音楽メディア・フリーマガジン

夏バテをしたことがない私はいつも食欲旺盛で、食欲が落ちるらしい夏バテに不思議な憧れがあった。「夏バテ なる方法」、「夏バテ やり方」などと検索して、夏バテにならないための方法しか出てこない画面を睨みつけていた。

 

人にこの話をすると呆れられる。お酒を飲み慣れている人に「吐くまでお酒を飲んでみたい」と言って、「あんなの知らない方が良いよ」と言われた時の疎外感と似ている。私はたとえ辛くても、いつかそちら側の世界を知りたいのだ。

 

2024/08/11、私の部屋についにエアコンがやってきた。エアコン設置記念日。長年エアコン設置を提案されていたけど、設置工事のアレコレが面倒臭かったのと、夏の間はリビングに避難して寝ていたから別に不便ではなく、ずっとなあなあにしていた。気持ちとタイミングが噛み合い、突然その時は来た。

 

いざエアコンが設置されると、今まで蒸し暑さしかなかった部屋がひんやりして心底感動した。初めてコンタクト付けた時みたいだった。リビングで寝ていた時は敷布団で、マットレスは硬かったし、家族の活動時間になればその生活音で強制的に起こされてしまうから思えば全然不便だった。私は夏の間、不便ではないフリをしていただけだった。

 

あの夏の革命から一年が過ぎ、また夏が来た。当たり前のようにエアコンを付ける日々に、ひんやりした部屋への感動も流石に落ち着いた。夏バテに憧れていた私も、ついに食欲が減らないタイプの夏バテデビューを果たした。食欲は落ちずに、ただただ薄く伸ばしたような熱中症が身体の中で漂っているみたいな、全く嬉しくない無意味のバテ。

 

ここ最近の暑さは何かの冗談みたいで、蝉の声すら聞こえない。あと数十年後に人類は夏に殺されるんじゃないかって不安になる。このおかしな暑さに終わりは来るのか。夏が終わったら、本当に秋が来るのか。春夏秋冬という当然の順序すら、もう信じられない。

 

灼熱の屋外から冷房の効いた部屋に入った瞬間の助かったような感覚が好きで、外と家の中が同じ気温になる季節が来ることが今は怖い。身体的刺激がないと頭がばかになりそうで。

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ҏW—pj