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THE PINBALLS

苦難の日々を乗り越えた4人が鳴らす音は王道ロックの佇まいを身にまとっている

EP_181X181_omoteTHE PINBALLSが、会心のニューミニアルバムを完成させた。前作リリースから1年半の間に前所属レーベルも離れ、“1”からの再出発を果たそうとした4人。バンドとしての結束を固め、ひたすら良い曲を創り出すことを追求し続けた期間は彼らを決して裏切らなかった。ジャパニーズ・ガレージロックリバイバルの流れの中で生まれつつも、ライブで培われたダイナミズムに溢れるサウンドは今や王道ロックの佇まいを身にまとっている。初期衝動を取り戻し、新境地へと至った今作を手に4人はさらなる進化を遂げていくだろう。

 

「“このバンドで死のう”と思えるというか。口にするのは簡単なんですけど、すごく大変なことだと思うんです」

●今作『ONE EYED WILLY』を聴いた時に、すごく振り切れたような感覚がありました。

古川:前に所属していたレーベルを離れて、いったん自分たちだけで活動を仕切り直したというところがあって。「細かいことは気にせず思い切りやろう」ということはメンバー間でも言っていたので、確かに振り切ったという感覚はありますね。レコーディングの時も、“とにかくデカい音でやろうぜ”みたいなシンプルさが一貫していたんです。

●自分たちの中で、仕切り直しの気持ちがあった。

中屋:バンド内でも一度まっさらにして、雰囲気を変えたいという感覚がありましたね。

古川:表題曲のM-3「片目のウィリー」を英訳したものが『ONE EYED WILLY』という今回のアルバムタイトルなんですけど、“1(ONE)”というのが今の自分たちには合っているなと思って。バンドを組んだ時の気持ちに、もう一度戻りたいなという感覚があったんですよ。心機一転というか、ここからまた“リスタート”という感じがしています。

●これまでのタイトルは1stミニアルバムが“10”(『ten bear(s)』)で、2ndミニアルバムが“100”(『100 years on spaceship』)となっていて、次は“1000”かと思ったら今回で“1”に戻ったという…。

古川:もっと頑張らなきゃということで“10”から“100”と上がってきたんですけど、そのまま行くんじゃなくて今回は足場を固めようという気持ちがあって。これまで自分の中で決めていた“タイトルに数字を入れる”というルールを、今回はもうやめようかと思っていたくらいなんです。一度、“0”か“1”に戻りたいという感覚がすごくあったんですよね。そういうところにたまたま『ONE EYED WILLY』というタイトルが降ってきたので、自分たちの気持ちとすごくリンクしたような気がしてピッタリだなと。

●レーベルを離れて1から出直すというところで、メンバーの結束も固まったんでしょうか?

森下:前のレーベルからは色々とアドバイスをもらっていたんですけど、それに対してメンバー間で意見が割れることもあって。でもそこでお互いが納得するまで話し合うような時間も持てなくて、誰か1人が理解できていなくてもその時の勢いで進めてしまっていたんです。そういうところをもう一度4人でしっかり考えようという意味もあって、前のレーベルを離れたところはありますね。

古川:今、バンドがすごく良くなってきているという感覚があって。今までも仲が悪いわけじゃなかったんですけど、最近はお互いへの信頼感が増している気がしますね。

石原:メンバーには本当に心を許せる感じがあるので、もう「任せます!」という気持ちで付いていけるというか。

●紆余曲折あったから、余計に結束が増した。

古川:つらいことやきつい場面も多かったんですけど、逆にそういうことがあって良かったなと。やっぱり「この4人じゃないとダメだな」ということが再確認できました。今回のレコーディングを通して、さらにメンバー同士の仲が深まった気がします。

●そして今回はレーベル移籍をして1年半ぶりのリリースとなるわけですが、制作はいつ頃から?

古川:リリースのあてがない中でも、常に曲は作っていて。今回の曲は、ほとんど森の中で作ったものなんですよ。

●森の中…?

古川:家の近くにすごく大きな公園があって、その奥が森みたいになっているんですよ。ちょうど気分的にも落ちている時だったので、彷徨っているような感覚があって。周りに誰もいない場所を探してどんどん奥地に入っていって、最終的には大自然の中で曲を作っていましたね(笑)。

●すごく特殊な状況の中で曲を作ったと。

古川:そういう中で作ったからか、1曲1曲に対する想いがすごく濃いんです。だから途中で何度もアレンジを変えたりして、1曲1曲にものすごく時間をかけましたね。

中屋:M-6「protect her, St. Christopher」は、何回もアレンジが変わっているんですよ。目指している完成形に近付くのが難しくて、一番迷っていた気がします。アレンジの方向性が難しかったので、録るのも大変でしたね。

石原:自分に表現できるのかなっていう不安はありました。

●楽器隊の表現力も幅が広がっている?

古川:僕としては、すごく広がったと思いますね。特に石原は適当そうに見えて、実は今一番頑張っていて。付き合いが長いので、そういうことは肌で感じるんですよ。

石原:そうなのかな…? 僕は自分のことがあんまりわからなくて(笑)。時々、「自分は人間じゃないんじゃないか?」って思うんです。

●…えっ!? 人間じゃないなら、何なんですか?

