音楽メディア・フリーマガジン

the audio pool

次世代に鳴り響くエモーショナル・ピアノ・ロック

 美しいピアノのイントロに導かれるように、透き通ったエモーショナルな歌声が鳴り響く。

ダイナミックかつグルーヴィなバンドサウンドの波の上を泳ぐような歌声が紡ぎ出すメロディは、リスナーの胸を一瞬で撃ち抜くキャッチーさも兼ね備えている。

そんな「Watershed」という楽曲はテレビ東京系ドラマ(ドラマ24枠)『撮らないで下さい!! グラビアアイドル裏物語』のエンディングテーマとして放映中のため、既に聴いたことがある人も多いだろう。
この曲を含む1stアルバム『into the pool』でデビューを果たすのが、the audio poolだ。

別々に活動していたメンバーが各バンドの解散等に伴って集結、09年12月にPf.白井翔大が加わり現在の5人編成となった彼ら。
ギターロック、オルタナ、パンク、70sロックからポップスやクラシックまで様々な音楽を消化吸収し生み出されたサウンドは、次世代に響く可能性を感じさせる。単純に“ピアノエモ”というジャンルだけでは括りきれない、彼らならではの“次世代エモーショナル・ピアノ・ロック”がここから新たなストーリーを描き出す。

Interview

「ピアノは入っているけど、僕の中ではあくまでギターロックをやっているという感覚なんですよ。そこがある上での、僕らの歌なんだと思っています」

「自分は100点と思える曲を作れたら、もう一生作らないと思います。でもそれは絶対にできないことだから、死ぬまでずっと作り続けられると思いますね」

●the audio poolは元々、別々のバンドをやっていたメンバーが集まって結成したそうですね。

石島:僕と山井(Ba./Cho.山井沙弥香)は、一緒にメロコアバンドをやっていたんですよ。その時に剣作(G./Vo.大森)はギターロックバンドをやっていて、対バンとかを通じてお互いに知ってはいたんです。昂翔(Dr.野代)は大学の後輩だったので、声を掛けた感じですね。翔大(Pf.白井)は、全く別のところから引っ張って来ました。

白井:前のバンドではドラムをやっていたので、ピアノとしてバンドに加入するのは初めてでしたね。

●最初からやりたい音楽のイメージがあった?

石島:僕と山井が他のメンバーに声を掛けて集めたんですけど、最初はピアノ抜きの4人編成でやっていたんです。そこにピアノが入って、剣作が「俺に曲を書かせて下さい」と言ってきて。そこから今みたいな曲ができていきました。

●大森くんが曲作りの中心になってから、今の形になっていった。

石島:元々はツインボーカルにしようと思っていたんですけど、やっぱり剣作の歌が良いなと思って。ピアノが入ったことによって、剣作のモチベーションも上がったんです。

大森:「自分にメインで曲を作って、歌わせて下さい」と言いました。そこからこのバンドに本腰を入れた感じですね。

●大森くんは前のバンドの時もメインソングライターだったんですか?

大森:前のバンドでもギターボーカルを担当していて、メインで曲を書いていました。そのバンドが解散して1年くらいはバンド活動をしていなかったんですけど、そういう時に2人から誘われたんです。

山井:(大森は)すごく良い声をしているなと思っていたので、前のバンドをやっていた当時からジャンルは違うけど自分たちの企画イベントに誘ったりしていたんです。だからバンドを辞めたと聞いた時も、私たちは「もったいないな」と思っていて。

●前から大森くんの声に魅力を感じていたので、このバンドにも誘ったわけですね。

山井:でも最初は探り合いでした(笑)。

石島:「お互いの曲を持ち寄って、細く長く続けられたら良いな」っていうくらいに思っていたんです。

大森:"趣味バンド"的なレベルでしたね。自分も最初はそんなに乗り気じゃなかったんですけど、この5人が揃って最初に1曲できた時に自分の中で「もう一度、真剣にやってみようかな」という気持ちにさせてくれるものがあって。そこで「自分がメインでやらせて下さい」という話をしたんですよ。

●今の5人が集まったことも大きなキッカケだった?

大森:この5人じゃなければ、こうはなっていなかったですね。翔大が入ったことで、色んな方向性が見えたんです。自分が作ってきた曲に彼がピアノを付けたものを聴くと、「何かやれそうな気になる」っていう話を当時からリーダー(石島)にもしていて。

白井:僕はオリジナル曲をやるバンドに入りたくて、色んなメンバー募集を見ていた時に偶然このバンドと出会ったんです。最初はサポートメンバー的な感覚でやっていたので、自主制作で初めてデモ音源を作った時もそこまで自分の中に盛り上がるものはなくて。

●白井くんが本気になったキッカケは?

