音楽メディア・フリーマガジン

黒髪と諸行無常

23年間黒髪で生きてきたけど、昨年10月に初めて髪の毛を赤紫色に染めた。アイドルを10年近くやっているのに、それまで一度も髪の長さや髪色など、外見を大きく変えたことはなかった。

 

髪を染めることは手っ取り早く自分を変えたい人が使う手段だと思っていた(もちろん全員がそうとは思わない)。私の中で「自分を変える」は、単なる見た目の変化ではなく、精神面の変化が全てだった。自力じゃない形で外側を変化させて、中身まで変化したような気になるのは何か違うと、ずっと思っていた。

 

アイドルでいる間は必死に光で在ろうとする一方で、ふとした瞬間こんな風に、デカい石を裏返した湿った土の上でひっくり返るダンゴムシみたいな私が出てきてビビる。私はこうして時々ねじ曲がる。

 

ある日、運営さんに髪の毛を染めてみないかと提案された。少し悩みながら、今まで友達や家族に「ずっと黒髪なら貫いた方がいいよ〜」とか「染めたら勿体ないよ〜」と言われたことを思い出し、それに縛られていたような気もして、髪を染めようと決めた。私はこうして時々破壊衝動に駆られる。

 

いざ美容院に行って、染められ始めて、一度も明るくなったことがない黒髪を明るい茶髪にされて、別人すぎる自分が鏡に映った時は震えた。私の赤紫髪は、ブリーチはせずに一度明るい茶髪にしてからその上に色を入れるやり方だった。赤紫色というオーダーにしてはドピンクすぎるカラー材を塗られた時はもうおしまいだと思った。

 

目がチカチカするようなカラー材を塗られ、頭中をラップで包まれた姿は滑稽で、鏡を見るたび静かにウケた。「全面ガラス張りで、施術中のお客さんが見えるようになっている美容院は一体どういうつもりなんだ…?」と長い待ち時間の間、ウケる自分を見ながら考えたりしていた。

 

髪を乾かし終わると、希望通りの赤紫色の髪の毛になっていて安心した。鏡とか電車の窓に映る自分が別人みたいで、それがいつまでも面白くて、家に帰るまでずっとナルシストばりに自分の姿を確認していた。

 

髪を染めるまでは、日陰でウジウジとあんなやかましいことを考えていたくせに、1ヶ月以上経っても私は変わった髪色にウキウキしていた。印象は確かに変わったし、私服も、今まで着てたステージ衣装も、何度も歌って踊った音楽も全部新鮮に感じた。

 

髪色を変えても核なるものまでは変わらないけど、髪色の変化によるウキウキや新鮮さによって、私の内側で何かが前に進むような、確かに今までと違う感覚があった。あのタイミングで髪を染めたことは正解だったと今でも思う。

 

私は「変わらずに変わり続けたい」と言い続けてきたけど、変化に弱いし、変化に伴うあらゆる人のあらゆる心の動きに敏感で臆病だ。でも髪を染めて、私の中の変わっても良い「余白」のような部分があることを知った。思えば、精神面の変化だって全て自力なんかじゃなくて人との出会いや環境のお陰だった。外側に引っ張られるようにして内側は変わっていくもの。

 

最近は髪の長さも行けるとこまで伸ばして、顔の横まで激しくレイヤーを入れてウルフっぽくしてみちゃったり、髪色に加えて髪型も変化させている。この世の全てが変化し続ける諸行無常なのであれば、私はきっと、もっとラフに変わって良いはずだ。時には怯えず、変化に身を任せてみること。髪を染めるという小さな一歩で、変わりたくない、変えたくない大切なものにも、改めて出会い直せた気がした。

 

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