音楽メディア・フリーマガジン

WHITE ASH

その贈り物には彼らの意志と決意が詰まっていた

WHITE ASH01時代の流れにとらわれず、感性を研ぎ澄ませ、自らの美学を信じてロックサウンドを鳴らしてきたWHITE ASH。ソリッドかつタイトなそのロックサウンドは、メジャーフィールドへと活動の場を移してから更に幅と奥行きを拡げ、聴く者の感覚を震わせる強度とバンドの意思が詰まったアルバム『Ciao, Fake Kings』へと昇華した。アルバムリリースを目前に控える今月号では、WHITE ASHの首謀者であるVo./G.のび太にソロインタビューを敢行。彼が持つ音楽的な感性と美学、そして新作に詰め込まれたバンドとしての意志と決意を訊いた。

 

Interview #1
「僕自身、自分がいちばんやりたいことをやっていくというのが、最終的に周りの人たちを幸せにすると思っている」

●今年はメジャー移籍をしてシングルを2枚リリースしましたが、忙しかったですか?

のび太:そうですね。結構立て続けにやることが目の前にあって。それをひとつひとつクリアしていって、気がついたらあっというまに12月っていう感じです。

●制作をやりつつ、ライブもあり。

のび太:ライブが終わってすぐさま次の日にはレコーディングとかも結構あったりして。でも今まで以上に充実した1年だったなと思います。やっぱりいちばんは、メジャー移籍したっていうのが大きな変化だったというか。今まで関わってきたスタッフさんの人数とかが増えて、急にファミリー感が増したというか。例えばCDをリリースして挨拶まわりに行くときにでも、今までは2人とかだったのが、一気に4〜5人で一緒にまわったりするようになったときに、“自分たちの音楽を広めるためにいろんな人が支えてくれているんだな”っていうのを間近に感じたんです。だからこそ、もっともっと自分たちが“ああしていきたい、こうしていきたい”っていう意志をちゃんと伝えて、みんなでWHITE ASHというものを知らしめることができたらいいなっていう。バンド内でも以前に比べて話し合いが増えましたし、そういう意味ではメジャー移籍したことによって、よりバンド感も増した気がします。

●いい意味での責任感が出てきたというか。

のび太:そうですね。逆にメジャーに移籍したからこそ、自分たちがやりたいことに対してのキャパが広がるというか。インディーズ時代だと、やれることにある程度の縛りというか制限が出てくるんです。だけどメジャーは、やりたいことに対してサポートしてくれる人も多くなる分、より大きなことができるっていう。

●それはプレッシャーにはならなかったんですか?

のび太:プレッシャーは…僕はあまり感じないですね。僕自身、自分がいちばんやりたいことをやっていくというのが、最終的に周りの人たちを幸せにすると思っているんです。僕がやりたいことを提示するということに於いては、周りの人数は関係ないですから。

●今、「自分がいちばんやりたいことをやっていくことが、周りの人を幸せにする」とおっしゃいましたが、それはのび太さんが音楽をやっていく上での核だと思うんです。そういう意識はいつできたんですか?

のび太:メジャーに行くまでは、ラッキーなことにいろんな人にいいタイミングで助けてもらえていたんです。周りから見たらトントン拍子というか、すごくスムーズに今のところまで来れたなと自分たち自身も思っていて。

●はい。

のび太:だけど人が増えていくと、なにかを伝達するのも時間がかかるし、僕がマネージャーに言って、マネージャーからディレクターに伝わって、ディレクターからまた他の人に…というときに、離れていけば離れていくほど明確じゃなくなっていくというか。そこに対して、僕が強い意志を持って「こういう風にしていく」と言った方が、バンドの方向性というか、みんながどう動けばいいかがわかるっていうか。

●ああ〜。

のび太:例えばなにかをするにしても“これを言うと誰かが嫌な気持ちになるかな?”とか考えて自分の意志を伝えなかった場合、方向性を決定付ける人がよくわからなくなるというか、ぼやけちゃいますよね。組織に於いては“なにをしたらいいのかわからない”っていうのがいちばん問題で、どこに向かって行ったらいいのかわからなくなっちゃう。