白井:そこから1年間くらい曲作りをしている中で、自分の今後を考えてみた時に「音楽を続けたいな」と思ったことが大きかったのかな。剣作の曲と声、人柄は良いと思っていたし、「じゃあ本腰を入れて、このバンドでやってみるか」となりました。

●それまではサポート的な感覚だったんですね。

白井:当初は自分が一番年下なのもあってメンバーに気を遣っていたんですけど、そこからは一気に思っていることをハッキリ言うようになりました。

大森:彼はすごく理論的なんですよ。逆に僕はすごく感覚的なので、相性が良いというか。曲も今は2人で話し合いながら作ったりもしているし、歳の差は全く感じないですね。

●曲作りも一緒にしていたりすると。

白井:M-7「トレモロ」をまだコードと1コーラスくらいしかない段階で剣作からもらって、2人でアレンジを考えながら話し合っている時にふと「このバンドでやってみようかな」と僕は思ったんです。今思えば、あれがキッカケでしたね。

●M-1「Watershed」は先ほど話に出た自主制作のデモ音源にも入っていたわけですが、この曲も何らかのキッカケになっていたりする?

大森:「Watershed」は結果的にはキッカケになったんですけど、作っていた当時はすごく難産で。「シングル曲になるようなものを作ろう」というところから作り始めて、最初はなかなかできなかったんです。そこでみんなのアイデアを持ち寄って、ようやくできたのがこの曲なんですよ。

野代:バンドとして本当にまだ何も見えていない時期に作った曲ですね。

●まだバンドとしての方向性が固まっていなかった?

大森:ピアノがメンバーにいるバンドっていう外枠だけはできていたんですけど、音楽性が固まっていなかったというか。そういう編成のバンドはたくさんいる中で、自分たちはどういう音を鳴らしていくのかということがハッキリしていない時期に偶然できた曲なんです。

●今回の1stアルバム『into the pool』の中では、この曲が最も男女ツインボーカルのスタイルが前面に出ていますが。

山井:前の段階の名残が残っている曲というか…。

石島:逆に言ってしまえば、この曲以外は今作でツインボーカルが前面に出ている曲はないですからね。

白井:「Watershed」に関しては、最初から男女ツインボーカルでやるという前提がある上で作ったんです。

●当初は、男女ツインボーカルを主体にしたバンドにする予定だった?

石島:僕の中ではその予定だったんですけど、今は必要なところに必要な音を入れる感じで良いと思っていて。今作ではたまたま女性ボーカルの必要性がない曲が多かっただけというか。

野代:今は本当に"必要ならば"っていう感じですね。もしかしたらこの先、ツインボーカルの曲ができる可能性もあれば逆に全くできない可能性もある。それは曲を作っていく中で、自分たちがどういうふうに感じるかということ次第なので。

大森:今の気持ちだけで言えば、自分がメインで歌いたいっていう"我"が一番強いんですよ。そう考えると今後の曲でも、自分がメインの曲が多くなるんじゃないかなとは思っています。

●今のモードを反映している。

大森:そうですね。どうしても"自分が歌いたい"という気持ちが今は強くて。

野代:1曲1曲にその時の自分たちのモードが反映されているから、今作を聴くと一歩一歩進んでいることがわかるようなアルバムになったんじゃないかなと思っています。

●今作には色んな時期に作った曲が入っているんでしょうか?

白井:初期に4人だけでやっていた曲もピアノでリアレンジを加えて、収録したりしています。結成以降にやってきた曲を全て候補に出して、その中からピックアップした形になっているんですよ。

大森:自分が前にやっていたバンドの曲や、そのバンドが解散する直前に作ったような曲も入っています。僕個人としてはバンドを10年くらいやってきているので、自分自身の集大成的な感じはしますね。

●初期の曲をリアレンジした曲というのは?

山井:M-10「スターダスト」は最初のデモ音源を作った頃には、ライブで毎回やっていた曲なんです。

石島:ただ、僕らはこれまでライブをあまりしてきていなかったりもするんですけど…。

●これまでライブが少なかったのはなぜ?