石原:ロボットなのかなって。

一同:ハハハ(笑)。

●なぜロボット?

石原:年々、自分が何を考えているのかわからなくなってきていて。きっと色々と考えてはいるんでしょうけど、上手く言葉でまとめられないというか…。

●だからこそドラムで表現しているんでしょうね。

石原:そうです! 言葉で表現するのは古川に任せて、僕はスティックを握っています。

古川:上手いフォローをありがとうございます(笑)。

●演奏にはちゃんと想いが出ている。

石原:今回は本当に色々と考えたりもしたんです。レコーディング前はすごく考えたんですけど、実際の現場ではもう無心でやりましたね。色んなことを事前に考えた結果が身体に染みついて、演奏として表現できたのかなと。

●曲は全て古川くんが作ってきたんですか?

古川:そうですね。でも自分が作ったのは6割くらいの印象があって、そこからみんなに渡して一緒に作ってもらっている感覚なんです。たとえばM-4「蛇の目のブルース」では、中屋のギターがすごく良かったのを採用していて。中屋のレコーディング中も僕はブースの外で聴いていて、良いフレーズを弾いたら「今のをもう1回やって!」とか言うんですよ。でも本人はあまり覚えていないっていう…。

中屋:僕はギターソロを設計しないんですよ。それ以外のパートはかなり決め込むんですけど、ギターソロに関しては設計したものを弾くと嘘臭くなる気がして。頭を使って考えている感じが、ロックバンドっぽくないというか。こういうバンドなので、特にギターソロは作りこんでいないですね。

●だからこそ、よりバンド感も出るんでしょうね。

古川:今回は本当にすごく大事な曲たちだったので、「俺の曲を一緒にやるということは、これから本気でこの4人でバンドをやっていくということだからな」ということを改めて確認したんです。そしたら作品を作っていく過程でメンバーの演奏が上手くなったり、前よりもコミュニケーションを取るようになったり、曲に対しても今まで以上に熱く自分の意見を返してくれるようになってきて。

●メンバーも想いに応えてくれた。

古川:自分の中でメンバーに聴かせるっていうことは、もう「この曲をやるぞ」っていう意思表示なんですよ。それだけ自信を持って聴かせているし、そこをメンバーも信頼して「じゃあ、やろうか」という姿勢になってくれるんですよね。文句を言うでもなく、僕がやりたい曲を一緒に良くしようという感覚でやってくれていて。

森下:だからといって、僕らが古川のために寄せていったわけではないんですけどね。彼がそういう気持ちだということを知った上で、「この4人でTHE PINBALLSなんだから自分たちの全部を出そう」という感じでした。

中屋:制作の中でみんなとはすごく会っていたし、4人で音を合わせる時以外も個人個人で突き詰めていましたね。制作中はあんまり寝ていなかったくらいです。

石原:僕も必死に頑張りました。

●全員が全力でやった結果、THE PINBALLSにしかできない作品が作れたのでは?

古川:今は「このバンドで良いな」という気持ちになれたのが、すごく大きいんです。「このバンドで死のう」と思えるというか。これって口にするのは簡単なんですけど、実はすごく大変なことだと思うんですよ。自分が1人ぼっちで作った大事な曲たちを理解してくれるのはこの3人だし、良い音を鳴らしてくれる。そこで「良いバンドだな」と納得できたので、今回のアルバムはすごく良いと思うんです。

●どの曲もすごくフックが強い。

古川:前作から1年以上経っているのもあって、その間のベストアルバムという気持ちが自分の中にはあるんです。どれもシングル曲のつもりで書いたので、本当にベストアルバムみたいな感覚なんですよね。

●ライブ感もすごくありますよね。

森下:どの曲もライブで熱くなれそうだなと思います。

古川:だから早くリリースをして、ライブがやりたいんです。何曲かは既にやっているんですけど、今はまだリリース前なのでセーブしているところはあって。早く全曲ライブでやりたいですね。

●そこもバンドを始めた当初の気持ちに近いというか。

古川:バンドを始めたばかりの頃みたいに、シンプルにデカい音を出していると何だかドキドキするんです。実際、「片目のウィリー」で森下がベースをブリブリ弾いているのを見て「すごくカッコ良いな」と思って、ドキドキしたりもして。メンバー同士でもそういうドキドキ感があるのは、すごく良かったなと思います。僕は「今が青春だな」っていうことを今回の制作中、ずっと思っていたんですよ。

●それくらい日々、新鮮な熱い気持ちで取り組めていた。

中屋:本当に今回は雰囲気良くできたので、この良い雰囲気のままツアーもまわれるんじゃないかな。

森下:音楽だから別の自分も作れると思うんですけど、今作では本当に嘘偽りない自分たちを音に出せていて。自信を持って「これが今のTHE PINBALLSです」と言える作品になったと思います。

石原:僕も今、森下の話を今聴いていて「確かにそうだな」って思いました。

●ロボットにも嘘偽りのない自我が…。

石原:宿ったんだ…!

一同:ハハハハハ(爆笑)。

Interview:IMAI

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