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CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延のセルフRECはプロRECを越えられるか? – 第7回-

 リハスタでセルフRECをする際、多くみられる「ノートパソコン+インターフェース+DAW」の組み合わせ。納得いく機材を一揃えするにも費用が…と悩む方も多いと思います。そこで選択肢にぜひ加えて欲しいのが、前回からご紹介しているハイエンドMTRです。「MacbookPROクラスのノートパソコン+16INのインターフェイス+ProTools12クラスのDAW」を全てそろえる金額の10分の1程度で、手に入ります。あくまでも中古市場で運よく見つけることが出来たら、の話なのですが…。ヤマハAW2400をはじめとする中古のハイエンドMTRのほとんどが、当時の定価の2〜3割程度になってきています。状態さえ良ければ、今が購入の狙い目ではないでしょうか?
 
 パソコンベースのDAWが当たり前になってきている今、なぜ生産終了になっているハイエンドMTRをおすすめするのか? 「現在中古市場ではとにかく安い」のも理由の一つですが、その他にも利点はたくさんあるのです。AW2400を例に挙げてみます。
 
1・ レイテンシーがほとんどない。16トラックを同時録音しても変わらない。
2 ・ヘッドホンなどのモニターセクションが充実している。
3 ・デジタルミキサー、MTRなどを使ったことのある人なら直感的に操作しやすい。
4 ・24トラックをフルに使用しても、飽和状態になりにくい。
5 ・ホスピタルグレードの電源ケーブルを使用すると、音の密度が濃くなり音質が向上する。電源ケーブルのメーカーや品番によって、音のキャラクターを多少変えられる。
6 ・内蔵CDドライブが優秀。バウンスしても変化がほとんどない。
7 ・内蔵エフェクターのクオリティーが高い。中にはプラグイン以上のものも。
8 ・ライブレコーディングに使用することを考えると、環境によってはPCより動作が安定し、落ちにくい。
9 ・素材の取りこみ方にもよるがライブで同期を使用する際、会場の音響次第でバンドサウンドになじみやすい。
 
 しかしながら約10年前の機材だけに「バージョンアップができない」、「ネットに接続できない」、「アプリが使えない」、「タブレットに接続できない」といった欠点もあります。他にも「画面が小さく編集しづらい」、「トラック数が24まで」、「シーケンス機能がない」など、パソコンを使った作業に慣れてしまった今では不自由さを感じる部分も。そして現在主流の機材と比べると、数字上のスペックが低いことも否めません。
 
 長所、短所を具体的に並べてみると一長一短です。しかしパソコンベースのシステムには成し得ない「使い勝手の良さ」と「音質のクオリティー」は、セルフRECに真剣に取り組んでいる皆さんに是非体験してほしいと思います。これはあくまでも個人的な意見ですが【録りをAW2400で行い→リアパネルのUSBポート(2.0)からWAVデータをPCに送り→DAWでMix、マスタリング】といった流れがおすすめできる方法です。
 
 余談で非常にマニアックな使用方法を。【DAWでMixしたファイルをAW2400にインポートもしくはREC→AW2400でマスタリングして内蔵ドライブでマスターを作成する】これだと、DAW内でバウンスしてPCの内蔵ドライブでマスター作成する通常のやり方よりも飽和感がなく、バランスの変化も少なく音に粒立ちがあり、立体感も維持できますよ。
 

先日当スタジオでレコーディングを行った、5人組ポップロックバンドllenChrome

先日当スタジオでレコーディングを行った、5人組ポップロックバンドAllenChrome

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【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオ チャプターハウス)代表・レコーディングエンジニア・サウンドクリエーターWhirlpool Records(ワールプールレコード)主宰。専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動。全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける。スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください。
音楽制作専門誌SOUND DESIGNER 2015年2月号に、コンプレッサーについての記事が掲載されています。
http://www.sounddesigner.jp/contents/2015/02/01/index.shtml

当スタジオで一貫して制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します。
エンジニアといたしましては、webや動画ではなく是非「CDで」音質をチェックしてほしい!!!
 
The Muddy Dogs
The Muddy Dogs 『MEMPHIS』
メンフィス、ニューオーリンズがルーツのR&R、ロカビリーバンドのミニアルバム。ヨーロッパのテイストも少し含まれた豊かな音楽性が売り。先日、イギリスツアーも成功させ、今後の活躍がますます期待される。
 
滑稽のドア
滑稽のドア『貘』
ハードコア、オルタナ、ガレージが混じった究極の2ピースロック。ベースレスでも、極限までいろいろな可能性を探求しているロックの進化系。  
 
大村みのり
大村みのり『七つの子』
音大卒業後に女優になり、その後童謡の弾き語りシンガーに転身というユニークな経歴をもつ。活動10周年という節目に完成した、15曲入り1stアルバム。特にピアノアレンジが秀逸。
 
しまほっけハーフ
しまほっけハーフ『WE ARE しまほっけE.P.』
ファンクとソウルを基調とした、J-POP系バンドのマキシシングル。卓越した演奏力とファンキーな声質、コミカルな歌詞がバランスよく融合。
 
Infinity∞Throat
Infinity∞Throat
ボーカルとピアノの2人組女子ユニットのマキシシングル。あうんの呼吸が織りなす一体感が心地よい。歌とピアノという非常にシンプルな構成ながらフレーズの引き出しが多彩で、駆け抜けるように聴けてしまう爽快な一枚。 
 
CANDELASTAR
CANDELASTAR『SPACE AND TIME』
New OrderやCUT&PASTEあたりを彷彿とさせる、エレクトロユニットのシングル。NEW WAVE、ブルックリン勢、チルウエーヴ、オルタナティブを昇華させた独自の空気感を持った意欲作。
 
空の音
空ノ音『l∞p/My Treasure』
男女ツインヴォーカルを前面に押し出した、少しポップパンク要素も入ったギターロックバンドのシングル。演奏の雰囲気、楽曲のバリエーション、ツインヴォーカルの声質が絶妙なマッチング。総合力で勝負のニューカマー。
 
COMezik
COMezik『無修正の感情』
少年ナイフ、ゼルダ、シーガルスクリーミングに通じる世界観を醸し出しながらも、既存の枠組にはまらないネオ・オルタナガールズバンドの1stミニアルバム。全曲に通じるハイテンション感、深読みしたくなる歌詞などスリル感たっぷりの一枚。

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