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CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 第38回

CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の
セルフRECはプロRECを越えられるか? 第38回
今回ご紹介するのは、先回取り上げたJOEMEEKのメインエンジニア、Ted Fletcherが2000年初頭に立ち上げたブランド「tfpro」です。

写真は当スタジオのメインアウトボードの1つ「P2」で、極限までモディファイを施しています。15、6年前に発売された当初は定価22万円くらい、マイクプリ→EQ→コンプ×2の2chチャンネルストリップです。

このP2がディスコンになって修理が出来なくなり、それを機にモディファイを施した結果、ブリティッシュなテイストは残したままリッチなワイドレンジになり、あらゆる音楽ソースに対応できるようになりました。

元々の状態でもNEVEに負けないクオリティーをキープしているこのP2は、中古で10万円を切って販売されていたら即GETすべき逸品だと私は思っています。
完動美品なのは当然の条件、個人売買よりも専門店での購入をお勧めします。
個人売買は確かに安価ですが、専門店販売品は最低限の動作チェック済で保証がつくことも多く、安心です。

tfpro P2(写真上段:赤)と、先回ご紹介したJOEMEEK TWINQCS(写真下段:緑)です。

並べると兄弟機器のように見えますが、中のサーキット回路には結構違いがあり、音質もそれぞれに良さが違います。
P2の方はTWINQCSと比べるとパンチがあり、ラウド系にも対応できる点が長所だと感じます。

この2機種を最大限に活用するためには、ステップアップトランスを間に挟んで使用することをお勧めします。


ステップアップトランスの表面画像をよく見ると、
画像右側の東栄変成器製SU-6には「S 110~120V」
左側の日本エレクトロハーモニクス製EHU-300には「OUTPUT AC117V 3A」
の文字が確認できます。

日本の電圧は100V、欧米の電圧は115から240Vです。
海外製機材を日本の100V電圧で使用しても音は普通に出ます。
しかし、その海外製機材本来の性能が100%引き出されるわけではありません。

欧米の電圧と同じような性能で使用したい時、この電圧差を解決する周辺機器が
「ステップアップトランス」なのです。

日本で使用する電源(100V)と海外製機器との間にステップアップトランスを接続することで、電圧を100Vから海外並みの電圧(115V~)に引き上げることができます。
(但し故障のリスクはあります、あくまでも自己責任でお願いします。)

並行輸入品だけでなく、国内の正規代理店で購入した海外製品でも、電圧は生産国のままになっていることがあるので注意が必要です。「日本国内の店で買ったから、電圧も日本仕様になっているに違いない」と思い込まず、使用の前に電圧表記をチェックしてみましょう。

逆に日本製の機材を欧米で使用する場合には、機材が壊れないようにするために電圧を下げる「ステップダウントランス」を使用します。


【大学生バンドのセルフREC】
コーラス録りは、コーラス自体のアレンジをもう一度見直すことになったので、リードギター録りに突入。一番音作りがしやすそうな【アジカン風Gロック:BPM158】から。

使用ギター:ストラト。
アンプ:Marshall JCM2000 TSL100(モディファイ)

JCM2000 TSL100はクリーン、クランチ、歪みの3chがあるので、エフェクターをあまり使用しなくもいけそうな点がポイントだ。
リードギターは3パート分。クリーン系リフ、クランチ系アルペジオ、サビの歪み系アルペジオ。

マイク:SHURE BETA52、SM57、LUWITT MTP220

サビの歪み系アルペジオから音作り、モニターのチェックを始めた。

モニターバランスを見ながらテイクを重ねて5テイク目でOKを出し、続けてBメロのクランチ系音作り。音色もモニターも一発OKでIBから録り始める。リズムが突っ込みすぎなどの課題をクリアして2B へ。リードギター全般に言えることであるが、1B と2B ではフレーズが違うのでコピペは出来ない。2B は難なくOKを出して、次は一番難しい3Bだ。
前半のリズムが突っ込み気味、チューニングの狂い、などを直して2テイクでOKに。

音色を少々変更してイントロ、間奏、アウトロへ。クランチの音作りはトレブルを上げて、よりソリッドな音にした。

イントロから録り始める。音色はドンピシャだが前半のリズムが突っ込み気味で、前半のみパンチイン。つなぎ目のよれが大きいので、弾きなおしてOK。
アウトロはイントロとほぼ同じフレーズなので難なくOK。
間奏は、リズムがいまいちだった後半だけをパンチインして、クランチ系の音色はすべて録り終わり。
残るはAメロのクリーン系リフのみとなった。


 

【今月のMV】川嶋志乃舞「遊郭ディスコ」
ライブでも人気の高い曲。川嶋自身が作詞作曲、独特な世界観あふれる秀作だ。



【今月のちょいレア】 MindPrint T-COMP

チューブながらの、ファットなコンプのかかり具合がワン&オンリーな独自性を感じさせる。ロックならオールジャンルに対応できます。


樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表・レコーディングエンジニア・サウンドクリエーターWhirlpool Records/brittford主宰。専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動。
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける。
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください。

当スタジオで一貫して制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します。
エンジニアといたしましては、webや動画ではなく是非「CDで」音質をチェックしてほしい!!!


古今三奇人(Kokon-Trio)「 アコースティックマジック 」
Piano-jackやH ZETT Mを彷彿とさせる、ピアノ・オルタナ・インストバンドのアルバム。卓越した演奏力はもちろんだが、歌ものにも通じるアレンジが新鮮だ。2018年4月全国発売。


ブラジル人 「 破裂 」NYハードコアをユニークに変形させたオリジナルなスタイル。今作品は、かぶり有りのほぼ一発録りで、ライブ感はもとより音源としての完成度も高い。2018年1月全国発売。


GEEKS 「 MAGICAL VOX PARANOIA 」
サウスバイサウスウエストにも2回出場経験があり、インキュバスやフーバスタンフのプロデューサー Jim WartともコラボしているUS風パンクバンド。全国発売中。


thatta
ニュージーランドをはじめ海外での活動を精力的に行ってきたthattaのアルバム。欧米のロック要素が土台にあり、無国籍な質感を全体にまとっている。


KAIJIN 「 japacronics 」
サンフランシスコ帰りのYUICHI氏率いるKAIJINのフルアルバム。90年代ヒップホップを根底に、70~80年代のソウル、ファンク、2000年代LAアンダーグラウンドR&Bのエッセンスが深く交じり合っている。硬派なヒップホップ好きにおすすめ。全国発売中。


 
【お知らせ】
音楽情報サイト TuneGateに、当スタジオの記事を掲載していただきました。
http://tunegate.me/P20180118016

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