●確かに。

のび太:だからこそ「このバンドをこういう風にしたいんです」っていうのを、我を通して言った方が「そのためにはこうした方がいい」という助言も言ってもらえるし、「それに向けてこういう風に準備しましょう」という話もスムーズになる。ということで、僕は“周りの人たちの目を気にすることよりも、自分の意志をちゃんと伝えた方が結果的にみんなが動けるだろう”と思ったんです。

●意志を明確にすると。

のび太:それは人数が増えてきたからこそわかったことなんです。だからメジャーに行ってからそういう意識になれたのはすごくいいことだと思っていて。

●単純に音楽性とか曲のアレンジというレベルの話ではなくて。

のび太:全体的な、バンドとしての方向性も含めてですね。僕ら自身が“シンプルかつかっこいい曲を作る”というところをすごく大事にしてきて。それ以外のところに関しては、スタッフの人と相談しながら「ああしていこうか、こうしていこうか」っていう風にしていたんです。でもWHITE ASHとして、“シンプルかつかっこいい”と思えるひとつの象徴的な存在になりたいと思ったんですね。だからこそアートワークにしろグッズにしろMUSIC VIDEOにしろ、僕たちが“シンプルかつかっこいい”と思っている部分をもっと世間の人たちに知らしめて、例えば僕らの作品じゃない何か…音楽じゃなくてもいいんですけどシンプルかつかっこいいものを見たときに「これ、なんかWHITE ASHっぽいよね」というような象徴的な存在。例えばジブリのアニメって、なにも知らない作品を見たときでも“これジブリっぽいな”ってわかるときがあるじゃないですか。

●ありますね。

のび太:それはなぜかというと、今までに“ジブリ感”というものを植え付けられているから、全く知らないものでも“ジブリっぽいな”ってわかる。結局残っていくものは共通して、そういう要素を持っていると思うんです。言い換えると「替えがきかないもの」というか。僕はそういうバンドになっていきたいなと思っているんです。だからこそ、ちゃんとバンドの軸を守っていくために、僕自身が強い意志でいないといけない。そこに気付けた年でもありましたね。

●“シンプルかつかっこいい”というところをもうちょっと掘り下げたいんですが、感覚的なものなんでしょうか?

のび太:すごく感覚的ですね。その感覚を表現する上で、自分が今いちばん好きなものが音楽だというところもあって。僕は音楽がないと生きていけないタイプの人間ではないんですよ。

●音楽を始めたのは結構遅かったんでしたっけ?

のび太:大学に入ってからですね。Arctic MonkeysのMVを初めて観たときに“めちゃくちゃかっこいいな”と思って。彼らのコピーバンドとして結成したのがWHITE ASHなんです。

●初めてのバンドがWHITE ASHだったと。

のび太:そのときに僕はギターを買って、メンバーもほぼ同時期に楽器を始めたんです。最初は、Bloc PartyとかThe Subways辺りをコピーしていたんですけど、そういう音楽を自分たちでも作れないかなと思ってオリジナルに移行したんです。それが思いのほかスムーズに曲ができたっていう。

●トントン拍子ですね(笑)。

のび太:そうなんですよ(笑)。スムーズに曲ができたから「ラッキー!」と思って。それで、まだライブも月に1本やるかやらないかっていうくらいのとき、2010年に夏フェスのオーディションにエントリーしたら優勝して。そこから夏フェスの舞台に立ったり、インディーズデビューもしたんです。オリジナルをやるようになってから2年も経たないうちに。

●ということは、自分たちが“シンプルかつかっこいい”と思うものを作る、というモチベーションがどんどん強くなって今に至っていると。

のび太:そうですね。“自分で聴きたいものを作る”という。僕は洋楽も邦楽もすごく好きなんです。邦楽の良さはメロディの良さだと思っていて、洋楽の良さはシンプルってことなんですよね。かっこいいギターリフをひとつ思いついたらそれで1曲作っちゃうみたいな、ある種の大味感というか。だけど、洋楽はリフや曲自体はかっこいいけど、“サビがそこまでキャッチーにならないんだよな”みたいなモヤモヤもあったりして。

●ちょっと物足りないというか。

のび太:そうそう。邦楽ってサビをいちばんに聴かせたいから、Aメロ〜Bメロ〜サビって順を追って行くじゃないですか。その感じを上手くミックスさせて自分が聴きたいものを作ったら、自分が満足できるんじゃないかなと思ったんです。

WHITE ASH02

Interview #2
「楽しいですよ。だから曲作りはいい意味で他人事だと思います。僕自身が生み出しているというより、僕が発見者なだけ」

●曲はどういう順で作るんですか?

