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CULTURES’ BackPacker vol.12「音楽稼業七変化〜民謡演奏家編〜」

 早いもので、この連載も12回目を迎えました。ご愛読頂いている皆様は、私と共に文化間を旅してくださるクルーの一員です。まる一年を通じて自分の拙い文章が、少しずつでも説得力がついたものになっていれば幸いです。次の新たな一年も、どうぞ共に旅してくださいませ。簡素なご挨拶ではありますが、御礼申し上げます。

 

 「新春」という言葉を耳にしたり目にしたりしますと、大抵は日本伝統芸能にまつわる演芸で新年のお祝いを彩るケースが多いものです。

 

 CHiLi GiRLの中身である川嶋志乃舞も、原点回帰新春民謡ショーにて、セットリスト全編を民謡一色でお届けするコンサートを開催いたしました。

 

 連載vol.10では、あたしが主宰する佐々木光儀流光櫻会(みつさくらかい)の門弟を津軽三味線全国コンクールに送り出す稼業について書きましたが、今回は津軽三味線一本ではなく民謡演奏家としてのコンサートを開催しました。

川嶋志乃舞新春民謡ショー2024 ダイジェスト映像

https://youtu.be/UAG9qZBKOsI?si=I5rtUCnOpMgM5WI9

 

 津軽三味線奏者民謡演奏家、同一人物の演者でも少々演ることが異なります。

 

 津軽三味線奏者は、その名の通り津軽三味線を演奏する者を指します。

 

 メジャーどころで例を上げると、吉田兄弟や蜷川べにさん(和楽器バンド)、我が兄弟子である上妻宏光さんなどです。津軽三味線を用いて作曲したり、ポップスに津軽三味線を乗せて演奏し、民謡はやれど、曲弾きにて披露するケースが多くなります。

注釈)曲弾き(きょくびき)は、本来民謡歌手が歌う前に独奏を演奏する前弾き(まえびき)が独立したものになります。津軽ものや秋田ものに多くみられる独奏曲です。

 

 

 昨今では、大学の津軽三味線サークルの増加や、SNSの発達によって師匠無しでも津軽三味線を演奏する環境を手にいれるビギナー増加など、1970年頃の民謡ブームまでとはいかないものの、津軽三味線が一般化してきているのは間違いないでしょう。とはいえ、あくまで津軽三味線を演奏する”プレイヤー”であって、スタンダードな民謡、例えばソーラン節や花笠音頭、九州炭坑節などはバリエーションとして弾けても、”伴奏家”とは別物になるのです。

 

 あたしも大学在学中にリリースした1st AL「紅梅センセーション」は、民謡演奏家ではなく津軽三味線奏者としての初の作品になりました。

https://shinobu-shamisen.bitfan.id/contents/68657 (川嶋志乃舞HP ディスコグラフィーより)

 

 しかしながら津軽三味線奏者によるパフォーマンスや作品集は、曲のバリエーションや賛助出演ゲストとのコラボレーション、お客様が飽きない構成にしていく必要があります。さらにはステージに立つ際には、加えてMC上手であるとか人柄もズバリ必要な要素です。

 

 

 ここで上を目指し自分のフィールドを拡げていく者は、津軽三味線だけに留まらず、自然と各地域の民謡を勉強していくことになります。正調津軽民謡を専門とする演奏家も存在しますが、様々な民謡と出会うことは、自分らしさと向き合った時に必然的に起こるものなのかもしれません。

 

 あたしはポップスの魅力に取り憑かれたのと同じくらい、民謡の魅力に取り憑かれた演奏家のひとりです。ただ実は、うちの佐々木光儀流は、宗家佐々木光儀が様々な民謡を達者に演奏はすれど、弟子に教えるのは宗家作曲の津軽三味線合奏曲や華やかなパフォーマンス向きであり独奏しても映える民謡を多く教える流派であったため、民謡により詳しくなったのは大学の後半頃からでした。(もちろんある程度の民謡レパートリー、それから唄や太鼓などの三味線以外の楽器を、民謡を演奏する上でのスキルは幼少期より指導をいただいてきましたので決して少なくはありません。)

 

 東京藝大で専攻していた長唄三味線の勉学に一区切りつく頃、幼少期からうちの流派にゲスト歌手としてご助力頂いていた民謡歌手・石川きよ美に改めて師事したのが2016年9月頃。私事ながら、いつも何かが終わりそうになると、終わる少し手前で次のものに目をつけて勉強をし始める癖があり、その時もそのような感じで門を叩きました。

 少々余談ですが高校の頃も、まだ実技入試が残っていたにも関わらず、センター試験帰りに本屋に寄って父にTOEIC参考書を買ってもらいました。常に自分に暇が出来ないようにしていたと思っていたのですが、いや、おそらく新しいものに出会う刺激が常にないと退屈してしまう性分なのだと思います。

 

 それから7年半、月に1度の民謡歌唱と伴奏修行は今尚続けており、昨年CHiLi GiRLの自主企画「ラブスパイス」シリーズの原点回帰編として、年明けに完全民謡ショーを企画しました。

 

 津軽三味線奏者である側らポップスを作曲し披露していたあたしは、過去完全民謡ショーを自主企画したことが無かったと、開催当日にふと気づいてしまいました。

 

 完全民謡ショーの伴奏は、もちろん石川きよ美師匠の助演を務めるなどして経験してきましたが、光儀流では、CHiLi GiRLとして皆様に当たり前に見て頂く”立ち三味線スタイル”を取り入れた演目など民謡以外にも魅せる曲が多く在ったし、自分がソロアーティストになってからも民謡とポップスを取り入れたスタイルでのスタートだったので、気がつけば初挑戦ということに…!

 

 とはいえ、このような企画をやるからと急いで付け焼き刃でレパートリーを増やしたのではなく、知らず知らずのうちに選べるほどに45分2部制で自分らしく、唄も三味線も民謡のみでお届けできるようになった程には、修行の成果が出たのではないでしょうか。全国大会で優勝をした津軽三味線合奏曲も取り入れつつ、自分らしい選りすぐりの民謡をお届けいたしました。

 

▶︎SET LIST

秋田大黒舞

津軽あいや節

常磐炭鉱節

磯節

猿島豊年音頭

六段(光櫻会門弟も一緒に)

佐々木光儀流合奏曲「天音」

秋田荷方節

南部茶屋ふくし

宮津節

おてもやん(with カワコウ、CHiLi GiRL arr.)

九州炭坑節(with カワコウ、CHiLi GiRL arr.)

秋田甚句太鼓踊り

佐々木光儀流合奏曲「弦遊Ⅱ」

津軽じょんがら節曲弾き掛け合い

en)東北民謡メドレー(ソーラン節〜りんご節〜ドンパン節〜花笠音頭〜津軽甚句

 

 今をときめくアーティストが作曲に躓いた時、ルーツミュージックたちが自分にとって新たな糧になるように、伝統芸能や民謡もまた、未来の自分を助け、さらに輝く自分になる糧となると信じています。

 

 どこから民謡を聴いていいかわからない方は、手始めに美空ひばりや江利チエミが歌うビッグバンド共に魅せられる”ポップス民謡”から入るのがお勧めですよ。

 

2024.2.10

Shinobu Kawashima著

 

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