音楽メディア・フリーマガジン

尊敬の中にある

テレビから聞こえてきた「かわいいだけじゃだめですか?」という問いに、母が食い気味で「だめでしょ」とツッコんでいた。その瞬発力にビビりウケつつ、「ね〜」と同意の音を出した。

 

アイドルの本質とも言える「かわいい」で勝負するなんて私なら怖い。スカしたり捻くれたりせずに、己の「かわいい」を信じて、貫けるなんてめちゃくちゃ格好良くて、たくましいことなはず。

 

「ね〜」と音を出してた時の私、もしかして斜めに見て冷笑していた…?思春期に発達しすぎた斜に構冷笑筋(しゃにかまれいしょうきん)ってこんなにも衰えないものだと思わなかった。鍛えたつもりもないし、そもそもそんな筋肉は存在しないのだけど。日々、私の中で「熱血・本気・友情・愛・絆の私」と、「斜に構冷笑筋マッチョの私」、「斜に構え冷笑しかけた私をそれダサいぞと冷笑する私」がぶつかり稽古している。私は私を信じて貫けているだろうか。

 

そんなぶつかり稽古の日々の中で、己の「面白い」を信じて貫くとある人のことを尊敬し、憧れ、好きになった。お笑いコンビ、真空ジェシカの川北茂澄さんだ。川北さんに出会ったことで、人生で初めてお笑いにハマり、人生で初めてお笑いのライブも観に行った。

 

川北さんは、予測不可能かつマニアックで狂気じみたボケを淡々と繰り出す芸風で、他芸人のギャグや口調を借りた言葉やアレンジを加えた言葉で、発言のほとんどを構成している。特に使用頻度が高い「まーごめ(元ネタはママタルトの大鶴肥満さん) 」という言葉は、会話の文脈に関係なく、全てを代用する言葉として川北さんは使っている。謝罪も肯定もあらゆる感情が「まーごめ」の中にある。

 

少し前に川北さんと偶然遭遇して、勇気を出して話しかけたことがある。突然のことだったし、嬉しさとパニックでほとんど何を喋ったかは記憶が無いけど、その時も「まーごめ」や「もちろん」と言っていたことは覚えている。いつどんな時も川北さんは川北さんで感動し、さらに尊敬の念が深まった。

 

服装も独特で、人前に立つ時はほとんど幼少期の大鶴肥満さんの写真の下に「どういたしまして」と書かれたTシャツを着ている。いつ見ても着ているから、思わず影響されて私も同じTシャツを買った。私が初めて観に行ったライブでも川北さんは当然のように例のTシャツを着ていて、本物だと感激した。人力舎所属なのにも関わらず、吉本新喜劇の法被を着ている時もある。川北さんは常識があり、秩序が無い。

 

川北さん独自の飛躍した思考に惹かれているけど、私が心から尊敬しているのは、やりたいボケを披露するための下準備や労力を全く惜しまない、手段を選ばないところだ。地上波テレビの街ブラロケでも、規模の大小問わずどんなイベントでも、いつだって人一倍小道具を用意して、淡々とボケ倒し、周囲を翻弄している。その姿を見て、私は笑いながら感服する。川北さんは確かに天才だけど、地道な手間と労力と努力で築き上げられた天才なのだ。川北さんはたとえスベろうが、不気味なくらいマイペースに自分のやりたいボケをし続ける。いつだって何をするかわからないけど、ダサいことはしない。川北さん自身の「面白い」を貫くエゴの強さこそが、どんな時も川北さんを川北さんたらしめる。

 

少しも斜に構えたり、冷笑している暇がないくらい、私も川北さんのように真っ直ぐに自分の信じるものを貫きたい。私の中の「熱血・本気・友情・愛・絆の私」よ、「斜に構え冷笑しかけた私をそれダサいぞと冷笑する私」の出る幕が無いくらい、「斜に構冷笑筋マッチョの私」をさっさと木っ端微塵に打ち負かしてくれ。その日が来るまで、諦めずにぶつかり稽古を続けたい。


 

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