のび太:頭の中で全部曲を作って、そのあとにギターを弾いて“このメロディに対してのコードはこれか”って。その後にみんなでスタジオに入って「こういうリズムを叩いて、そこでこうやって弾いて。これがイントロだから、次Aメロ行くわ」みたいな。

●完全に頭の中で作るんですね。最初からそうだったんですか?

のび太:最初から。

●すごいな。アレンジも頭の中にあるんですか?

のび太:いや、アレンジに関しては全員で音出しした後にみんなで「もっとこうした方がいい」みたいな話をするんです。基本的な土台を全部頭の中で作る感じです。

●頭の中で作るとき、何か元となる感情や風景というような源泉はあるんですか?

のび太:そこに関しては、思いつきというか。頭の中で音楽を再生したときに“次はこうなる”っていうのが見えてくる。発掘作業みたいな感じなんですけど。

●“作る”というより、“次はこうなるんじゃないか?”と探していく。

のび太:そうそう。だから“ここまでの道筋を行って、ここに行ってみる…ここじゃないから違う道を行ってみる…あ、ここに道があった!”という感じで、どんどん進んでいくんです。

●不思議ですね。何かが自分の中にある。

のび太:そうなんですよ。歌についてもそうで、そもそも曲はメロディから先に生まれるんですね。メロディが出てきたときに“これは小気味よく歌ってほしがっている”とか“これは日本語の方が良さが伝わる”というような感触があるんです。考えるというより、既にどこかに答えがあって、それを探していくという。

●おもしろいですね。

のび太:楽しいですよ。だから曲作りはいい意味で他人事だと思います。僕自身が生み出しているというより、僕が発見者なだけであって(笑)。

●他人事ですね(笑)。

のび太:だから感覚としては“曲ができなくて辛い”みたいはことは一切なくて。そもそも、僕は音楽を生理現象とかご飯を食べることと同じに考えていないんです。音楽家ってそういう方もいると思うんですけど、僕はまったく違うんです。本当に楽しいからやっているっていう。だからこそ客観的でいられるんだろうなとも思うし。言い方を変えると冷めているってことなのかもしれないですけど、僕が聴きたいものを作るだけでいいっていうか。

●WHITE ASHの音楽から直接的に感じる熱量は、決して高くないと思うんですね。だからと言って突き放しているわけでもない。絶妙な距離感を保ちながら音を鳴らしているという印象があって。それはもしかしたら、さっき言っていた“客観性”みたいな感覚が関係しているのかもしれないですね。

のび太:そうですね。あとは、僕自身が熱意を感じさせる音楽自体を普段あまり聴かないっていうのもありますし。Arctic Monkeysから入ったこともあって、どこかしらに熱量とは別の、ちょっとした皮肉感はあるのかもしれませんね。

●そういう感覚が曲作りに於いて重要な役割を担っている。

のび太:そうですね。あと、周りの人がやれることを僕らがわざわざする必要はないとも思っていて。さっき「絶妙」とおっしゃいましたけど、逆に僕らがやれることがそこのラインだったと思うんですよ。今回のアルバムで言えば、僕は音楽的に自分たちのやりたいことをやっているんですけど、今のシーンを見たとき、再燃しているのは4つ打ちのBPMの速いダンスロックとかじゃないですか。でもその行き着く先って、どんどんテンポを速めていくことでしか満足できなくなっちゃうとも思っていて。

●単調化しますよね。

のび太:そう。例えばリズムが取りやすい曲の場合、ライブハウスでもフェスでもそうですけど、みんなと同じ動きをして一体感を味わいたいっていう感覚はわかるんですよ。わかるけど、そこで僕は“その音楽じゃなくてもいいんじゃないか”と思ってしまう部分もあったりして。

