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CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 第51回

今回取り上げる機材はDigiTechのレアなボイスプロセッサー「TALKER」です。

ギタリスト、ボーカリストには馴染みのブランドであるDigiTechから90年代後半に発売され、広義で言うところの「ボコーダー」の部類に入りますが、他製品とは一線を画するニューエイジ的キャラクターが個性を醸し出していました。

ボコーダーの原理を簡単に説明すると、フィルターを応用してマイクでしゃべった声を、同時に演奏している楽器(キーボード、ギターなど)でエレクトロ的に「しゃべらせる」エフェクターです。

TALKERはダフトパンクの名曲「One More Time」ではAutoTuneと併用して使用され、98年にリリースされた大ヒット曲 シェールの「Believe」ではサビのロボ声として使われ一躍有名になりました。



【大学生バンドのセルフREC:MIX編】

モニタースピーカーやメイン機材のセッティングがいい感じに決まり、具体的なミックスへ。
どのパートから手を付けるのかは、プロ・アマ問わず様々で迷うところだが、とりかかる曲が4つ打ちダンスロックなので「Vo.Bass.BD.」といった軸となる3点から手をつけることにした。RECの段階で録り音にはかなりこだわっているので、ミックスで「足し算」をする必要はあまりなく、ダブついている成分をEQで少しずつカットする「引き算」中心にすすめられそうだ。

キック、ベース、Vo.のパンはセンターにして、ノンエフェクターで音量だけでバランスをとっていく。キックとベースは単独では狙い通りの音なのだが、1拍目3拍目でアクセントが強くかかる箇所では低音がダブつくだけではなく、各々のアタックが打ち消しあって、少々音が割れているように聴こえる箇所がサビ中心にあることに気づいた。

この現象を回避すべく「サイドチェーンコンプ」という技を試してみる。

れはハードウエアの中級以上のコンプにはある程度備わっている機能だが、最近ではハードウエアだけでなくプラグインのコンプにも実装されつつあり、特にクラブミュージックでは定番の機能だ。手法も一般的にはなってきたが、慣れは当然必要なのでうまくいかない時は「8小節~16小節ぐらいずつ、キックの入るポイントでベースをボリュームカーブ3~5dBぐらい下げて、模範的なかかり方を確認しつつ」チャレンジしていくのが良い。


 

【今月のちょいレア】 YAMAHA ProR3

リバーブの名機REV5、REV7の後継機にあたり、95年当時15万円でリリースされた逸品。SPX900、1000、990よりもワンランク上の高品位な空間演出が素晴らしい。現在は中古で3万前後で売買されている。プラグインのリバーブに飽きた人には超おすすめ。


【今月のMV】眠らない兎 「regret」

冬をイメージしたシックなバラードロック。バックグラウンドに粉雪が舞っている様が映画のワンシーンのような雰囲気を醸し出している。


 
【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表・レコーディングエンジニア・サウンドクリエーター
Whirlpool Records/brittford主宰。専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動。
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける。
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください。

当スタジオで一貫して制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します。
エンジニアといたしましては、webや動画ではなく是非「CDで」音質をチェックしてほしい!!!

TOLIISOGI 「 THE LOVERS OF UNIVERSE 」

バンド初のフルアルバム。今作からコーラス、パーカッションといった強力なサポートメンバーが参加し、同期音源も一新し最新鋭のシティーポップやクロスオーバーが堪能できる。NulbarichやYOGEE NEW WAVESが好きな人におすすめ。

Mr.WANT 「 喜怒哀楽 」

スタジオミュージシャンを含むテクニシャンが集結した、シティーポップバンドのミニアルバム。甘美な側面とたくましさが最良バランスで両立されている。ボーカルとSAXの絡みが素晴らしく、ギターとベース、ドラムの縦の線の熱量にも圧倒される。

Gottes Holic 「 DE[MISE] 」

妖艶さ、清々しさといったパラドックス要素が真っ向から混在している、NewWaveEDMユニットのシングル。コクトーツインズ、フリーティング・ジョイあたりを連想する、独特の不思議な世界観に満ち溢れている。

やぁ、でくのぼっく。「 僕のサイダー 」

ギターロックを斜めから解釈するような側面を全曲から感じ取れる、ユニークな作品。肩ひ
じ張らず、リラックスして何回も聴けてしまう不思議な魅力に注目したい。

みならいモンスター 「 first contact 」

バンド結成10周年を記念したフルアルバムのベスト盤。今までのシングル曲をリマスタリングしつつ、新曲も収録し聴きごたえたっぷりの一枚だ。2019年3月全国発売。

【お知らせ】サウンドデザイナー2019年4月号59ページ「コンパクトエフェクター特集」にコメントを掲載していただきました。

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