
2週間くらい前、突然弟に「ギター持ってる?」と聞かれた。「持ってるけど、ずっとケース開けてないからキノコ生えてるかも!」と言ってギターを貸した。弟はギター未経験者だ。
継続することが私の長所だと思っていたけど、ギターは一年で挫折した。ギターを持っていることを思い出したり、部屋に放置されたケースに入れられたままのギターを見ると心苦しくて、全てを無かったことにしたくなる。自分が欲しくて買ったはずなのに、忌々しいものを弟に押し付けることができてラッキーくらいに思ってしまった私は何らかで裁かれたらいいと思う。
弟は毎日夜遅くまで大学院の研究室にこもって研究に勤しんでいる。ギターを貸した日から弟は帰宅即ギターを触るようになった。玄関のドアが閉まる音がした次の瞬間にはもうギターのチューニングの音が聞こえてくるストイックっぷり。毎日毎日熱心に練習しているから何を弾こうとしているのか弟に聞いてみると、「テツandトモのなんでだろう」という答えが返ってきた。
毎日毎日夜遅くに帰ってきて疲れているだろうに、熱心に練習していたのが「テツandトモのなんでだろう」なことあるだろうか。近所迷惑になるし、弟とは部屋も隣り合っていて普通だったらうるさいと注意しているところ、その熱心さで見逃してあげていたところが正直あった。確かに思い返せば「なんでだろう〜」を重ねたくなる聞き馴染みのあるフレーズが延々と聞こえていたけど、まさかそんな熱心に「テツandトモのなんでだろう」を弾いているとは思わなかった。
それから、「テツandトモのなんでだろう」なら注意しても良い気がして、今までは我慢していたラインでも注意することにした。次の日早いのに、寝るには我慢できない音量のギターが聞こえてきた時、「テツandトモうるさい!」と注意したことがあった。ギターの音が止み、深夜本来の静寂に包まれた時、「テツandトモうるさい!」と注意したことが無性に恥ずかしくなってきて、意味がわからなかった。
そもそも私の弟はかなり変わっていて、帰宅即「テツandトモのなんでだろう」以外にもおかしなエピソードは山ほどある。ここ数年のルーティンでは、いつ何時であろうと「アロ〜〜ハァ〜!!!!!!」と叫んでリビングに登場してくる。参照元がわからないし、声がデカすぎて怖いから私は無視しているけど、母は基本的に「アロ〜〜ハァ〜」と返してあげている。私には辿り着けないユーモア。前はリビングに入り次第逆立ちをする時期もあった。家に居る間は大体ニュース番組を2倍速視聴しているか、歓声を上げながら相撲を観ているか、バラエティ番組をバカデカい音量で観ているか、深夜ラジオをバカデカい音量で聞いている。
他にも、自分の部屋で見たことないデカさのひょうたんの形をした野菜(夕顔?)をパンイチで抱きしめていたり、自分の部屋で持ち手なしのセグウェイをパンイチで乗って回転していたり、自分の誕生日に「バズ・ライトイヤー」の全身タイツを着てリビングに登場してきたり、ツインテールの女の子が好きだというバイト先の店長の退職祝いに黒髪のエクステ2本(恐らくポニーテール用なので一本がめちゃくちゃ太い)を買ってプレゼントしたり、母の日には「歯歯の日や 歯と歯の間キレイにしようや 」って書いた手紙と歯間ブラシを母にプレゼントしたり…書ききれないが色々と変だと思う。
昔は無口で人見知りで内向的だった弟は、いつからか面白いことへの貪欲さが爆発するようになった。弟に変化のきっかけを聞いてみると、「付き合っていた彼女と別れたことがきっかけ」だと言っていた。「失恋が辛すぎた防衛本能で、この失恋もおもろいんじゃねって思いだしてからおもろいセンサーが狂い始めた」という分析だった。彼女とは2年8ヶ月付き合っていて、別れてからもう3年が経とうとしているけど、その間に弟の「おもろいセンサー」は狂い続け、現在の研ぎ澄まされたおもろさに辿り着いたのだろう。 恋は人を狂わせる。
ついでに生きる上での信念も聞いてみると、「おもろがれば全部おもろい」とのことだった。おもろがって生きている弟を、私は多分一番おもろがっている。弟には申し訳ないけど、ぜひこの先も狂い続け、どうかおもろさに磨きをかけてほしい。私はアイドルをしている以上まだ恋には狂えないから、恋とは違うルートで己のおもろさを研ぎ澄まし、深夜に「なんでだろう」を掻き鳴らすような衝動に走れたらと思っている。今更すぎるけど、衝撃的な選曲に気を取られて、「テツandトモのなんでだろう」を練習することになった経緯を聞き忘れていたことを思い出した。
……なんでだろう?