●ああ〜。

のび太:“もっと自由でいいのにな”って。テンポが速くてノレるものが主流であるとすれば、僕は“そこからどれだけテンポを落としてノレるか”というのが、まだみんながあまり手をつけていないところだなと。今年Daft Punkが新作を出しましたけど、今の音楽シーンはEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)がすごく溢れていて、バッキバキなサウンドの中で、その元祖と言ってもいいDaft Punkが人肌を感じるような、だけど踊れる作品を発表して。僕はそれがすごくかっこいいと思ったんですね。シーンを自分たちで作っておきながら、それが発展したところに対してまた違うアプローチをして、自分たちは更にシーンの先に行くという。流行と別の位置に行くっていうのは、やっぱり強いと思うんです。だからこそ、僕らの今回のアルバムではテンポを気にしていて。

●うん。リズムアプローチに挑戦しているというか、リズムのバリエーションが豊富ですよね。

のび太:僕はこれがひとつの挑戦状というか、みんながこういうリズムに対してどうやってノッていくのかを見たいという気持ちもあるんです。“どうノッていいのかわからない”という反応があったとしても、それは新たな体験にもなると思うし。楽しいものが音楽のすべてじゃないっていうところを、僕は自分たちでちゃんと提示したいかったんです。もっと自由にしていいと思うんだけどなって。

●今回のアルバムは、WHITE ASHの美学を詰め込んでいると同時に、現在のシーンに対する提示でもあると。

のび太:そうですね。今のシーンに対して、僕らが“かっこいい”と思う音楽を11曲入れたんです。ある意味では、みんなが好きなものとしては出してないっていうか。僕らがかっこいいと思うもの。それをやることによって、WHITE ASHが浮き彫りになると思っていて。みんなのニーズに応えることが人気を得る秘訣だとは思っていないんです。

●みんなのニーズに応えることが人気を得る秘訣ではない?

のび太:例えば価格競争になってくると、行き着く先は無料の世界になっちゃうけど、逆に安くはないけどしっかりと品質を保証してサービスが良ければ、価格とはまた別のところに価値が生まれるじゃないですか。僕はそこに人が集まると思うんです。だから僕らは僕らで、シンプルかつかっこいいと思うものを時代に関係なく突き詰めていくこと自体が、結果的に“WHITE ASHという音楽”として聴いてもらえるんじゃないかなと思っていて。

●なるほど。…大学で経済学とか専攻していたんですか?

のび太:いや、してないです(笑)。感覚と分析っていうところはどちらも両立させたいなっていうのがあるんです。僕らはすごく初期衝動感を意識するんですけど、パッと聴いた感じ勢いで作っているように見せておきながら、僕はそこに対して何十回何百回と検証をして、結果的に“これが必要最低限のものである”という確信を持てたものを世に出してきたんです。

●確かに、そういった洗練感がどの曲にもある。

のび太:ある種の機能美というか。“イントロでこういうのがあって、途中でこういうのが入ってきて…”っていう、ひとつの計算というか。

●機能美ですね。うんうん。

のび太:ただそこを、なるべくなにも考えずに聴き流してもかっこいいと思ってもらえたらいちばんいいと思っていて。僕は裏ではいろんなことをやっているけど、実際に届いたときには、聴いたそれ自体がかっこいいと思ってくれたらそれだけでいい。だけど例えば、実際にギターのフレーズを弾いてみようとしたときに“実はすごくよく考えているんだな”って、気付く人が気付いてくれればいいなって思っていて。

●おもしろいですね。そういう話をアーティストから聞くことはあまりないんですけど、のび太さんの話を聞いていて思い出したのが、BEAT CRUSADERS時代の日高さんなんです。ちょっと近いものを感じる。

のび太:以前、日高さんに「若い頃の自分に似ている」と言って頂いたことがあって。

●アハハハハ(笑)。

のび太:どこかしらで通じている部分があるのかもしれないですね(笑)。

WHITE ASH03

 

Interview #3
「そういう姿勢をちゃんと提示していくことによって、他のバンドに勝つというより、他のバンドがいないところを進んでいきたい」

●今作は、アルバムの全体的なイメージが最初から明確にあったんですか?