大森:僕が仕事をしながらバンドをやっていることもあって、頻繁にはライブができないんです。そもそも生活がありきでのバンドをやるということだったので、細々とやれたら良いなというくらいに思っていて。リアクションもそんなに期待していなかったから、今みたいな状況にいることには自分でも驚いているんですよ。

●デビューした上に、「Watershed」はタイアップまで決まっている。

大森:この曲がキッカケで今の事務所からも声をかけてもらったので、何もかも驚きでしたね。

●この曲がリード曲にもなっているので、どうしても男女ツインボーカルのイメージが強くなってしまう気がします。

山井:今作では他にこういう曲がない分、逆に際立って良いのかなと。自分たちの中ではある意味で変化球的な曲だし、聴いてくれる人には色んな捉え方をしてもらえたら良いなと思います。

●逆に今のthe audio poolにとって、芯になっているような曲とは?

大森:ミドルテンポの曲では「トレモロ」だったり、スローな曲では「スターダスト」かな。2ビートまではいかないけど、ミドルアップからスローくらいの曲が自分たちの持ち味というか。そういう曲が自分の得意分野でもあったし、今作ではそれを上手く形にできていて。本当にやりたいことを詰め込めたという感覚はあります。

●メロコアバンド出身のお2人は、速い曲調の方が得意なんじゃないですか?

石島:曲が速くないので、最初の内は戸惑ったりもしましたね。でも元々、それだけが好きだったわけじゃないんですよ。

山井:私もスローな曲をやってみたかったけど、当時はメロコアバンドをやっていたから路線が全然違うものはやれなくて。メロコアも好きなんですけど、今やっていることのほうが私自身の好みに合っているかなと思います。

●メロコア的なルーツも今作には出ていたりする?

石島:「Watershed」に関しては、フレーズにそういう要素が出ていますね。

山井:何年もやってきたものだから、基礎にはなっているんです。疾走感を出すことに関しては、私たち2人が長けているかなとは思います。

●よく聴いてみると、「Watershed」のベースは結構ゴリゴリな感じがします。

山井:この曲を作った頃はパンク要素がまだ強かったというのもあるし、こういう感じの曲はベースがゴリゴリしていたほうがカッコ良いのかなと。無意識的にやっていることだとは思いますけど。

白井:この曲に関しては、みんなの手クセがそのまま出ているんですよ。だから各パートの音がぶつかり合って、大渋滞を起こしちゃっていたりもして。

野代:お互いの顔を見ながら"どうなの?"っていう感じで作っていましたからね(笑)。

●お互いを探り合いながら作ったことで、逆にそれぞれの個性が出た感じでしょうか?

山井:あの頃は本当に探り合っていましたね(笑)。それが何となく上手く行ったのが、この曲で。

白井:ラッキーパンチですね(笑)。だから今作っても、同じものはできないだろうし。

●まだバンドとして固まっていない時期だったからこそ、生まれた奇跡の1曲というか。

大森:たぶん今なら、もっとまとまるよね。

白井:かといって聴く人にとって、まとまっているものが良いとは限らないから。今はそういう部分も考えながら、少しでも良いものを作っていきたい。「Watershed」はそれぞれの手クセが合わさって偶然できただけだから、それを今のやり方でもう1回どうやってまとめていこうかっていう。

●無意識でやっていたからこそ生まれたような楽曲に匹敵するものを、いかに今の自分たちで形にしていくかを考えている。

白井:あの時のモードを捨てたわけではないし、今のモードも捨てるわけじゃない。次のモードがその2つを合わせたものになるかというと違うし、どんなものになるかは自分たちもやりながらじゃないとわからないんですよね。

●ちなみに、白井くんのルーツはクラシックなんでしょうか?

白井:子供の頃からクラシックを聴いてきたのでそういう要素も出ているとは思うけど、それ以外にビリー・ジョエルとかもすごく聴いていたのでポップスから受けた影響も出ているかもしれない。僕は色んな音楽を浅く広く聴いてきた感じなんですよ。

●他の"ピアノエモ"と呼ばれるようなバンドに比べて、the audio poolの音楽性はポップスに近い気がします。

野代:白井は無意識でやっていると思うんですけど、曲に対するピアノの乗せ方が他のバンドとはちょっと違う気がします。

大森:他のバンドだとピアノが入っている曲でも、上モノがメインで間奏に少し入っていたりする程度の使い方が多いと思うんです。でも僕らの場合はピアノがイントロを弾いていたり、サビの部分でもガッツリ弾いていたりする。そこが他のピアノエモのバンドと僕らが、あまり重ならない部分なのかなと思います。

