
ずっと何かしらのペットが居る環境で生きてきた。最初は夏祭りの金魚すくいですくった金魚だった気がする。10年くらい生きて、最終的には出会った時の10倍くらいは大きくなっていた。その後は亀、ザリガニ、鰻、ハムスターとか。弟個人でアリも飼っていた。ハムスターは私が飼いたいと言い出して、飼育するための本とか沢山図書館で借りてノートにまとめたりしていたのに、最終的には弟の方が溺愛してお世話をしてくれていた。
そうこうしている間に父が「コーンスネーク」というオレンジと赤のおぞましい配色の蛇を家族の誰の許可も得ることなく飼い始めた。餌が小さいネズミで恐ろしかった。出会った時の蛇のサイズは私の指先から肘くらいの長さできゅうりくらいの太さだったのに、最終的には私の脚の長さくらいになって足首くらいの太さになって、餌はデカネズミになっていた。「コーンスネーク」から取って「コーンちゃん」という名前が付いていたけど、私は大体「蛇」と呼んでいた。我が家にかなりの存在感を放ち続け、13年くらい一緒に生きていたけど私はいつもあんまり気にしていなかった。数ヶ月前に亡くなった時は流石にちゃんと悲しかった。
父の部屋には他にも古代魚とか熱帯魚とか水草とか色々生き物が居た。今家に何が居てそれがどんな生き物なのか、私は当時も今もよくわかっていない。父は人間よりも人間以外の生き物の方に興味があったと思う。 猫を移動させるための猫用ケージを、飼う予定もないのになぜか猫よりも先に購入し、今も使われる気配が一切無いことが当時からずっと怖い。
こんなに色んな生き物に囲まれて生きてきたのに、いや、囲まれて生きてきたからなのか、私にとってはずっと人間の方が面白くて、人間以外の生き物に人間ほど興味が持てない。とは言っても、「全人類友達」的思考を持ち併せているわけでもなく、社交性があるわけでもなく、友達が多いわけでもなく、誰も彼も好きになったり愛せたりするわけでもない。電車に乗っている時と渋谷と新宿に居る時は「あらゆる人間全員敵」だと思っている。ただ、純粋に人間が面白いと思って、知りたいと思う。ただそれだけ。ただそれだけだけど肩身が狭い。
犬、可愛い。猫、可愛い。わかる。全然可愛いと思ってる。本当に可愛いと思う。でもどこか気持ちが乗った「可愛い」を心から出せていない気がして勝手に後ろめたくなって、次第に申し訳なくなってくるのだ。私の周りはみんな犬とか猫が大好きで、SNSに流れてきた可愛い犬や猫の写真や動画を見せてくれる時がある。ここが来たる勝負時で、ここでしっかり本域の「可愛い」が出せないと、人としての何か大事な感情が欠如しているのではないかと私自身も不安になるし、せっかく見せてくれた相手にも疑念を抱かせてしまうのではないかとソワソワする。
この自意識過剰な不安によってより気合いが入ってしまい、肩ぶん回しの「可愛い」を出して逆に嘘っぽくなるという現象が起こる。嘘をついている人が信憑性を高めようと聞いてないことまでベラベラと話し出すのと同じだ。私は嘘をついてるのか?本当に可愛いと思っているから、どうせなら信じて疑う余地のない「可愛い」をあげたい。
レアケースもある。母の友人が飼ってるデカめの犬だ。白くて、美味しそうなパンみたいな茶色い焼き目がついたデカいモコモコはよく人みたいな挙動や表情をする。元気いっぱいに駆け回ったかと思えば、遠く虚ろな目で静かに窓の外の景色を見つめ続けていたりもする。愛嬌があって美人だけどどこか哀しそうな顔がツボで、何だか愛おしい。澄んだ薄い緑色の宝石みたいな瞳をしていて、見つめられると目が逸らせなくなって全てを見透かされているような気持ちになる。床で溶けた姿は疲れた人間みたいでシュールだし、興奮した時は二足歩行でかなりの距離を追いかけてくるから実は人間なんじゃないかと思ってる。滅多に会うことはないけど、私の心を「可愛い」を理解したその先の段階まで動かす唯一のデカい犬。君は何者なの。
珍しく生き物に思いを馳せながらXを見てると、私の脳内を盗み見ているかのようなアルゴリズムによってちょうどちっこい犬の動画が流れてきた。きゅるきゅるな瞳、だらしなくもあざとく飛び出した舌、白くてふわふわの毛並み。可愛い。次の瞬間、そのちっこい犬が、犬のできる範疇を超えたファニーなダンスを見せつけてきやがった。犬とか猫とかの嘘癒し動画を引き当てた時の、あの、何とも言えない、虚無を超えた邪悪な感情。AIには人の心というものがないのか?普通に、ないか。
生き物への愛おしさを覚えかけたはずだったのに、再びスタート地点に戻ったというか、何なら今私はマイナスのところに居る気がする。あれからあらゆる生き物の動画をまずAI生成ではないかという疑いの目で見てしまう。どうしてくれるんだ。踊らされていたちっこい犬やあらゆる生き物に罪はないのに、邪悪な眼差しを向けてしまうことに心が痛む。
でも、元を辿るとAI動画を作ったのは人間じゃないか?おい、人の心、あれよ。ちっこい犬に代わってお前がファニーなダンスを見せやがれ。あぁ、これだからやっぱり人間は面白い。面白くて、本当にどうしようもない。