のび太:いや、僕はアルバムでもシングルでもそうなんですけど、ひとつのコンセプトというのはなくて。1曲1曲シンプルかつかっこいいものを作るっていう作業を繰り返すだけなんです。ある程度曲がたまってきたときに、“もう少しこういう曲があったらいいな”とか“ああいう曲があったらバランスが取れるな”っていう全体的な構成は考えるんですね。だから去年の7月に出た1stフルアルバム『Quit or Quiet』が前作ではなくて、今年の8月に出たシングル『Crowds』が僕にとっての前作という感覚なんです。

●なるほど。

のび太:僕らは、シングルもアルバムもひとつの絵だと思っていて。シングルはサイズの小さい絵で、アルバムは大きいサイズの絵。シングルはアルバムのための布石というのが一般的な考え方だと思うんです。でも僕らはそこに対してこだわりを持って…例えば小さい絵で描いたものを、大きい絵にちょっと付け足すとなると、大きい絵は1枚として完結していないってことになっちゃうと思うんです。

●確かに。

のび太:だからこそメジャーの1stアルバムっていういちばん人目につくかもしれないタイミングで、アニメのタイアップがついている前作のシングル曲「Crowds」はもとより他の2枚のシングルについても、アルバムには入れない。普通で言えばかなり異例なことだとは思うんですが。

●メジャーではあまりないですね。

のび太:メーカー泣かせなところではあると思うんですけど、それをやることで「僕らにとっては、どっちも同じくらい時間と情熱をかけて作った作品です」という言葉に説得力を持たせることができる。それに僕がいちWHITE ASHファンとして“新しい曲を聴きたい”という純粋な気持ちがあって。だからこそ、前のアルバム以降で3枚シングルをリリースしているけど、アルバムには一切入れずに、全部新曲でアルバムを作ったら「WHITE ASHってかっこいいな」とファンとして思うだろうなって。そういう意味で、ファンのみんなに喜んでもらいたいっていう気持ちが根底にあるんです。だから曲自体は自分たちがかっこいいと思うものを作るんですけど、最終的にはWHITE ASHを好きでいる人とか、これから出会うであろう人たちに大切に思ってほしい、と考えていて。

●シングル曲をアルバムに入れないということ自体も、最初におっしゃっていた「自分たちがかっこいいと思うこと」の追求というか、意志の表れなんですね。

のび太:そうです。そういう姿勢をちゃんと提示していくことによって、“WHITE ASHって他のバンドと違うかもしれない”っていう。そこについても、ひとつのシングルとアルバムの関係性とか、他のバンドとは変わるわけじゃないですか。他のバンドに勝つというより、他のバンドがいないところを進んでいきたいというか。

●M-1「Casablanca」が象徴的なんですけど、どの曲もメロディはもちろんのこと、ギターのリフが変化のきっかけになっていたり色付けをしていたり、曲の中で重要な役割を果たしているように感じたんですが。

のび太:僕は年の離れたお姉ちゃんがいて、小さい頃からGuns N' RosesとかMotley Crueみたいなハードロックを聴いて育ったんです。そのあとにマイケル・ジャクソンを知って、“なんでこんなに気持ちよく歌うんだろう?”と思って。ポップなんですよ。ポップの方が僕自身大事にしているところなんですけど、キャッチーであるとかわかりやすさ、手に取りやすさや口ずさみやすさが大事。さっき「メロディから作る」と言っていましたけど、歌のメロディもギターのリフもひとつのメロディであって、僕は口ずさめる部分というか、ちゃんとピックアップできるわかりやすさをどの曲にも持たせたいところがあって。だから、他のバンドよりもギターのフレーズだったりベースのフレーズだったり、ドラムのリズムもですけど、口ずさみやすさやキャッチーさっていうのはすごく意識しますね。

●キャッチーかどうかという基準は自分の中にあるんですか?

のび太:いや、僕の場合、口ずさんでしか曲を作れないから。例えば楽器から曲作りを始めたりしたら“このコード感いいな、ここから曲を作ろうかな”となるけど、僕自身のスタートが鼻歌で歌うところだから、歌えるという時点でそれはキャッチーを獲得しているようなものであって。入り口がキャッチーなものしか入ってこないというか。

●リフも鼻歌から?