白井:ピアノがなくても曲が成り立つような使い方じゃないんです。ザ・バンドやビートルズみたいに、曲の中でピアノがなくてはならないものになっているというか。やっていること自体は、単なるポップスよりも全然複雑なんですけど。

●the audio poolの曲ではピアノが欠くことのできない存在になっている。

大森:まさにそれが狙いで、聴いた人にもそう感じてもらえないと他のバンドと同じになっちゃうから。スタジオ練習へ白井が急に来られなくなったりすると、ギターが2本いるのに何か足りない感じがするんです。昔はそれでも平気だったはずなのに、今はそう感じちゃっているというのがそのことを象徴しているかなと。

石島:自分たちの中で、ピアノがバンドの音の中核を担う存在になっていますね。

●ピアノの音がバンドとしての芯になっていると。

大森:でもピアノは入っているけど、僕の中ではあくまでギターロックをやっているという感覚なんですよ。そこがある上での、僕らの歌なんだと思っています。

●ギターロックにこだわりがある。

大森:ギターロックの定義とかはわからないですけど、とりあえずコードをストロークで掻き鳴らして歌っている感じが自分の中での"ギターロック"なんです。だから僕の中では、Green Dayとかもギターロックですね。

白井:ライブも含めて、ポップスっぽいところはあると思うんですよ。でもポップスっぽいことをやりながら、自分たちで"ロックバンド"と言ってしまうところがアツいかなって。自分たちはあくまでも"ロックバンド"という意識なんです。

●そういう意識は全員が共有している?

石島:「ロックがやりたい」っていう気持ちは、みんな共通して持っていますね。

大森:自分は意地でも「歌モノじゃない」って言いたいんです。「歌モノって、こんなに複雑な構成じゃないでしょ?」って。

●ルーツや年齢も違う、この5人だからこそ鳴らせる音になっているのでは?

大森:それぞれにキャラクターがあるなとは、すごく思います。「Watershed」を作っている時はそこがまだ見えていない状態だったんですけど、今は逆に見えているからこそ作れる曲も色々あるなと思っていて。基本には歌とピアノがあって、そこで歪んだギターが鳴っているような曲を中心にしているし、それは今作の全曲について言えることだと思いますね。

●今作が1stアルバムということで、どんな作品にしたいというイメージはあった?

大森:バンド歴としては10年近いので、初期衝動感とかはなかったんですよね。とにかくアルバム全体を通して聴いた時に、「良いアルバムだな」って思われたかった。自分が好きなアーティストのアルバムも、全体を通して良い印象があるので。

野代:何回も聴いてもらえるような作品にしたかったですね。

白井:自分たちでは全曲を平等に扱っているつもりだし、人によって好きな曲が違う感じが良いんじゃないかなと。幅はあるんだけど、バランスが取れている作品だと思います。75点くらいのアルバムじゃないかな。

●100点じゃないんだ!?

石島:残りの25点は次のアルバムや今後の作品で埋めていって、どんどん100点に近づけるように自分たちが努力していくための余地だから。今、100点のものを作ってしまったらもう終わりなんですよ。

山井:満足しちゃったら、そこで終わっちゃうからね。

大森:自分は100点と思える曲を作れたら、もう一生作らないと思います。でもそれは絶対にできないことだから。曲を作りたいという気持ちだけあれば、死ぬまでずっと作り続けられると思いますね。

白井:僕らは「きっとまだ何かある」って言いながら、いつも曲を作っているので。限界の幅が1日1日で広がっていっているから、「1年後から見たら75点くらいだな」っていう感覚なんですよ。間違いなく、現段階でのベストではあります。

●後で振り返ってみたら余地は見えるけど、その時点では全てを出し切っている。

白井:それはもちろんですね。レコーディングが終わった時点で色々と反省する部分もあったし、新しい考え方もたくさん入ってきたので今は色んなことを試したくてしょうがないんです。

野代:今まで作ってきた曲は今作にほとんど入っているので、今は新しい曲をどんどん作っていきたくて。

大森:演奏技術とかも含めて、その時にやれることは出しきれたと思う。自分のバンド歴で言えば10年越しの初アルバムなので、溜まっていたものが今回で全部抜けたというか。「次はどこへ行こうかな?」って、今はすごくワクワクしています。そこへ向かうために今も苦しんでいるところなんですけど、これを抜けたらすごく気持ち良い瞬間が待っていると思うから。その一瞬を味わうためだけに音楽をやっているんですよ。

Interview:IMAI

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