも全部バラバラにして、全然違う曲が合わさってひとつの円になっていく、みたいな。それくらい過剰にしたかったんです。
●でもその作業ってえげつなくないですか?
フミ:選ぼうと思えばいくらでも選べるわけですからね(笑)。
ハヤシ:それをまとめるのが本っっっっっっ当に大変でした。まずみんなに聴かせるためのデモを家で作るだけで3日くらいかかったもん。どうしようかと思った。
●それ自業自得ですよ(笑)。
フミ:全てのシーケンスのデータを集めてくるところがスタートだからね。
ハヤシ:しかもメディアがフロッピーディスクとかMOとかもあるんですよ。
●え? フロッピーもあるんですか?
ハヤシ:あるんですよ。
●でもフロッピーディスクドライブとか、もう全然見かけないですよね?
ハヤシ:僕が持っているシンセサイザーに付いていて。ちょっと前に壊れて買い直したんですけどね。1992年のすっげぇ中途半端な年に出たやつで、当時は14万円したんだけど2万9千円で買えた。
●アハハハハハ(笑)。
フミ:この曲は形になるまで1週間くらいかかったよね。
ハヤシ:「ここまで詰め込むと聴き辛いね」とかあったし。
フミ:原曲がどの曲かある程度わからないとおもしろくないですからね。聴き込んでいる人だったら“ここはあの音が鳴ってる”とかわかるから、そういうのを探す楽しさとかも欲しいなと思って。
●なるほど。
ハヤシ:もう作業中はすごかったですよ。山積みになったMOがズラッ並んでて。
フミ:いつでも探し出せるようスタンバイしてるんですよ。
●もう作曲の作業じゃないですよね。
ハヤシ:そうそう(笑)。デジタルなんだけどめっちゃアナログ。
●今作は本当に手間がかかってますね。
ハヤシ:かかってますね。出来上がったけど、まだやらなきゃいけないことがいっぱいあるんじゃないかって気がしちゃう。“ケチャってもうできたんだっけ?”みたいな、そんな感じです(笑)。
●楽しいことやバカバカしいことを本気で一生懸命やるということは、POLYSICSのバンドとしての姿勢のような気がするんです。さっきメッセージ性の話がありましたが、そういう姿勢ことPOLYSICSのメッセージのような気がする。
ハヤシ:そこの手間は惜しまないっていうか、手間をかけないとおもしろいものができないと思ってますからね。

INTERVIEW #4
「ギターは…ちょっとドラムから距離をおけるっていうのが大きかったりします。冷静にドラムを見ることができるんですよ」

●ところでちょうど1年前の号で『ヤノ最強(狂)伝説』という特集(※天然とも言えるヤノの数々のエピソードをメンバー及び関係者からの証言を交えて紹介した特集)を組ませていただきましたけど、この1年間で新たな伝説は生まれました?
フミ:やっぱりあれじゃない? ギターの話。
ハヤシ:去年の春のツアーでヤノがギターデビューしまして、ライブでかなりギュインギュインな感じで弾いたりしていて。
フミ:まあそれ自体はいいんですけど、ヤノの中で、その日のライブの出来はギターが上手く弾けたかどうかで判断してることが結構あったんです。「今日のラ イブはダメだったなー! ギターがもうちょっとなー!」とか言ってて。「ギターの方かよ!」って突っ込んだことが何度かありました。
ハヤシ:「今日は良かった! あそこのギター良かったぁ!」ってずっと自分で言ってるんですよ。
●アハハハハ(笑)。
ハヤシ:最近はまたニューギターが欲しいんだよね?
ヤノ:うん。ちょっと個人的に欲しいなと思って。
フミ:ライブでは使わないの?
ヤノ:使えないね。
●ギターに目覚めたんですか?
ヤノ:ギターは…ちょっとドラムから距離をおけるっていうのが大きかったりします。冷静にドラムを見ることができるんですよ。
●そうですか。
ハヤシ:あと、今作の初回限定盤にDVDが付くんですが、そのDVDには今まで製品化していないミュージックビデオを収録しているんですよ。で、副音声が入っていて。
フミ:副音声にはAとBがあるんですよ。
ハヤシ:Aは僕とフミの2人で、Bはヤノ1人でしゃべっていて。これはかなりいいっすよ。
フミ:初めてヤノ1人での副音声だったんですけど、これは新しい扉を開いたよね(笑)。
ハヤシ:ヤノもどんどん新しい扉を開けていってるんです(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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