のび太:リフもそうです。僕は弾きながら思い浮かぶっていうことはほぼないですね。曲を作るときになにもない方がいいというか。スタジオにこもったら曲ができるかというと、そんなことなくて。スタジオから出て散歩とかした方がいいんです。だからすごく身軽ですよね。曲を作る上で道具が要らないので。

●全裸でも曲ができるということですもんね。

のび太:実際、お風呂場で曲が生まれることもあって。それにさっきの話にも関係しますけど、僕自身が作るというより、既にあるキャッチーなものをキャッチする、みたいな。上手いこと言ったかな(笑)。

●あっ! どや顔になった!

のび太:フフフ(笑)。

 

Interview #4
「たまたま直感で名付けたタイトルが、結果的に自分が本来思っていることとか、意志として持っているものと結びついた」

●M-11「Xmas Present For My Sweetheart」は歌詞がほぼ全部日本語ですが、この曲は蔦谷好位置さんのプロデュースなんですよね?

のび太:そうです。

●今までも英語の中にちょっと日本語が入る曲があったと思うんですが、この曲はさっき言っていたように、メロディを探してきたときに初めから“日本語っぽいな”みたいな雰囲気があったんですか?

のび太:“日本語にできるな”みたいな感覚がありましたね。実際今まで僕が曲を作ってくるときに、ライブで演奏ができるというのが前提条件としてあったんですけど、今回プロデューサーに蔦谷好位置さんを迎えて曲の話をしていたとき、“4人でギターとドラムとベースだけでこの曲の良さを100%表現しきれるか?”と考えた時、表現できないとなったんです。ライブでできるかどうかっていうところで考えるよりも、この曲をいちばんベストで持っていくことの方が作品としてはいいんじゃないかって。僕は最初は“大丈夫かな?”と思っていたんですけど。

●今までにない方法論だったので。

のび太:今まで“シンプルかつかっこいい”という部分で、“この4人だけで鳴らせる音でしかやらない”っていうことがまずシンプルだと思っていたんです。ただ蔦谷さんと一緒にやっていくうえで、蔦谷さんのアレンジを聴いたときに“なぜこの音が入っているのか”というのが理解できた。つまりその音はここにおいて必然性があって、それがないと完成しない。必要最低限の音数がそれだったんですよね。4つ以上の音が鳴っているけど、鳴っているものがすべて必要最低限であるとするならば、これはちゃんと“シンプルかつかっこいい”の軸を守れているなと思って。そのときに僕は“自分たちで思っていた以上に、守るべきところだけを守ればもっと振り幅を拡げることができるんだ”と感じたんです。

●うんうん。

のび太:それにこの曲自体日本語で歌いたかったというか、言葉自体も降りてきたので。たぶんこれは、あまりにもラブソングだし全編日本語だしっていうところで、僕らがデビューした当時だったらできないことであって。だけど僕らがメジャーに行って積み重ねたものがあったからこそ、この曲をちゃんと心の底から「WHITE ASHの曲です」と胸を張って言えば、僕はこのアルバムに入っている曲を全部背負える曲だなと思ったんです。だからアルバムの最後に収録しました。

●今まで歩んで来たからこそ、このタイミングで形にすることができた。

のび太:それに“ちゃんと僕らはラブソングも作れるし、日本語でも曲を作れるよ”っていうのを最後で見せることで、次に僕らがどんな一手を繰り出すかが気になりますよね。

●うん。“次はどうなるんだろう?”と思いますよね。

のび太:それは常に思わせたい。満足させたら終わりだなっていうのがあるから。常にWHITE ASHという存在を気になる存在として見ていてほしいんです。頭から聴いていくと“WHITE ASHってこういう感じだよね”と感じるかもしれないけど、アルバムの最後の方でたぶんみんなびっくりするだろうし。

●確かに今作の曲順は、最初に“WHITE ASHってこうなんだ”という部分を認識させたあと、リズムで遊んでみたり、スパニッシュな感じになったり、裏打ちになったり甘くなったりしてグラデーション的な驚きが隠されていますよね。

のび太:そうですね。僕がすごく飽きっぽいというのもあって、いろんなものを聴きたいっていうのが純粋に曲に表れているというか。やっぱり洋楽とかだと、頭3曲がめっちゃキャッチーなかっこいい曲が並んでいるけど、4曲目以降は完全に惰性で作ってるんじゃないかっていうようなのがたまにあって。

●あるある!

