音楽表現には様々な幅や細分化が為されるなかで、どのジャンルも大きく分けて"歌もの"と"インスト"の2つに分かれています。あたしは長い月日を経て、ちょうど今は、歌ものとインストどちらの表現も自分でも納得のいく精度と質感で皆さんにお届けできるように仕上がってきました。
では演者からして、歌ものとインストの選択はどこで線引きされるのでしょうか。
視点や考え方はルーツや環境によって変わると思いますが、ひとつあたし的に考えているのは、メロディが印象的かつ歌ものでもインストでもいける場合、そのメインを張る演者の好みやキャラクター性、表現できる技術の向き不向きでも選択が変わってくることです。
R&Bやソウル、ジャズなんかも同じ選択肢が生まれ、歌ものとインストどちらの形でも演奏されることで、地域や世代を超えて広まっていっているのではないでしょうか。セッションスタンダードなどはその権化だと思います。
三味線音楽においてひとりで民謡コンサートを行う場合、「ソーラン節」をインストで演奏する場合は"独奏"という表現で区分されます。このように民族音楽でも歌っても楽器で弾いてもどちらで演奏しても、イカした形になりやすいものは割と自由なのです。
CHiLi GiRLのインスト曲は、デビュー頃のシングル「愛の罠」にカップリング収録した「horoyoi」という曲のみで、あとはすべて歌ものに仕上げています。しかしライヴでインスト曲をやりたい場合は、川嶋志乃舞時代の曲を今でも取り上げています。
よくやるものだとcity shakeやUKIYO FUNK、ここ最近はNHK FM「民謡をたずねて」のためにCHiLi GiRL解釈で編曲し放送されたISOBUSHI house remix(with 宮野弦士、MPC GIRL USAGI)などがあります。
才能巻き込み型プロジェクトたるCHiLi GiRLのステージに快く巻き込まれてくれているCLG BANDと共に、心ゆくまで楽器で遊びたくなりそうなタイミングで、これらインスト曲を持ち出すことがあります。
川嶋志乃舞からCHiLi GiRLになってからはソロパートが入った歌ものを演奏することの方が圧倒的に多いのですが、完全インスト曲がやりたくなる頃にも条件があるのかもしれないと自負しています。
それはCLG BANDが、まるでさっきまで遊んでたのとは違うゲームを持ってきてくれるように、楽器でもって楽しくて興味を引くアプローチをしてくれるタイミングです。それで必然的に経験も増えるし技術も上がってきました。
マリオカートに例えてみます。あれには様々なコースがあり、プレイヤーの多くにとって得意不得意が出てきます。コースは音楽で言えばジャンルです。
ダートコースのカーブが苦手だったり、レインボーロードでまっすぐ走れなかったりするのに、ココナッツモールではエスカレーターの登り下りがはっきり分かったり。
コースがあるのは音楽も同じで、極端に言えばシティーポップは得意でもデスメタルはなかなか難しい、ということです。(極端すぎるか)
作家として生きているなら、ある程度全コースを把握し、そこそこのスピードと正確さでゴールを決めていかなければいけない場面も必要かもしれませんが、アーティストである以上、器用すぎず自分らしさを極めていくことで良いとも思います。
得意なコースを走るには、圧勝するのもつまらないのが音楽だったりします。得意なコースではもちろん勝ちたいのだけど、できれば良い接戦の末に勝ちたいし、負けても楽しい、引き分けなら尚楽しい、そんなライヴや作品作りが良いのです。
おそらくあたしの得意なコースは、ご機嫌なココナッツモール的コース。ファンクにR&B、ポップス、ときどきHIP HOP、それから忘れちゃいけない日本民謡。
でもいつもコースで新記録を出し続けるのじゃ退屈だから、今年からは違うコースであるジャズとサンバもできるようになってみたい!ファインプレーもしたいから、真似事ではなく、真の芯から出来るようになってみたいとも思っています。
(余談ですが、マリオカートもマリオテニスもヨッシー一択です。ぺろん)
ではコースでファインプレーを出すにはどうするのか。
これがあたし的には最も大事なポイントで、自分の楽器の都合はもちろん、歌詞やメロディやブレスから為る歌のこと、一緒にアンサンブルしてくれる他楽器のことにも教養をつけることで、より研鑽を積むことができると考えています。
東京藝大の長唄三味線専攻は、主専攻の長唄三味線のほか、必修科目として副科に長唄(唄)、邦楽囃子(篠笛、小鼓、大鼓、太鼓のいずれか)を取らないとなりません。
洋楽器の場合、ヴァイオリンやフルートなどの子たちは副科でピアノを取らなければならないことが多く、邦楽にせよ洋楽にせよ、一緒にアンサンブルをする他の楽器を知ることが必須とされています。
歌を学び、楽しんで研鑽を積んできたお陰もあってか、楽器だけじゃ闘いきれない場合はスキャットを交えながら三味線を弾くなど、自分の闘い方でファインプレーを編み出せるようになりました。
セッションやソロバトルでかなりの数を闘ってきた中で見出した戦法。歌ものを超えて、楽器と共に活きる瞬間がここにあり!といった感じですね。
あたしのように飽き性で負けず嫌いの人間にとって、仲間のお陰で歌ものかインストかの表現をすんと切り替えられ、しかも質の良い状態で遊んでくれることは幸せなことです。これで一生、ストレスなく無邪気に心から音楽ができます。
ところで最近、身近なミュージシャンのうち、楽器が上手くて国内外で活躍しているのに、本人の次のチャレンジとして発表された歌ものアルバムが方向性がバラバラで、色んなものを歌いすぎて声質の良さも何を伝えたいのかも分からず質が良くなかったり、逆にめちゃくちゃ歌が上手いのにギターやキーボードの技術が10年前から全然変わってなかったりと、いろんな人がいることに気がつきました。
といいつつ矛盾するのですが、これで良いのかな?と思いながらリリースしたりSNSに投稿して、生の反応を受けて知ることもたっくさんあるので、水面下で温め続けて研鑽を積まなければならないものかどうかの選択も、センスと勇気が要ると思うのです。
30歳になってもまだ、悔しいという気持ちはかなり頻繁に湧いてきます。笑 でも少し自分の位置が上がったのか、素晴らしい相手のファインプレーを体感した時に、ただ悔しいという気持ちだけでなく、すんげえ…!という感動も持てています。まさに爽快!クリエイティブにずんずん刺激されます。
先に例を出した方向性や技術が曖昧になるのは、おそらく自分の世界だけで悔しい気持ちを留めてしまっているから、というのがひとつ理由な気もしています。
素晴らしい仲間にどんどん出会う事で新たな手法や技術、そして一番つらいことだけど、今現在の自分ととことん向き合いまくって、最後には一番自分に似合うもの、そして楽しめているものに出会えることが最高だと思うのです。
あたしはそれが、歌と楽器です。
◆リリース情報◆
2025.5.21(水)リリース
NewSingle「Recalculate」CHiLi GiRL
M1 Recalculate
M2 Recalculate(English ver.)
作詞(日・英)/作曲/編曲:Shinobu Kawashima
編曲/演奏:友重悠
英語詞添削:Michael Potter
アートワーク:亀井桃
https://CHiLi-GiRL.lnk.to/Recalculate
◆イベント情報◆
チケット情報▶︎https://clg-tokyo.bitfan.id/schedules/menu/34068
2025.6.10
川嶋志乃舞( CHiLi GiRL ) 著