のび太:そういう作品にはしたくないと思ったんです。イメージで言うと、尻尾の先まであんこが詰まっているたい焼きみたいな(笑)。そういうものをこだわって作っていけば、ちゃんと評価してもらえるんじゃないかなと。やっぱり繰り返し何度も何度も聴いてほしいし。

●なるほど。あと最後に、アルバムのタイトルとジャケットについて訊きたかったんですが、『Ciao, Fake Kings』というタイトルはどういう経緯で?

のび太:さっき「感覚と分析」という話をしたんですけど、僕はタイトルを作るとき、頭文字はインスピレーションなんです。要するに、今回は“アルバムはCから始まるな”というアイディアがあったんです。曲が集まり始めて“Cから始まるな”と思って。感覚として。

●そこに意味はないんですか?

のび太:ないですね。そのとき思いついた言葉が“Ciao”という言葉だったんです。それも感覚として。“Ciao”って挨拶の言葉じゃないですか。挨拶の言葉から始まるフレーズで、印象的だったものってないのかな? と考えたときに、NIRVANAの「Smells Like Teen Spirit」の歌詞の中に“Hello, hello, hello, how low?”というフレーズを思い出したんです。

●お、なるほど。

のび太:ここからが分析になるんですけど、“hello, how low”って、“ハ”と“ロ”で構成されているじゃないですか。その公式を“Ciao”に当てはめてみたんです。“チャオ チャウオウ”になる。で、“チャウオウってなんだろう?”という自問をして。“チャウ”というのは“違う”ってことですよね。

●関西弁の“ちゃう”ですね。

のび太:で、“オウ”は“王様”。だから王様じゃない…“偽物の王様”だと。

●王様ちゃうと。

のび太:それで“偽物の王様”を英語に直したのが”Fake Kings“で“Ciao,Fake Kings”というフレーズが生まれたんです。じゃあ、そのフレーズに対してなにかしらの意味をもっと見つけられるんじゃないかと思って。

●ふむふむ。

のび太:王様ってすべてを兼ね備えた人がなるって思っているんですけど…どんな分野においてもそうですけど、力を持っていないけれどトップにいる見せかけの王様っていうのは少なからずいるんじゃないかなと思っていて。僕らは音楽で勝負しているわけですから、自分たちが本当にかっこいいと思うものを正面からぶつけて、そういう人たちを倒したいというのが、本心として常に思っていることでもあったんです。だから、たまたま直感で名付けたタイトルが、結果的に自分が本来思っていることとか、意志として持っているものと結びついたときに“ちゃんと自分の言いたいことが言えてる。持ってるな”と思ったんですよ。

●このタイトルが潜在的な意識と結びついたと。

のび太:おまけに「Casablanca」が今作のリード曲なんですけど、“Casablanca”っていうのは花の名前なんです。百合の一種なんですけど、別名が“百合の女王”なんですよ。『Ciao,Fake Kings』という、偽物の王様にさよならを告げるという初心表明のようなタイトルに対して、リード曲が“女王”であるというのもすごく辻褄が合っているし。更に“Casablanca”がどういう花かというと、贈り物の花束として使われるもので、特にウェディングブーケとして使われることが多いんです。で、アルバム最後の「Xmas Present For My Sweetheart」には“これからもずっと一緒に”という、ある種のプロポーズのような歌詞があって、その言葉に対しての“Casablanca”もちゃんと一本筋が通っている感覚があったんです。自分で“こうしよう”とか思ったわけじゃないのに、自然と結びついていくっていうのが、やっぱりなにかあるんだろうなと。

●「のび太は持ってる」と(笑)。

のび太:ジャケットも、音楽が好きな人はパッと見てわかりますよね。今回のワンマンツアーのタイトルが“Lilium”というタイトルなんですが、これは百合の学名なんです。“リリウム”という言葉の発語感も、“Ciao,Fake Kings”の“hello, how low”に繋がるし、いろいろと繋がってくる部分ができてきたっていうのは自分たち自身もおもしろいなと。そういうところに気付いた人が「ニヤッ」とするようなところもある作品になったので、いろいろな楽しみ方をしてほしいですね。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

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